旅する日本語:応募作品 テーマ「恋草」

窓越しの黄金色の稲穂が揺れる。10月を前にすっかり涼しくなった夕暮れ時、電車の窓を少し開け、夕日を眺めた。秋風が肌をかすめた時、無性に寂しさを感じるようになったのはいつからか。まだ学生だった頃、私は、秋をこんなに焦がれる季節に思っていなかったはずだ。

初恋とは、勘違いのオンパレードだ。機は熟した、なんて早とちり。暑い夏が駆けて、暑さが胸の高鳴りを誇張し、抑えきれんばかりの思いが、不意に口をついて出た、2学期の始め。秋の始めの、真っ赤な夕日に照らされた君の横顔が、あまりにも遠くて、あまりにもきれいだった。

かつての面影が跡形もなく消え去ったホームに降り立ち、私は待つ、手持ち無沙汰に。ホームの向こう側の黄金色の稲穂は、沈みかけの夕日に鮮やかに照らされている。刈り取られるのを待つばかりの稲穂。

待ちぼうけの私を、懐かしくて届かなかったあの声が呼ぶ。

何年かぶりの、本気の恋をしている。

*応募時にインスタグラムにて発表した作品を投稿しています

#shortstory

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