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井上尚弥(の写真)に叱られた

ひょろガリ野郎のくせに、「オラ、もっと強くなりてぇぞ」という悟空的精神がやたらと強いので、ボクサーの井上尚弥に憧れている。

井上尚弥はボクシング主要4団体の統一チャンピオンであり、「パウンドフォーパウンド」という世界で最も優れたボクサーを決めるランキングで1位になったこともある、名実共に現代最強のボクサーである。
そのあまりの強さは、いくら五条悟が呪術という姑息な技で彼に立ち向かおうとも、右ストレートでリングに沈められてしまうのではないかと思えてしまうレベルだ。

それほど強いボクサーなのだから、男の子なら憧れてしまうのも無理はないだろう。
私の憧れようといったら、井上の試合を見るにつけて血が湧き立ってしまい、妻から白い目で見られることに耐えながら、翌日の筋肉痛も厭わずひたすらシャドーボクシングを続けてしまうほどなのである。

井上に少しでも近づきたいという思いが昂じて、彼の写真をスマホの待ち受け画面に設定することにした。
常にその勇姿を目にすることで、私も気合の入った生活ができそうではないか。
さっそく画像を検索してみる。どの写真もすごくかっこいい。これぞ、男の中の男。いや、漢の中の漢なのである。
どれにするか迷った挙げ句、鋭い目つきでファイティングポーズをとっている井上の写真に決めた。
なんと素晴らしい待ち受け画面だろうと恍惚としながら、幾日かを過ごした。

ある日、電車で出かけた日のこと。
マホの操作画面が隣の席の人にも見えてしまうくらいの混雑した車内に座っていると、井上の待ち受け画面を見られるのが少し恥ずかしいような気がしてきた。
というのも、見るからに貧弱な私のような男が井上に憧れるなんて、お前さすがにキャラと違いすぎやろ!と心の中でツッコミを入れられてしまうのではないかと思ったからである。
それどころか、せめて憧れるなら筋トレくらいはしてからにしろよ、と嘲笑われているに違いない。
絶対に間違いない。

そんなことを考えながらおろおろしていると、画面の中の井上は冷めた目つきで私を見返し、
「お前、どんだけ自意識過剰やねん。他人の待ち受け画面なんて、誰も何も思わへんねん。」
と言った。
私は急に全てが恥ずかしくなって、スマホの画面をそっとオフにした。実にひ弱そうな男の顔が、暗くなったスクリーンに映った。
ちなみに、井上は関西弁ではない。

今日も井上尚弥は画面の中で、威風堂々とファイティングポーズをとっている。いつの日か彼のような逞しい精神と肉体を手に入れたいものである。
オラ、もっと強くなりてぇぞ。

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