余市のワインをめぐる旅 仁木フルーツ&ワインマラニック2024
北海道余市郡仁木町で仁木フルーツ&ワインマラニックが開催され、はじめて参加してきました。今日の余韻を楽しみつつ、記録を残します。
「マラニック」はあまりなじみのない言葉かもしれませんが、「マラソン」と「ピクニック」をかけ合わせた造語で、国内の各地で開催されているランニングイベントです。今回、11kmコースと21kmコースがありましたが、私は11kmを選びました。
いただいた大会パンフレットによると、こんなことが書かれています。
メドックマラソンを参考されていたのですね。
仁木町といえばワインをはじめ、ぶどうやりんご、すももといったくだものの産地です。コース中は複数のワイナリーや「ワイン神社」の愛称を持つ仁木神社、その他仁木町の観光スポットにも立ち寄ります。エイドではワインや旬のくだものやトマト、アイスクリームなどが提供されます。
以下、今日の走るピクニックのふりかえりを。大分長い日記となっていますので、気になる部分があればお付き合いください。
スタート地点 仁木町民センター
小樽から2両編成の満員電車でJR仁木駅へ。駅から歩いて数分のところに仁木町民センターがあります。今回はこちらがスタート地点。まずは受付を済ませ、ゼッケンやマラニックで使うワイングラス等をいただきます。
落としても割れないプラスチック製のテイスティンググラスには予めホルダーがついており、エイドでワインをいただくときはこの「マイグラス」に注いでもらいます。私はウエストポーチのチャックとホルダーをつなぎました。
開会式が始まるまでの間、地元の北海道芸術高校の学生さん達が体にペインティングをしてくれました。私の絵は笑っている人と笑っていない人の横顔が、ワイン色に染まっています。分かりますか?
スタートの前に予めグループ分けをします。走るペースに近い人たちが塊となり、このグループで走るピクニックをするのです。私たちはマラソンよりもピクニック重視で「ゆっくりコース」に入りました。
グループごとに時間をずらしていざ出走。
出走後、最初に目指すはニキ ヒルズ ワイナリー。
スタート地点から少し進み、余市川を通過するあたりで、遠くにワイナリーのオレンジ色の屋根が小さく見えます。建物が標高の高い場所にあることが分かります。実際、ここから登るニキヒルズまでの道のりが、このコースで最もきつい行程となります。しかし我らはゆっくりコース、ペースメーカーをはじめ、ほとんどの参加者は早歩きで進んでいきました。
NIKI Hills Winery(ニキ ヒルズ ワイナリー)
高低差の大きいぶどう畑を駆け抜け、醸造施設のある丘の上を目指します。
高低差があればおいしいぶどうの条件となるとは分かってはいますが、いざ自分が走るとなると、きつかったです。しかしふと坂の脇に目をやると、ぶどう大きく成長し、しっかり色づいていることがよく分かります。快晴で、空気はからっとしていましたが、予想よりも暑く、また太陽がとても眩しかったです。
きつい坂を駆け抜けて、振り返ると仁木町の絶景が広がっています。ペースメーカー役のスタッフさんの話では、ここが仁木でも最も眺めのよい場所のひとつとのこと。
そしてお待ちかねのエイドには、先に走ったグループのランナーたちがワインを楽しんでいます。ゆっくり組なのでワインがもうなかったらどうしようかと不安でいっぱいでしたが(それならもっと速く走ろう)ワインひとりいっぱいまでというルールが設けられていたので、心配は消えました。
こちらでいただいたのは、久々のシャルドネです。実は前日から北海道のケルナーという品種のワインの酸の高さと伸びの良さにハマりつつありましたが(後で記事にします)、シャルドネのふっくら感と有核フルーツの芳醇さに感動しました。
私には気軽に手の入らない価格帯にあるニキ ヒルズのワインですが、こうしてこれからワインになるブドウたちを前にワインをいただけることに感謝しかありません……!
Viña de oro bodega(ヴィニャ デ オロ ボデガ)
ニキ ヒルズでワインを楽しんだ後、1キロ走らないうちに次のワイナリー、Viña de oro bodega(ヴィニャ デ オロ ボデガ)に到着しました。
いただいたワインはナイアガラのThe Message(ヴィンテージ不明)。一口いただいたとき、まだまだ酵母が生き生きしているのでは思わせるようなエネルギーを感じました。また、ナイアガラの果実そのものの華やかな香りがたまりませんでした。
ワイナリーを出た後は、林道の中を走ります。
道すがら、がんばって~、ぶどうどうぞ~という声援が聞こえてきました。私設のエイドがありました。ほとんどのランナーたちがぶどうに向かていきました。一般のお宅の庭先に軽トラックを一部切り取ったようなカッコいいオブジェが並び、とても気さくな生産者さんたちがキャンベルのぶどうをたくさん分けてくださいました。
Domaine Bless(ドメーヌ・ブレス)
キャンベルをほおばった後、程なくしてDomaine Bless(ドメーヌ・ブレス)に到着しました。
Domaine Bless(ドメーヌ・ブレス)さんの敷地ではMUSUBI 2023のほか、このワイナリーに到着直前に通過した、蕎麦屋兼オーベルジュのnaritayaさんが手掛けるAsahidai 245 Blanc Episode 2 2023もいただきました。前者は自家酵母での発酵が特徴で、後者は2023年から自社での醸造をはじめたばかりで生産数の少ない希少品。どちらも2023年ものかつ数種類の品種をアッサンブラージュしたもので、香りが高くフレッシュな印象。
犬のデザインがかわいらしいコルクのオブジェの下にあるのはDomaine Blessの畑で栽培されている品種の地図。ピノノワールやシャルドネ、ムニエにゲヴェルツトラミネールなど、フランスのワインに多い品種が何種類も揃っていました。
DOMAINE HARBIOSE(ドメーヌ・アルビオーズ)【通過のみ】
Domaine Blessの後は、またも近所で新しいワイナリー、DOMAINE HARBIOSE(ドメーヌ・アルビオーズ)の畑と醸造場の脇を散策。
(前日、ドメーヌ・タカヒコを巡る旅をし、このワイナリーさんのオーナーが運営する余市のお店でドメーヌ・タカヒコグッズを購入しました。このはなしはまた後で!)
さて、11kmのコースの間に立ち寄りスポットが7か所あり、立ち寄りごとにピクニックを満喫しました。スポット間の距離はばらつきがありましたが、山を下り、余市川に沿ってまっすぐ走ったこの間がいちばん長く感じました。
仁木町観光管理センター
川を渡りしばらく走ると、仁木町観光管理センターに到着。こちらでは先ほど通過したDOMAINE HARBIOSE(ドメーヌ・アルビオーズ)さんのフラッグシップ、ケルナーをテイスティング。
ケルナーのシトラス系の香りとすっきりした酸、そしてほんのりとした苦みを感じました。
ちなみにケルナーのワインは北海道のレストランや酒屋でよくみかけました。この品種はもともと1969年にドイツで生まれた比較的新しい白ぶどうで、北海道で栽培が始まったのは1973年のこと。国内のケルナー生産の9割は北海道が占めているようです。
写真を撮るのを忘れてしまったのですが、こちらではアイスクリームをいただきました。ミルク感がとてもよく出ていて、疲れが吹き飛びました。
嶋田茂農園匠
次に目指したのは嶋田茂農園匠さん。こちらでは新鮮なトマトとぶどうがカップにたっぷりと入っていました。
トマトはとっても新鮮で、いつになく何個も何個もいただきました。
北海道芸術高校
お次はスタート会場でペインティングを施してくれた生徒さんたちが通う北海道芸術高校。ここでも先生もしくはスタッフさんたちがワインを配ってくださり、先ほどペイントしてくれた学生さんたちはりんごのシフォンケーキを分けてくださいました。
ここにきて、泡、登場。
創立50周年を迎える北海道ワインの小樽シリーズ、ないやがらスパークリング。ほんのり甘めのスパークリング、そして冷たいしゅわしゅわの泡は、のどに通った瞬間委体にしみ込んでいく感じがしました。
またも食べ物の写真を撮り忘れてしまったのですが、手作りのりんごのシフォンケーキはりんごの果肉の食感と甘さが絶妙で、本当においしくいただきました。我々が出発する時、学生さんたちが笑顔で見送ってくれたのが印象に残りました。
仁木神社
そして最後のスポットが、「ワイン神社」の異名を持つ仁木神社です。
ぶどう畑の間に建てられた鳥居を潜り抜けると、背の高い欅の木々の間に境内が控えています。一見普通の神社ですが、よくよく見ると、いたるところににワインにまつわるモチーフが施されています。
ワイン好きにはたまらない、ポップな神社です。
禰宜(ねぎ)のお話によると、この神社はもともと明治時代に、徳島出身の仁木竹吉をはじめとする一行が現在の仁木町を開拓した際に創建されたそうです。その後、仁木町ではフルーツの生産やワイン造りが盛んになり、ニキヒルズのオーナーである石川和則社長が灯篭などを奉納したことをきっかけに、神社は次第にワインとの関わりが深まっていったとのことです。一見奇抜にも思えるこの神社ですが、禰宜は「地元の繁栄を祈ることが神社の本来の役割であり、(神社の伝統的なイメージにとらわれることなく、)地域の特色を反映するのは自然なこと」と語っており、その言葉がとても印象的でした。
この神社の中でもワインとプルーンの提供がありました。最後となるワインは地元の地域起こし協力隊出身者からなる仁木産業振興社のNARI-YUKI Petillant Blanc 旅路 2023です。
以上は、マラニックの公式ウェブサイトからの新着情報の引用です。この「旅路」という白ブドウ品種ははじめていただきました。2023年のヴィンテージにほんのりにごりがあり、ワイン自身が発展の途中で、旅の途中のランナーを後押ししてくれるように感じました。
余市や仁木は、ワイン好きにとって気になる地域ではありましたが、このイベントがなければ実際に行こうとは思わなかったかもしれません。まず、旅好き、ワイン好きとはいえ、場所が遠いです。しかし、このイベントの存在を知った時、ぜひとも行きたいと思いました。なぜそう思ったのかを考えると、仁木という「遠い存在」に、「マラニック」というちょっと珍しいイベントがうまく融合していたからだと思います。どんなワインが出てくるかの情報は網羅されていなくて、実際に行ってみないとわからない。
おいしいくだものとワイン、そして風光明媚な山々やくだもの畑の景色が大きな魅力であることはもちろんですが、それ以上に、それらの価値を十分に理解し、それを引き出し、発信することができる地元の人々がいてこそ成り立つイベントだと感じます。
都市型の効率重視のマラソンにはない、おいしくて温かいイベントに参加できました。
最後に帰りのバス停の近くの仁木発祥の地。仁木竹吉氏がここに仁木地域開拓の事務所を構えたそうです。