ドラえもん のび太の月面探査記を見て
今年のドラえもん映画は大好きな辻村深月脚本ということで、見に行ってきました。
声優が変わってから見るの初めてでした……初日に周り子どもとその親たちに囲まれて恥ずかしいな〜と思いながら、しかし始まったら夢中でした。
人に勧めているうちに感想書き留めておこうと思い、つらつらと書いています。
めちゃくちゃネタバレしていますのでお気をつけください。
不思議な転校生、巨悪との戦い、出会いと別れ、と王道の話の流れ、かつドラえもんの世界観を壊していなくて子どもにもとてもわかりやすい。
でもところどころで辻村深月の伝えたいことがふんだんに入った、とてもいい作品でした……!
<それぞれのキャラクターについて>
基本的に私が知ってる彼らなのですが、見所というか、時代に合わせてなのか、辻村深月ナイズドなのか、プラスされてる面があるなあって思いました。
・のび太……やさしい想像ができる
敵地に乗り込む決意をする夜に、枕を持ってきて小脇に抱えてしかも結局落としてきちゃうのがのび太だなあって思いました(笑)。
「想像力」が今回の作品のキーワード(というかドラえもんという作品通してのキーワードなのかな)ですが、のび太はやさしい想像ができる子なんですよね。
月にうさぎが住んでいるというわくわくする空想を信じられたり、ルカの両親について自分はこう思うよ、というところだったり。
(個人的にこのシーン、乗り物を直すために直接顔を見ずに言ってるところが押し付けがましくなくてめちゃくちゃいいなって思いました。正面から向かってきっとご両親はこう考えていたんだよ、と言うと圧が強すぎるっていうか)
余談ですが出木杉がまるで月のうさぎを信じていなくて、だから出木杉は悪いやつじゃないのに冒険に行けないんだなと子ども時代真面目だった人間としてはちょっと悲しくなりました。なんだかんだのび太の招集に応じてくれるジャイアンとスネ夫は多少信じてるよね。
もうダメだ〜!ってなったときにのび太は「漫画の最終回をまだ読んでいない」って言ってて劇場全体「そこ!?そこなの!?」って感じで笑ってたんだけど、私は笑えなかった。たぶん、辻村深月もそうだと思うんだけど、新しい本を読みたくて辛い日々でも乗り越えたところある人間にはのび太の気持ちがめちゃくちゃわかる。
あと個人的にのび太が射撃の腕前を披露する、というシチュエーションがめちゃくちゃ好きなんだけど、ちゃんとあって嬉しかった。
・しずかちゃん……否定しない
どんなときでもお風呂には入るんだ(笑)。
でも彼女のお風呂好きって、モテたいとか女子力とかじゃなくて単に好きだからだよなって気がしてさらにかわいく感じられました。(最初の教室の場面で特に誰ともつるんでないのも彼女らしい)
敵地に乗り込むときに月に残るけれど、それは「女の子だから」じゃなくて、「治療が一番得意」なのが彼女だったからという気がするし、最大のピンチで機転をきかせてくれるし(そしてそれはノビットを受け入れて認めていた彼女にしかできないことだったし)展開に嫌味がなかった。
しずかちゃんこんなにいい女だったのか……と思いました。
しぐさも嫌味なくかわいいし、本当にステキだなって。
のび太の月のうさぎについても「そうだったらステキよね」と言ってくれるし、ノビットのことも「すごい」と素直に感心する。
そりゃのび太もノビットもメロメロだよ……。
・ジャイアン……好きなものを認める
基本的には乱暴で横暴で、いわゆる「キレイなジャイアン」というわけではない今回の映画の彼でしたがでもすごくかっこよかったですよね。
歌という共通点があって、アルにとっては初めて自分の好きなことを認めてくれて「すげえ!」と言ってくれる人ができて、慕うのもわかるなあと。お父さんみたいでしたね。
個人的にグッときたのは最後にお菓子をあげるところ。
家を抜け出すときにお菓子を手に取ったときには非常食用かな……とか思っていた(笑)。
だって、あのジャイアンですよ!「俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの」のジャイアンが!「俺のもの」を人にあげるなんて!(いや、親御さんの店のものなんですけどね)
後述しますが「お菓子を準備しておく」ということに今回の映画は意味を持たせているので、さらに意味のあるシーンだなあと思ってグッときてしまいました。
・スネ夫……もらったものを返したい
淡い初恋として見せていたし実際そうなんだろうけれども、それよりも今回の彼を突き動かしていたのは「助けられたから助けたい」という気持ちだったんじゃないかな。
我が身可愛さに助けにいくのをためらっちゃうあたり、スネ夫だなあという気がするんですが、すごく人間くさい。子どもたちには一番身近に感じられたんじゃないかな。
「返したい」と思っても、実際に行動するのはとても難しい。それをできて、しかもしっかり助けることができたスネ夫は本当にかっこよく見えた!
・ドラえもん……想像力の象徴
最大のボスと対峙したときの啖呵が素晴らしかった。たぶん、今回の映画の肝はここだなという気がした。
機械であるドラえもんが言うところがエモい……。
<エスパルたちが最後に永遠の命を手放す場面>
王道といえば王道の展開なんだけど、辻村深月の『かがみの孤城』って作品には強烈な「一緒に大人になろう」っていうメッセージがあると思うんです。
だからエスパルたちが「成長」を望むのも同じメッセージだと思いました。
もう二度と会えなくても、想像力があればいつでも会える。さよならだからと言って、それで終わりではないってあたりも。
今回の地球と月の物語という舞台設定、惑星と衛星の関係(離れているけどずうっとお互い見守り続けられる)とも似ていて、非常にエモい。エモいなあ。
<ドラえもんもディアボロもエスパルもムービットもつくられたもの>
みんな「想像力」の結果「作られたもの」なんだよね。
ドラえもんとディアボロがその対比となっていて、その間で揺れ動くエスパルという設定がエモいなあと思いました。エモいって言葉便利すぎてすぐ使ってしまう。
ムービットたちが助けにきてくれるところの戦闘シーン、カタルシスがすごすぎて泣いてしまって。どうしてここまで感動するんだろうと思ったんだけど、たぶん未来の想像力と人への思いやりでつくられたものたちが、恐怖からつくられたディアボロを一丸となって圧倒するからなのかなあ。
<のび太のおやつと一緒だね>
序盤でのび太のママがのび太に言われたわけでもないのに勝手におやつを用意してて、ルカが意味ありげに「おやつか」とつぶやく場面。
ルカの両親への複雑な思いを示す伏線だと思うんだけど、それだけじゃなくて最後の「のび太のおやつと一緒だね」というセリフの伏線ともなっています。
直前の場面で、ルカの両親がいつかルカが戻ってくると信じて、ピッカリゴケと似た植物を作っていたと判明した後のセリフです。
これ、私は「子どもがそうしてくれと言わなくても、大人は光り輝いている未来を用意しているよ」というメッセージだと思いました。のび太もルカも別に頼んでないんだよね。無駄になるかもしれない可能性考慮しつつもそれでも用意してる。
大人としてはめちゃくちゃ重いなーって。
辻村深月は大人の側なのに、よくこのメッセージ打ち出せるなー!すごい!と思いました。その重さも十分わかってる人だと思ってるので。
終わったあとに隣に座っていた男の子が「お父さん、僕手汗がすごいよ!」って言ってて、本当に全力で見てたんだなとほっこりしました。
まあ、あくまでも私の解釈なのでふうんくらいに思ってください。備忘録的なものなので……。