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法の趣旨に基づいて運用の範囲を考える

遺言・相続・葬儀・埋葬のお悩みに「三つのそうだん」でお応えします。
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NHKで戦時中の滋賀県であった興味深い話が特集されていました。
戦時下では金属が不足していたため、各家庭の金属拠出が行われました。
お寺の梵鐘も例外ではなく、市内の宮司さんの先日のFacebookの投稿では、皇族にまつわる像も拒否したにもかかわらず徴収されたとありました。
NHKの記事では全国の9割の梵鐘が失われたとあります。

県内のお寺の梵鐘も県までは集められましたが、国に送られることなく後に返されました。
その原因となったのは文化財の県職員の働きによるものでした。
その職員は日名子元雄さんと言います。

滋賀県が定めた金属回収の要綱では梵鐘は即時回収となっていました。
しかし、「由緒上特に保存の必要ありと県に於て認めたるもの」は除外することが出来るとあったため、日名子さんはこの規定を元に書類を整え、回収から除外となるようにしたとのことです。
それでも県庁内で日名子さんの書類に対して異議を唱える人もあったようですが、毅然と除外の対象であると守り通したとのことです。

梵鐘にはそれが作られた経緯が彫られているものもありますし、県まで回収されても地域から地域の重要なものであるので返して欲しい、との声が陳情として上がっている記録もあります。
こうした時にしばしば公務員といえども人として判断して超法規的措置を取るべきだ、という人もいますが、それで納得しない人もいるし、それを実施した人は罰せられるでしょう。
時代は戦時中なので、逮捕投獄や獄死の可能性もあります。
日名子さんはこの問題について自分の力でどうにかしようとしたのではなくて、あくまで法律や条令規則の範囲内で対応したところに素晴らしさがあると思います。

当時としては作ることが貴重であった写真を撮ったり、梵鐘の銘文の拓本を取ったりして資料として添えられています。
手法としては文化財職員として当然の方法をとって、その資料に基づいて回収を除外するように起案されています。

戦争協力の担当課であった地方課の課長から直接、再調査を命じられることもあったようですが、前述の資料のように客観的な資料を基に客観的な判断で対応されています。
時代は戦争一色だったので、戦争に僅かでも協力しないと見られることをすることは大変勇気の要ることだったと思います。

現代社会で役所や公務員批判がなされる時に「融通が利かない」「条例規則だけ見て住民を見ない」などと言われることがあります。
しかし公務の大原則は法律条例規則の範囲内で仕事をすることなのです。
役所や公務員の判断でそれらが飛び越えられるようになれば、個人の生命財産について、公務上必要だからという理由で簡単に侵害されてしまうことになります。
現代であれば、街の発展のために必要だから、と容易く住居の立ち退きなどが行われたり、身体が拘束されたりすることになるでしょう。

条例規則で書いてあるから、と言って、公務員がその解釈もせずに表面上の仕事だけをしろと言っているわけではありません。
なぜそうした法が出来ているのかという、法の趣旨を理解し、その趣旨に基づく運用の範囲を見定めて、日名子さんのような対応をする必要があります。

私たち士業の立場も同様です。
書類を揃える際に、役所が言っているから必要なんだ、と考えるのでなく、この書類において役所は何を判断したいのか、そのためには過剰な書類となっていないか、などを考えていく必要があります。

先日もゆうちょ銀行の相続解約のために手続をしていましたが、書類に記載する記載しないで窓口の方と相続センターの方が電話で押し問答をしていました。
窓口の方はこちらの主張をしっかりと理解してくださり、なぜこちらがこの書類を添付して、ここに記載しているのか、というところを考えて、電話で話してくださっていました。
相続センターは「そう決まっているんです」を連発していたようですが、最後は上席の人と変わって理解いただけたようです。

滋賀県にゆかりのある方の志ある仕事ぶりを見て、あらためて自分の仕事を見直そうと考えました。


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