多重債務者が1級FPになるまでの記録5
借金の返済を考える
消費者金融の借入枠を使い切った私は、再度クレジットカードを申し込んだ。
10万円のキャッシング枠で1枚作ることができ(この状況でもまだ作れた事に驚きだった)返済してはまた借りる自転車操業は続いていた。
この時27歳だった。
家族、同僚、友人、彼女…
誰にも打ち明けずに、孤独な戦いだった。しかし、相変わらず手元にお金さえあればパチスロをやっていた。辞めたい辞めたいと思いながら足が止まらなかった。
パチスロをやるには千円札が必要だった。家中の小銭を集めてコンビニで千円札に変えてもらい、2千円を持ってホールに向かった事もある。
もう理屈では止められないのだ。
ちょうどこの頃、彼女と同棲をする話が出ていた。
1年後くらいから一緒に住み始めようという話で準備は進んでいたが、果たして今の状況で人と一緒に住めるのか、自分でも疑問に思っていた。
「なんとかしよう…」
借金をなんとかしようというよりも、借金バレが怖すぎるというのが主なモチベーションだった。
いずれにしても、返済に向けた行動を起こし始める。
まずは借入状況を整理した。
7社から合計200万円以上を借りていて、月の返済額は20万円近くなっていた。
自分の感覚では、「100万円くらい借りちゃってるよな…」と思っていたので、正直唖然とした。返せるわけがないと。
そして、リボ払いというもののヤバさにも初めて気がつく。毎月20万円も返しているのに元本が減らない。
返しては借りるの繰り返しで、元本は減るわけはないのだが、そうでなくても利息が大きすぎるという事実を目の当たりにした。どの会社も、金利は年14%であった。
「これ、返すのに5年とかそれ以上かかるんじゃないか…?」
当時、借金ブログなど読み漁って、自分よりひどい状況の人を見て安心していたが、自分ももう1年、2年で元の生活に戻れる状態ではなかった。1年とか頑張れば普通の暮らしに戻れるとずっと思っていたのだからバカである。
そして考えたのは、収入を増やす事であった。
借金持ちの思考にありがちである。借金の原因になった支出をどうにかしようとせず、最短で借金を返すために、なにか収入を得る方法はないかを探し始めた。
せどりやアフィリエイトなど、ネットで調べてやろうとしたが、どれも数十円や数百円を積み重ねる作業であり、こんなのでは自分の借金は返せないと思いすぐに諦めた。
「もっと大きく稼げるものはないか…まぐれでもいいから、200万円手に入ればそれでいいんだ」
そう考えて始めたのが、ナンバーズの攻略。
ロト6などは確率が低すぎるので、有り得なくはない確率で数万円から数十万円が狙えるナンバーズで稼ごうと思い、ネットで調べた攻略法をやってみた。
いま考えると頭がおかしいとしか思えないが、当時は大まじめである。過去の数字から予測して、毎回千円程度買う。
2ヶ月ほど続けて、実は奇跡的にプラスにはなっていた。数万円の当たりが数回あったからだ。
ただ、根本的にパチスロ依存が治っているわけではない。そんなことでは生活は楽にならず、ナンバーズも諦めた。
次に、当時流行っていたFXをやろうと思い、古本屋でFXの本を買って勉強しだした。
1ヶ月ほど読んで、ネットで情報を調べたりするうちに思った。
「難しすぎるなこれ…」
もっとラクに、早く、200万円が欲しかった自分はあっさりと諦めた。この判断は正直ナイスだったと思う。ここでFXをやって、たまたまでも収入を得ていたら今頃どうなっていたか。7社200万円では済まなかったかもしれない。
結局、なにも状況は変わらないまま、借金で飲み会や遊びに行き、わずかなお金を持ってパチスロで一発逆転を夢見る生活を送っていた。
友人のお金を借りる
パチスロは、夜勤バイトをやっていた時の仲間と一緒に行く事も多かった。
借金をしている事は隠していたが、依存症状態である事はお互い認識しており、何度も「もう辞めよう!」という話が出ていた。
友人と一緒に辞めるための方法をいろいろ考えていて、「お互いのお金を預け合う」という方法を試したことがある。
給料が入ったらすぐに3万円、相手に渡しあって預かってもらうというもの。
かなりの信頼関係がないとできない手法である。
友人は健気に毎月渡してきた。ボーナスが入ると追加で渡してきて、数ヶ月で30万円くらいになった。要するに、私は友人のお金を30万円預かっていた。
私はというと、2ヶ月くらい預けてもうやらなくなっていた。返済でそれどころではなかった。
預けたお金も「使う用事ができた」といってすぐに返してもらった。
私は友人から預かったお金を、最後のセーフティーネットと思っていた。本当に、いざとなったら、一時的に借りて、ボーナスで全部すぐに返す。それが出来ると思うと、心が休まった。
いざという時は、割とすぐに訪れた。友人のお金を1万円、2万円と抜いていき、気がつけば30万円あった預かり金は5万円になっていた。
「これはやばい…」
預かっているお金は、必要になった時にいつでも返さなくてはいけない。
焦った私は、当時、パチスロで甘いと言われていた機種(設定1でも機械割100%に近かった)で勝負に出た。この機種は人気もあり、高設定を使う店も多かったので、旧イベント日を狙って打ちに行った。
まったくもってクズ人間ではあるが、この時ばかりは本気でパチスロに取り組んだ気がする。絶対に取り返すという強い気持ちがあった。友人の信頼を失いたくない。要するに自分の保身のためである。
その成果もあり、約1ヶ月で27万円まで戻すことができた。
「よし、あと3万円。いける!」
あと5万円なんだから、大人しく自分のお金で返せばよいものの、最後までパチスロで取り返すつもりだった。
パチスロで調子にのっていた事もあり、そこまでの立ち回りを捨てて、最後の3万円をすぐに取り返せそうな機種で狙った。結果、その日は10万円負けた。
その後も負け続け、預かり金はまた残り5万円まで減っていた。
これは友人のお金である。おれを信頼して、コツコツと預けてくれたお金である。それを貸してくれとも言わず勝手に使った。ただの窃盗である。
「あと3万円だったのに、なんであの時、自分のお金で払わなかったのだろう…」
後悔しかない。
私は、なぜかずっーと手をつけずにいた財形貯蓄20万円をおろし、給料から5万円を足して、預かり金を30万円に戻す事にした。
ちょうどそのタイミングで、友人からお金を返して欲しいと言われ、何食わぬ顔で返した。
友人はすっかりパチスロから足を洗っていた。
かたや友人のお金を盗み、それをパチスロで取り返そうとした私。友人への罪悪感よりも先に「あともう少しでパチスロで取り返せたのに…」という悔しさのほうが先に立つ始末。
まるで人間のクズではないか。
借金額200万円。安くはないが、安定した収入もあるのだから、パチスロを辞め、買い物も辞め、飲み会にも行かず、実家に戻れば決して返せない金額ではない。
しかしパチスロは辞められない、飲み会も断れない、誰にも言えないから充実した一人暮らし生活を装う。借金は一発逆転で返済できる事を夢見る。
仕事は順調で、むしろできる人間として会社では評価されていた。しかし、毎日考えている事は返済の事、金策の事…誰一人として、私がこんな状況とは、たぶん思ってもみなかったであろう。
精神的にもつらい毎日を過ごす中、突然転機が訪れる。
つづく
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