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多重債務者が1級FPになるまでの記録6

突如家にやってきたある人物

「ピンポーン」

夜7時頃、アパートに誰かが尋ねてきた。

「こんな時間に誰だろう」

そう思って扉を開けると、若いお兄ちゃんが一人…

彼はこう言った。

「あー!やっとお会いできてよかったです!僕、不動産の営業してる者です!」

なんだ…不動産の飛び込み営業か…

普通の人は、夜に突然訪問してくる不動産の飛び込み営業なぞ、追っ払って終わりなのかもしれない。

しかし、私は自己肯定感が低く、プライドも高く、営業だろうがなんだろうが人から嫌われるのを極端に恐れる人間である。

気さくな営業のお兄ちゃんを無下にできず、つい近所にできる居住用マンションの話を聞いてしまった。もちろん、借金がある事は言わずに。

きっとこの営業のお兄ちゃんは、私がどこで働いているかを知っていたのだと思う。そこから、それなりに収入があると判断して営業に来たのだろう。

1回、2回と話を聞いているうちに、私もマンションが欲しくなった。しかし、借金があるから絶対に無理だろうと思い、いろいろ買えない言い訳をしていた。

「彼女と同棲する予定だから彼女の意見も聞かないと…」

「両親にも相談しないと…」

もう28歳である。両親に相談して、なんて、どんだけガキなんだろう。今はそう思えるが、この時は割とマジで両親に相談しないと決められないと思っていた。

父親が気に入る事、認めてくれる事しかできない人間だったのだ。自分ではなにも決められない。嫌われるのが怖いから。だから飲み会も断れなければ、自己開示するのも怖い。

営業のお兄ちゃんは不思議そうに私の話を聞いていた。借金のことを言わないものだから、いろいろと辻褄の合わない話が多くなっていたからだ。

いよいよ私も耐えられなくなり、ついに人生初、借金のことを打ち明けた。

「いや、実は、借金があるんです…200万円くらい…」

本当に勇気がいる一言だった。本来、最初にサラッと伝えればそれで終わりの簡単な事だったのに、本当にこの自己開示をする事は、自分にとって恥ずかしく、辛く、勇気がいる行為だった。

それを聞いた営業のお兄ちゃんは言った。

「そうなんですか!?すいません言いづらかったですか?でも200万円くらい大丈夫だと思いますよ」

あまりにあっさりとしたリアクションだったのでホッとした。そして、この世の終わりだと思っていた7社200万の借金で「大丈夫と思う」とはどういう事か。

営業のお兄ちゃんは、私のクレジットカードの明細などを確認し、借金の状況を正確に整理してくれた。

そして、CICで情報開示するよう教えてくれた。

CICとは、クレジットカードなどの利用状況、返済状況といった信用情報を記録する機関である。情報開示すると、いわゆるブラックな人などはすぐに分かるようになっている。

私は、幸い返済遅延はほとんどなかったため、ブラックではなかった。

営業のお兄ちゃんが見ていたのは、私の信用力であった。

安定した企業に勤め、収入がある。そしてブラックではない。

そういった条件が揃えば、借り換えることができる。そう教えられた。

営業のお兄ちゃんは借り換え先まで紹介してくれた。そして、申し込みの段取りまでしてくれた。

私は結局、この人からマンションは買っていない。

しかし「こっちから営業に行った先での出来事ですから」と言って手伝ってくれた。

おまとめローンの審査をしている間、

「いまは絶対に借りたりしないほうがいいですよ!」

そう営業のお兄ちゃんに言われていたのにもかかわらず、私は飲み会代をキャッシングで借りてしまった。そしてどうせ借りるならと少し多めに借りて、パチスロを打ちに行った。

こんなクズ人間でも手を差し伸べてくれたのだから感謝しかない。

このおまとめローンによって、私の借金7社200万円は、1社200万円にまとめられ、月の返済額は20万円から4万円ほどに減った。

そして、すべてのカードにはさみを入れた。

環境の変化

多重債務から解放された私は、生活が変わった。

手取りは20万円以上あった。借金の返済が4万円あっても、一人暮らしで十分にやっていけた。

パチスロ依存が治ったわけではないので、打ちに行くことはあったが、自分なりの対処法として10スロをやるようになった。10スロとは、通常のパチスロの半分のレートである。1日打つようなことがあっても、負けは3万円程度に抑えられるようになった。カードが無くなりお金が借りられないので、無理はしなくなっていた。

5スロというさらにレートが低いパチスロもあるが、5スロはすぐに飽きた。ギャンブル依存でもあったので、あまりにもギャンブル性が無いものは楽しくなかったのだ。自分なりのパチスロとの付き合い方として、10スロが適切だと感じていた。

さらに、彼女と同棲を始めた。

財布は別々に管理し、お互いに10万円ずつを出し合って生活費とした。

この環境の変化は大きかった。

彼女は、自分に借金があることも知らなければ、パチスロ依存であることも知らない。知られたくもなかったので、自然とパチスロに行く回数も減った。

彼女はしっかりした性格だったため、生活スタイルも健康的そのものであった。私もそれに合わせて、健康的な生活を送るようになり、買い物でストレスを発散するようなこともなくなったし、飲みに行く回数も減った。

充実した日々を送りながら、すこしずつ二人の貯金も貯まり、自分自身の貯金も貯まるようになった。借金を返済していることを忘れるほどだった。普通の暮らしというものがどれだけ幸せかを実感する毎日。

人間とは環境で変わる生き物だなとつくづく思った。

夜勤バイトで生活が乱れ、パチスロを始めて依存症になり、元々バグっていた金銭感覚と、プライドの高い性格が招いた多重債務。

それが「人に相談する」「しっかりした人と一緒に生活する」これだけで一気に解決に向かったのだから。

私は結局、この200万円の借金は、繰り上げ返済もしながら4年で完済した。32歳のときだった。22歳から続いた借金生活は、10年でついに終焉を迎えた。

友人の秘密

私が平穏な日々を送り始めたところで、驚いたことがあった。

一人暮らしをしているとき、週3日近く一緒に飲み歩いていたお酒に詳しい友人のことだ。

彼女と同棲を始めてからは、たまにしか飲みに行かなくなっていたが、その友人が音信不通になった。

聞くところによると、会社の金を数年にわたり横領していたことが発覚し、クビになって訴えられたらしい。

私はそいつと飲みに行くためにゲーム機を売りながらなんとかお金を作っていた。一方、彼は盗んだお金で飲んでいた・・・。

どちらもお金に苦しめられていたのだ。

私は思った。

「お金とはいったいなんなのだろうか?」と。

お金は人生の前に立ちはだかり、その人生自体を奪おうとする。

その取扱いを間違えば、人生のすべてが狂う。

みんな幸せになるためにお金を稼ぐのに、その結果不幸になる人もいる。

なにを、どのように、どうすれば、人間はお金に囚われずに幸せになれるのだろうか。

その答えは今も見つかってはいない。

ただ、ひとつ言えることは、

私は正しいお金の知識を与えてくれる人に出会ったおかげで、幸せな人生に変わった。

友人は、間違ったお金を手にして、不幸になった。

人間にとって、正しいお金の知識が必要であることは間違いなさそうである。


つづく


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