保険セールスの本質

何を偉そうに、といわれそうですが、私は30年近く保険の仕事をしてきて、保険セールスの本質って、こうだよなぁ・・・と感じたもので・・・。

保険は損保も生保も、現代の人間の生活では欠くことができない重要な金融商品であることは、私も確信していますし、そこは揺らがないと思います。保険があるおかげで災害にあった人や病気になった人や一家の世帯主を失った家族の経済的な支えになっていることは言うまでもありません。

そこは十分に理解したうえで、最近の生命保険会社の商品戦略を見ると、やっぱり「お客様を不必要に脅かしすぎだよなぁ~」と感じます。

「がんと診断されて、先進医療で300万円かかるといわれたときに、貴方はどうしますか?」

「介護状態になって、公的介護保険では賄えずにお子さんに迷惑をかけることになったらどうしますか?」

「認知症になって家族に迷惑をかけるようなことになったらどうしますか?」

「病気で働けなくなったときに、重い治療費のほかに家族の生活資金はどこから出てきますか?」

などなど。まあ、確かに、そういわれれば、そうなったときに困るなぁ、と思います。で、新商品の見積もりが出てくるわけです。

「この新商品は〇〇になった時にも〇万円の保険金をお受け取りできますので安心ですよね!」

その保険があれば、あまり想像したくはないけれど、そういう事態に陥った時に金銭的なカバーができるので、安心と言えば安心ですね。しかし、そのために支払う保険料が月に〇万円で、そのお金を払うことでお客様の今の家計を圧迫し、本来ならできるはずの将来の備えを妨害しているということを踏まえた上でのバランス感覚がある提案になっているか?というと、そうでもない感じがするのです。

はっきりと申しますと、保険ビジネスは「お客様を脅かして震え上がらせて保険料を払っていただく」ビジネスです。

保険の世界では「ニーズ・セールス」といって、お客様のニーズを的確につかんでそれに沿った提案をしましょう!などと言われるのですが、お客様がニーズを感じるためには、ある事象に対して「恐怖心」ともいえる切迫感を感じないといけません。

夫を失って収入が途絶えたら・・・とても私一人の収入では家計を回せないわ・・・昼間は会社で働いて、土日も夜も働かなきゃいけないの?

病気になって多額の請求をされたら・・・。定期預金を崩しても間に合わないような金額だったら・・・そんなことのために貯蓄してきたわけじゃないのに!いやいや、それどころか借金しなきゃ間に合わない?

私の大事な人ががんと診断されて、「この治療法なら助かる見込みはありますが、先進医療なので300万円ほどかかります。払えますか?」と医師に言われたときに、どうしたらいいの!?

こういう事象が「怖い」と感じるから、そこを埋め合わせてくれる保険のニーズが発生するのです。なので「恐怖心」というインプットを適切に行うから、それを埋めあわせる何かが欲しい、ということになって必要性を感じるのだと思うのです。

例えば、1等10億円の宝くじ。買えば夢のような生活が待っていますが、皆が皆、買うわけではありません。宝くじが当たるかもしれないけど、当たらなくても今の生活は変わらず困らないから。しかし、家が火事になって焼け出されて住むところ失うことに備えた火災保険には皆加入します。家を失えば寒空の中、家族で路頭に迷うことになり大いに困るから。

人間は「AをするとBを得られる」ということよりも、「AをしなければBを失う」ということの方がはるかに高い行動のモチベーションを発揮します。なので、お客様を上手に「怖がらせる」ことができる人が保険の売り上げを伸ばすわけです。

こういうと身もふたもないのですが、人を恐怖に陥れてお金を頂くという点に関しては、保険の仕事と「反社会的勢力」はとても近いビジネスモデルであるといえます。「店で暴れるやつがいたらいつでも連絡寄こしな」といって毎月「みかじめ料」を取る反社と、「〇〇でお困りのことがあったら〇万円の保険金をお支払いします」といって毎月保険料をお預かりする保険ビジネスは、相手が「こういうことになったら嫌だな・困るな」というところに付け込んでお金を頂くという点で近いと思うのです。

保険の仕事をしている人は、大いに憤慨されるかもしれませんが、保険と反社との最大の違いは、保険は日本国の金融庁が免許を交付している「国家公認」のビジネスであるということ、反社はその存在を徹底的に否定されている非合法のビジネスであるということ。要すれば、違いは「合法か非合法」かという紙一重です。

いや、別に脅かすばかりではなく、将来のこととか、夢のある話をしていますよ、という方も多いと思います。夢のある話をしつつも、万一のことがあればその夢は果たせません、と言えば、結局は怖がらせているわけです。お客様が怖いと感じてお金を払うという点は、残念ながら一緒。

なお、保険の場合には、お客様が困った状況になれば、約束のお金を約款に基づいて確実に払いなさい、ということを国家が法律で統制していて、万一、保険会社が破綻したら業界による保護機構で消費者を守りなさいとしている点は、反社などとは一線を画しています。なので、正々堂々ビジネスをしてよいと思います。

こう言うと、メーカー(保険会社)の人に怒られそうですが、メーカーの人は(絶対に口にはしませんが)夜な夜な、新たな「お客様を脅かすための話材」を研究し、営業の一線に下ろしています。

新商品の売れ行きに陰りが出てきたら、次の新たな「脅かすネタ」を考える。多分、最近ではどこの保険会社も「就業不能」の保険を発売していますが、死亡保険が売れなくなった→がん保険・医療保険も売れなくなった→・・・という流れの中で編み出されてきているのではないかと思うのです。

病気で働けなくなる。治療費もかかるし給料が出なくなって家族を養えなくなる・・・ということを考えると、確かに不安かもしれません。保険会社は発売前にマーケットリサーチをして、このような保険にはいくらまでの保険料なら払ってもいいと思うか、などということも調べ上げています。なので、新商品はそれなりに売れるんだと思います。

次から次へとお客様を脅かすネタとそれに対応した商品が出てくる。それでなくとも日本人は生命保険に毎月多くのお金を投じているのに、これでもかと震え上がるようなネタが持ち込まれて契約する・・・。

保険もビジネスでやっている以上、新商品開発も必要だし、売上も必要なのはわかります。しかし、お客様の人生で本当に必要なものを十分に吟味したうえでのことかを考えた方がよいと思うのです。

保険で賄うのは「保険が無いと絶対にどうにもならない事象」だけでよいと思うのです。30歳の若者が50年以上先の自分の葬儀費用を心配する必要はありません。将来、結婚するかどうかもわからない0歳の子供の将来の結婚資金援助費用など、今から考える必要はありません。大学に行くかどうかもわからない0歳の子供の教育資金に1,000万円を用意する必要があるとは思えません。

そう考えると、本当に必要な金銭的な備えというとそんなにたくさん無いんだと思います。そして、その備えは金融資産を着実に形成していくことで大抵のことは片付くのです。

これからの時代、そこを教えてあげなきゃ・・・(-。-)y-゜゜゜

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