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調達力・購買力の基礎を身につける1

(1)-1調達・購買とは何をするのか<基礎知識>

製造業では、自社の製品を生産・販売するときに、なんらかの原材料や部品・設備などを外部から購入してくる必要があります。その購入に携わる部門が調達・購買部門です。

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調達品は分類によっていくらでも細分化できます。ただ、日本の製造業のバイヤーが取り扱うものは、直接材・ソフトウェアがほとんどでしょう。間接品は生産部門、サービス・エネルギーは総務部などが独自に購入しているはずです。

欧米においては、「調達・購買部門が、外部への費用支出全てに責任を持つ」としている企業もあり、日本でも同様の流れが出てきています。

調達・購買部門は、必要とするものを「品質の良いものを、安い価格で、安定的かつ永続的に購入する」ことを目的としています。

また、調達・購買部門は、サプライヤー企業を尊重し、お互い協力しあうことによって社会全体の発展実現に努めます。

(1)-2 調達・購買とは何をするのか「私の経験」

「ナメてんのか。この野郎!」

私は購買部に配属されたときのことを鮮明に覚えています。机に座るなり、後ろからドカっという音とともに大声が聞こえてきたのです。

その直前まで、「調達・購買部門の使命について」という美辞麗句を教え込まれていた身としては「だいぶ現実と教科書は異なるらしい」と思いました。

その大声はサプライヤーと電話をしている年配バイヤーのものでした。ドカっという音は、机を叩いた音でした。

バイヤーは外部から色々なものを購入することが仕事です。「会社の金を使って買い物をするなんてうらやましいな。仕事は楽勝でしょう」と言われたこともあります。実際、調達・購買部門はこれまで重要視されていた部門とは言い難く、サプライヤーとゴネて交渉する役割程度としか思われていなかったのが現実ではないでしょうか。

しかも、製造業の場合は、バイヤーが何を購入するかを決めなくても設計者が決定してくれます。何もしなくても、特に問題になりません。

私の最初の仕事は、「納期遅れリスト」に記載されたサプライヤーに順に電話をかけることでした。約100部品についての納期確認を繰り返します。「この部品まだですか」「ちょっと待ってください」というやりとりを何度も何度も繰り返すのです。

次の仕事は、「高額購入品リスト」の中に載っているトップ10を順にコスト低減することでした。「やっと仕事らしくなってきたな」と思いましたが、実態はこれまた電話を繰り返し「とにかく安くして下さい」と言うだけでした。

「分かりました。では1万円だけ値引きします」とサプライヤーが言ってくれたら、すぐに新たな見積り書を送付してもらいハンコを押す。こういうことを繰り返していました。

日々疲れていましたが、いつの間にか納期催促とコスト低減の依頼を繰り返し電話することに慣れてしまいました。

こういうのは慣れてしまうと、意外に平気でやれてしまうようになるものなのですね。快感にも近くなっていました。

30万円で購入していたところを、自分が少し交渉したら28万円で購入できる――つまり、2万円会社に貢献できる。しかも、納期が遅れそうなときに、自分が交渉してなんとか生産ラインをつなぐ。こんなに簡単なのか、とすら思ってしまうようになりました。

そうやって半年ほど経ったころです。私はいつも通りサプライヤーに電話をかけていました。

「製品番号GYF43-232の納入スケジュールなのですが」と私はサプライヤーに尋ねました、「納入期日は昨日でしたが、まだ納められていないようです」。もちろん私はその製品がどういうもので、どういう重要性を持ったものかは知りません。ただ、注文書を見てその納期通りに調達することだけが私の仕事と思っていたのです。

「ああ、その製品ですか・・・。それって、時間がかかっちゃっていて、相当遅れそうですね。あと3週間くらいはかかりそうなんですよ」と営業マンは申し訳なさそうに言いました。

すると、私はすぐさま「そんな遅れて、一体どうするつもりなんですか!」と、つい話しながら机を叩いてしまいました。

ドカっ、という音がしました。

配属されたばかりのときに聞いた音だ、と思いました。

いつの間にか、自分は年配者と同じ事をやっているのではないか。

その音を聞いたときから私は、次のことを繰り返し考えています。

「調達・購買とは何をするのか」ということ、そして「バイヤーは何のためにいるのか」ということを。

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2016年6月24日講義写真

(2)-1 調達・購買が会社に与える影響とは<基礎知識>

調達・購買が会社に与える影響として最も一般的に考えられていることはコスト低減による収益の拡大です。これまで100万円で購入していたものを90万円で購入できるのであれば、10万円が自社の増益となります。

しかし、昨今は単なるコスト低減だけではなく、企業を取り巻く様々な環境変化に対応する存在として調達・購買部門が期待されています。

代表的な環境変化としては、下記のようなものです。

(1) 全世界ボーダレスな価格競争

(2) コーポレートガバナンスの強化

(3) 商品開発スパンの短期化

(4) 新技術の台頭

(5) 地球環境に優しい製品への要求の高まり

つまり、これからの調達・購買部門はこのような環境変化に対応して、自社の開発・生産に満足できるようなQCD(Quality、Cost、Delivery)を提供せねばなりません。

Q・・・短期開発にも対応した品質の熟成、環境問題に対応した部品の調達、新技術の採用

C・・・海外勢に負けないコスト競争力の実現、グローバル調達

D・・・生産タイミングに応じた納入、多品種少量に適したサプライチェーン構築

これまでのように企業の陰に隠れた存在ではなく、自社企業価値の向上を目指して積極的に行動する調達・購買部門が求められています。


「そんなことは設計に聞いてくれ!」

こういう言葉をよく聞いていました。周りの先輩バイヤーが営業マンと話しているときによく出てくる言葉でした。話がコスト以外のことになると、決まってそう発言するのでした。

バイヤー仕事は「金を下げることだ」という認識に間違いはありません。コスト低減は今でもなお、バイヤーの主業務の一つです。

良くも悪くも、企業の中で分業が進んでいるせいか、コストや納期に関わることだけがバイヤーの業務で、その他の仕様に関わることは全て設計部門に丸投げすることがあります。新しい製品の売り込みですら、「そういうことは俺じゃ分からないから、設計に言ってくれ」とまで割り切ったバイヤーもいました。

どの企業でも、基本的には調達・購買部門だけがサプライヤー窓口として交渉にあたることになっていますが、たいていは設計部門が率先して仕様の打ち合わせをし(ときには価格の交渉まで)、調達・購買部門は最後に見積書を届ける先としてしか役割を果たしていません。

おそらく、それはこれまでのバイヤーの業務が受身であったからです。しかし、昨今の企業を取り巻く環境の変化に対応するためには、バイヤーが能動的に社内外に情報を発信していかねばなりません。

変化が目まぐるしく、設計(生産技術)部門だけでは分からないことも増えており、調達・購買部門がガイドラインを設定する必要もあります。

特に独自規制を多く持つユーロ圏向けの製品では、どの環境対応レベルの部品であれば基準をクリアしているかを社内に明確化してやらなければいけません。

ある有名メーカーの調達・購買部門は、他社に先んじて独自の環境基準を作成し、全てのサプライヤーに訪問し格付けを行っています。この結果は調達・購買から社内への強いメッセージとなり、この基準を満たすサプライヤーのみから調達することを義務付けています。

先端技術で、コストが安く、環境対応もしっかりしている製品を全世界からいつでも適量を調達して生産する――、これは、まさに実現せねばならない急務となっています。調達・購買に期待されていることは、この具現化です。

これまでのように閉ざされた世界で黙々とこれまでと同じような業務を続けていてはいけません。積極的に社内に最適調達構造を提案することが必要です。加えて、これまで以上に公正でクリーンな調達活動を心がけねばなりません。かつてであれば曖昧にされていた悪質な「買い叩き」も、今ではインターネットに乗って世界中を飛び回り、報道の対象となることもあります。当局から厳重注意を受ければ、株価にも影響してきます。

また、グローバルな調達は、単にコストを下げるだけではなく、富の分配という側面も持っています。例えば、日本の自動車産業は長年、欧米に大量輸出を行っていました。かつては日本へのバッシングが激しく不買運動にまで発展した例がいくつもあります。しかし、ある時期から現地メディアが日本叩きを止めたのは、日本の自動車メーカーが現地調達・現地生産に切り替えることにより現地に労働と富をもたらしたからです。

このように、調達・購買部門の役割は単にコスト低減ではなく、様々な意味を持っています。その数々の役割の目標は自社企業価値の向上です。

「そんなことは設計に聞いてくれ!」と言い、脅しとハッタリでコスト交渉をするだけではなく、もう一歩進んだ調達・購買を実現させましょう。

「問題」とは「あるべき姿」まで至らない障害、「課題」とは「ありたい姿」まで至らない障害という意味で、調達・購買の問題を考えてみます。

調達・購買が抱える最も大きな問題は、「バイヤーのモチベーションの低さ」と「地位の低さ」です。

そして、その要因は達成感のなさにあります。この仕事が面白い、嬉しい、楽しい。こういう気持ちがなければ、モチベーションが沸きません。モチベーションが沸かなければ、自ら目標を設定し、夢を設定することはありません。結果として調達・購買部門(およびバイヤー)の地位は高くなりません。

調達・購買関係の本ではほとんど触れられていませんが、私は最も重要なことだと思いますので、私の経験を元にこの問題について考えてみます。

(2)-2 調達・購買が会社に与える影響とは「私の経験」

「大卒なのになんでこんなことやってるんだろう」

私は驚きました。仕事で中国に行ったときのことです。

中国へ行った目的はサプライヤー調査と、自社工場の手伝いでした。サプライヤー調査が終わり、自社工場に行ったとき、「現場を知らねばいけないから、まずは現場の手伝いをするように」と言われたのです。

自社工場に着くなり、渡されたのは、薄い灰色の作業着と軍手でした。身につけていたネクタイをはずし、ズボンも脱いでロッカーに入れることを指示されました。

そして、簡単な安全教育を受けた後、突然現場に連れ出されたのです。荷物の受入場でした。

「ここに荷物が届く。そうしたら、荷物を開梱し、部品をピックアップする工員がいる。しかし、完全に人手が足りるわけではない。たまにラインで部品が足りなくなることがある。どこかのラインで部品が不足したらそれを素早く持ってきてくれ」

たったそれだけの指示でした。

すると、すぐにあちらこちらから赤いシグナルが鳴り始めました。「ライン異常」のサインです。私はそこにとりあえず走りました。

何が起きたのかは全く分かりませんでした。ただ、部品が足りず、工員は急いで作業をやりながら、少しの時間を浮かし、部品集めに翻弄していることは分かりました。ラインわきにセッティングされた部品が不足しているのです。

私は工員の指した先にある部品置き場に走って取りにいきました。そして走って戻ってきます。やっとそこには部品が充足され、一段落です。

すると、違う赤いシグナルが点灯します。大変な二日間が過ぎ去って行きました。

言葉も通じない国の工場で、汗だくになりながら、単純作業を繰り返す工員と私。

「今ごろ、日本ではみんなが涼しい部屋で仕事をしている間に、自分は何をやっているんだ?」と繰り返し考えました。

作業着は背中も汗だくで、ときには一日に2回も作業着を換えなければいけないときもありました。

昼休みのロッカーで、「大卒なのになんでこんなことやってるんだろう」と考えてしまったことを今でも思い出すことができます。

しかし、こういう私の頭を殴られるような事件がありました。

5日が経ち、やっと終了を迎えた日のことです。皆工員が呼ばれて、なにやらラインの班長が、何かを言っているのですね。もちろん私は分かりません。すると、工員に笑顔が浮かびました。大歓声がうまれました。

拍手をする者。ガッツポーズをする者。お互いが見つめあい、「よかった、よかった」と言っているようでした。

一体何が起こったんだ?数名の日本人のスタッフに聞いてみました。

すると、答えはこういうものでした。

「いやぁ、納期が間に合うか間に合わないかギリギリの製品があってね。なんとか、お客さんの指示通りのスケジュールに発送できたんだよ。しかも、今までに経験したことのないくらいタイトなスケジュールで。しかも、過去最大の量をね!」と。

まだ拍手は続いていました。

正直、「何なんだ、これは」と思いました。「この騒ぎは何なんだ?」と混乱していた私の隣で日本人のスタッフはバンザイをしていました。

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2016年コスト削減

(3)-3 調達・購買が抱える問題とは何か「調達・購買部門の地位の向上」

仕事の喜びを感じよう、とよく言われています。「モノ作りの喜び」、とは製造業に携わる人ならばよくいうことです。

しかし、残念ながら私はそれまで、自分の仕事に喜びを感じることはありませんでした。常に納期に追われる毎日。そして、不条理なコスト低減を要求される毎日でした。

どれだけのバイヤーが、一つのプロジェクトを終えて、このような歓喜につつまれた経験をしたことがあるでしょうか。

机の前に座り、サプライヤーが持ってきた見積り書だけを見て交渉を繰り返しているだけの人が一体どうやってバンザイをすることができるでしょうか。

バイヤーの停頓感は、このバンザイの不在にあるのではないでしょうか。何かを成し遂げた後に、バンザイをして皆と喜びを分けあうことができないからではないでしょうか。この何かを成し遂げたときのバンザイの不在は、つまり仕事に感動がないということではないでしょうか。

設計者であれば当然のように製品を設計し、ときには自分で組み立てもやります。多くのサプライヤーと一緒になって、一つの製品を創り上げるという「のめりこみ感」があります。自分の製品がラインに流れ始め、製品がお客のもとに届けられ始めたとき、設計者は感動を味わうことになるでしょう。

それに対して、多くの場合、バイヤーには感動がないのです。バンザイがないのです。

製造業の会社にあって、モノ作りをしていない、それなのにモノを恒常的に取り扱う、という矛盾した存在であることが多いからです。

私は中国で非常に貴重な体験をしたと思います。あの原体験が、仕事の喜びを考える中で礎となっています。

もちろん、それは中国のみで経験できることではありません。あちこちの現場にバンザイは転がっています。それを見る気があるかどうかだけが問題です。

そして、何かを成し遂げたときにバンザイをするためには、自らが積極的に関わっていたことが重要になります。一つのバンザイは次のバンザイにつながり、ささやかな成功体験が大きなモチベーションへとつながり、さらにはそのモチベーションによって得られた成果が調達・購買部門の地位の向上に寄与するはずです。

まずは、現場に出向くこと。そして、自らが率先して物事に関わること。この原則だけは守り続けなければいけません。

(3)-4 調達・購買が抱える問題とは何か「雑感」

定年後に中国企業に再就職した日本人を数名知っています。

ある人に、「なぜ中国などに行くのですか」と聞いたことがあります。すると、返ってきた答えは次のようなものでした。

「現場の若者に教え、一緒に喜びをつくっていきたい。何もできなかった若者が、自分の知識の伝達で、何かができるようになるかもしれない。成長してくれるかもしれない」と。

おそらくこの人は、今ごろ中国の片田舎で、誰も経験できないバンザイをやっているのだと思います。

そして、いずれ中国や韓国の製造業躍進の秘密は有名日系企業からの人材流出によるものだ、ということが明らかになっていくでしょう。日本に見切りをつけて、どんどん海外にその知識と経験が流出しています。

人はいつでもバンザイを求めたいからです。

(4)-1 調達・購買の「あるべき姿」とは何か<基礎知識>

調達・購買部門の使命は「企業価値の最大化」を調達の側面から実現することです。そのために、PDCA(Plan/Do/Check/Action)のサイクルを通して、高いレベルのQCDを自社に提供してゆきます。難しく考えることはありません。外部にある良いモノを社内にもたらし、最高の製品を短期間で生産できるようにすることです。

そして、バイヤーの役割は、そのような部門の理念・目標・目的を具現化するために、自分の担当する企業との調達基盤を確立し、発展させ続けることです。

(4)-2 調達・購買の「あるべき姿」とは何か「私の経験」

「無理だって言ってこい!!」

かつて私は非常に短納期の案件ばかりを担当したことがあります。もともとリードタイム(調達期間)が2ヶ月くらい必要な部品に対して、1ヶ月半くらいで納入してほしいという要求ばかりでした。いや、半月ほどの調整ならばなんとかなります。しかし、時には2週間で納入してほしい、という要求がきたこともあります。

当然、サプライヤーにはお願いを繰り返します。毎日毎日サプライヤーと進捗管理のために打ち合わせし、こっちは出荷できるとか、こっちはもうちょっとかかりそうだから、代わりにこちらの製品の生産を開始しよう、とか。そういう会議ばかりをやっていました。

当然、疲れます。営業マンもよく付き合ってくれていました。

そういうときに「明日、どうしても納入してほしいものがある」という依頼が舞い込みました。通常2ヶ月かかるものを一日では絶対に無理です。

しかし、たまたま運がよくその部品はサプライヤーの倉庫にありました。このことを上司に報告すると、安心してくれたのですが、同時に「今回は救われたが、こういうことを承諾すると社内が調子に乗ってしまう。わざと『今回は無理だ』と言って来い」と命じられました。

そして、「どうしてもお願いします、と頭を下げてきたら納入してやれ」と。私はなんだか複雑な気持ちになったことを覚えています。

実のところ、このような光景は少なくないのではないでしょうか。無理な要求納期に対して、生産部門と調達・購買部門がお互いに不平不満を言いあっていることをよく聞きます。また、コストに関しては「もっと安く買ってこい」と言う営業部門と「客にもっと高く売ってこい」と言う調達・購買部門が不毛な論争を繰り広げています。また、仕様に関しては、設計部門と・・・止めましょう。私が言いたかったのは、調達・購買部門の本来のあるべき姿から言えば、このような喧嘩がいかに無意味であるかということです。もっと将来につながる施策を全部門の協力の下に推し進めて行かねばならないのではないか、ということです。

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(4)-3 調達・購買の「あるべき姿」とは何か「調達・購買部門のPDCAの回し方」

調達・購買部門におけるPDCAとは、次の内容を指します。なお、ここでは通常の並び方を若干替えて実務上分かりやすく説明しています。

(1) Do(調達の実行)・・・まずは日々の競合やコスト交渉、毎期のコストダウン要求、発注・納入フォローなどを行います。

(2) Check(サプライヤーの評価)・・・(1)に基づき、サプライヤーの実績を評価してゆきます。競合の勝敗、コスト低減率はどうか、毎期価格協力はしてくれているか、納期は守っているか、不良品発生はさせていないか、新技術に対応できているか、を確認します。

(3) Action(新規サプライヤーの追加、改善支援)・・・(2)の確認を受けて、それではどうしたらよいかを立案します。このままのサプライヤー構成でいくのであれば、関係強化に力を入れます。また、サプライヤーに足らないところがあれば、こちらから改善を要求したり、人員を送り込み合同で向上活動を行ったりします。あるいは、新規のサプライヤーを探します。

(4) Plan(調達戦略の構築、コスト低減目標の立案、調達要件の追加・削除)・・・(3)を受け、次回以降の調達にいかに生かしてゆくかを練ります。新規サプライヤーを参入させるのであれば、どのタイミングでどの製品からか、目標コストはどこに設定するか。そして、環境変化に伴って要件の追加は必要ないか、安定した調達を阻害しているバイヤー企業の要件があれば、それを変更・削除できないか考慮します。

これらは多くの場合、調達・購買部門だけで実施できるものではなく、設計・生産・営業部門も巻き込んだサイクルとなります。

よりよい調達活動を実現するために、また日々変化し続ける企業環境に対応するために、このような地道な改善活動が必要となってきます。

日々の苦労を愚直に繰り返してもよいでしょうが、それだけでは進展することはありません。納期で困っているのであれば、サプライヤーの問題か、あるいは自社の体質の問題か、を見極める必要があります。そして、その問題を解決するための施策を立案してはトライし、最善案を模索せねばなりません。

特に、Checkのところは数値で表現されるため非常に定量的に語ることができます。しかし、最もバイヤーが正しく実施できていないところも、このCheckのところです。自分の印象にのみ基づいて戦略を構築したりする例を見かけます。あるいは、日々の業務に忙しいからか、サプライヤー企業全体を正しく把握していないこともあります。

このようなPDCAサイクルを確実に定着させ回すことができる企業は多くありません。その一方で、実行している企業は着実に成果をあげて行っています。いわば、調達・購買部門の改善にもつながっており、企業の生産活動は向上します。

考えてみれば、日々の調達活動の結果を社内にフィードバックし、次の調達活動につなげてゆく、ということは当然です。しかし、多くの企業のバイヤーと話していると、「最悪なサプライヤーがいる」というので、「なぜそこを改善させたり、発注先を変更したりすることができないのか」と訊いてみてもはっきりしないことが非常に多いのです。ときには悪い、という印象だけで、問題点を具体的に挙げることすらできないときもあります。

少しでも自分の日々の業務が自社の企業価値最大化につながるように、このPDCAサイクルを実施せねばなりません。

(4)-4 調達・購買の「あるべき姿」とは何か「雑感」

バイヤーと話していてむなしさがつきまとうのは、「どうしようもないサプライヤーなんだけど、系列企業だから発注せざるを得ないんだ」という発言を聞くときです。

確かに、そういうときは発注先を変更することは難しいかもしれません。しかし、改善させることは可能でしょう。それに、企業の調達・購買部門によっては系列企業に対して「優先的に取り扱うが、競合のときにコストが最優位でない場合は発注しない」と宣言しているところもあります。清々しいと思いませんか。

また、PDCAサイクルでは「何がどう悪いから、どう変更する」ということ明確に語らねばなりません。結果がどうで、その結果が基準にどれだけ達しなかったのか、が不明のまま改善に結びつくはずはないからです。

ちなみに、このようなPDCAのサイクルをしっかりと回し、最適な調達活動に結びつけることのできるバイヤーの市場価値は当然のように高く評価されています。「あなたは困難に直面したときどう解決したか」「これまで成し遂げた最大のことは何か」ということを筋道立てて話すには、このサイクルを頭に入れている必要があり、そこから導き出される実績はバイヤーの評価に結びついてゆきます。

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(5)-1 調達と倫理<基礎知識>

調達活動においては、サプライヤーを対等に扱い、信頼関係の下で業務にあたらねばなりません。各企業とも調達倫理規定の中では、相互理解の重要性を謳い、公正・公平・透明性を基本とし、贈与・接待を禁じています。

しかし、少なからぬバイヤーがサプライヤーからのキックオフ(見返り金)を受けとり社会問題化したり、商道徳に反する行為をしたりしています。

また、他社の機密情報をうっかり漏らしてしまうことも考えられます。

自分の高潔さに自信があるバイヤーであっても、日々自己の行動を絶えず確認し、自戒していかねばなりません。

(5)-2 調達と倫理「私の経験」

「今度はどの店に行こうか?」

毎週水曜日になると必ず早く仕事を切り上げる先輩バイヤーがいました。いつも、サプライヤーと飲みに行くのです。水曜日は常に定時帰り。最寄駅でサプライヤーと待ち合わせしている姿を何回も見ました。

そして、いつものごとく、自分がいかに自分の会社の中で発言権があるか、発注に関して権限を持っているか、を語るのです。そんな内容を毎回聞かされるサプライヤーの営業マンも気が狂いそうでしょうが、営業マンは文句も言えないようでした。

もちろん、そのサプライヤーが飲み代として支払った金額は、私の企業が支払ったお金がまわりにまわってきたものにほかなりません。毎晩の飲み食い代も、いつしか見積書に加算されていったのでしょう。

あからさまに発注の見返りとして賄賂をもらうよりはマシでしょうが、食事も結局は利益の贈与でしょう。

その後、もっとひどい例を聞きました。毎日、夕方頃になると意味もなく営業所にやってくるバイヤー。価格交渉のときに、店まで指定して場所を移動することを強制するバイヤー。

こういう人たちに共通するのですが、「あれだけ仕事を頑張っているんだから、多少は遊んだっていいじゃないか」と言うのです。また、「会社に対しては、コスト低減で貢献している。だから問題はない」と言うのです。

それはまさに免罪符のようで、自分が倫理規定に反しているという認識すらありません。 コスト低減をしたことと、キックバックを受け取っていい、ということがつながっていないという当然の指摘すら聞く耳を持ちません。

(5)-3 調達と倫理<バイヤーは「買ってやる」のではない>

また、バイヤーのサプライヤーに対する態度も問題となります。

とある有名メーカーのバイヤーはガムを噛みながら交渉するのだそうです。また、そういう人に限って調達部門のキーマンだったりするから始末に負えません。

周囲のバイヤーの発言を聞いても、おおよそ「平等な立場」を実現させようという気配すら感じることのできないものがあります。

「やる気あるのかよ」

「忙しいからあとにしろ」

「そんなこと言ってくるな」

などなど。また、私自身の経験では、人が目の前に座っているのに、携帯電話で延々と話し続けたバイヤーがいました。これは、調達・購買部門の倫理、というより人間としての基本的な礼儀の欠如といってもよいかもしれません。

脅しとハッタリだけを前面に出したり、ペラペラと他社の情報を話したり。こういうバイヤーが営業マンの真の信頼を勝ち取ることはできません。

また、これこそ恒常的に行われていることですが、他社の見積りを勝手にコンペティター(競合サプライヤー)に見せてしまうことがあります。「相手はこういう金額だから、これよりも下げろ」というわけです。それを「見積り比較」と言って、コスト低減手法かのように自慢するバイヤーがいますが、とんでもない間違いです。他社の見積りを見せさせられた営業マンは、最初は感謝するかもしれませんが、自分の見積りも同様に他社に提示される可能性を感じ、中長期的には必ずコスト高になります。なによりも、他社の書類を合意なく見せることは脱法行為です。

そのような行為を当然のこととして教え込まれた若手が同じようなことをしだすのは当然です。これらは部門全体として確実に防止する強い指導が必要となります。

同時に調達・購買部門として、社内にも同様の注意を促すことも必要です。設計部門でも、ときに倫理(というよりも常識)が欠如している場合は、他社の図面をそのまま横流しし、「同様の製品が作れないか」という検討をさせていることもあります。これでは機密管理が上手くいくはずがありません。

コスト情報も同じことで、せっかく調達・購買部門が競合しようとしているのにサプライヤーの一社が他社のコストレベルを知っていることがあります。「なぜ知っているんですか?」と聞くと「設計者から聞きました」という答えが返ってくることがあります。おそらく同様の経験をお持ちの方もおられると思います。

まずはバイヤーとして倫理を持った業務を推進すること、そしてその後、自分の行為を通じて社内全体を啓蒙する姿勢が大事です。

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(5)-4 調達と倫理「雑感」

荒技を持っているバイヤーを見たことがあります。営業マンと話しているときに、他社の見積り書を裏返したまま突如席を立つのです。そして、5分後に席につき「分かったか」とだけ言うのです。

これ、実は「俺がいないときに、他社の見積りを見ておけ」というメッセージなのですね。しかし、自分自身で見せたわけではない、と。卑劣だと思います。少し笑ってしまいますが。いや、かなり笑ってしまいました。でも、笑っている場合ではありませんでした。

結局こういうことを繰り返していると、徐々に見積りが高くなってくることは間違いありません。「この人は信用できる」と思わせた方が、サプライヤーはベストの価格を出そうと頑張ってくれるものです。その程度は楽観的でありたいと思います。

また、情報管理には必要以上に気をつけたほうがよいでしょう。他社の情報をペラペラ喋りまくるのは問題外です。企業によっては喫茶店でパソコンを開くことを禁じているところもありまし、社内の人間同士の情報交換であっても出してよい情報かを細かくランク付けしているところもあります。

また、サプライヤーと食事に行くことの是非をよく問われます。これは各企業の判断に任せるしかありません。私の感覚では、営業マンと仕事の話を肴にして、おだてられながら食事をすることなど愉しくもなんともありませんが。

(6)-1 調達・購買が購入するものは何か?<基礎知識>

世の中の企業を産業毎に分けると、鉱業・建設業・製造業・エネルギー(電気・ガス・熱供給・水道業)・情報通信業・運輸業・卸売、小売業・金融、保険業・不動産業・飲食店、宿泊業・医療、福祉・教育、学習支援業・複合サービス事業・飲食店、宿泊業・医療、福祉・教育、学習支援業となります。日本では約5百万社が存在し、海外を含めると膨大です。

調達・購買部門は、これらの中から自社に必要なものを購入することになります。製造業のバイヤーは、ほとんどの場合、製造業・情報通信業のサプライヤーから調達活動を行っています。

分類は、どれほども細かくできますが、重要なことは自社にとって必要な情報を分類しておき調達方法を選別し、他社よりも有利な調達活動を実現することです。

加えて、同時に「購入する」ということは、「バイヤー自身を買ってもらう」ということが前提になければいけません。

(6)-2 調達・購買が購入するものは何か?「私の経験」

「そんなものまで買っているんですか!」

あるバイヤーと話していて驚いたことがあります。

そのバイヤーは食品業界で働いていました。チョコレートを百貨店に納める企業の調達を担当していたのですが、その業務内容が製造業のバイヤーとはかなり異なるのです。

まずチョコレートの選定では、どのくらいの甘みと苦味を持たせるかを決定します。その際にはどれくらいの糖分かを指定します。しかし、この程度ならば想定の範囲かもしれません。

驚いたのはその後です。そのチョコレートをどのようなパッケージで包装するか、その印刷までをコントロールしているのです。さらにその後、そのパッケージを運送業者に頼んでテスト配送してもらい、溶け具合は問題ないかまでをチェックする。そして、その売上の責任まで負う。

まさに、サプライチェーンの全てをカバーしていたのです。それに比べて製造業のバイヤーが扱うものは、直接材とソフトくらい。調達・購買の広さを知った瞬間でした。

バイヤーが担当する領域は、その企業規模にもよります。大企業であれば、細分化が進んでいるでしょうから、サプライチェーンの一部の領域を担当することになるでしょう。中小企業では「電子・電気部品一般」というカテゴリーで一人が担当しているところも、大企業ではその電子部品の中の、さらにその半導体の中の「DRAM」だけを担当しているバイヤーがいることもあります。細分化が進んでいるということは悪いことではありません。それは深化するということと同じことですから。大切なのは、自分の調達分野の最適な調達手法を把握していることです。

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(6)-3 調達・購買が購入するものは何か?「調達・購買部門が真に購入するもの、されるもの」

調達・購買部門が購入するものとは極論を言ってしまえば、時間とお金です。時間をかければ、どんな技術も自社内で完結することもできます。どんな製品も時間とお金をかければ生産できないことはありません。

しかし、時間もお金も有限ですから、すでにその技術やノウハウを具現化した企業から製品を購入するわけです。世の中に無数に存在する発意に対して、自社で有益なものを見つけ出し、適切な価格で代償(多くの場合は金銭)を支払うことを調達と呼びます。

そこには、「この金額ならば売る」という発意元の企業と、「この金額ならば購入する」という調達側の企業がいます。その橋渡しをするのがバイヤーです。

まさに、資本主義社会の取引の円滑化を担う役割がバイヤーにはあります。

そこで、重要となってくるのがバイヤー自身を買ってもらう、ということです。円滑な取引のためには、バイヤーの人柄を認めてもらい、両社の関係を構築するところから始めなければいけません。

資本主義社会といっても、人間的な感情を抜きにして取引などありえないからです。お互いがお互いを信頼しなければ、もし取引が開始されたとしても、スムーズな業務などできません。そのためには、日ごろから実直で誠実な対応が必要となります。

多様なものを調達する可能性がある現在、どこでも通用するような最低限の礼儀と人柄を備えなければならないことは言うまでもありません。

(7)-1 コスト低減の必要性<基礎知識>

調達・購買部門の最も重要な業務の一つにコスト低減活動があります。ご存知の通り、調達品の価格を下げることです。

商売の基本は「できるだけ安く仕入れて、高く売る」というものです。調達・購買部門はこの仕入れを担当し自社に貢献します。

コスト低減による自社への影響は、①収益性の改善 ②材料値上げなどへの環境変化対応力の向上 ③キャッシュフローの改善 ④社会的評価の向上 といった形で現れてきます。

よく表現されるのですが、下記のような企業があったとします。

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100を売り、10の利益を生む企業です。この企業が利益をより伸ばそうとすればどうすればよいでしょうか?もちろん、売上高を伸ばすことは難しいかもしれない。その他費用はギリギリまで詰めている、となると材料費を削減するしかありません。

では、ここで材料費を50に削減したとします。その他の数字が同一とするならば、利益は30、営業利益率は30%に向上します。この利益額は、以前のレベルであれば、300の売上がなければ達成できない数値です。

もちろん、一般的には売価が下がってゆくでしょうから単純な数式は成り立ちません。ですが、自社の売価が下がってしまうがゆえに、利益の確保・向上のためにコスト低減活動が必要となってくるのです。

自社の販売売価の下落や材料などの市況変化に加え、キャッシュフロー観点からの経営期待の高まり。これらにコスト低減を通じて自社の体質を強化することで、社会的評価の向上につながっていくのです。

(7)-2 コスト低減の必要性「私の経験」

「やる気がなくなります!」

後輩バイヤーがこうボヤいているのを聞きました。つい一年前まではやる気満々だった彼が、いまでは「こんな仕事やっていられない」というのです。

話はこういうことでした。彼は、データセンター内のパソコンやサーバーを調達する担当者でした。もともとIT関係に興味があったこともあり、当初は楽しかったようです。

スペックについても設計者と会話ができ、簡単な仕様の打ち合わせであれば自分一人でできるレベルになっていました。そんな彼が、今ではやる気がない、と。

聞いてみれば、こういうことでした。

「前期に高いコスト低減目標を与えられて、やっと達成したんです。色々なサプライヤーに回ったり、交渉したり。でも、全く意味がありませんでした」

「なんで?コストが安くなったんだったら、効果はあるじゃない?」、私は訊きました。

「せっかく下がったのに、(自社の)営業が客先への売価を下げているんですよ。『原価が下がったんだから、安く売れる』と思ったんでしょうね。また、コスト低減要請ですよ」と。

想像するに、同じようなボヤキを持っている方はたくさんおられるのではないでしょうか。実際、私がバイヤーの方々とお会いするときに、「せっかくコストが下がっても、営業部門は安く売っちゃうんで、いつまで経ってもコスト低減をやらなきゃならないんですよ」という嘆きを聞くことがよくあります。

営業部門に対して、調達・購買部門は「もっと高く売れよ。利益出せ」と思っています。調達・購買部門に対して、営業部門は「もっと安く買ってこいよ。利益出ないじゃないか」と思っています。

おそらくこの構図はどこにでもあるものでしょう。

「10円コストを下げることができたら、それがそのまま自社の利益になる。こんな素晴らしいことはないと調達部門を希望しました。でも、実際は営業部門が安く売ってきてしまったことの尻拭いじゃないですか」と前述の後輩バイヤーは言っていました。

では、バイヤーとしてはどう考えるべきでしょうか?

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(7)-3 コスト低減の必要性「コスト低減はそれでも必要」

後輩バイヤーのボヤキはわかります。

しかし、です。発想が逆でなければなりません。つまり、バイヤーとしては「市場の売価が下がるのは当たり前。それを前提として、それ以上のコスト低減を成し遂げてやる」という認識が必要なのです。

自社の営業マンも(多くの場合)バカではありません。自社の利益を拡大させるように日々悩んでいます。そして、(バイヤーがサプライヤーとやっているように)ギリギリのところでお客と駆け引きし売価を決定しているのです。その時点では最適な売価である、ということくらいは信じてよいでしょう。

だいたい、日々技術が進化し、海外にまで競合相手も存在し、商品ライフサイクルが短くなってきている昨今売価が下がっていくのは当然です。だからこそ、それに対応してバイヤーはコスト低減を実施せねばなりません。

特に、各企業でコスト意識が高まってきた昨今は調達・購買部門への期待も高まっており、バイヤー発の提案が受け入れられやすい状況だといえます。

新聞紙上でも「原価低減活動で○○億円削減」という見出しが躍ることも多くなってきました。バイヤー、ならびにコスト低減の必要性は日々高まってきています。

(7)-4 コスト低減の必要性「雑感」

英語圏のウェブサイトで「コスト低減を進めることにより、株価が5年間で○○%向上した」という記事が読んだことがあります。話としては面白いのですが、株価は様々な要因で変化するため、コスト低減のみで株価上昇を語るのはかなり乱暴です。だから紹介は差し控えておきます。

ただ、私が勤めていた企業を例に取るとあながち嘘ではない気がしてきます。その企業は様々な事業部門を持っていました。当然、事業部門ごとに売上・営業利益・経常利益を集計しています。興味深いことは、各事業部門に属している調達・購買部門のコスト低減率と、その事業部門の売上の伸び率にかなり強い相関があったことです。コスト低減をより多く達成している事業部門は売上も拡大しており、コスト低減が芳しくない事業部門は売上も縮小している。

ニワトリが先かタマゴが先か分かりません。ただし、コスト低減がいつしか売上増につながり、その事業の社内外的評価向上に結びついてゆく。このことは言えるのだと思います。

(8)-1 調達契約と実行<基礎知識>

調達・購買部門は大きく分けて、契約と実行に分かれます。日本の場合は、「調達」「購買」「資材」等の区別が明確ではないために英語で説明します。

ソーシング(Sourcing)は、いわば調達・購買の花形業務です。サプライヤーを調査したり、見積りを入手しコストを決定したりします。それに対して、パーチェシング(Purchasing)は発注から納入・支払いまでのプロセスのことです。

ソーシングからの情報を元に、パーチェシングは安定した調達を目指します。また、パーチェシングも日々の調達業務をソーシングにフィードバックすることにより、サプライヤー決定に影響を与えてゆきます。

一般的には、一人のバイヤーがソーシングとパーチェシングの両プロセスを担当していますが、役割の明確化のためにそれぞれ別のバイヤーに任せる企業もあるようです。それぞれ別のバイヤーが担当する場合は、お互いの業務に無関心になりがちなので、密なコミュニケーションが必要となります。

(8)-2 調達契約と実行「私の経験」

「納入止めますよ!」

営業マンから怒られたことがあります。無理な数量を無理な納期で注文したときのことです。品物は大型ヒートシンクでした。営業マンが、ハンドキャリーで新幹線に乗って持ってきてくれたのです。これでなんとか生産はつながりひとまず安心。しかし、問題がありました。その新幹線代を払う予算がなかったのです。私は、そのときひたすら納期を調整する役目でしたので「いくらかかってもよいから持ってきて下さい」とお願いしていました。そして、営業マンが請求してきた金額には「予算がないので払えない」。

私は営業マンに「すまないが、予算がないので今回は製品費だけで勘弁してください」と正直に言いました。もちろん、営業マンは「いくらでもいいって言うから、新幹線で持ってきたのに!私の手間はどうなるんですか!」と。止まりません。「納入止めますよ!」とまで言われたものの、最後はしぶしぶ諦めてくれました。

ソーシングとパーチェシングを同一バイヤーが行っている場合には、この「納期か価格か」という問題で揺れるときがあります。「せっかく遠くから緊急で持ってきてくれたのだから、多少価格が高くてもいいかな・・・」と妥協してしまうわけです。これが、ソーシングとパーチェシングが分かれていると、なかなかこういきません。「緊急で納入したので、価格は勘弁してくださいよ」とサプライヤーが言っても「価格は価格。納期は納期」と言われて終わるのがオチです。

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(8)-3 調達契約と実行「ソーシングとパーチェシング」

私が思うに、ソーシングとパーチェシングのバイヤーを分けている場合と、同一バイヤーがやるときのメリットとデメリットは次の通りです。

【ソーシングとパーチェシングのバイヤーが分かれている場合】

(1) 各専門領域に特化できる

(2) 納期交渉時のマイナス材料が、価格交渉時に影響されにくい

(3) 調達・購買の全体像が見えにくい

(4) パーチェシングを担当するバイヤーのモチベーションが下がりやすい

(1)(2)がメリット、(3)(4)がデメリットです。(3)は(1)の逆を言っているにすぎません。しかし、あえて書いたのはソーシングプロセスだけを担当し続けてきたバイヤーの中には自分の企業の支払い条件すら知らない人もいるからです。価格を決定したり交渉したりすることに長けていたとしても、実際の発注・検収業務を知らないというのは考えてみれば恐ろしいことです。

(4)は毎日納期の調整ばかりしているゆえです。納期調整業務とは「納入されて当たり前」、「納入されなければバイヤーの責任だ」とされがちで、どうしても減点評価しかしてもらえません。

【同一バイヤーがソーシングとパーチェシングを行う場合】

(1) 調達・購買の全体が経験できる

(2) 全てのプロセスを担当せねばならないため、一つ一つが浅くなりがち

これも、(1)(2)は逆を述べています。私は一から十まで全て自分がやらねばならない(つまりソーシングからパーチェシングまで行わねばならない)立場にいました。非常に大変で、浅くなってしまった感は否めませんが、勉強になったことは確かです。

結局のところ、ソーシングだけに関わりたいのか、パーチェシングだけに関わりたいのか、両方に関わりたいのか、ということは各バイヤーがキャリア戦略として考えてゆくしかありません。それは、バイヤー個人としてどう生きていくかの話だからです。

ただ、やや矛盾するようですが、私がこれまで会ってきたバイヤーの中で優秀な人は、例外なくソーシングもパーチェシングも行っていた人でした。「納期は早めなければいけない。同時にコストも抑えなければいけない」。おそらく、このようなどうしようもなく不遇で矛盾した状況の中で自己を鍛えてきたためでしょう。

また面白いことに、あれだけ「納期調整は大変だ」「ツラい」といっていたバイヤーたちが、実際にコストだけを管理するようになるとします。しばらく経つと、必ず「モノを追いかけていた方が面白かったなぁ」と言うのですよね。

「納入なんて止めてやる」なんてことを言われながら、現場で汗をかきながら交渉していた日々。汗だくになって現場を走った日々。そういうものに正面からぶつかりたい、どうしようもなく直接性を持つ業務がバイヤーにはどこまでも必要なのです。本当は。

(8)-4 調達契約と実行「雑感」

ごくまれに「納期が不可能な日程であるほど燃える」というバイヤーがいます。私はそこまで強い心臓を持っておらず毎回緊張の連続でした。しかし、燃えてしまう人もいるのですよね。バイヤーとしてのキャリアをどう持ってゆくかは各人次第ですが、納期調整に適役の人もいるのだ、と感心しました。

あるサプライヤーから聞いた話ですが、全県出張制覇を夢見ているバイヤーからは常に「納期をわざと遅延させてくれ。そうしたら出張に行けるから」と言われていたそうです。出張に行って、さも納期改善したかのように見せかけて、夜は飲んで宿泊。行ったことがないのは沖縄くらいだそうです。ここまで来ると背徳ですね。

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