
カバードコール投資で人生が変わった、ある50代男性の物語
将来への不安を感じ始めた50代の心境
「このままでは老後が心配だ...」
2024年1月の寒い休日の午後、自宅のパソコンの前で家計簿を眺めながら、山田太郎(仮名・54歳)は深いため息をついた。
昨年末に実施した金融資産の棚卸しで、手元の資産は約1,000万円。これに将来の退職金や年金を加えても、理想とする老後の生活水準には程遠い。さらに悩ましいのは、この1,000万円という数字が、15年前とほとんど変わっていないことだった。
太郎の投資歴は20年以上になる。30代前半で結婚し、住宅ローンを組んだ頃から、将来への備えとして投資を始めた。当初は給与からコツコツと積み立て、投資信託を中心に資産形成を始めた。
「投資信託なら、プロが運用してくれる。きっと安心だろう」
そう考えて始めた投資信託だったが、結果は期待外れだった。2008年のリーマンショックで大きく資産を減らし、その後の回復局面でも思うような成果が出せなかった。
投資信託の運用報告書を開くたびに、太郎は歯がゆい思いをしていた。高額な信託報酬を払っているにもかかわらず、パフォーマンスは冴えない。経済環境が良くなれば上がり、悪くなれば下がる。まるで市場に翻弄されているような運用成績に、次第に不信感を募らせていった。
「自分で銘柄を選んで投資した方がいいのではないか」
40代に入った頃、太郎は個別株式投資にも挑戦することにした。証券会社のセミナーに通い、投資関連の本を読み漁り、企業分析の手法を学んだ。
最初に購入したのは、老舗の電機メーカーの株式だった。「底値圏だ」「いずれ必ず回復する」。そう信じて投資したが、株価は徐々に下がり続けた。
「まだ下がるかもしれない」という不安と、「ここからが底だ」という期待が交錯する中、太郎は平均取得単価を下げようと、何度も追加購入を繰り返した。結果として、想定以上に投資額が膨らみ、最終的には20%以上の損失を抱えることになった。
この失敗にめげず、次は成長株に投資することにした。IT関連の新興企業を中心に、将来性のある企業を探した。株価が上がり始めると、「もっと上がるはずだ」と利益確定を見送り、下がり始めると「きっと戻るはず」と損切りができない。
結果として、上がった時に売れず、下がった時に抱え込む。このパターンを何度も繰り返した。特に痛かったのは、2021年の高値圏で購入したグロース株だった。「このまま上がり続けるだろう」と高値掴みしてしまい、その後の下落で大きな含み損を抱えることになった。
株式投資を始めて10年以上が経過した今、太郎の取引履歴には、成功よりも失敗の記録の方が多く残されている:
業績の悪化が続く老舗企業への投資で大きな損失
値上がり期待で高値掴みしたIT関連株での失敗
損切りのタイミングを逃して損失が膨らんだケース
利益確定が遅れて、結局損失に転じたケース
「そろそろ底だ」と考えて仕込んだ銘柄が、さらに下落するケース
中には、50%以上の損失を出した銘柄もある。「先進国株式」「新興国株式」「リート」など、分散投資を心がけてはいたものの、結果を見ると、市場が上昇している時でさえ、トータルでは思うようなリターンが得られていなかった。
太郎が特に悩んでいたのは、「売り時」の判断だった。株価が上がった時は「もっと上がるかもしれない」という期待から利益確定が遅れ、下がった時は「ここが底値なのでは」という思いから損切りができない。この繰り返しで、結果的に「高く買って、安く売る」というワーストシナリオを何度も経験していた。
投資スタイルを変えようと、株価のテクニカル分析も試してみた。移動平均線やRSI(相対力指数)などのテクニカル指標を使って、売買のタイミングを計ることにも挑戦した。しかし、これも思うような結果は得られなかった。指標が買いのサインを示しても実際には下落が続いたり、売りのサインで売却した後に株価が急上昇したり。
「感情的な判断を排除しよう」と、システマティックな投資も試みた。毎月定額で投資する手法や、株価が一定割合下がったら買い増す手法など。しかし、これらの方法も、市場全体が下落トレンドに入ると、思うような成果が出せなかった。
特に痛感したのは、相場環境の変化への対応の難しさだった。金利上昇局面に入ると、それまで好調だった成長株が急落。インフレ懸念が強まると、割安株も期待したほどは上がらない。株式市場の変動に翻弄され続け、結果として、長期的な資産形成という当初の目標からは程遠い状況に陥っていた。
昨夜も、証券口座の残高を確認しながら、太郎は憂鬱な気持ちになった。20代の息子と大学生の娘を持つ身として、教育費の支出がある中での投資成績の低迷は、老後への不安を一層強めていた。
「このままでは、いくら投資しても、老後は本当に大丈夫なのだろうか...」
投資信託では市場と同じような値動きしかできず、個別株式投資では感情的な判断に振り回されて損失を重ねる。かといって、リスクの高い投資は避けたい。安定した収入を得られる投資方法はないものだろうか。その思いは日に日に強くなっていった。
オプションとの出会いと学び方のポイント
転機は、週末に通っているフィットネスクラブでのことだった。
いつものように汗を流した後、ジムの休憩スペースで同年代の佐藤さん(仮名)と雑談をしていた時のこと。投資の話題になり、佐藤さんが「最近はカバードコールで着実に利益を上げているんだ」と話し始めた。
「カバードコール?それって何?」 太郎は興味を持って聞き返した。
「簡単に言えば、持っている株式にオプションを付けて収入を得る戦略さ。特に米国株は取引が活発で、プレミアム収入も魅力的なんだ」
佐藤さんは、スマートフォンを取り出しながら、具体的な説明を始めた。
「例えば、アップルやマイクロソフトといった優良企業の株を100株保有していれば、その株を将来のある時点である価格で売る権利(コールオプション)を他の投資家に売ることができる。このオプションを売ることで得られる収入がプレミアムと呼ばれるものだ」
「でも、リスクは大きくないの?」と太郎。
「もちろんリスクはあるよ。でも、すでに保有している株の値上がり益を一部諦める代わりに、確実なプレミアム収入が得られる。株価が下がった時も、プレミアム分だけ損失を軽減できる。要は、大きな値上がり益は諦めるけど、その代わりに安定した収入を得られる戦略なんだ」
この説明に、太郎は強く惹かれた。まさに自分が求めていた投資戦略かもしれない。
その日から太郎は、カバードコールについて本格的に学び始めた。最初に取り組んだのは、書店で投資関連の書籍を探すことだった。
しかし、すぐに壁にぶつかった。
「日本語で書かれた実践的なオプション投資の本が、思ったより少ないな...」
確かにオプション取引の理論を解説する本は見つかった。しかし、その多くは数式を多用した理論的な内容か、デイトレード的な投機的取引を推奨するものばかり。太郎が求めている「長期投資の収益性を高めるためのオプション活用法」については、ほとんど情報が見つからなかった。
英語の文献なら選択肢は広がるが、専門用語の多い金融英語を読みこなす自信はない。
途方に暮れていた時、ふと思い出したのが、かつて参加した証券会社のセミナーだった。当時はあまり興味を持たなかったが、確かその証券会社でもYouTubeチャンネルで様々な投資教育コンテンツを無料公開していたはずだ。
早速スマートフォンで公式YouTubeチャンネルを検索すると、オプション取引に関する動画が数多く見つかった。基礎から応用まで、体系的に学べる内容が揃っている。
「これは良い発見だ」
動画は、実際の取引画面を使った解説もあり、理論だけでなく実践的な内容も充実していた。特に「オプション取引の基礎」シリーズは、初心者にもわかりやすい説明で、太郎の理解を大きく深めることになった。
例えば、オプションの基本的な性質:
プレミアムの構成要素(時間価値と本源的価値)
ボラティリティとオプション価格の関係
権利行使価格の選び方
これらの概念が、具体例を交えて分かりやすく解説されていた。
「理論書で理解できなかった部分が、映像で見ると腹落ちする」
動画を見終わった後、改めて書籍を読み返すと、今度は理論的な説明も理解できるようになっていた。理論と実践、両方の観点からオプション取引を理解することができた。
その後、オンライン証券会社が提供するウェビナーにも参加した。これらのセミナーでは、実際の取引手順や、証券会社特有の注意点なども学べた。ただし、セミナーの多くは日本株のオプション取引が中心。米国株オプションについては、情報が限られていた。
そこで太郎は、米国株オプション取引に特化した学習を始めることにした。オプション取引の基本は同じでも、米国市場特有の注意点がいくつかあることがわかってきた:
取引時間が日本時間の深夜になること
決済方法や権利行使の仕組みが日本とは異なること
為替リスクが加わること
学習を進める中で、太郎は自分なりの情報収集と学習の方法を確立していった:
証券会社のYouTube動画で基礎を学ぶ
証券会社のウェビナーで実践的な知識を得る
オプション取引の理論書で概念的な理解を深める
米国株オプション特有の注意点を調べる
実際の取引画面で操作方法を確認する
「基礎をしっかり固めてから実践に移ろう」
太郎は、焦らず着実に学習を進めることにした。特に、証券会社の動画は何度も繰り返し視聴した。アニメーションを使った解説は、複雑なオプション取引の仕組みを視覚的に理解するのに大いに役立った。
「無料でここまで質の高い教材が提供されているとは」
太郎は、改めて教育コンテンツの充実ぶりに感心した。これらの基礎知識があったからこそ、その後の実践でも慎重に取り組むことができたのだと、後になって実感することになる。
実践の難しさを乗り越えて
学びを深めること3ヶ月。太郎は、まずは500万円を米国株式に投資することにした。
最初に購入したのは、アップル(AAPL)とマイクロソフト(MSFT)の株式。どちらも世界を代表する優良企業で、長期保有に適していると考えた。
「とにかく慎重に始めよう」
当初、太郎は一般的によく言われている戦略に従い、株価から10%程度高い権利行使価格で1ヶ月満期のコールオプションを売り始めた。保有株数の半分だけにカバードコールを設定し、様子を見ることにした。
最初の1ヶ月は緊張の連続だった。株価の動きを毎日チェックし、オプション価格の変動に一喜一憂する日々。そして、1ヶ月後、最初のオプション取引が満期を迎えた。
「これは...思ったより収入が少ないな」
1回目の取引で得られたプレミアム収入は、投資額に対してわずか0.4%。年率換算しても5%程度の収益率でしかない。株価が10%も上昇する可能性を諦めているのに、このプレミアム収入では見合わないのではないか。そんな疑問が頭をよぎった。
2ヶ月目、3ヶ月目も同様の戦略で続けてみたが、結果は似たようなものだった。プレミアム収入は月によって0.3~0.5%の範囲で変動。これでは当初目指していた安定的な収入源にはなりそうもない。
「動画で学んだことを、もう一度よく考えてみよう」
太郎は、YouTube動画を見返してみた。そこで気づいたのが、オプション取引における「時間価値」の重要性だった。
動画では、オプション価格(プレミアム)は「本源的価値」と「時間価値」で構成されており、特に「時間価値」は残存期間が長いほど大きくなる傾向があると説明されていた。また、権利行使価格が現在の株価に近いほど、時間価値が最大になるという点も強調されていた。
「これだ!」
太郎は戦略を大きく変更することを決意した。
権利行使価格を現在の株価とほぼ同じ(アットザマネー)に設定
満期を1ヶ月から1年に延長
より大きな時間価値を獲得することを目指す
この新しい戦略には、いくつかのメリットがあった:
より大きなプレミアム収入が期待できる
取引頻度が下がり、手数料負担が軽減される
株価の短期的な変動に一喜一憂する必要が少なくなる
税務申告が簡素化される
ただし、デメリットもあった:
株価上昇時の利益が限定される
長期のポジションを取るため、途中での戦略変更が難しい
資金が長期間固定される
しかし、太郎の目的は「安定した収入源の確保」。株価の大幅な上昇による利益は諦めても、確実な収入を得られる方が重要だと判断した。
新戦略での最初の取引は、アップル株100株に対するものだった。株価が180ドル前後だったため、行使価格180ドル、満期1年のコールオプションを売り建てた。
「これは、かなり違うぞ...」
プレミアム収入は投資額の8%程度。1ヶ月物の10倍近い収入が、一度の取引で確保できた。もちろん、これは1年分の収入だが、従来の戦略と比べると格段に効率が良い。
さらに、取引頻度が下がったことで、心理的な負担も大きく軽減された。毎月の権利行使価格の選定や、満期時の対応に追われる必要がなくなった。
続いて、マイクロソフト株にも同様の戦略を適用。こちらも同程度のプレミアム収入を確保できた。
「これなら、本当の意味での"インカム戦略"になりそうだ」
6ヶ月が経過した時点で、太郎の投資成績は大きく改善していた:
年率8%程度の安定的なプレミアム収入
配当収入(年率0.5~1%)も別途確保
株価下落時の損失を軽減する効果も実感
取引コストの大幅な削減
特に良かったのは、心理的な安定感が得られたことだった。1年という期間を設定することで、短期的な株価変動に一々反応する必要がなくなった。その結果、より冷静な投資判断が可能になった。
「これが、本来のカバードコール戦略だったんだな」
太郎は、動画から学んだ知識が、実践でも非常に有益だったことを実感していた。理論的な裏付けがある戦略だからこそ、迷いなく継続することができる。
その後、太郎は保有銘柄を4銘柄に増やし、それぞれにアットザマネーの1年物オプションを売り建てる戦略を展開。満期をずらして設定することで、四半期ごとにプレミアム収入が得られるように工夫した。
「毎月の細かい売買より、こちらの方がずっと効率的だ」
実践を重ねるにつれ、太郎の投資スタイルは更に洗練されていった。市場のボラティリティが高い時期には、プレミアムも高くなる傾向があることを活用。また、決算発表前後は、想定以上の株価変動リスクがあることも学んでいった。
新たな展望
カバードコール戦略を始めて2年が経過した。
太郎の投資手法は、さらに洗練されていった。市場のボラティリティが高い時期にはプレミアム収入を重視し、株価が割安な局面では保有株式の値上がり益も狙うなど、状況に応じて柔軟に対応できるようになった。
当初500万円だった投資額は、プレミアム収入と株価上昇により約550万円まで増加。これに自信を得た太郎は、新たに300万円を追加投資し、保有銘柄も4銘柄に増やした。
「投資を始めた頃の不安が、今では楽しみに変わっているよ」
先日、久しぶりに会った佐藤さんにそう話すと、彼は満足そうに微笑んだ。
「カバードコールは、株式投資の新しい楽しみ方を教えてくれる戦略だからね。株価の上昇も期待できるし、定期的なプレミアム収入も得られる。リスクを抑えながら、着実に資産を増やせる素晴らしい手法だと思うよ」
確かに、カバードコール戦略には様々なメリットがあった:
定期的なプレミアム収入が得られる
株価下落時の損失を軽減できる
保有株式の配当も受け取れる
市場環境に応じて柔軟に戦略を調整できる
もちろん、株価が大きく上昇した際には機会損失が発生するリスクもある。しかし、太郎にとっては、安定した収入を得られることの方が重要だった。
「老後の資金作りの不安が、随分と軽くなったよ」
太郎は、最近そう感じている。カバードコール戦略は、彼の投資人生に新たな可能性をもたらしてくれた。
今では、毎月のプレミアム収入を確認するのが楽しみになっている。株価の動きを見ながら、次のオプション取引の戦略を考えるのも、新たな趣味となった。
「投資って、こんなに面白いものなんだ」
休日の午後、パソコンの画面に向かいながら、太郎はそっと微笑んだ。かつての不安は、今では確かな希望に変わっていた。
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米国株のカバードコール戦略は、長期投資の新たな可能性を開く手法です。適切な知識と慎重な運用があれば、安定した収入源として機能する可能性があります。
ただし、この戦略を始める前には、以下の点をしっかりと理解することが重要です:
オプション取引の基本的な仕組みと特徴
カバードコール戦略特有のリスクとリターン
米国株式市場の特徴と取引ルール
為替リスクへの対応
十分な学習と準備を経た上で、ご自身の投資目的やリスク許容度に合わせて検討してみてはいかがでしょうか。
新たな投資の扉が、あなたを待っているかもしれません。