『ザ・トレーディング』訳者あとがき全文公開!【試し読み】
全世界で500万部超の大ベストセラー!個人投資家、機関投資家を問わず、世界中のトレーダー・投資家にバイブルとして読み親しまれてきた『ザ・トレーディング』(アレキサンダー・エルダー著)、本書末尾の「訳者あとがき」を全文公開させて頂きます。
本ページにて本書を知った皆さま、トレーダーにとって唯一無二ともいえる実践的トレードの教科書『ザ・トレーディング』を、この機会にぜひご一読ください。
訳者あとがき
本書は、アレキサンダー・エルダー博士のThe New Trading For A Livingの全訳です。私にとって、英書の翻訳は本書で2冊目になりますが、1冊目は、本書の元になったTrading for a Living(邦題『投資苑』)で、今から18 年前に翻訳しました。
翻訳者として、実に18 年ぶりにエルダー博士のトレーディングの本を、しかも、元本の改訂版を翻訳できたことを大変光栄に思います。Trading for a Living は、世界中でベストセラー、ロングセラーとなり、日本においても例外ではなく、個人トレーダーや機関投資家のトレーダーにも、初版の出版以来、広く読まれ続けてきました。
今回、その全面改訂版である本書を訳し終えて感じたことは、この本は恐らく、プロトレーダーへの入門書として、これからも末永くトレーダー志望の人々に読み継がれていくであろうということです。旧著の執筆から21 年を経て、エルダー博士もトレーダーとして、また、トレーディングの教育者として、さらに経験を積み、円熟し、洞察を深め、新たな手法を開発してきました。本書はまさに、博士のトレーダー人生の集大成、あるいは畢竟の書であると思います。
旧著と新著の内容を比較すると、イントロダクション、第1章「個人の心理」、第2章「集団の心理」は、旧書の内容をほぼ9割近く、そのまま踏襲しています。第3章「古典的チャート分析」は、旧著でカバーしていた複数のチャートのパターンの記述を省いています。旧著が重要性の低いものまで網羅する百科全書的な性格を帯びていたのに対し、新著は重要性が高いものに絞って解説しています。
また、主観的な古典的チャート分析から、第4章で解説するコンピューターを使ったより客観的なテクニカル分析に比重を大きく移していることが分かります。第4章でも、旧著で解説していた指標をさらに取捨選択し、エルダー博士が重要と認めた指標に絞って解説しています。
第5章「出来高と時間」でも、重要度の高い指標に絞って解説し、旧著で解説していた「ヘリックのペイオフ指数」は省いています。その一方で、エルダー博士が開発した指標の1つである勢力指数の解説を加えています。第6章「マーケット全般の指標」でも、旧著の2つの章を統合し、より重要度の高い指標のみに絞って解説しています。
第7章「トレーディングシステム」では、エルダー博士が開発したトリプルスクリーン・トレーディングシステムに加え、新たに、これまた博士が開発したインパルスシステムについて解説しています。第8章「トレーディング対象商品」は旧著にはなかった章で、株式をはじめとする、それぞれのトレーディング対象商品を解説しています。
ただし、オプション取引の数量的な分析や記述を省き、本格的なオプショントレーディングをするためには、さらに専門書を読む必要があるといえます。第9章「リスク管理」は、エルダー博士も前書きで述べているように、新著では全面的に書き換え、旧著にはなかった6%ルールを追加しています。また、旧著でも解説していた2%ルールも「リスク管理の鉄の三角形」という新しいコンセプトを使い、より分かりやすく解説しています。
第10 章「実践的なトレーディングの詳細」と第11 章「トレードの適正な記録管理」は新たに書き加え、損切り注文の置き方、トレードの等級づけ、毎日のトレーディング適性自己診断テスト、トレード明細書、詳細なトレード日誌の作り方などについて懇切丁寧に解説しています。
旧著と比べて本書の興味深い点は、21 年の歳月を経て、エルダー博士自身がトレーダーとして成熟したことが、随所に読み取れることです。旧著が、エルダー博士が学び、発見したことの網羅的、百科全書的な傾向を帯びていたのに対し、本書では、それから21 年という時間に堪えて、エルダー博士が「信頼するに足る」と判断した手法を厳選して解説するだけでなく、エルダー博士のトレーディング哲学が各章で語られています。
それは、具体的なトレードテクニックとして、博士が愛用する「乖離を伴うスイングトレード」のみに留まらず、利食いに関する「もう充分」という考え方、機関投資家に対する個人トレーダーの唯一の優位性である「休むも相場」の重要性、得意分野の選択と集中をするという姿勢などです。
精神分析医であるエルダー博士の真骨頂ともいえる「個人の心理」と「集団の心理」がトレーディングに与える影響は旧著発刊後、学界でもその有効性が認められ、いまや行動経済学や行動心理学として、ノーベル経済学賞を授与される学問分野に発展するまでに至っています。
このような人間心理の深い理解に立脚したトレード計画の策定、実行、その後の反省、規律あるリスク管理の説明は、本書をトレーディング入門書の比類の無い決定版にするものといえます。しかも、それらが具体的に手本となるフォーマットを例示しながら解説されているので、読者は、それらを自分用に手直しして使用することができます。このエルダー博士の懇切丁寧な指導は、読者にトレーダーとして本当に成功してほしいという、博士の心からの強い希望に裏打ちされたものであるということができます。
私は、旧著の「訳者あとがき」で哲学者ニーチェの言葉を援用し、旧著を「血を以て書かれたもの」のカテゴリーに属する書であるという表現を用いました。旧著翻訳から18 年を経て、再び新著の翻訳を担当して感じることは、本書が旧著の実績に基づいた「トレーディングの真実を語る書」であるということです。
最後に、エルダー博士が本書を捧げているルー・テイラーという人物について、少し触れたいと思います。テイラー氏は1917 年にニューヨーク市で生まれ、2000 年11 月に亡くなったアメリカ人で、エルダー博士の親友でした。テイラー氏は、ある時期、競馬の賭けで生計を立てていただけでなく、戦時中、反戦運動のために投獄され、ハンガーストライキをした反骨の人でもありました。
戦後、1962 年からの10 年間は、ニューヨークのコロンビア大学近くでペーパーバックの書店営業をしたこともありました。エルダー博士から送られた、テイラー氏を顕彰する小冊子に収められた生前のテイラー氏を知る人々のコメントを読むと、彼が周囲の困った人々への援助を惜しまない、高いモラルの人間であったことが分かります。
その一方で、テイラー氏は読書家で、リベラルな考え方の持ち主でもありました。エルダー博士とテイラー氏は、ニューヨーク市のロワー・イーストサイドの同じアパートメントに住む隣人として親交を温めたそうです。以上のようなテイラー氏の人生を知るに及んで、私が「血を以て書かれた」「トレーディングの真実を語る書」と確信する本書を、なぜエルダー博士が亡きテイラー氏に捧げるのかが理解できる気がします。
本書の翻訳にあたって、株式会社FPO の山本社長ならびに編集担当の四阿氏には、大変お世話になりました。そして、本書の翻訳者として、私をFPO 社に推薦してくださった著者であるエルダー博士に対して、心から感謝の意を表したいと思います。本書が、読者の皆さんの今後のトレーディングに大いに役立つことを願ってやみません。
2018 年11 月
福井 強
『ザ・トレーディング』イントロダクション全文公開!【試し読み】
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