米国金利見通しと景気動向(福井強のマクロ経済分析レポート vol.2)
7月9日、米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が年2回行われる議会報告で、年内の政策金利(フェデラル・ファンドレート)の引き下げの可能性を示唆する発言を行った。過去30年間における利上げ局面のフェデラル・ファンドレートのピークは概ね5.25%〜6.5%の範囲内に収まっており、今回の利上げ局面も現在の5.5%をピークとして早晩、利下げ局面に入る模様である。最初の利下げのタイミングは年内、早くて9月18日のFOMC(連邦公開市場委員会)と見られている。
6月のFOMC議事録やパウエル議長の議会報告時の発言によれば、インフレの沈静化は年初の予想ペースよりもゆっくりした速度で進行中であり、その一方で景気減速の兆候は部分的にしか観察されていない。商業不動産市場の軟化、クレジットカードローンの破産増加などに利上げによる経済のハードランディングのリスクを読み取る向きもある。しかし、過去30年における利上げによるハードランディングのケースでは、株や不動産の投機バブルの発生と破裂を伴っており、今回の世界的パンデミックに端を発する急激なコストプッシュ・インフレに対処するための利上げ局面とは、明らかに異なるストーリーであった。このため、今回の利上げ局面は1994年〜1995年の利上げ局面のようなソフトランディングに成功する可能性が高いと考えられる。
ちなみに1994年〜1995年の利上げ局面について振り返ると、当時、米国経済は1980年代からの根強いインフレ体質を完全に克服できたとは考えられておらず、グリーンスパン議長のもとでFRBは1年をかけてフェデラル・ファンドレートを3%から6%に段階的に引き上げている。これに対して、今回のケースは、コロナ禍という外生ショックによって引き起こされた想定外の急激なインフレであるため、事態が早期に収拾すれば、インフレ期待を抑え込める可能性が高く、FRBもインフレや景気データの確認が取れ次第、利下げに動くだろう。これも、ひとえに過去30年間でインフレ退治に成功したFRBの確固たる自信に裏打ちされた結果と言える。
利下げ局面に入れば、株式市場はさらに上昇し、A Iに象徴される終わることのないI T技術革新が継続するので、米国主導の世界経済の成長がこの先も見込まれるだろう。しかし、投資家として、常に肝に銘じなければいけないことは、FRBは株や不動産のバブルの発生を予知できないことを承知しており、常に、金融政策は後手に回る宿命にあるということである。したがって、今後も2000年のドットコム・バブルや2008年のサブプライム・バブルの破裂のような株式市場へのショックが繰り返し発生するだろうし、株式指数が過去に経験したように50%以上の暴落を起こすことも、我々投資家は心得て相場に向かわねばならない。それには、分散投資も含めたリスク管理の重要性を常に念頭に置くことである。
(2024年7月12日執筆)
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