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【FPと考える】年金財政の健康診断(後編)年金支給額を増やす国の5つの政策


「自分がもらえる年金ってどのぐらいだろう?」と気になりませんか?
2024年7月3日に厚生労働省が「令和6(2024)年財政検証結果」を公表しましたが意外な結果が出ています。
メディアの論調は「国は年金を減らしたい!だから資産運用を!」ですが、現実はそうとも言えません。
でも、このままでは老後資金が足りないのも事実。
FPとして今後考えられる対策についてまとめました。

参考資料:厚生労働省公式サイト「令和6(2024)年財政検証結果の概要」https://www.mhlw.go.jp/content/001270476.pdf

国の目標は「現役世代の収入の6割」

年金収入だけで生活するにはお金が足りません。
2024年度現在、現役男子の平均手取り収入額が月に37.0万円。
夫婦2人の平均年金収入が月22.6万円です。

年金を受け取り始める時点の年金額が、現役世代のボーナス込みの手取り収入額と比較して、どのくらいの割合になるかを表す指標「所得代替率」は61.2%。

計算式は

65歳の平均的な二人暮らしの夫婦の年金受給額(夫婦2人の基礎年金 + 夫の厚生年金) ÷ 現役男子の平均手取り収入(ボーナス込み)の平均額

2024年度は22.6万円(13.4万円(夫婦の基礎年金)+9.2万円(夫の厚生年金)÷37.0万円(現役男子の平均手取り収入)=61.2% 

「年金生活に入ったら現役時代の7割に生活費を下げてください」とFPがアドバイスするのは、このデータが根拠になっています。

国は年金を減らしたいわけではない

「令和6(2024)年財政検証結果の概要」の中で、国も年金原資を確保するために、さまざまなシミュレーションを行っていますが、データから「年金給付額を減らしたくない」という厚生労働省の強い意思が読み取れます。
国も「年金を減らして国民を困らせよう」とは思っていないので、現時点でできうるルール変更で、今と同水準の年金給付額を確保できる施策を5つ提案しています。

厚生労働省が年金給付額を増やすために考えた5つの政策を比較

今回発表された「厚生労働省は、年金のルールを変えて年金代替率低下を防ぐことを検討しています。
5つの政策を行った時のシミュレーションを比較してみましょう。

1.パート・アルバイト全員に年金保険料を納めてもらう:実現性☆☆☆☆☆

すべての短時間で働く人を厚生年金に加入させて年金原資を確保する「被用者保険の更なる適用拡大」と呼ばれる政策です。
現在、年収130万円未満、週20時間未満で働くパートやアルバイトには年金保険料を支払う義務がありませんが、徐々に枠組みが撤廃されていきます。

パートやアルバイトなどで、所定労働時間が週10時間以上で働いている人を全員厚生年金の被保険者にすると……
企業の業績と賃金が上がる「成長型経済移行・継続ケース」のシミュレーションで所得代替率は現在と同じ61.2%。
過去30年の賃金を反映した「過去30年投影ケース」でも56.3%の所得代替率がキープできる現実的な政策です。

2.国民年金保険料の納付期間の延長:実現性☆☆

国民年金加入期間を60歳から65歳に引き上げると受け取る老齢年金が増えます。
シミュレーションでは「成長型経済移行・継続ケース」で64.7%。
「過去30年投影ケース」で57.3%の所得代替率になります。
年金給付額は増えるのですが、納める年金保険料の総額も増加。
国民から反対の声が上がり導入を見送られた政策ですが、いずれ再び論議されることになるでしょう。

3.マクロ経済スライドによる給付水準調整期間を同じにする:実現性☆☆☆

現在、国民年金と厚生年金で別々になっている「マクロ経済スライド(賃金や物価上昇に連動して年金額が上がるしくみ)」の給付水準を同じにすると年金給付額が増えます。

国民年金のマクロ経済スライド調整期間を短くして、厚生年金のマクロ経済スライド調整期間を延ばすと「成長型経済移行・継続ケース」では所得代替率は現在と同じ61.2%。
「過去30年投影ケース」で56.2%。……
段階的に調整期間を同じ水準にもっていくのには、かなり時間がかかりますが、実現する可能性が高い政策です。

参考資料:厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方」 第7マクロ経済スライドによる給付水準調整期間
https://www.mhlw.go.jp/stf/nenkin_shikumi_007.html

参考資料:日本年金機構「マクロ経済スライド」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/kyotsu/kaitei/20150401-02.html

4.在職老齢年金制度を撤廃する:実現性☆☆☆☆☆

「在職老齢年金制度(65歳以上の高齢者が一定以上賃金を得ると厚生年金の一部がカットされるしくみ)」を撤廃すると、所得代替率は60.7%。
現在よりも減ってしまうのが意外でした。

在職老齢年金制度は、時代ごとに制度が継ぎ足しされてきたため。給付する側にとっても受け取る側にとっても非常に複雑な制度になっています。
年金を受け取りながら働く高齢者が増えているので、在職老齢年金制度の改正は時間の問題になるでしょう。

5.標準報酬月額の上限を引き上げる:実現性☆☆☆☆☆

現在65万円が上限の標準報酬月額を98万円に見直すと、厚生年金が0.5%増える試算結果が出ています。
高所得者は厚生年金保険料を今より多く払うことになりますが、そもそも標準報酬月額の上限って、本当に必要だったんでしょうか?

どの案も、今よりも給付額が大幅に増える話ではありません。

「資産を取り崩す」vs「老後も働く」

現役時代の70%の生活水準を保つには、「年金+10%の取り崩し用資産または10%分の給料」が必要。対策は「65歳以降働く」または「取り崩し用資産を現役のうちに準備する」。健康に自信のある方は「老後も現役並みに働く」という選択肢もありますが、ガンや高血圧などの成人病も出やすい年齢になっているので、現役並みに稼げるかどうかはわかりません。

健康に自信がない方や「老後の時間を自分らしく使いたい」と考える方は、現役時代に資産運用して老後資金を確保しておいてください。
それをサポートするのが「NISA」や「iDeCo」などの制度です。

生活費を削ってまで投資することはおすすめしませんが、そういう制度があることだけは、頭に入れておいてください。


【執筆者】
小南由花(FPこみなみ)
AFP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)・終活アドバイザー・独立行政法人日本学生支援機構認定スカラシップ・アドバイザー(2017年認定)

夫の勤務先の倒産で破綻寸前になった家計を、ファイナンシャルプランニングで切り抜けたことをきっかけに、50歳からファイナンシャル・プランニングの勉強をはじめる。2017年(52歳)でAFP(提案書作成研修を修了した2級FP技能士)資格を取得。
朝日新聞出版「デジタル版知恵蔵」や「FP Woman」などで執筆。講師として活動中。
日本年金機構「わたしと年金」エッセイにて令和5年度厚生労働大臣賞を受賞。
日本FP協会大阪支部運営委員としてFP相談のキャリアを積んでいる。

終活アドバイザー協会会報「ら・し・さ通信」2023年秋号に寄稿したエッセイ「2冊のエンディングノート」
https://shukatsu-ad.com/wp-content/uploads/2023/09/tsushin-42-hp-2023-autumnpdf.pdf
「わたしと年金」エッセイ厚生労働大臣賞受賞作品https://www.nenkin.go.jp/info/torikumi/nenkin-essay/20231130.files/01.pdf

X:https://x.com/fpk2017
note:https://note.com/fpk_2017

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