FP&Aに配属を命じられた方へ
近年のファイナンスや会計と言われる業界ではFP&Aという職種が流行り言葉になっています。
富士通やNECのような伝統的な日本企業でも導入が進み、会社によっては数百人単位でのFP&A組織の構築が進んでいるようです。ということは、日本全体で見ると、毎年のように数百人、数千人という単位でFP&A組織への配属・異動が発生しているのではないでしょうか。
ただ、その数百人、数千人の中でFP&Aという職種をしっかりと理解している人は少ないように思います。多くの方は、突然FP&Aをやれと言われても困ってしまう、という状況にあるのではないでしょうか?
このノートでは、そういった困っている方の助けになればと思い、FP&Aという職種について簡単な解説をしてみたいと思います。
FP&Aとは?
FP&Aへの配属を命じられた方の多くは、まずは目の前にあるパソコンでgoogle検索をされたのではないでしょうか?
そして検索結果として「FP&AとはFinancial Planning & Analysisの略称で、財務計画の作成と分析を行う職種です」といった言葉を目にしたはずです。
もしくは、「欧米には古くから存在するが、日本では導入が遅れている職種」といった文章も目にしたことかと思います。
ただ、ここで多くの方が疑問を持ったはずです。「そんなものは昔からあるぞ」と。
財務計画など何十年も前から作っているはずです。毎年の予算にはじまり、3年や5年の中期計画、下期修正計画、四半期計画、次月予想などなど、様々な財務計画を作ってきているのではないでしょうか?
そして、その計画に対する分析もそれなりの工数をかけてやってきたはずです。
対予算未達で怒られる、みたいは話はずっと昔からありますし、最近では前回作った計画と今回更新した計画の差異を分析したりといった様々な分析作業が追加されてきています。分析が忙しくて外回りする暇がないよ、などと営業部が愚痴をいうシーン、目撃したことがある方も多いのではないでしょうか。
そうした現状を見てきているのに、今更になって財務計画作成と分析を担当する職種を新設する、と言われても、これまでの伝統的な業務との違いがわからずに困惑する方も多いはずです。
FP&Aと従来業務の違い
では、FP&Aと従来業務の違いは何でしょうか?
実はこれをちゃんと解説している書籍やWebページはほとんど無いように思います。というのも、FP&Aという存在を一文で定義することは非常に難しいからです。FP&Aの業務は多岐に渡ります。伝統的な日本企業における既存業務と重複するところもあれば、新規になる業務もあります。その既存業務についても、担当している部署が複数に分かれていたりもします。また会社やCFOの方針によって見解が異なったりもします。
ただ、そこをあえて一文で表現しようとすると、以下のように言えます。
「経営企画と管理会計を合わせて一つにしたもの」
伝統的な日本企業において、計画とは経営企画部が作るケースが多いと思います。市場の動向を読み、営業部と一緒に売上計画を立て、製造部と一緒に生産計画を立て、調達部と一緒に物流最適化を考えたり、さらには二酸化炭素排出量の計算であるとか補助金の取得であったりとか、様々な要素を取りまとめて一つの計画に落とし込む。これは経営企画の仕事です。
ただ、経営企画は経理の専門家ではないので、売上計画から先の原価計算や損益計算といった計算は経理部に依頼をし、経営企画はその計算結果を取りまとめる、といったプロセスになっているかと思います。
そして、計画作成後の実績把握や分析についても、経理部が実績PL(損益計算書)を作成し、経理部で数量差や単価差といった差異分析を行った上で経営企画部に連携しているのではないでしょうか?
経営企画部はそうした経理情報をもとに課題を特定し、課題対策に向けたアクションプランを作っていきます。
ここまでは良いのですが、実はこの役割分担には重要な課題があります。
それは、計画の全体像を管理する人と、数字を管理する人が別人であるということです。すると別人である両者の間には情報の非対称性の問題が生じます。
経営企画部には計画立案に必要な情報、例えばマーケティング情報や金利や為替の情報、政府の補助金の動向などの情報が集まってきます。
一方で経理には日々の集計作業の中で、足元の実績に関する情報が集まってきます。
経営企画と経理は別の部署ですから、情報共有にあたっては一定のバイアスがかかります。
例えば経営企画は予算作成に必要な情報に絞って経理に連携します。
経理は実績を月次報告資料といった定型フォームに落としてから経営企画に情報連携をしていきます。
別に嫌がらせをしているわけではなく、お互いに相手のことを考えた結果としてこうなります。経営企画は何でもかんでも共有すると経営が困るだろうな、と考えているわけですし、経理もわかりやすく説明しようと考えた結果の行動です。
しかしながら、これによって不幸なことが生じます。
経営企画には課題を分析してアクションを考えるための十分な情報が伝わらず、一方で経理には将来予想に織り込むべき情報が十分に伝わりませんので、今後おこりうる事象や課題が数字化されず、結果としてそれらの情報が経営陣に伝わらなくなってしまいます。
さらに経営企画は数字の専門家ではないので経理から報告される数値情報を十分に分析できなかったり、経理はアクションを立案する権限がないために数値分析によって課題を見つけても手を打つことができなかったり、といった二次被害・三次被害も生じる可能性があります。
FP&Aはこうした不幸を避けるために、既存の計画立案部署(経営企画)と数字管理部署(経理、特に管理会計)を合体させて一つの部署で一気通貫に管理しようと言うものだ、と考えると分かりやすいのではないでしょうか?
FP&Aとして成果を上げるには?
FP&Aとは経営企画と経理を一つにした部署である、と考えるとFP&Aとして成果を上げる方法は非常にシンプルであることに気が付きます。
それは、経営企画のように幅広い情報を収集し、経理のように数字を分析するということです。そして、それらの活動を通じて製品・サービスごとのPDCAをしっかりと廻していくことが重要になります。
このPDCAがとても大切です。ちょっとここで気を付けていただきたいのは、従来のPDCAとFP&AのPDCAが少し違うと言うことです。
従来は以下のようになっているかと思います。
Plan:経営企画が情報を集め、経理が計算して計画値を作る。
Do:現業部門が営業や生産活動をする。
Check:経理で計画値と実績値の差異を分析し、課題を見つける。
Action:見つけた課題に対して経営企画が対策を立案する。
上記のPDCAサイクルは経営企画と経理が別の部署になっていることを前提にして、PDCAの各要素を分業するという発想に基づいています。
しかしながら、このPDCAには大きな課題があります。それは、すでに上述したような情報の非対称性やバイアスといった課題に加え、現業部門と経営企画や経理の間に距離があるということです。
営業や製造の担当者が、「そんな簡単に言ってくれるなよ」とボヤくのを聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?
この課題を突破することこそが、まさにFP&Aという新しい職種に求められることです。経営企画と経理が一体になっていることで、計画作成や予実分析は特別な儀式ではなくなり、日々の通常業務の一つになります。
すると、PDCAサイクルを以下のように変えることができるようになります。
Plan:予実分析だけでなく、市場分析や過去推移分析など様々な角度から課題を発見。
Do:FP&Aがリーダーシップを持って課題対策のアクションを立案。
Check:各アクションの進捗を確認。
Action:アクションの進捗に応じて、必要な追加アクションを立案。
一人のFP&Aが計画・予想やアクションを一気通貫で管理しますから、課題対応による計画の修正や新しい情報の計画織り込み(数字化)は日常業務として日々行われます。そのため、それらの追加・修正情報を部署間で連携するための儀式やタイムロスが無くなっていきます。そしてFP&Aには担当プロダクトの予想も実績も全て見えているので、課題も打つべき対策も見えていますから、自らリーダーシップを持つことで効果的なアクションを考えることも可能となります。
以上から、FP&Aとして成果を出す方法は以下の3つであると整理できます。
①将来予想や実績の情報が一人のFP&Aに集まるように情報収集すること。
②自らリーダーシップを持って課題対策のアクションを立案すること。
③それらの情報やアクションを包括して、効果的・効率的なPDCAを廻すこと。
ここで大切なのは、FP&Aの業務は多岐にわたることから、一人のFP&Aが担当する製品・サービスはそれなりに絞っておく必要があると言う点です。
おそらく、従来の組織であれば経営企画も経理も、一人で多くの製品を見てきたと思います。これを横に広く見てきたと考えると、FP&Aはむしろ縦に深く、一つの製品・サービスのマニアになるようなイメージです。
このあたりはFP&A組織を構築する際に注意が必要な点となります。
おわりに:FP&Aっておもしろい!
ここまでみてきましたように、FP&Aというのは一つの製品について情報もアクションも一手に管理する職業となります。そのため、誰もがFP&Aと連絡を取る必要があり、事業におけるハブのような存在になります。
これを鬱陶しいと思うか、面白いと思うかは人それぞれの性格によると思いますが、私はかなり面白いと思っています。
何よりも、事業部長と言った上級幹部からも、事業の担当者からも頼りにされるので、業務としての充実感が得られるかと思います。成長すると、事業部長のビジネスパートナーや右腕と呼ばれる存在になれるはずです。これは経営企画や経理では
なかなか味わえないものです。
FP&Aにチャレンジする貴重な機会を得られた方は、ぜひそうしたFP&Aの楽しい部分を経験してみて下さい。