ブービーデザイナーが語るお仕事すごろく 3コマ目 活字総合格闘家F嬢
15年くらい前、当時高校1年生だったF嬢にお話を聞く機会がありました。
約束の時間まで少しあったので、途中の陸橋で時間を潰していたら、F嬢が楽しそうに目の前を通り過ぎて行きました。スキップくらいしていたかも。子役としてCM、ドラマ、映画に多数出演していて、誰もがそのご尊顔は存じ上げている彼女。でも、道行く人はだれも気がつきません。お会いしてみたら、やっぱりふつうの高校生。オーラの出し入れが自由にできるとは、さすがホンモノの女優!
お話しの趣旨は読書について。「夏目漱石の『吾輩は猫である』を読んでいる時は、注釈と本文を行ったり来たりしながら、まっすぐ進まないのが楽しかった」と読書パンチドランカーなお言葉。「読みにくい本を、うんうん唸りながら読むのが好き」と嬉しそうに話す様子は、より強いやつと戦いたいと語るモンスター井上尚弥のよう。この頃はまだモンスターとは呼ばれていないけど。
『吾輩は猫である』の注釈で思い出したのが「行徳のまな板」。我が猫に「行徳のまな板」が出てくるところでは、猫の主人の苦沙味先生はこの言葉を知らず、でも教師として知らないのもかっこ悪いので、知っているふりをしつつ、話題を変えていました。
そこでまた思い出しましたが、かつてミステリー作家Mさんにお話を伺う機会がありました。その帰り、クライアントの方々と喫茶店で打ち合わせをすることに。クライアントの女性は、元々Mさんの大ファンとのことで、ある作品の話を始めました。そして、「あのおばあさんは猫だったんですよね」と僕に振ってきました。僕は「Mさんの大ファンでほとんど読んでいます」と豪語して、この仕事に臨んでいましたから、当然読んでいるだろう前提の会話です。確かにファンではありましたが、実際のところ読んでいたのは著作の半分くらい。「ほとんど読んでいる」はリップサービスというか、お仕事受注のために少し盛りました。なので……それ読んでいませんでしたとも言えず、「読んでいない人がいるかもなので、ミステリーのネタ話はやめましょう」と逃げました。彼女はそれもそうですねと笑顔で返してくれましたが、勘のいい子ですから、読んでいないことに気がついていた気がします。
その後読みましたが。あれ、猫です。
振り返ると知ったかぶりの失敗多い人生……苦沙味先生ともども気をつけないといけませんね。女子と猫は勘がいい。
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