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イギリス人男性2人が日本の話をするのを聞いていた


イギリス人の夫の友達Sがイギリスから旅行で来ていて、日本を思う存分満喫して、「楽しかった」と言って無事イングランドへと帰っていった。

「最高のホリデーだった」と初めて訪れた日本を称賛してくれ、ホスト側である私としては嬉しく、ホッとした気持ちだ。

私とイギリス人の夫は、私の留学中イギリスで出会ったのだが、もともとこのイギリス人の友人Sの存在なくしては出会っていなかったのである。

シンプルな話だが、私の語学学校の担当の先生の弟がSで、そのSの同僚であり友人だったのが夫。生徒の1人が帰国する際のお別れパーティーで私たちみんな出会ったのだ。

私の夫もSも、もともと日本が大好きだったとか、漫画が好きとか、そういうのとはかけ離れていて、とにかくサッカー(イギリスではfootball)が大好きなイングランド人。日本に関する予備知識はあまりなかった。

けれど私と夫はイギリスで結婚し、その後子供が生まれ、のちに家族で日本に移住することになった。

夫も日本に移住したばかりの頃は、日本の色々なことに驚き、新鮮に感じていたと思うが、5年も経つとその新鮮さも薄れ、いつしか日常となり、最初に驚いていたことすら忘れつつあった。

けれど今回Sが来てくれたことで、日本での発見やイギリスとの違いについて一緒に話し、「そうそう、最初はそう思っていたっけ」と夫も思い出したのである。

大分で2人で英会話教室をやっている私たちは、Sが来ている間もスケジュールに応じてレッスンを続けていた。そのためSはわりと長い時間を1人で、大分の街をぶらぶらしていたのだ。

ユニクロの服を買いまくったり、散歩をしたり、公園で桜を見たり(風情ですなあ)休憩したり。


「めちゃくちゃ美味しいコーヒーを飲んだよ。驚きなんだけど、自動販売機のカフェラテ。」

私たちが仕事のあと合流すると、Sはやや興奮気味に言った。

「ああ、ドリンクマシーンのコーヒーね。なかなか悪くないよな。」と夫。


「しかも温かいんだよ!知らずに普通にカフェラテがあったからボタンを押したら温かいやつが出てきて、しかもそれが美味しかった」

「そうそう!イギリスのドリンクマシーンには温かいやつないもんな」

「てっきり冷たいと思ったら、出てきたやつが温かくてビックリしたよ」

「分かるわ〜」

イギリスのドリンクマシーンは、日本のそれとは程遠いほど信頼されていない。
切羽詰まった状況でなければドリンクマシーンを使ったりしない。駅などで時々見かけるけれど、しょっちゅうドリンクが出てこないことがあるのだ。

イギリスではみんなから『ダメなやつ』扱いされているから、雑に扱われることもある。

お金を入れたのにドリンクが出てこずイラついた人が、ドリンクマシーンを蹴り飛ばしているのも見たことがある。そうした人はだいたいにおいて、”子供に教えてはいけない言葉”を誰に言うともなくぶつぶつ言っていた。

私はそもそもドリンクはスーパーやコーナーショップ(日本のコンビニとは似ても似つかないが、その半分以下の規模とクオリティーの、小さな店だと思ってほしい)で対人で買っていたので、イギリスの自動販売機のことは『全く信頼できないらしい』ということ以外とくに知らなかった。そうか、温かいドリンクは一般的ではなかったのか。

温かく美味しいコーヒーがそのへんを歩いてても気軽に買えて、高くない金額(イギリスから旅行で来た人にすればなおさら)だということは、少なからずカルチャーショックだったようだ。

たしかに。イギリスから来ると日本の自動販売機はまるで魔法の機械のようであり、街中の至る所にあり、しかもかなり信頼できる存在だ。

私は組織とかよく分からないけれど、誰もが知ってる大企業の、各部署に必要な人材くらい、頼りにされてる存在ではないだろうか。それが日本の自動販売機だ。

夫とSはしばらくドリンクマシーン(自動販売機)のことを褒め称えていた。


「あとどこもかしこも本当に清潔だよ。めっちゃ綺麗。ちょっと綺麗すぎるくらいだ」

デパートやショッピングモールを歩きながら、Sと夫は話す。

「トイレもめっちゃ綺麗だよな。イギリスのトイレと比べたらほんと快適。ウォシュレットとか」

「ほんとトイレ良いよな。イギリスに帰った時のギャップがやばいかも」

それは本当にそう。現にイギリスに住んでいた頃、日本の街の清潔さやトイレが最先端で『無料』という点がありがたいことなんだと、初めて気がついたものだ。

「店のスタッフとかも基本的に感じが良いよな。みんな優しくて感じが良い。日本に来てから嫌な人に会ってない」

日本の店員さんの感じの良さだったり、悪くなくても謝ったりする感じ、海外に住むまで全く意識していなかったんだけど、本当にそうなんだ。

イギリスでも香港でも、私が住んだことがある国では、何か苦情を言うまで謝罪などないし、あったとしても「あらそう、ごめんね?」みたいな仕方なく便宜上言ってるだけみたいな感じだ。

それに引きかえ日本の店員さんの謙虚さのスタンダードといったら、言葉が理解できなかったとしても伝わるレベルの丁寧さだと思う。


またSは、
「日本のウイスキーって質が高いって聞いたよ。滞在中には飲んでみたいな」と言い、

「そうなの?日本のウイスキー、人気なの?」と夫。

「イギリスでもけっこう人気だと思うけど。名前、なんだっけ?」

私は知っている日本のウイスキーの名前を告げる。

「サントリーの山崎?」

「あ、そうかも。ちょっと自信ないけど」(日本語の名前は常に覚えられにくい)

サントリーの山崎がイングランドのパブや高級スーパーに進出していることを、私は以前から知っていた。だから彼もおそらく山崎のことを言っていたのだと思う。


「あとさ、居酒屋とかバーに行っても、常に安全な感じがする。これはイギリスにはないね」

「分かる。イギリスで夜飲んでいるとさ、ガラの悪いパブだと喧嘩が始まったり、夜の帰り道とが物騒だから気を張るもんな。そういうの日本で感じたことないよ」

「飲んだあとゆっくりリラックスして歩いて帰れるっていいよな」

「いや本当に」

夜道でも危ない感じがしない。これは確かにイギリスと比べて日本で感じることだ。

動物的感覚で私は「この道はヤバそう」とか「1人で歩いて帰るのはやめとこう」とか、確かにイギリスでは気を張って生きていた気がする。

けれど日本では、ドリンク一つの心配もしないでボーッと歩いている。

たださっきの「ギャップがやばい」じゃないけど、逆に日本でボーッと生きてる私たちは、イギリスをはじめ海外に行った時には、めちゃくちゃ気を張った方が良いということになる。

NHKのチコちゃんは、これから海外旅行をする日本人にも注意喚起をしてくれるだろうか?ボーッとしたまま海外旅行はヤバいと。


何はともあれ夫の友人が思い出させてくれたように、日本の良いところを改めて認識し、「日本に住んでてよかった」と思うことは悪くないことだ。

Sが日本をとことん好きになってくれたようで、本当によかった。

自分の国を外から見るというのは本当に大事なことで、それは海外に行かずとも、こうして海外からお客様を迎え入れることでも感じるられるのだと、改めて感じた。


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