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敵はホームセンターにあり

 『刀を捨てよ、街に出よう』をキャッチコピーとして行われた現代の廃刀令は、ホームセンターに立て篭もった現代の武士たちによって覆ろうとしていた。彼らは刀を捨て、街に出て、セラミック包丁で武装を始めたのだ。

「屍鬼、死すべしッ!」

 一揆の首謀者、武田は吠えた。自動ドアの内側に設置したバリケードを無造作に叩くゾンビは、今にも侵入しかねない。恐らく国の差し金だろう。

 不穏分子鎮圧のための毒ガス兵器により、明智は青ざめながら死んだ。どうやら裏切りを画策していたようだ。
 斬り捨てる手間が省けた。武田は死体の懐から携帯端末を抜き出し、踏み付ける。自分だけ逃げるつもりだったようだ。

「燻すつもりか、下郎め」

 この中で最も頭の切れる男、山本は静かに呟いた。前門のゾンビ、後門の毒ガス。キツツキ戦法とは、よく言ったものだ。

「某が征く。ついて参れ!」

 武田はセラミック包丁を構え、正面を跋扈するゾンビに接近した。

「名を名乗れィ、我こそは令和に蘇りし甲斐の虎、武田信哉であるぞ!」

 名乗りと一騎討ちは武士の誉れである。それは時代を経ても変わらない、武士の美学だ。
 だが、知能を持たないゾンビに名乗りは通用しない。獣めいて獲物を狩るように、尖った爪を振り回した!

「無礼者ォ、手打ちにしてくれる!」

 武田は包丁を振り回すが、太刀と比べて刃渡りは短い。材質も玉鋼ではなく陶磁器なのだ。幾ら名うての武将を自称する男でも、分が悪い!

「時代は変わったのよ、虎ァ。長篠の時のようにな!」

 武田の背後から発射される高圧水流が、ゾンビの頭を吹き飛ばした。後方で控えていたゾンビにも二発目が着弾し、バリケードの周囲は綺麗に洗い流される。

「……火縄銃より準備も楽じゃ。三段撃ちの必要もないわな!」
「織田ァ!」

 海外製高圧洗浄機を片手に、魔王・織田信雄は哄笑した。

 しかし、彼らが気付くことはない。ゾンビ化した明智が、既に何人かの味方を屠っていることを。

【つづく】

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