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機龍、ヤミ市、デカダンス

 電波遮断アンテナが林立するバラック街を横切るのは、ガンメタル色に加工された武装ジープの群れだ。その末尾には鎖が繋がれ、10メートルほどの機龍の骸が引き摺られている。

「見たか? 本物だぞ!?」
「実物はデカいな……」

 道路に面したバーに集う酔客たちは騒ぐ。彼らにとって機龍は街の外の脅威であり、その骸は本来なら金持ちのコレクションなのだ。

 鋼鉄のシェルターを引き裂く巨大な爪、明滅するストロボ眼光、F-22ラプターを模した直線的な翼、威圧感と破壊性能を両立した背面の粒子カノン砲。
 ある軍事会社が開発した決戦生体兵器が野生化した機龍は、地下の発電プラントを掘り返して食事を摂る。場合に拠れば人間の居住区を襲うこともあり、街に林立するアンテナはそれを防ぐために建てられているのだ。

 怪物も、骸になれば静かだ。ヤミ市で貧民に回れば、巨大な鉄塊は解体されてサイバネ置換用のパーツに加工される。今回は、後者のようだ。

「誰が狩ったんだろうな、あんな化け物……」
「ワイバーン級だろ? 常人が狩れるわけ……」

「自然死だな。傷がない。誰かに狩られたなら、狩猟の証である頭部のエンブレムを剥ぎ取らないわけがないからな……」

 酔客の背後で、ショットグラスを傾けていた男が呟く。メチルアルコール臭が、その場に充満した。

「だよな、兄ちゃん! あんなの、人間が狩るなんて」
「それに、幼体だ。……早めにバラさないと、マズいぞ?」

 轟音が響いた。確信めいて頷き、男はコートを羽織る。

「機龍の骸は生体電池だ。奴らは、共喰いだってするんだよ。もっとデカい奴がすぐに来る……!」

 巨大なアンテナが倒れ、電磁パルスが街を包んだ。バラックの残骸を蹴るように顔を出すのは、高層ビル一棟を優に超える巨大な機龍である!

「ファブニール級だ。狩れるのは、俺くらいだろうな」

 コート男はニヤリと笑い、剣を構える。その背には、剥ぎ取った無数のエンブレムが燦然と輝いていた。

【続く】

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