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第一回きつねマンドラゴラ小説賞 大賞は蒼天 隼輝(旧:S_Souten)さんの『かくしもの』に決定!

 令和2年12月22日から12月28日にかけて開催された「第一回きつねマンドラゴラ小説賞」は、選考の結果、大賞・金賞・銀賞、各評議員賞、ファンアート賞が下記のように決定しましたので報告いたします。

◆大賞

蒼天 隼輝(旧:S_Souten)『かくしもの』

◆受賞者のコメント
 この度は大賞に選んで頂きありがとうございます!また、闇の評議員の皆様、応援や星、感想を頂きました読者の皆様、この場をお借りしてお礼申し上げます。
 奇祭の割にはあまりはっちゃけられなかったな?と若干ビクビクしながら参加していました。あえて非常に狭いテーマで、勢いでえいやっと話を書くのが久しぶりだったので非常に楽しかったです。
 個人的にはこの奇祭ならではの話をたくさん読ませて頂きました。各自が侵食されない程度に、また盛り上がれる機会が巡ってくるといいなあと一参加者として思っています。本当にありがとうございました!

◆金賞

不可逆性FIG『僕の推しを布教したい!』

◆銀賞

お望月さん『狂気山部屋にて』


◆各評議員賞
 ◆謎のマンドラゴラ農家賞 綾繁『サイバーパンク・マンドラゴラ』
 ◆謎の主従性癖賞 Veilchen(悠井すみれ)『魔女の弟子の密かな企み』
 ◆謎の肉球賞 佐倉島こみかん『マンドラゴラは恋に効く』

◆ファンアート賞(作:尾八原ジュージさん)

 神崎ひなた『マンドラゴラ殺しの鍬男』

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◆ファンアート賞(作:そうてん@生きてるさん)

 神崎ひなた『マンドラゴラ殺しの鍬男』

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 その他、参加作品にファンアートを書きたい! という方や、この作品にファンアートを送りたいという方がおりましたら主催のTwitterまでご連絡をお願いします。

◆全作品講評

謎のマンドラゴラ農家 
 皆さん、マンドラゴラ収穫してますか?
 今回は企画参加ありがとうございました。約1週間という短い開催期間であり、テーマも『マンドラゴラ』という狭すぎる題材。20作品ほどきたら万々歳だなぁ〜と思っていたのですが、総作品数は予想をぶっちぎる78作品。みんな、年の瀬だよ??
 こんな年の瀬の奇祭に参加していただいた皆さんに感謝します。これでマンドラゴラミームは安泰だ! マンドラゴラに栄光あれ!

謎の肉球
 お疲れさまでした、新年明けましまんどらごら、肉球です。
 突然発生した奇怪な根菜ミームがここまで繁茂すると誰が予想したでしょうか。確か我々、最初は「開催五日じゃそんなに作品集まらないよね」「数が少なすぎたら個人賞出しづらいかも」「うふふ」「あはは」と話していた記憶があるのですが? マンドラゴラにはかように人を駆り立てる何かがあるのでしょう。
 評議員の中では短め&辛らつめな講評となりましたが、お問い合わせは肉球のTwitterアカウントまでどうぞ。

謎の主従性癖
 どんどんどらどらごらごら〜! みなさん今日もせいへきに正直にいきていますか? 謎の主従性癖です。
 収穫祭に参加されたみなさま、お疲れ様です!
たくさんのマンドラゴラを植えて頂きとても嬉しいです! いやあ6日間のお祭で78株のマンドラゴラがあつまり……いやみなさんほんとクリスマスと年の瀬になにしているんですか??? あまりの多さにびっくりまんどらごらですよ??? お祭りに参加していただいたかたも、SNSで盛り上げてくださったみなさんも、ほんとうにありがとうございます!
 講評は私自身の読解力不足やつたないところもあるかと思います。ですが生暖かく、マンドラゴラを育てるような気持ちで読んでいただけたらさいわいです。
 珠玉のマンドラゴラ小説がたくさんです! 是非にマンドラゴラに汚染されまくった評議員たちの講評までふくめて後夜祭も楽しんでくださいませ!

謎のマンドラゴラ農家
 大賞や各賞は、それぞれ個別に講評を行なった評議員の合議で行なっております。また、今回未完結や字数制限を満たしていない作品については、レギュレーション違反として各評議員からの講評はありません。主催が個人的にレビューを書かせていただきますので、ご容赦ください。

 それでは、全作品講評に移らせて頂きます。

1.偽教授『おおきなマンドラゴラ』

謎の農家:
 一番槍は偽教授!! 流石のスピードキングだ……。
 童話『おおきなかぶ』をマンドラゴラに改変した作品ですね。マンドラゴラの大きさを表現する際に実在の世界最大の樹木を引用してくるスタイルはきょうじゅらしさを感じました。
 また、元の童話の面白さのひとつである「徐々に増えていく助っ人の数と小さくなっていく体格」がファンタジー世界を通すことで徐々にインフレしていく面白さに逆転していた部分が特に面白かったです。バハムート、駆り出されるよな……。

謎の肉球:
 有名な童話『おおきなかぶ』パロディ作品と思いきや、一段落目を終えたはしから、童話調のやわらかい文体と堅い文体がスイッチする。
 巨大マンドラゴラというふわっとした存在が、この堅い方の文中できっちりサイズ感などを説明される細やかさ。二種類の文章の違いにクラクラします。
 それを面白がっている間に、なんと「魔王」まで登場して……。単なるパロディものかと挑んだら、予想もしない様相と結末に驚くことでしょう。

謎の主従性癖:
 スピードキングマンドラゴラ、1番株です。
 速さだけではなく、完成度が高いところがすごい。
 童話の『おおきなかぶ』をもとにして書かれています。最初はほのぼのと読み始めたら、がつっと現実感のある段落がはいってきました。この童話パートとリアリティパート(と、便宜上表現します)のテンポ感がとても気持ちいいです。童話パートはひらがなとカタカナで、リアリティパートは漢字と私たちの世界に実在する単語を出すことで、初手から「そういう作りの小説だ」というのを提示してくれています。なので読む側もすっと童話パートとリアリティパートのギャップを楽しめる作りになっていると思います。「ハイペリオン」って本当にあるんですね…(読んでから調べました)
 そして、『おおきなかぶ』同様に「いかにして巨大なマンドラゴラを抜くか?」が目的かと思いきや、なんと問題は「悲鳴」であると……考えてみればそうですよね、読んでて「はっ! そういえば!」となりました。それに気づいたガーストラはなんと素晴らしい君主だったのか…まことに惜しい人をなくした…。
 少し引っかかったのが、平易な言葉でまとめている童話パートで、「いくせいそう(幾星霜)」というちょっと難解な言葉があったり、「サイレンスのまほう」という固有名詞が出てきたことです。幾星霜は私が使い慣れておらず、引っかかっただけかもしれませんが、「ん?」とひらがなの文字を何度か読み返してしまいました。また、「サイレンスのまほう」もこのお話ではとても重要な部分を担っているところですが、英語的な響きのせいか、童話パートのバランスがほんの少し崩れた気がしました。
 ラストはバハムートやヨルムンガンドなど、「なぜか単語だけでわかるものすごい生物」という伝説生物たちの共同作業。まずバハムートやエンシェントドラゴンが出てくる時点でどれだけ大きいんだ、このマンドラゴラ…! と伝わってきます。そして超生物からどんどん小さな存在、最初に戻っていく光景は圧巻です。
 また、最初にひっぱろうとしたときにちらっとサラマンドラが出てきているのが、『ここは普通の人界ではないぞ』ということも提示しているんですね。そこも含めて「さすが、うまいなあ」とうなりました。
 偉大なガーストラに栄光あれ!!

2.惟風『マンドラゴラの生きる道』

謎の農家:
 マンドラゴラ男と人間の種族を超えた恋愛の話。
 冒頭のマンドラゴラキャンセラー(マンキャン)の語感にやられたんですけど、ある種の生存戦略としての絶叫を封じられたマンドラゴラは人間に狩られるしかない、というパワーバランスを感じました。この設定が作品全体の展開にうまく寄与していた部分がすごく好きです。一見トンチキに見えるマンドラゴラのウイニングランに意味があるんですよね。
 また、あらゆる薬効を持つマンドラゴラが唯一治せなかったのが『恋の病』だった部分も手堅くまとまっていて魅力を感じました。マンドラゴラの未来に幸あらんことを!

謎の肉球:
「マンドラゴラキャンセラー」という技術の誕生によって、絶滅の危機に瀕するマンドラゴラたち。生き残るため〝彼〟の取った道は……というお話。
 マンドラゴラの根は人型をしているので、走って逃げることができる。それはいいのですが、植物にはおしべとめしべが……と首を傾げるのは野暮ってものでしょうか。逃げた先で彼が出会ったのは、ある美しい女性。良い異種婚姻譚でした。

謎の主従性癖:
 二番株マンドラゴラ小説です! そしてその速さに相応しく、冒頭から疾走感が溢れています。
そして冒頭の疾走感から変わらないラストまでの爽やかさ。恋愛の王道物語を読んだ気持ちいい読後感です。
 ……なんてこった、王道恋愛ものをマンドラゴラ小説で読めるなんてこと、予想していたか? マンドラゴラの可能性は、無限大。
 さて、レギュレーションではマンドラゴラを「植物」として定義しており、いくつかの決まり事を用意しております。しかし、この作品は「ヒト型」であるということをうまく使い、マンドラゴラは「消極的なままではだめだ」と成長することによって、異類婚姻譚を成立させてます。
 さらに言えば、マンドラゴラ自身も途中のつがい探しの部分である通り、基本は同種で結ばれることを前提としております。ですから、マギーという人間と「マンドラゴラ男」というものは、「マンドラゴラを単純に人間化した」というわけではなく、ちゃんと人間であるマギーとマンドラゴラとの恋愛の話となってます。そしてその部分に対して、テンポよく、かつ面白くマンドラゴラの生態を説明されております。読者フレンドリーをしつつ、きっちり説明とストーリーの進行を組み合わせています。だからこそ、ラストまで気持ちよく読める小説になっているのかなと。
 惜しむらくは、マギーのひととなりの深堀りがされてないところです。「栄養のある土まで調えてくれた。」という部分で、マギーがいかに優しく、マンドラゴラ男を対等に見ているかはわかります。企画期間が短いのもあったかと思いますが、もう一つエピソードがほしい、という気持ちはぬぐえません。
 しかし、全体を通して一貫して爽やかで、ぬくもりのある物語です。二人にはぜひ幸せになってほしい……。

3.尾八原ジュージ『マンドラゴラ・ロシアンルーレット』

謎の農家:
 違法マンドラゴラ農家に忍び込んだ主人公たちが挑む、地獄の死亡遊戯の話。冒頭からロケットスタートする展開と、ひりつくまでの緊迫感が特徴的な作品でした。まさかマンドラゴラで裏社会サスペンスが書けるとは……。
 カバヤマさんのキャラクターが特に印象に残りました。絶望的な状況から主人公を救ったヒーローでありながら、その愛は一時的にしか受け入れられない。作中では狂人として扱われていますが、一年後の描写を見ると内に秘めていた想いが死の淵で表出しただけなのでは?となる匙加減も絶妙に後味が悪い! マンドラゴラの狂気のせいにできていれば、幸せに終われたのかもしれませんね……!

謎の肉球:
 反社会的組織によって栽培されるマンドラゴラと、それを盗みに入って捕まった与太者たちという「登場人物全員どうしようもない」タイプのスタートがまず楽しい。
 この状況から、タイトルのロシアンルーレットがどういうことか、だいたいご想像の通りである。主人公の与太者は、いかにしてこの状況を切り抜けるのか!?
 それにしても、事の元凶とはいえ、カバヤマさんは悲恋ですね……。

謎の主従性癖:
 こんな言い方をしていいのかわからないのですが、思わず「マンドラゴラの(悪い)正しい使用方法!」と叫んでしまいました。ダメ、ゼッタイ、マンドラゴラルーレット。
 話としては至極単純で、マンドラゴラを抜いて、生きたマンドラゴラを抜くか死んだマンドラゴラを抜くか、そして抜いたものも生きるか死ぬかのロシアンルーレット。最悪なマンドラゴラの使用方法なのですが、改めて出されると「そうだよな、マンドラゴラってそういう使い方あるよな……?」と不思議と納得させられてしまいました。
 それはひとえに作者の筆力が高いからなのでしょう。ホラーとコメディのバランスが特に素晴らしいです。ロシアンルーレットの生々しい恐怖さは、最初のカバヤマさんの「失敗」から伝わってきます。引き抜く時の主人公の緊張感もスリルたっぷりです。しかし「マンドラゴラ・ロシアンルーレット、悪夢の二周目である」はツボにはまりました。イヤそりゃ悪夢ですわ!!! 悪夢の2周目ですわ!!! しかし字面のインパクトがつよい!!! もうだいぶここに持っていかれました。
 そしてこの先は、この恐怖と緊張と悪夢のロシアンルーレットがいかに終わりを迎えるか? という肝となる、大事な部分です。ネタバレを控えつつ、私は考えます。
 ………これは『謎の主従性癖:特攻属性BL』の身からして、BLとして受け止めていいのでしょうか……? だいぶ悩んでいます。悩んでます。命がけの乙女が求めるキス。もうここはだいぶロマンポイント。きゅんってきちゃいます。悪役プロレスラーを五発殴ったような顔でも、これはキスしちゃいますよね。わかります。
 しかし、一度日常に戻ればどうなるか……多分ですね、私が思うに、カバヤマさんは二回目のキスのタイミングを焦っちゃったんだと思うんですね。もう少しコミュニケーションをとって、怪我の痛々しさと、それを平気なふりして強がるところを見せたら主人公もくらっときて2回目のキスもさくっといただけたのではないか、と思ってしまいます。でも一年間も待ってたのか……多分正気に戻るまで長い療養が必要だったのか、と想像しますが、一年間乙女の期待がふくらんでいたことを考えたら仕方ないのだろうか……このルートに対して悩みがつきません。
 スリルとホラー感から一転してラストは「あーおもしろかった!」と恐怖が抜けて笑顔になれる。とてもバランス感覚の高い、マンドラゴラ小説でした。カバヤマさん、幸せになって…。

4.双葉屋ほいる『マンドラゴラでヌけ!!』

謎の農家:
 ほいるさんのKUSO小説だ!! アーサー王伝説における選定の剣ならぬ選定のマンドラゴラ、しかもマンドラゴラを抜くのではなく、マンドラゴラでヌく!! この畳みかけるような下ネタこそほいるさんの味わいって感じですごく好きでした。
 セクシー大根みたいなノリで生えるマンドラゴラの抜き方に自然薯掘りのようなスタイルで挑む神童、いいですね……。神『童』というだけあり、未経験の童ならふたなりマンドラゴラで性癖が歪むのも納得できます。マンドラゴラのマンドラゴラに魅了されてしまった......。

謎の肉球:
 日本語というものは、句読点やてにをはを変えるだけで、ガラッと意味の変わる面白い言語です。抜くと死ぬマンドラゴラ、その性質を逆手に取って、マンドラゴラ「で」抜け! という発想の本作。良い目の付け所だと思いました。
 ただ、いくら実現不可能と想定していても、本当にその条件を達成したヤツに娘をやっていいのかとは思うところではありますが……まあ、彼は神童だから、国のこともなんか上手くやってくれるのかもしれません。
 色っぽいマンドラゴラ、手塚治虫が描くやたら色っぽい動物でイメージされましたが、実はアレだったのはご趣味なのでしょうか。私もそういうの、好きです。

謎の主従性癖:
 これはまごうことなきマンドラゴラKUSO小説。
 まず、なんで「マンドラゴラでヌいた者を 姫の伴侶とする」とか言っちゃったのかな王様。娘を嫁がせたくないとしても、「せいぜい股間をさらけだして無様に死ぬがよいわ」なんて完全に悪役側のセリフじゃないですか。誰か止めてあげて。
 そして主役の神童。なぜか「神童」と字面を読んで「あ、ぜったいこいつチェリーじゃないかな…?」と思ってしまったんですが、「神童」の意味を調べてもチェリーの意味は含まれていなかったんですよね。でもなぜそう思ってしまったのか……私は知らないうちにこのKUSO文脈のなにかに染まってしまっていたのだろうか……?なんて恐るべきマンドラゴラKUSO小説…。
 マンドラゴラをテーマにした小説において、「どうマンドラゴラを抜くか」というだけでも面白い物語になるのだな、と思いました。一休さんのとんち話のような感覚があります。このお話でも、「なるほどそうやって抜いてヌいたのか!」で満足して終わり……になるわけないですよね!!! 「恥じらうようにやや内股になっているのが最高です。」じゃないよ!!!! そして、これ内股だったからフィニッシュまでわからなかったのかぁ!? ということに気づいて震えてます。なんてことだ……そこまで計算されていたのか……?
 この神童が王様になる是非はともかく、最初から結婚するまで伴侶になる姫とのコンセンサスがとれていたのかが不安です。姫にもセクシーマンドラゴラをプレゼントしてあげたくなりました。あとヌいたマンドラゴラはどうなったんだ……?


5.武州人也『異常繁殖マンドラゴラの駆除作戦』

謎の農家:
 武州さんの植物モンスターパニックものでした。元々書かれていた作品のスタイルにマンドラゴラのテーマが合致していたためか、ある種の専門性とリアリティを感じる文体でしたね。マンドラゴラという空想植物を限りなく現実に近づける中で、フォックス島とイーナリマンドラゴラが異彩を放っていてめちゃくちゃシュールだったのが好きです。
 また、エンディングの「戦いは続く」的な終わり方は、現実世界で人間が無批判に放ってしまった外来種との戦いを象徴しているようで、確かな寓意を感じました。好きなオチです。

謎の肉球:
 侵略外来種としてのマンドラゴラについて、科学的に語った掌編。作者が確かな植物知識をお持ちの方らしく、非常にリアリティのある詳細な説明の数々が見所です。
 ただ、そのぶんストーリー的にはこれから始まりそうな所で終わっているので、やや物足りなさはあるかもしれません。
 しかし清流で毒を流すことで栽培できるという下りでワサビの説明を出したりと、ディテールの細かさが本当に楽しい作品でした。

謎の主従性癖:
 武州さんのマンドラゴラ異常繁殖との戦いの話です。出だしが「火炎放射作戦」というところからテンションが上がりました。
 火炎放射の前に、まずなぜそのような作戦が必要になったかという大事な説明部分。
 これが「なるほどそういう経緯でマンドラゴラは繁殖したのか……」と深くうなずいてしまうほどの説得力。アレロパシー物質もワサビ農家の知識もなく、あとから調べたのですが、深い知識量と卓越した文章技術によって、知らない私でも「なるほど…!」とうなってしまうマンドラゴラの生態。「あれ、ほんとにマンドラゴラってこういう風に育てられてるんだったっけ…理科の教科書に載っていたりしたのか…?」と思ってしまうほど丁寧、そしてリアリティにあふれる生態の説明です。これがそのままwikiに書いてても信じてしまうかもしれない。
 そして、異常繁殖の理由が新種が出たから、というだけではなく不採算部門として切り捨てられた、というのが生々しくてとても好きです。ちょっとバイオハザードのアンブレラ社を思い出します。
 また、対策として出てきた火炎放射。これが個人的にはテンションが上がる大きな要素です。上記で書いたバイオハザードを思い出した、というのは、バイオ2で植物型ゾンビに対して一番効果的なのが火炎放射なんですよね。
 また名作パニック古典映画「遊星からの物体x」でも火炎放射はとても強力なアイテムでした。「遊星からの物体x」を見ると「火炎放射最強!! 火炎放射最強!!!!」と叫びたくなります。そのため、出だしが「火炎放射作戦」というだけで、戦いの激しさを感じられました。
 ただ、両者の熾烈な戦いの結末を今作で知れなかったのは残念です。そこまでの経緯の説得力と、この困難な事態が脳裏に鮮やかに浮かぶ分、いったいどうなったんだ……と気になって仕方ないです。
 しかしこれは、アメリカvsマンドラゴラから人類vsマンドラゴラの戦いへの導入、もしかしたら「Part1」なのかもしれない。そう思うと、導入小説として最高だと思います。映像化してほしい。

6.神澤芦花(芦花公園)『マンドラゴラ❤️デリバリー❤️さぁびす』

謎の農家:
 人生に疲れた男が、怪しげなサービスを依頼する話。
 芦花先生の普段の作風とは違ったタイトルで度肝を抜かれたのですが、怒涛の展開とオチで納得せざるを得ない衝撃的な作品でした。
 こういった派遣型のサービスは「一時の癒しを求める」ことが重要視されているわけですが、その点でこのサービスはそれを満たしてるんですよね。結果として積み上がるのは老婆の死体なんですけど、記憶の消去さえすれば普通に受けそうなサービスではないでしょうか。死体も植物だから食べたら処理できそうだし……。

謎の肉球:
「マンドラゴラで抜く」という発想は、先ほどの「マンドラゴラでヌけ!!」と同じではあるのですが、作品の方向性はまるで違うのがまた面白い。ホラーです。
 美味しい話には罠がある……途中までは単なるエロ馬鹿系のコメディにしか見えないのですが、後にやってくるのは恐ろしい落ち。
 この後の主人公がどんな目に遭うのか、ゾッとします。

謎の主従性癖:
 ホラーといえばこの方、芦花さんのマンドラゴラ小説です。
 タイトルとキャッチコピーからすでに「いったい何が書かれているんだ…?」と混乱、そして怖いもの見たさにクリックしてしまう引力があります。
 私は作品の名前を付けるのが苦手なのですが、神澤芦花さんは、絶妙に「これはいったいなんだろう」という、人の気を引く作品名とコピーのつけ方が本当にうまいです。他作品でも、難しい言葉を使っているわけでもないのに、ふっと襖の空いた隙間が気になって、いけないと知りつつその暗闇を覗き込んでしまう……そういったまさにホラーの魅力がつまった作品名ばかりで、感嘆しきりです。
 また、思わずいけないと知りつつ覗き込んでしまったその先の内容も、期待を裏切らず、そして予想を飛び越えた世界が広がってます。
 「さっそく(コンプラ)しましょう!」 もうこの一言でいろいろなことを察し、そして手遅れなことがわかります。
 コメディ調なんですが、男の身になって考えたら「アダルトサービスを頼んだらデリヘル嬢が死体になって死んだうえに美女(not人間)がノックし続けてくる状況」ってかなりホラーなんですよね……。最後の三行がゾッとする怖さを強調してます。
 ですが、ただ怖いだけの小説にならず、軽くライトに読めるような配慮がわかります。「毎日住み込みプラン」という絶望的プランとマンドラゴラのテンションの高さが読者が怖くなり過ぎないように調整されています。ここのバランスも本当にうまいな、と思いました。
 ただ、初回のネット契約だけではなく、対面したときにももう一度契約内容を確認すべきじゃないでしょうか? 最初の老婆になったマンドラゴラ、店内のコンプラ違反はしてないんでしょうか? あと、これは男性だけしか利用できないんでしょうか? 男体型マンドラゴラのデリバリー❤️さぁびすはないんでしょうか?
 2000字少しでマンドラゴラの恐怖と特徴を生かした、とても面白いホラー短編小説でした。

7.ドント in カクヨム『[特-0001] 川岡猛浩探検隊シリーズ/緊急生放送! 中国・絶叫省の奥地に、巨大マンドラゴラが自生していた!!』

謎の農家
 巨大マンドラゴラについてのテレビ番組資料を確認するとある人々の話。
 完全に水曜スペシャルだ! 胡散臭いオカルト番組のエミュレート精度の高さにまず笑いました。実際の放送映像をそのまま書き起こししたのかと思うほどのクオリティだった……。生放送でマンドラゴラ採集をやろうとしたのも、間違い無く放送事故になるよな……って思ったら見事に大惨事が起きて笑いました。被害増えてるじゃん……。
 終盤のギミックは途中でなんとなく察しがついたのですが、オチの「これ自体が記録映像の書き起こしだった」展開は想像してなかったのですごく驚かされました。長いタイトルにはそんな意味が……。

謎の肉球:
 昔懐かし探検隊シリーズ番組パロディ。元ネタであろう昭和の番組を直接見たことはないのですが、案外と広い世代に通じるネタなのでしょうか。
 フェイクドキュメンタリータッチな文章がきちんと綴られていたのですが、最後の最後で予想外の落ちとなりました。
 作品外の話で恐縮なのですが、マンドラゴラ一作目『おおきなマンドラゴラ』の「もしも……だったら」というifバージョンがちょうどこのお話になりますね。
 ところでこの番組ビデオ、誰が編集してテロップとかつけてくれたのかしら?

謎の主従性癖:
 物語の大半を占める、特別番組の模様がよくわかります。
 『丸い光の中に「VHSテープ」が映し出される』 この演出、ありますね…!(「VHS」がなにかわからない世代もいるというネタが夏ごろに有名ソシャゲでありましたね……)この部分だけで「こういうテレビ番組あるな」という想起させられて、細かい説明がなくても読者が読みやすい仕掛けです。
 個人的には『(イラストのアップ 「キャアーッ」という女性の叫び)』が特にツボでした。そのSE音、脳内で自然に再生された…!
 ここからは、物語のネタバレが含まれるので、未読の方はご注意ください。
 この作品は『記録映像』を見る姿を『記録される』というメタ構造になっています。さらにそれは人間ではない生き物。そりゃあ触手にはDVDプレイヤー、扱いにくいですよね。
 私が読み切れていなかったら大変申し訳ないのですが、記録を見ている記録者たちという構図だったら、DVDの早送りや再生、消音などの動作がうまくいかない、などというギミックやひとひねりがあってもよかったかな、と思います。
 レノンナの『聞いていたレノンナは胸部を点滅させた。愉快な時の体部反応である。 「困ってるの、見るの面白いから、もうしばらくこのままでいいよ」』という部分が、カイオナに対して親密かつ好意的だというのがとても伝わります。胸部を点滅させたり、頭が三つある生物という、まるで人間とは違う存在なのに、そんなやりとりにほっこりしました。
 そしてほっこりしてたところで『巨大マンドラゴラによる、銀河系惑星・地球 全生物死滅について』という、さくっと巨大マンドラゴラが地球滅ぼしていたことが最後にわかって素直に笑ってしまいました。マンドラゴラ、ついに地球を滅ぼすまでにいたったのか……。

8.宮塚恵一『アガラーナのマンドラゴラ』

謎の農家:
 愛憎のもつれから起きた復讐劇の話。
 まさかマンドラゴラ農家でファンタジーサスペンスができるとは……。力の入った舞台設定とキャラクターが魅力的で好きです。ジュヴェールが特にキャラ造形として面白くて、めちゃくちゃクズなのに自身の命の危機に対する目敏さが凄いんですよね。道を違えて無ければ大成していたんじゃないか、と想像せざるを得ない……。
 また、マンドラゴラ農家のフォクシーを何故かわからないけど贔屓目で見ていたんですけど、いいキャラでしたね……。愛する人の復讐のために命を捧げた彼の想いがアガラーナを生かしたのは、ハッピーエンドかバッドエンドか……。

謎の肉球:
 ここまでおよそネタ気味の作品が続いていたマンドラゴラですが、ぐっとシリアスに入ったのがこの一作。
 この主人公、妹の婚約者を寝取ったという真似をしでかしており、とても善人とは言えない。そんな彼女が、妹を慕っていたマンドラゴラ農家の力を借りて自分を捨てた男に復讐を行います。その結末は……。
 なんだかんだ主人公は己に甘い人間に見えますが、そういう人の主観で進む物語にそれでも引きこまれるのは、地力の高さを伺わせます。

謎の主従性癖:
 四人の男と女たちの、悲しい恋の話です。
 誤解を恐れずに言えば、主人公であるアーニャは本当にダメ女なんですよね。ダメ男を好きになって、妹の婚約者を寝取っただけではなく、さらには周りを巻き込んで破滅する……。そしてジュヴェールが本当にそういうダメ女が引っ掛かりそうなダメ男で……「ああいるよなあ…!」と納得してしまい、異様にリアル感を感じました。
 全体を通して、そうしたリアルさ、緊張感、また悲哀があふれる文章と展開で物語が進められます。個人的には第三幕の『「……おぎゃあ」』という、泣き声の寂寥感のところが、そうした物語の雰囲気の後押しをしていて好きです。
 ただ、「フォクシーを巻き込んでまで王家御用達のマンドラゴラ(毒物を)使う必要性はあったのか……?」という疑問があります。物語においてフォクシーはキーポイントとなる人物ですし、彼は巻き込まれなくてはなりません。特に、(ネタバレを含むため詳細は後述いたします)ラストの結末になるためにはマンドラゴラを使わねばなりません。ですが、序幕 で『もっと違う方法を考えなければならなかったろう。』とアーニャが言っている通り、復讐するなら自分一人だけで違う方法をとってよかったのでは……? フォクシーもその気概があるなら一人で復讐できたのでは? と思ってしまいました。もう少し、タイミングの問題か、他の毒物と比較してか、フォクシーの心情なのか、マンドラゴラという毒物を選んだ、という必要性をだしてほしかったな、と思います。
 第三幕の『マンドラゴラ特攻』というパワーワードはとてもユニークで好きです。マンドラゴラ荷馬車特攻、『ぜったいにころすぞ』という決意の高さがにじみ出ています。フォクシーは本当は自分で復讐したかったけど、あと一歩の勇気がなかったのかな、アーニャのピンチだからようよくその一歩を踏み出せたのかな……という、彼の物悲しさを感じます。
 ここからはラストのネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。マンドラゴラの毒を摂取したアーニャが一人、(おそらく)アルラウネとなって生き残ってしまう。ダメ女が周りを破滅させているのに本人だけが生き延びてしまう……悲劇の結末としてはとても好きです。特にマンドラゴラの別名から生まれたアルラウネとなる、というのがいいですね。マンドラゴラの設定がふんだんに使われいます。今作では、マンドラゴラの薬効成分・悲鳴・派生伝承などと、レギュレーションに沿いながらマンドラゴラの伝承とオリジナル設定をとても上手く組み合わせています。これはテーマ『マンドラゴラ』に全力で答えてくれたのだな、というのが伝わります。
 彼女が産むのははたしてなんなのか……ですが、アーニャ自身はきっと幸せにはなれないのでしょう。

9.ナツメ『農家の娘』

謎の農家:
 マンドラゴラの悲鳴と人間の断末魔が混じり合った音でしか興奮できない女の話。
 恐ろしい……。焼却炉や畑の死体など、どこかサスペンスを感じさせる舞台から叩き込まれる官能的なホラーの衝撃。そして、原典(?)に繋がっていくラスト……! 二冠王の片鱗を味わいました。
 主人公は100%悪女なのですが、家政夫の洸介との関係性も気になりましたね。本当に何も知らずに手伝っているのか、それとも……。

謎の肉球:
 キャプションにある通り、『マンドラゴラ農家のお気持ち表明』という掌編小説の二次創作。規約的なことはさておき、いわば主催者特攻の作品です。
 このへんの、ある種の内輪受け狙いの作品はどう評したものか悩ましいのですが、元ネタが分からなくても完成している点が、さすが上手いです。
 タグにもあるように、内容はエロティック。私はこの主人公、マンドラゴラの悲鳴ですでに自覚なく発狂しているのではと思いましたが、真実は果たして……?

謎の主従性癖:
 ナツメさんによる、マンドラゴラエロティックホラー。
 マンドラゴラには「媚薬になる」という伝承や、逆に性的なものに敏感に反応するなど、エロスと親和性は高い、と思っていましたが、まさかこうくるとは! と驚きました。そしてやられました。
 『一番手前の畝の中ほどに、引き抜かれたマンドラゴラが、母親のお腹から出てしまった胎児のように転がっている。』この一文で不穏感がすごいです。主人公がマンドラゴラと自分の性的快感以外、ほとんど興味のない姿勢を一貫しているのが――さらにいえば、本人にはまるで悪気はなく、それが当然であることのようにしているのが「見てはいけないものをのぞいてしまっている」という怖さを感じさせます。薬にならないマンドラゴラを『かわいい根っこ』と呼ぶのに、洸介は『召使い』『生真面目な男』で終わる。犠牲となる男たちは言わずもがな。主人公にとって大事なものはなにか、というのが、説明文ではなく、自然と単語や文章からにじみ出て、読者に伝わります。さらっと洸介がなぜこの農家で働けるのか? というのを『手話で伝える』という動作で、彼がマンドラゴラの悲鳴が聞こえない人物である、ということもわかります。
 少し自分語りになってしまいますが、常々「ただ説明文を多くするのではなく、文章で選ぶ単語、雰囲気で世界観や意図を説明したい」と思っているのですが、まさにそういうったことをされている。しかも押しつけがましくもなく、さらりと仕込まれている。このうまさ、テクニックには脱帽です。
 そして主人公の性感の高まりを、さらに、さらにと求めていく部分。この部分がエロティックでありながら、必要なのが『男の死』というところが、ただのエロスではなく、背中に冷たさを感じる、恐怖と背徳感の隣りあわせとなっています。
 主人公の求めた先にあるものは……というのが、二次創作とある通り、元ネタを使用した最大の肝であり、ギミックです。
 「なるほど、ここにつながるのか…!」という、お気持ち表明文の投稿。ここでタイトルの「農家の娘」というのがじわじわと効いてきます。SNSのユーザーの気持ちを逆手にとって、「やめて」ということで呼び込もう! とする主人公の性格の悪さもにじみ出ています。
 ただ、今回はレギュレーションに「基本的に一つの作品内で物語を完結」としています。今作は元ネタを知っているか、もしくはこの作品を読んでから元ネタに飛ぶか。それでこそこの話の面白さが最大限生かされる、と思います。むしろ元ネタのことを排除すると、突如『お気持ち表明文』というSNS特有の俗称(?)が出てくるのは、一つの作品内で考えるとミスマッチ感が否めません。また、元ネタの最後は「生贄募集」とはっきり書いているので、二次創作として考えた時もちょっと違和感を覚えます。ううーん、もしかして主人公、2パターン投稿したのかな……?
 個人的にはもう少し洸介というキャラクターがなぜこの農家にいるのかなどの深掘りが欲しい、という気持ちはありますが、全体としてはただの二次創作だけでは終わらない完成度を誇っています。とてもよいマンドラゴラエロティックホラーでした。

10.カポラーデック坂本『マンドラゴラに幼馴染を殺されて七年目の夏』

謎の農家:
 マンドラゴラに殺された幼馴染を想う話。
 語り手さえも徐々に狂っていく神話的恐怖が確かな筆致で描かれていたのが印象的な作品でした。海と山の精霊の規模感が巨大で、終始読者の理解の外側で物事が動いていく読書体験は唯一無二の雰囲気だと思います。衝撃的でした。

謎の肉球:
 タイトルを見た瞬間「夫がオオアリクイに殺されて……」で始まる、有名な迷惑メールを連想し、思わず笑う準備をして開いたのですが、がっつりとシリアスなお話でした。我が身の不明を恥じます……。
 母の病気をきっかけに狂っていく幼なじみの様子がいたたまれず、迫力のある筆致に引きこまれます。そして何もかも呑みこむ落ち。良質なホラーです。

謎の主従性癖:
 不気味な空気が漂う、海対山(マンドラゴラ)の対立を背景にした、少年と少女の話です。
 『私が17のとき、彼女はマンドラゴラに殺された。』という出だしがとてもいいですね。ぐっと世界に引き込まれます。さらにそこから、『彼女』のわけのわからない理屈――と、聞いている当時は思っていても、それがどうやら『事実』というのだからすごい――を話したて、狂気に触れているのか、それとも正気なのか、と話にぐいぐい引き込まれていきます。
 夜、重なる死体と巨大な『何か』を背後にして笑う彼女のシーンは、美しさと恐怖が混ざりあい、筆者がどんな情景を伝えたいかがわかります。
 ただ、全体的に、少々読みにくい部分がありました。ジャンルが異世界ファンタジー、となっているので、私たちとは違う世界線を想定しているのか、と捉えました。ですが、読んでいる時に「現代ファンタジーだろうか?」と思いました。世界観の設定が、当たり前のようにマンドラゴラがあったり、禁書という存在があったりする部分はファンタジーらしいのですが、どんな世界観をしているのかがわかりにくいというのが正直な感想です。また、肝となる『最も人を殺したマンドラゴラ』の描写が、死体の描写と混ざっていて、全体像を把握しきれませんでした。これは私の読解力の低さが理由かもしれません。
 随所に、『私が探しているのはね。(略)誰よりも人を殺したマンドラゴラなんだ。』や、『そうか、死体が足りなかったからいけないんだ』など、彼女の台詞でぐっとくるところが多々あります。こういう、狂気に触れているのに、さも正気のように、理屈になっていないのに理屈立てているように話すキャラクターは個人的に好きです。彼女の話ことばは、怖さと奇妙な魅力にあふれており、もう少し情景描写が具体的であったら、もっと良くなると思いました。
 「マンドラゴラの声は世界を再生するため」というオリジナル設定部分も好きです。こうした世界要素が出てくるの、さらにはそれが実現しちゃうの、好みなんですよね……。海や触手というところに、クトゥルフ感を感じましたが、外の世界の話ではなくあくまで「この世界」の話として完結されていて、独自の設定要素がよくわかります。
 今回、初投稿なのでしょうか? 今後どのような作品を書かれるか、楽しみです。

11.かねどー『マンドラゴラの星』

謎の農家:
 プラネタリウムデート中に見た、マンドラゴラ座についての話。
 読み終わった第一声が「やられた!!!」でした。宮沢賢治を彷彿とさせる温かいマンドラゴラ神話で普通に感動しかけたんですけど、それ含めてオチまでの導線だとは思いませんでした。マンドラゴラ合戦、そこで拾う? 普通に客観的に読んでたんですけど、主人公の苗字が明かされるシーンで目を剥くとは思いませんでした。すごい体験だった……。
 また、これらの内輪ノリ的な要素以外でもコメディ作品としてのテンポ感が素晴らしかったです。気になった点である段落前の字下げはカクヨムのツールを使えば自動でやってくれるので、使ってみるといいかもしれないです!

謎の肉球:
 彼女と行ったプラネタリウム、そこには「マンドラゴラ座」という聞いたことのない星座があって……この星座にまつわるマンドラゴラ神話が、単体でよく出来たエピソードです。その後の落ちは一見、何ほどのこともないのですが。
 ところが、この企画の発端になった『マンドラゴラ農家のお気持ち表明』を知っていると、アッと驚く落ちなのです。この作品はそうした複数のレイヤーが重なった構造が非常に面白いですね。やられた!

謎の主従性癖:
 カクヨム処女を捧げてくれたかねどーさんの小説です。
 アオハルな、二人のプラネタリウムデート……とほののぼのしてたら唐突なぶっこみに「いや待ってマンドラゴラ座ってなんやねん?」と素でツッコミました。ちゃんと主人公もツッコミいれてくれてた。よかった。こういう作風といいますか、軽快で、ポンポンとテンポよくツッコミを入れつつ進めていく物語、好きです。
 そしてリストラされたこいぬ座の代わりに話されるマンドラゴラ座のお話。ひとりぼっちのマンドラゴラと兄弟の交流、そして人間世界(または星座世界)の理不尽。まさに星座神話らしいお話です。弟をひとりぼっちにさせないために星となったマンドラゴラ。なんていいマンドラゴラなのでしょうか。
 これがメインなのかなと、主人公と一緒に思っていたら、重要なオチパートがやってまいりました。これは確かに「マンドラゴラ農家のお気持ち表明」の二次創作です。
 今回はレギュレーションに「基本的に一つの作品内で物語を完結」としております。これはどの二次創作でも同じで、それを知らないと一番大事な面白さがわからない、というのはどうしても読者フレンドリーからはずれてしまいます。もちろん知らなくても、単体で楽しめる作品なのですが、知らないひとが読んだら「いきなり出てくる実家の話やマンドラゴラ合戦ってなんだ?」となってしまいます。
 しかし、元ネタを知ってると、ラスト10行の面白さは段違いにあがります。いやー、稲荷君、そうかー。そうかー。あとマンドラゴラ合戦の「投げる」とマンドラゴラ座の話の「投げる」にかかってるんですね。なるほど、祭りのもととなったお話、こういう話だったんだなあ……そうだったんだあ……と
 あと、吉村さん、結構マンドラゴラ合戦に参加させる気だったのかな? というのが、序盤に会場が暗転したときに吉村さんから手を握ってるんですね。あ、この女、自分に気のある稲荷君を捕まえて祭りに連れて行こうと狙ってたな? と最初から読み返したときに気づきました。
 単体だけだと、わからない部分はありますが、全体を通してテンポのよさと読みやすさがあり、元ネタを踏まえた二次創作小説と考えると、とても優れていると思いました。

12.淡海 忍『異形のグルメ』

謎の農家:
 霊酒マンドラゴラを提供する居酒屋の話。
 ついに来ました、マンドラゴラグルメ! 芋焼酎もあるからマンドラゴラ酒もある、考えてみると当然なんですよね。薬膳酒みたいな扱いされそう。芋焼酎にマンドラゴラを漬ける理由が『同じ根菜類』だからなのもそれっぽくて好きです。
 また、終盤のひっくり返すオチは竜川や一角亭といった名前で伏線を張っていくのが鮮やかでした。確かに城の門番は警備員だ……。
 一点気になったのが、ミスリードのためかサラリーマンや大学生のワードが後半の展開に比べると浮くことです。モンスターの世界にも正社員とか高等教育があるのか……?

謎の肉球:
 待ってましたのグルメ系マンドラゴラ小説、一番手です。
 居酒屋店主と、一仕事終えた主人公の会話がいかにもな感じで、飲みに行った時のいかにもな雰囲気がバッチリかもし出されています。
 ラストで実は……というどんでん返しがあるのですが、そこを踏まえて読み返すと、きちんと伏線もあって二度楽しい。ところで「腿」、美味しそうですね。

謎の主従性癖:
 マンドラゴラのグルメ小説です! いいですね、グルメ!
 しかも、なんとお酒のマンドラゴラのお話です。いいですね、私もフルーティーな焼酎、好きなのでぜひ飲んでみたいです。マンドラゴラのお酒、身体にもよさそう。
 具体的なお酒の造り方も書かれております。こちら、焼酎は焼酎でも、瓶にいれたマンドラゴラをお酒でつけこむものなんですね。唐辛子酒や、ハブ酒みたいなものでしょうか。唐辛子は三か月、ハブは半年ほど漬け込むものらしいので、作り方もそれに沿っているようです。それのつけあわせの『腿』もおいしそうです。
 美味しいお酒とおつまみ、最高ですね。そんな至福のひと時を味わったあとに、タイトルの「異形」の意味がわかります。この先はネタバレを含みますので、未読のかたはご注意ください。
 惜しいな、と思ったのは、せっかく「霊酒」と称してたり、「異形」のお話ですから、もう少しマンドラゴラ酒の特徴的な効能があったり、他のおつまみもだしてもよかったかな? と思います。あと、これは私が感覚が麻痺しているかもしれませんが、登場人物たちが『人間を食べる』人外であることがわかる種明かし部分で、人間の腿を食べる、というだけだとそこまでインパクトがないかな……と。これはカニバリズム系に対して私の感覚が麻痺しすぎてるからかもしれません。ここで読者を怖がらせたいのか、驚かせたいのかでまたアプローチが変わってくるかと思います。
 しかし、これでしめて3,400円。お安い……自家栽培とはいえ、マンドラゴラのお酒を飲んで食事もお代わりして、飲み放題プランと同じくらいの料金……いやあ、是非このお店にいって一杯ひっかけたいですね。だけどお酒を飲みに行こうとしたら、街道警備に捕まっちゃうのかな…。異形のものたちも私たちと同じで、一仕事終えたあとに一杯ひっかける至福の時間はかわらない、というのににっこりしました。

13.ももも『はぐれマンドラゴラとキツネ』

謎の農家:
 はぐれマンドラゴラと機械化したキツネの友情物語。
 僕の趣味を的確に撃ち抜いてくるスナイパーがいると思ったら、もももさんでした。深読みかもしれませんけど、最初のヤンキーはハイロー要素ですね?
 機械化したキツネが抱える問題とはぐれマンドラゴラの対比とか最後に旅に出る展開とか、僕がよく書くやつを的確にトレースするんじゃないよ恥ずかしいな!! 完全に主催特攻を狙いに来た作品、僕は好きです!!!!

謎の肉球:
 叫べないマンドラゴラと、機械化された狐の温かな友情話。まったく違う二者が、互いを必要とする理由とその過程がしっかり描かれていて美しいです。
 もうマンドラゴラははぐれではないけれど、いつか叫ぶこともあるのかもしれませんね。ところでこの企画、主催者も「狐」なのですが……?

謎の主従性癖:
 もももさんによる謎のマンドラゴラ農家さんを狙い撃ちした作品です。
 もももさんがいかにマンドラゴラ農家さんの好みを把握し、狙いをさだめていっているかはきっとマンドラゴラ農家さんが講評で書いてくれると思うので、是非そちらでもももさんの分析力の高さを感じてほしいと思います。
 物語としては、マンドラゴラ農家さんの好み・作風を知らなくても読みやすい内容です。初手から『「悲鳴をあげられないマンドラゴラなんてただの草〜」』はさすがに草です。
 そんな風にコメディ要素ははいりつつも、願いと大切な人の命の選択、というテーマはとても好みです。特にその願いのために、相手も一緒に力をあわせているというのが……相手もその願いがかなったら自分は死ぬ、というのはわかっている、というところがツボなんですね。
 サラっとそのルートを回避して、いじめていたヤンキーたちに悲鳴を聞かせようとしにいこうとしたマンドラゴラを止めるのはキツネのほうだというのもおつです。さらに「お前の悲鳴を俺が初めに聞きたい」なんて言われたら……え、もうときめきゲージが……あれ、この作品わたしのツボもついでに狙いにきてましたか??? あれ???
 最後には、周りの評価ではなく、お互いがお互いを認め合う。うーん、これはいいブロマンス。
 (私としては思い切りBLにかじを切ってくれてもアリなんですが、誰にでも読みやすいのに向いているのは、こうした唯一の相棒感あふれるブロマンスがちょうどいいですね……)
 話のボリュームやまとめかたがとても良い分、あえて身内向けではない方向で書いてもアリだったのではないかな、と思います。しかしコンセプトがマンドラゴラ農家さんの性癖をぶち抜きにいくのがコンセプトだとしたら、そこはマンドラゴラ農家さんの御心次第というところだと思います。
 二人の旅を見守る壁にわたしはなりたい。

14.川谷パルテノン『ハートは鋼の錬金術師』

謎の農家:
 夢見がちな教授と現実的な助手がマンドラゴラを追い求める話。
 すごいスピードで通り過ぎるハリケーンみたいな作品だった……。とにかくハイテンポに笑わせてくる会話劇が特徴的な作品なのですが、急に流れるアン・ルイスや教授の飼ってた犬の名前が『ビーマイベイビー』など、冷静に考えたら頭がおかしくなる展開揃いでめちゃくちゃ笑いましたね……。講評書いてる時点で脳内に無数のハテナマークが浮かんでるんですけど、勢いで頭空っぽにして笑える作品です!

謎の肉球:
 教授と助手の漫才がひたすら続くコントもの。実はタイトルがどこにかかっているのか、私にはよく分かりませんでした。
「裏山にマンドラゴラを取りに行こう!」と言う教授がとことんボケ倒し、助手が辛らつにツッコミを入れ続ける、最後の落ちまで含めて100%お笑いでした。

謎の主従性癖:
 裏山に伝承(ロマン)を探しに行く教授と助手のお話です。
 こういうノリとツッコミで進んでいく会話劇、好きです。この助手の『教授はすごいっていうのは認めているけど裏山にあるわけがないものを探しに行くのは別問題(でもけっきょく一緒に行っちゃうし教授に弱い)』というキャラクター像も愛され苦労人キャラでいいです。たぶん、教授がなぜか憎めないキャラになっているのは、この助手が読者よりさきにツッコミをいれるし読者より苦労してるしその助手本人が教授に好意的だからだと思います。普通に考えたら裏山にマンドラゴラを探しに行こうと研究の邪魔をしてくる上司、かなりイヤーなやつだと思うんですが、コメディ感と助手のひとのよさからかわいく見える不思議。
 ただなんで教授がそこまで裏山にこだわるのか……頭のいいキャラで品行がそれにあわない、という設定ですが、「いやさすがにこれは頭よくないのでは…?」とつっこんでしまいます。植物であるマンドラゴラや、各地に散らばったとされる殺生石ならまだ裏山にありそうかな、と思えるのですが、海にいるはずの人魚の涙は、さすがに山にないんじゃないような気が…?(また私の知識不足だったら申し訳ないのですが、エリクサーは一般的に『薬』として作られるものだと思うので、こちらも生えていないのでは…?)
 ラストのワイヤレスイヤホンを取り出して「ミュージックスターツ!」は勢いがあって大好きです。しかし勢いがあるのに、動画サイトで作中のアン・ルイス『グッドバイ・マイ・ラブ』を聞いてみたら、思ったよりしっとり系の曲で「教授、そういうとこやぞ!」とツッコミを入れたくなりました。キャッチコピーの「忘れないわ、あなたの声」というのはこの曲から引用されているんですね。忘れないこの声は、マンドラゴラの悲鳴なのか、それとも教授の悲鳴なのか……。
 終始勢いのあるお話で、ラストも「この後助手が大根料理するのかな?」とさらに苦労してそうな助手くんの想像をして、ほっこりしました。

15.ライオンマスク『マンドラゴラ栽培工場ツアー』

謎の農家:
 西魔導山小学校のマンドラゴラ工場見学の話。
 胡乱の原液をミキサーにかけて飲んでいるようなカオス感のあるこの作品。こういうのが飲みたかったんですよ。マンドラゴラ以外にも『チャルバックミ』やら『ドドンガする』やら異世界特有の語彙が出てくる部分が好きです。バラエティに富んだ西魔導山小学校6年生のビジュアルから考えても、かなり人道権利的にギリギリな世界なのでは?
 担当者のドラゴン坂さん、完全にドドンガしてますよね? スペースマンドラゴラの収穫による危険性を強く感じました。こんなの給食にするなよ。

謎の肉球:
 遙かな未来世界、あるいは異世界での社会見学。魔導山小学校とか犬権団体とか、小学生たちも異形だらけなので、どういう世界なのか気になります。
 個人的に、マンドラゴラによる発狂死を(小学生には)悪い言葉だから、と「ドドンガする」としたセンスが面白い。
 落ちは完全に事故ですが、この見学に来た子たち、無事に帰れたのかなあ。

謎の主従性癖:
 マンドラゴラの栽培案内ツアーとドドンガのお話です。
 マンドラゴラの叫び声を聞いたらどうなるか……そのままいうと怒られるから、「ドドンガするといいましょうね。」というのは面白いです。そのあとも、マンドラゴラの悲鳴を聞いたらどうなるか? は触れずに一貫して「ドドンガする」が使われています。口に出して言いたい言葉ですね……ドドンガしちゃう。
 話の流れとしては、おそらく地球外の権利を持った存在がマンドラゴラの歴史を勉強していきます。角や犬、触手など多様性にあふれています。そんな多様化された民族(?)たちにも愛されるマンドラゴラ。どれほど美味しいのか……気になります。
 全体のお話はまとまっていて、ラストに(おそらく)ドドンガされちゃった誰かがでてくるオチなど、読みやすいです。ラストの『(音声が途絶しました)』が、ドドンガされちゃった人の話をこれ以上聞いてはいけない、という強制終了さが出ていて、ドドンガされちゃった人の話がどれくらいヤバいかがわかります。ただ技巧的(というべきか構成というべきかわからないのですが)な面でいうと、こうした案内系小説だと、ラストは工場長(ドラゴン坂雄二)に戻して、まとめをしたほうがいいかもしれないな?という所感を抱きました。
 マンドラゴラを安全に収穫するために、「音が聞こえない宇宙で栽培すればいいじゃないか!」という発想は面白いです。その発想をして実現したひとが、ドドンガ疑いのあるかたなのがなおさら怖さをあおります。触腕の生徒がどんなことを異民族にさせようとしたか気になります。
 ドドンガがあまりにも語感がいいので講評でも何度も使ってしまいました。こうしたパワーワードがある小説はつよいですね! 面白かったです。

16.鯨ヶ岬勇士『恋茄子』

謎の農家:
 昔気質なマンドラゴラ農家の男の生活の話。
 古い価値観に固執する男、好きなんですよ……。新しい価値観を嫌って古いやり方に固執する主人公のリアルな情感が特徴的な作品でした。老境の主人公にも築いてきた人生があり、培ってきた経験の中で抱いた価値観に固執していたのも頷けるんですよね。特にマンドラゴラを育てることに対しては好ましく思っていないところに、ビジネスとしての視点しか持ち合わせていない息子の存在。意固地になるだろうな〜って背景が見えてきます。だからこそ、主人公がラストで「パソコンの存在を認める」という展開に至ったのがすごく良いんですよね、ドラスティックな変化ではなく、周囲から見れば小さすぎる前進。それが新しい価値観を認めるきっかけになるのかな、という希望を感じさせるエンディングでした。

謎の肉球:
 人生の下り坂にさしかかった男のある決断。長い農作業と人生に疲れた主人公は、あまり好ましいとは言えないタイプの鬱屈とした男性なのですが、こういう人間はたくさんいるんだろうなあというリアリティがあり、渋い小説です。
 ただ、そういう作品ながら、主人公が扱っているのが恋茄子(マンドラゴラ)なのが面白い所。最終的に、主人公がちょっと我が身を省みるのも身につまされる部分があって良いですね。人間ってこういうものだよね、という。

謎の主従性癖:
 マンドラゴラこと恋茄子農家のお話です。
 この作品、とてもいいな、と読んで思いました。書きたいテーマが伝わりますし、あえて「マンドラゴラ」という名称を、聖書などに登場する訳し方の「恋茄子」を使用することで、小説の雰囲気が安定しています。
 レギュレーションの中では「マンドラゴラまたはマンドレイク」という名称を指定しております。ですが、米のブランド名が多々あるように、マンドラゴラ農家が和名なりブランド名を持っている、というのは違和感のない設定のつけかたです。
 話はマンドラゴラこと恋茄子農家の引退をきめた主人公の話です。どうも恋茄子を収穫することや、自身の子供、現代の環境にネガティブな印象を持っているようです。昔気質な主人公が、そうした周囲と「苦労して」御用聞きにきてくれる酒屋に「温かみ」を感じる。けれど、それがどういうことか。自分が批判していたものがひっくり返せば自分にも当てはまる。最後の一文は、ただ「楽に流される」ではなく、頑固な主人公が「変化をする」というポジティブな意味合いだと思います。
 短編としてよくできていて、話の作り方、ネガティブさのだし方、とても完成度が高いと思います。話のテーマである人のふれあい・温かみについても一貫してます。しかし、逆にそのテーマの描き方が完成度が高いからこそ、「マンドラゴラ小説である必要はないかもしれない」と思いました。マンドラゴラ以外の農作物であってもこの話は成り立つのではないかという、マンドラゴラの必要性が薄いのが、惜しいと思ったポイントです。
 ですがそれは今回あくまでマンドラゴラをテーマとした小説賞という企画の枠組みだから惜しいと思うだけで、短編小説として綺麗にまとまっていて、そして温かみがあり面白いです。とても好きな作品です。いいものを読ませていただきました。

17.シメ『マンドラゴラの種』

謎の農家:
 マンドラゴラを育てる仕事に従事することになった兄弟の話。
 凄い作品を読んだ……。陰鬱でエロティックで、全ての要素が綺麗に纏まってるんですよね。この作品オリジナルの設定であるマンドラゴラの種の成長のさせ方や願いを叶える効能、緑の髪がストーリー上破綻なく纏まっていて、読み手にしっかりした読後感を味合わせる。エンディングも解釈が分かれる夢オチなのですが、緑の髪ということは……。
 近親相姦やショタ、両性具有のマンドラゴラといった性癖要素も手堅く纏まっていました。

謎の肉球:
 キャプションに色々書かれているように、ちょっとえげつないタイプのお話。
 身寄りのない兄弟がドツボにはまって転落していく様は、『火垂るの墓』を思い出します。あの映画と違い、兄は最後に幸福な「夢落ち」を手に入れるのですが、その弟の髪の色は……。救いのないお話ですが、耽美でもあります。
 それにしても、彼らは一体何の被差別民だったのだろう?

謎の主従性癖:
 こちらの作品は、とても暗く、重たいです。
 キャプションでシメさんご自身で「身分を上げたかった兄弟が町で酷い目にあう話です。」と書かれているので、この暗さと重たさを受け止めるのは、シメさんの狙い通りだと思います。
 また、私の勉強不足と、読解力が足りずに、意図に気づけていない部分があるかもしれません。ご容赦ください。
 メインの兄弟は「町に出ればなんとかなる」という気持ちで今まで住んでいた家を出ます。ですが、そこで会ったのは、兄弟も知らない被差別者として冷遇される環境。しかし、その出自である『(聞き取れない言葉)の民』がいったいなんであるのか、最後まで明かされません。その二人に近づいたのは、自分も同じ民の出身であるという、町の中でも実力のある老人。
 そこから始まるのは、まさしく『搾取』です。
 弟のほうは、その民にしか使えない儀式として、何らかの呪文を使って強制的にマンドラゴラの『種』を吐き出させる。これは伝承でマンドラゴラは男の精液からできている、というところからきているのかと思います。弟、ずっとこんな目にあってたらそれは正気を保っていられないよ…!
 兄のほうはマンドラゴラ畑の管理を任されます。無実のものを肥料にする・罵倒をあびせる・血をかけるというのもマンドラゴラの伝承由来部分かと思います。これらをうまく組み合わせて、『不穏で心がすり減る収穫儀式』が出来上がっています。兄はマンドラゴラを収穫する立場のはずなのに、弟のことをたてにされ、完全に搾取される側なんですよね……。
 そして弟の形をしたマンドラゴラとの強制つがい。これは……これは……本当に……ツライ……。
 基本的に、兄弟は悪いことを何もしてないんですよね。町に出たら大人に騙されて搾取された、というひたすら理不尽で哀れな話です。そして「夢オチ」の最後も、序盤で二人は黒髪と書かれているのに、色が緑……それは本当に夢なのか? どこからどこまでが夢なのか? なにが現実なのか? 夢オチなのに、何を信じたらいいかわからない不安感がすごいです。
 上述したように、マンドラゴラの各種の伝承設定を取り入れ、オリジナルのものとしてまとめなおし、お話の中に盛り込まれています。これは確かにマンドラゴラ小説です。マンドラゴラを悪く使ったらこうなる、という話です。しかしキャプションにある通り、マンドラゴラは悪くない…!
 誰の幸せをどうやって願えばいいのかすら迷います。ただ、どうか、兄弟とマンドラゴラは平和に生きて、搾取老人はひどい目にあってほしいなあ…!というのが素直な感想です。

18.富士普楽『マンドラ食え!~マンドラゴラ料理コンペティション~』

謎の農家:
 マンドラゴラ料理の腕を競う大会に参加する3人の料理人の話。
 めちゃくちゃ飯テロですねこれ……!! あらゆる野菜(特に根菜)がマンドラゴラ化する設定が魅力的なこの作品。一番毒性が強い声帯を調理する過程はフグ毒の処理を見ているようで、この世界ではマンドラゴラ調理の資格とかあるのかな……と思いました。
 また、各登場人物も魅力的です。絶妙に料理マンガにいそうなキャラ造形で、多分シリルは人気高いんだろうな……と感じさせるライバルキャラって感じでとても良かったです。これ続編の予定あります?(書いてほしい)
 オリジナルマンドラゴラである海マンドラゴラとマンドラゴラ米、どっちも見た目を想像したくない造形なのも好きです。一粒一粒が人体の形してる米、嫌すぎませんか!?

謎の肉球:
 私の作品です。食欲に従いました。

謎の主従性癖:
 富士さんの王道マンドラゴラグルメ小説!
 富士さんは、とても「食」というものに真摯にむきあい、また小説にそれを落とし込むのがとても上手いです。
 今回は、いわゆるグルメバトル形式のパターンにのっとったマンドラゴラグルメ小説ですね。(どや顔で「今回は~~~なマンドラゴラグルメ小説ですね」って書いてる自分がだいぶ汚染されてることに講評を書きながら気づきました)
 和風・中華風・西洋風ときちんとジャンル分けでマンドラゴラグルメを出されています。ここのグルメバトルもの要素として、「各種類のマンドラゴラの組み合わせによって無毒/有毒となる」という設定がはいっているのがアツいです。
 若干気になったのは、料理人3人の順番とバランスでした。参加者は三人ですが、主題は香丸とシリルの対立……かと思います。ラストで二人の関係性に含みを持たせていることからそうなのかな、と。なので一番最初にライバル役ではなく主人公役が出てきて、かつライバル役の調理描写がそこに加えてあっさりしているのが気になったところです。逆のほうが話の盛り上がりにあっているのでは…? と。
 しかし肝心のマンドラゴラのグルメの多様さには脱帽です。この短い期間で、ここまでのマンドラゴラの調理方法を考えられるひとはそうそういないでしょう。しかもどれも美味しそうっていうのがすごい。
 そして、出てくるのが「イネ科マンドラゴラ」! これは稲作ゲームではやったことと、和風だからこそ聞いてくる隠し味、いやキーアイテムとなります。マンドラゴラの形をしたお米……すごいな……。
 真摯に食に向き合った、素晴らしいマンドラゴラグルメ小説だと思います。
 ただ、これだけはツッコミはだれか入れないといけないと思うので、いれさせていただきます。
 人食い族の伯爵令嬢さん、なにしていらっしゃるんですか???????

19.こやま ことり『リバーシブル・マンドラゴラ』

謎の農家:
 従者のためにマンドラゴラを求めようとする侯爵家の次男と、彼を守ると決めた従者の話。
 これは……マンドラゴラ主従BL! とにかくことりさんの性癖を詰め込んだ作品です。自身の好きな要素を紹介する名刺のような作品で、主従BLの魅力が溢れ出していますね。
 また、表と裏で物語がひっくり返る構成が好きです。表だけ見ればリアヌが奮闘する正統派の冒険物語なのですが、作中の不穏な要素を結び付ける裏の物語で2人の関係性の業の深さがグッと高まります。主人を守るために治った傷をもう一度負う従者……!! 共犯者になったエドも辛いだろうな……。 また、表と裏で物語がひっくり返る構成が好きです。表だけ見ればリアヌが奮闘する正統派の冒険物語なのですが、作中の不穏な要素を結び付ける裏の物語で2人の関係性の業の深さがグッと高まります。主人を守るために治った傷をもう一度負う従者……!! 共犯者になったエドも辛いだろうな……。

謎の肉球:
 ザ・マンドラゴラ主従もの小説。
 家族に疎まれている貴族の青年は、自分を暗殺者からかばって大怪我をした従者を救うべく、危険を承知でマンドラゴラを取りに行くが……主人公の正体が驚き。
 リバーシブルというタイトル通り、主人公視点の前半と従者視点の後半があり、後半で主人公がなぜこのような状況に置かれているのか分かります。
 明らかに艱難辛苦が待ち受けている二人、この先の物語が気になりますね。

謎の主従性癖:
「BLと主従をマンドラゴラ小説で書くってどういうこと?」という問いの答えだッ。

20.崇期(すうき)『デジジネリデジネミ』

謎の農家:
 謎の生き物「デジジネリデジネミ」についての話。
 現代的な不思議の国のアリスのような童話の不条理な空気感を感じました。謎めいたデジジネリデジネミの正体を想像しながら読む読者を抜き去るように、その断片や性格面が描写される空気感が独特な作品でした。文章から溢れる無国籍感も洒脱さも好みです。
 ですが、デジジネリデジネミの正体が結局明かされなかった部分が少し残念に感じました。煙に巻く作風なので明かすのも野暮な気がしますが……。

謎の肉球:
 非常に独特な、児童文学めいたファンタジー。そもそも主人公の名前が「デジジネリデジネミ」なのがすごい。
 ネズミっぽいけれど、何かを連想させるようで、何とも似ていない、不思議な名前です。これだけで、もう作品世界の一端が伝わってきますね。
 彼の「恥ずかしい病気」とは何なのか、地下宮殿はどんな場所なのか、疑問は尽きませんが、隙の無い文章に構築された世界観がたまらなく好きです。

謎の主従性癖:
 デジジネリデジネミ、という妖精(ゴブリンくずれ?)のお話です。
 お話を読むと、「不思議の国のアリス」のように、摩訶不思議な世界に案内された気持ちになります。デジジネリデジネミという謎の生物、千億万年成長できない呪いがかかった芋虫、オケラの大臣。そんな地下での出来事が主題です。
 主人公であるデジジネリデジネミはどうやら口にはばかる病気になったようで、地下で療養していたけれど、その地下からでようとしたら好色な性格が災いし、「じゃま」なマンドレイクの「根っこをわけた」犯人のようです。
 地下ないし地中が舞台だからこそできる、マンドレイクの本体へのダイレクトアタックです。引き抜くときに悲鳴をあげる、という設定はあれど、たしかに地中からマンドレイクを刺激した際に何が起こるかはわかりません。そこをうまく使った小説だと思います。しかもそれが二足から四つ足、さらには千足観音までに……どれほどマンドレイクに直接アタックしたのでしょうか……そしてどれだけ美女を追いかけまわしていたんでしょう、デジジネリデジネミ…。
 独自の世界観と不思議な生物たちは(私の知識不足で、元ネタや語源があるのにわかっていないだけでしたら申し訳ありません。)地中世界の面白さを際立たせてくれますが、逆に深読みしてしまい「これは比喩だろうか?」と悩みました。また、この世界のマンドレイクはもともとは二股ではなく、安全な植物だった。しかしデジジネリデジネミが刺激して今のマンドレイクになった、という読み方をしました。ただ、どうしても先入観で「あらかじめマンドレイクの根は分かれている」というものとして読んでおりましたので、混乱してしまいました。この世界でのマンドレイクが元々はどういう植物の扱いであったか、という情報の説明がほしかったです。設定の情報の開示をどれくらいするかは書き手としてとても悩む部分ですが、そのほうが混乱がなく、読者にわかりやすくなるかと思います。
 最後はマンドレイクの危険のない、地下宮殿へのいざない。童話の雰囲気があるファンタジーさがあります。人間でも地中で療養できるのでしょうか? 十年以上悩んでいる肩こりや虚弱にもきくなら行ってみたいです。

21.狐『太陽と緑のマンドラゴラ劇場』

謎の農家:
 ごめんなさい!!!!!

謎の肉球:
 主催者さまの参加作品です。
 これはもう「やられた!」と言うしかないですね。マンドラゴラ農家密着ドキュメンタリー、と思わせてからのこの落ち。振り返れば、完璧に「そう」いう構成だということが分かります。華麗な一発ネタでした。

謎の主従性癖:
 謎のマンドラゴラ農家さんによるマンドラゴラ農家のドキュメンタリー話……と思いきや!? まさかのPR小説!?
 さりげなく途中でマンドラゴラ農家の窮状を訴えるSNSの投稿をいれて、別の自作のPRもいれているところが面白いです。PR小説にさらに自作PRを抜け目なくいれてくる……。
 オチは読んだら「そういうことか」と思わず笑ってしまうものです。 読んで「確かにこういうドキュメンタリータッチからの商品PR……ありますね…!」とうなりました。こういう使い方でもってきましたか…!
 しかし、慾をいうならば、もっとマンドラゴラの独自効果を押し出してほしかったです。レモン4000個分のビタミンCは他のサプリでもありそうな気が……。(ちなみに調べたら『「レモン果実1個当たりのビタミンC量」表示ガイドライン』が2008年まであったそうです。いまでも慣例的にビタミンCを換算する際は1個あたり20mgとのこと。なのでこのマンドラゴラは120000mgのビタミンCがはいっているということになりますね)
 マンドラゴラ小説ですから、「マンドラゴラエキス」がどのような効果があって他のサプリを一線を画しているのかという部分が読みたかったです。
 満堂氏の家族をマンドラゴラに殺されるという暗い過去があっても、それでもマンドラゴラを愛する姿勢に、自分の仕事への誇りを感じます。後継者を呼び込む前に、マンドラゴで資金を呼び込もうとするところにも活力を感じます。満堂氏のこれからの活躍に期待してます。

22.てふてふ『マンドラゴラと豆と糸』

謎の農家:
 天国から地上に興味を持った男が蜘蛛の糸を伝って降りていく話。
 『蜘蛛の糸』のオマージュ作品ですね。要素としてジャックと豆の木を加えたのも面白い試みだと思います。天国の描写にピュー○ランドを使うやり方、エポックメイキングすぎません!? メルヘンな世界を深く描写しなくても、イメージに強く刷り込まれる。多分食事とかもパステルカラーなんだろうな……。
 また、カンダタが地獄の商人として登場したのもパロディ要素として面白かったです。マンドラゴラを育てるため、天国の人を騙して地獄へ送り込む……。そりゃ地獄に落とされるわな!

謎の肉球:
 言うなれば、逆『蜘蛛の糸』パロディでしょうか。お釈迦さまならぬ一人の若者が、自分の住む天国から糸をつたって降りていけば、何があるのだろう? と興味を抱き……どういうワケか、その途中で豆の木を降りるジャックくんも出てきますが、どうなったかは是非お確かめあれ。いやあ、カンダタは悪い奴ですね。

謎の主従性癖:
 天国にいる若者が地上を目指すお話。
 お話に出てくるモチーフが、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』や『ジャックと豆の木』のお話からきているのだと思います。天国の描写の蓮の花なども蜘蛛の糸の浄土世界からでしょうか。ここで面白いのが、元の作品では糸も豆も「上を目指す」ためにあるものなのに、今作では「下に降りる」ために使われているところです。また、『蜘蛛の糸』のカンダタもジャックもわりと悪いことをしているんですが、この中で出てくる主人公と豆をもらった子は特に悪いことはしていないでむしろ「悪いやつ」に目をつけられて犠牲になってしまう話なんですね。元ネタのモチーフをあえて反転させて使うテクニックが面白いです。
 この後はネタバレを含みますので未読の方はご注意ください。
 このお話、最後まで読むと「主人公何も悪くないやん!!」となるんですね。理不尽な被害者……。上記のように、元モチーフを反転させて、罪人ではなく無実のひとがコンセプトとして意味があるのかもしれないのですが、教訓話にするにしても、「わるいやつにはきをつけろ」くらいしか言えず、読後感に何とも言えない気持ちが残ります。
 そうした主人公の対照的に、ラストはまさに『蜘蛛の糸』の主人公と同名であるカンダタが登場します。カンダタ、お前が蜘蛛の糸の案を出したんだろ…! 糸切れるように細工したのもお前だろ…! 自分が同じ目にあったからってなんてやつだ…!
 マンドラゴラの質をあげるためのトラップ。とても巧妙です。やはり、被害者になった主人公も豆の子も悪いことはしてなかったんだ…! もしあるとしたら好奇心が悪かったのでしょうか(リンゴがでてきているので、もしかしたらアダムとイブの楽園追放のモチーフもかかっているのかな? と深読みしてしまいます)
 象徴的なモチーフを使って世界観をつくりあげていくお話はとても好きなので、ただの童話ではなく「これはこういう意味かな?」など考察しながら楽しく読めました。象徴から意味を読み取ろうとするのは完全に私の好みです。今回カクヨムではてふてふさん初投稿とのことなので、もしも機会があれば、神話や古典のモチーフを使った他の作品も読んでみたいです。

23.不可逆性FIG『僕の推しを布教したい!』

謎の農家:
 マンドラゴラVtuber『満燈レイコ』についての話。
 い、いそう〜!! 今や個人勢だけでもめちゃくちゃいるVtuber業界、多分探せばいるんだろうな、という空気感の出し方がお見事でした。配信内容から挨拶までリアリティが凄くて、現在のVtuberシーンをしっかりと捉えている印象です。
 本物川バズの前段階で個人勢で90,000はすごいですよ。視聴者数も安定していて、ある程度マネタイズもしっかりした地力があるタイプのVですね。一個の動画で爆発的に伸びたというよりは、安定したトークスキルで堅実に登録者を増やした逸材。今後メディアとかにも取り上げられるんじゃないかな?

謎の肉球:
 Vtuberとマンドラゴラ、という意外な組み合わせをきっちり作品に昇華した力作。植物系Vtuberアイドル『満燈(まんどう)レイコ』を推す主人公が彼女の配信を見守る様がつづられます。私はVの世界には詳しくないのですが、自分の推しがさらなる飛躍を遂げることを喜び、「推してて良かった」と歓喜にむせぶファンの一挙一動は真に迫っています。しかして最後の落ちは、この後の阿鼻叫喚が予想されますね。
 非常に完成度が高い一編でした。

謎の主従性癖:
 こんどらごら~! 推し、布教したいですよね、わかります。
 私はVtuberには詳しくないのですが、それでも「こういう企画やリスナーとの『お決まり』のお約束、わかる!」となりました。Vtuberアイドル満燈レイコが常にテンションが高く、喜怒哀楽がしっかりしているので、配信の一場面がよくわかります。ただ、満燈レイコの配信や背景の説明は少し冗長的で、満燈レイコのテンポのよさと噛み合ってないかもしれないな? という印象です。
 ですが、あたたかいリスナーと明るいVtuberとのやりとりにはほっこりさせられます。そのぶん、中盤の9万人の壁が突破できないという、Twitterに弱音を吐いて消すという明るい彼女の悩みが胸が痛くなります。けれど、ついにその9万人の壁を突破できるときが…!
 ここでかのマンドラゴラ農家小説がでてきます。基本的に作品内で完結することをレギュレーションとしておりますが、この場合はオチのギミックというわけではなく、知っていても知らなくても、『ツイッターでバズることを目的としたオリジナル小説企画』ときちんと説明もあります。なのでこの作品に対する面白さには影響しない範囲かな、と思います。
 祝福された10万という登録者数…を迎える瞬間…! 「キーボードのF5だけすごい湿ってる」がリアリティ感があります。まるで一緒に配信を見ているかのような緊張感と高揚感がありました。
 推しがついに日の目を浴びた時のよろこび。ファンとしては距離が遠くなる寂しさを感じることもありますが、この主人公は本当に満燈レイコを心から推し、喜んでいるのがよくわかります。アイドルは推せるときに推せ。至言です。
 そして、彼女の10周年企画は………(ここからネタバレが含まれますのでご注意ください)
 正直、オチはちょっと予想できました! 企画を考えている」って言ってた段階で「ゼッタイやばいやつ」っていう予感はありました!
 ただ予想していなかったのは、「まさかのASMRマイクで配信予定かーー!」というところです。ASMRマイクについて補足をすると、いわゆるバイノーラルマイクというのはモノラル的な音ではなく、『人間の聴覚に近い、ステレオで立体的な音』を出すマイクです。マンドラゴラについて知っていれば、このマイクを使って配信することのヤバさが伝わるかと思います。
 ただ、ASMRマイク(またはバイノーラルマイク)は知らない読者もいるかもしれないので、本文中で伏線のように触れていてもよかったかもしれません。
 ですが、まさに配信者らしい道具を選ぶのはこのお話のイメージにあっている、むしろ配信者だからこそできる「それは絶対ヤバいやつだ!!逃げろ!!」と言いたくなるギミックです。Vtuberとマンドラゴラの特性をうまくマッチさせたお話だと思います。
 推しは推すときに推せ! だけど、その企画だけは絶対に実行させちゃいけないとおもうどらごら~!

24.persimmon_kakisseed『マンドラゴラによる言語コミュニケーションは可能か』


謎の農家:
 マンドラゴラ同士の会話コミュニケーションは可能か、という論文(という体の小説)。
 架空論文のディティールが細かい!! 植物同士のコミュニケーションの例としてマンドラゴラと並ぶ幻想植物であるバロメッツを持ってくるアプローチがすごいです。生きた羊が生えてくる草、マンドラゴラ以上に謎だな……。
 また、マンドラゴラの声を出す機能を『反射』と捉えるのは面白い発想でした。抜いた後に動くのも、土と根を密着させて空気に触れないようにしていたってことか……!! マンドラゴラ産地であるN県とかの小ネタも素晴らしく、論文としての興味深さもある、面白い作品でした!

謎の肉球:
 考察系マンドラゴラ小説です。「抜く時に悲鳴を上げる」すなわち声を出す植物、というマンドラゴラならではの特徴に目をつけた面白い発想。
 ここでバロメッツ(羊のなる木)という他の架空植物を、さももっともらしく引用してくるのも周到さがあって素晴らしいですね。
 植物もまたコミュニケーション能力を持ちますが、どこかに本当に言語コミュニケーションを可能とするマンドラゴラもいるかも?

謎の主従性癖:
 この度は貴重かつ有意義な論文を発表してくださり、ありがとうございます。
 マンドラゴラの研究は各地で行われておりますが、その特性により追試実験なども行いにくく、研究テーマも限られやすいのが現状です。そのため、こうして発表してくださったことはマンドラゴラ研究学会への大きな貢献となります。
 発表プラットフォームの仕様上、表1の図が見られないのは遺憾です。この結果2の表1の解説の部分、「対照実験の一株のみの場合は破線であり」というのは、「グラフ上の破線(----- のような点線)」という意味で問題はないでしょうか? グラフ上に実験2と対照実験の2種類の点線と実線があり、それぞれが騒音計にて表示された数値を表している、という風にとらえましたが、研究内容と相違ないでしょうか?
 「マンドラゴラが鳴くのは空気に触れるから」という、悲鳴の効果は根を動かすことにより空洞をなくすことで他株とのコミュニケーションは行われていないのではないか、という考察結果ですが、しかし、『植え替え』後、1時間以上悲鳴を上げ続けるということについて、これは「他株への警報(警告)」という風にも捉えられるのではないでしょうか?
 つまり、マンドラゴラにとって空気に触れるということは自分達の危機ないし「死」であり、悲鳴をあげることで他株へと「このままでは地中から引き抜かれる(=死)」という警告を行っている可能性です。
 マンドラゴラの群生地では、ある程度密集していても実験2のように悲鳴が鳴り響き続けるということはありません。群生地で一株だけを抜いて悲鳴をあげさせたあと、地中レーダーで観測し、地中上の他株に変化はないか? という比較実験が必要ではないでしょうか。
 この場合はただの植物としての反射であり、言語と同義ではないかもしれませんが、貴君のテーマを考慮するとマンドラゴラの悲鳴による他株への相互作用があるかを実験することは意義があることか愚行いたします。
 ですが、今までマンドラゴラの悲鳴による人間への影響への実験(悲鳴の音量を数値化し、人体へ危害を加える閾値の実験/悲鳴の音波は同心円状に広がるのか、一方のベクトルに対して広がるのかという実験等<※これらは最新の研究レポートで発表されています。よければご照覧ください>)というものはあっても、マンドラゴラ間の相互作用についてはほぼ先行研究はなく、この研究は新規性があります。もしも貴君に興味があれば、幣大学にてマンドラゴラ研究を共にする準備を整えます。ご連絡をお待ちしております。

25.かねどー『どきどきマンドラゴラオセロ』

謎の農家:
 墓地をマンドラゴラ畑にしようとした家に起きた事故の話。
 大惨事だ!!!! 死者がマンドラゴラの叫び声を聞くことでゾンビ化し、生前の行動を繰り返すギミックが面白かったです。マンドラゴラの声一つで死者とゾンビが入れ替わっていく絵面がまず面白いのに、死者はだいたいマンドラゴラを抜こうとするからその声を聞いてまた死ぬ!
 結果的に野菜泥棒の被害がどんどん増えていく構図なんですよね。完全防音した密閉空間でやったら永久機関が完成するのでは……?

謎の肉球:
 キャッチコピーから、またもシモネタ系のマンドラゴラ小説かと思ったら、違いました。マンドラゴラの悲鳴を聞くと死ぬ。では、死んだものが聞くとどうなるか?
 これが実にユニークな発想で、しかも植わっていた場所が場所だからとんでもない地獄絵図が発生します。タイトルの「オセロ」の意味を理解した時にはもう大笑い。
 このマンドラゴラの設定はかなり面白いですね!

謎の主従性癖:
 マンドラゴラ―!  オセロしようぜ!
 マンドラゴラの悲鳴を聞いた死体、という斬新な着眼点からの物語です。主人公の父親の「墓場直送マンドラゴラ」というのもだいぶパワーがあるのですが、メインはマンドラゴラの悲鳴で墓の死体がよみがえる→そうならないようにマンドラゴを抜く→死体がよみがえるという地獄の無限ループです。もう全部燃やすしかないんじゃないかな……。でも代々続いた墓守が墓地を燃やし始めたらふもとの集落からめっちゃ怒られそう……。だから墓守ならぬマンドラゴラ守をするしかないんですね。
 抜かりない裏付けの設定で、マンドラゴラ守をするしかない主人公。話としては、アイディア先行で、ストーリーとしての起伏は少ないです。欲を言えばマンドラゴラオセロの部分をクローズアップして、緊迫感やオセロとしてのゲーム性を出してもよかったかな、と思います。
 ですが、今までにないマンドラゴラの使われ方。それをホラー風コメディに落とし込んでおり、さらっと楽しく読める短編としてできあがっています。オチの「私のお墓の前で、抜かないでください。」が哀愁とギャグが絶妙です。かの名曲と「抜く」を合わせただけで、こんな面白ネタになるのか……。主人公からしたら「自分が管理している墓」と「もし自分が死んだら」という場合の二面性があるのがコメディポイント加点です。
 地獄の窯を開くのがまさかマンドラゴラだったとは……。マンドラゴラ、本当に恐ろしい……。主人公は抜きたてマンドラゴラを食べて英気を養い、墓守を頑張ってほしいです!

26.志々見 九愛(ここあ)『土に替わる苗床を狩る者』

謎の農家:
 ドラゴラを狩るプロフェッショナルの話。
 マンドラゴラがあるなら……チンドラゴラもある! 怒涛の下ネタと独特な世界観は志々見さんが得意な作風だと思っているのですが(スワイパー・セヴンが僕に残した影響は大きい)、一定層にはものすごく刺さる作品だろうな…….という印象です。土ではなくヒトの体に寄生する植物という設定は面白く、短編で消費するには勿体ないネタでした。長編で見たい。
 一方で、過剰なほどの下ネタにプラスして主人公が偏見まみれなのが少し残念でした。アクが強い設定とアクが強いキャラクター像はウケる層にはウケると思うのですが……。

謎の肉球:
 しばし間をあけてのシモネタ系統のエントリーです。「けっこうかわいいヒロイン」とキャプションで書いておいて、こういうキャラクターが出てくるのはどういう引っかけなのか、特殊性癖なのか気になりますね。
 彼女がああいう行動に出たのは、主人公に対する思慕があったのでしょうか……。

謎の主従性癖:
 不穏さが漂う、ドラゴラ狩りの話。
 正直なところ、設定や世界観がすぐにわかりませんでした。シリアスな雰囲気で、気分が悪くなるような性的な描写がはいる小説はありますが、シリアスによせているのかコメディによせているのかが序盤だとつかみにくかったです。また、ドラゴラ狩りや狩人ギルド、というのが、現代ファンタジージャンルのところに異世界寄りの言葉が使われてて(これは私の読むジャンルのバイアスのせいかもしれません)そこにスマホなどの現代アイテムがはいったりなど、世界観の描写がいまいち頭に浮かびにくいところがありました。おそらく「ドラゴラ」という4文字だけだと、一字違いの「ドラゴン」のほうを思い浮かびやすいのも関係しているかもしれません。
 和田と佐藤の関係も、冒頭で「パートナー」と書いているので仕事をするときの固定相棒かと思ったら、あくまでベテランの和田が新人にたまに指導をするくらいの関係、というもののようなので、ここも混乱した部分です。
 ファンタジーを短編で書くというのは難しい、と思います。オリジナル設定を十分に説明するには足りず、テンプレやパターン化された単語や概念を利用したほうが読者に伝わりやすい。このあたりのバランスは悩みどころです。
 マンドラゴラの設定が寄生型植物(?)、という独自性は面白いです。「チンドラゴラ」にたいして何が「マンドラゴラ」なのか。言葉遊びとしては面白いです。ただネタとしては下品寄りにならざるを得なく、マンドラゴラを狩るところは「痛いぃぃぃぃ」と思わず悲鳴をあげそうになりました。
 終始、和田が佐藤を侮蔑しており、佐藤も自己肯定感が低すぎるメンヘラのような行動をするので、読んでいてイヤな気持ちになりました。これが作者の狙いなら、狙いは達成されていると思います。

27.灰崎千尋『毒の園』

謎の農家:
 暗殺者に協力する薬師の男の話。
 後ろ暗いブロマンスの香りがする……! 大好物でした。穏やかな中に不穏さが見え隠れしていて、静謐さの中に確かな死の匂いを感じました。
 薬師ネリトのキャラが好きです。作中では穏やかで研究好きな部分が描写されていますが、実際はどうなのか?という部分が付き纏うキャラなんですよね。暗殺者であるカスペルの方はあくまでも仕事で殺しをしている人なんだろうな、という想像が働くのですが、ネリトは本当に底知れない。まさしく美しい毒草の園のようなキャラクターでしたね……。

謎の肉球:
 男男のなんらかのなにか。
 日陰者の暗殺者と、暗殺者のために毒を調合する薬師のお話です。やっていることを考えれば前者の方が危険人物なのですが、毒を作ることも、それを相手がどう使っているかも理解した上で頓着しない薬師は中々恐ろしい男。
 綺麗な花には棘があると申しますが、毒のある花もまた美しいということでしょうか。

謎の主従性癖:
 毒花と薬師とそれを見守る暗殺者の話。
 薬師ネリトは毒草を前に輝いているのがいいですね。こういう「なにかの線をこえた」ようなキャラというのは好きです。読者からしたら、カスペルがネリトをこちら側に引き込んでしまったと悔恨しているのですが、「いやいやそんな必要ないよ、ネリトいまめっちゃ楽しそうだよ…!」と言いたくなる二人のすれ違いがあります。
 むしろ「秘密は守る」といって自分から率先してそちらの世界にいったのはネリトなんですよね……そこにカスペルはネリトに純粋さ、天使を見るような神格化をしているふしがあります。カスペルは暗殺者という孤独な存在だからこそ、『こんな笑顔を俺なんかに見せるのは、ネリトぐらいのものだ』というネリトが汚れのない太陽のような存在に見えるのでしょう。
 そうした互いのミスマッチの中で、カスペルから見るネリトは毒草のまえで美しい笑顔を浮かべます。食い違いがあるからこそ、カスペルの視点からみた輝く、美しい笑み。とてもよいですね。カスペルにとってネリトがいかに大事な存在かが伝わってきます。
 毒草に夢中なネリトが、そんなカスペルをどう思っているのかがもう少し知りたいな、というのが欲にかられた正直な感想です。これは完全にお互いの特別感がほしいなあという私の性癖の問題ですね……。
 マンドラゴラを、あえて抜くことを主眼におかず、危険だからこその「花」に着目し、妖しくも美しい物語に落とし込んだ、素敵な短編でした。

28.お望月さん『狂気山部屋にて』

謎の農家:
 謎の力士『土根性』関の躍進と、その裏に潜む角界の陰謀の話。
 お望月さんのマンドラゴラ力士短編だ!! 異能力士シリーズですね。四股名に全部ツッコむと切りが無いのですが、犬力士って何???
 とにかく最初から最後まで胡乱なんですけど、無駄のない描写で文字数以上のボリュームを感じました。というか僕が拾いきれなかっただけで何か元ネタがあるものだらけですね?(九頭龍親方くらいしか元ネタがわからなかった)
 また、マンドラゴラの伝承を活用しつつ決まり手がスープレックスなど、シリアスと胡乱の左右に振れつつ奇跡的なバランスでマンドラゴラ力士という題材を渡り切っているのは流石の一言です。確かなワザマエを感じました!

謎の肉球:
 あまりにもネタが多すぎて拾いきれない胡乱の煮こごりです。
……いえ、胡乱と言うと申し訳ないのですが、胡乱界隈の文脈を集合させつつ、それを4500程度の文字数で破綻なくまとめるというレベルの高い与太話に仕上がっているので、他に言いようがあまり思いつきませんでした、すみません。
 説明すると、マンドラゴラに寄生された悪魔力士をデビルハンター力士たちが狩ろうとする横で、相撲記者の本田が謎を探るべく「発狂人参」に迫る……というストーリー。濃縮された伝奇物なのですが、パーツが所々おかしい。そういう作品です。

謎の主従性癖:
 我々の知らない相撲部屋の裏のお話。
 最初に謝ります。申し訳ありません。圧倒的知識不足で、この作品の面白さを8割も理解できてないと思います……! 正直、なにが実際にある用語で、なにがオリジナルなのかも判断がつきません。おそらくマンドラゴラ農家さんが拾ってくれると信じて、あえてわからない読者からの講評ということで、書かせていただきます。
 若手力士が「腰砕け」というめったに発生しない決まり手で勝ち続け、その原因をさぐっていくとどうやらマンドラゴラが関係しているようだ、という。
 物語は発狂の勢いと共に進んでいきます。慣れない用語が多くても、なぜかその勢いに飲まれてしまい「なんだかすごいものを味わった」という気分になれます。
 ただやはり用語になれておらず、小さいところで「ん?」と引っかかったり、前に戻ったりをしてしまいました。「サガリ」といえば私の中で完全にお肉のイメージなのですが、調べたら力士の褌の前に下げているもののことをいうんですね……。
 犬犬犬でケルベロスと読ませるのは笑いました。そしてこの犬系力士たちは日本相撲協会への侵略に対抗する地獄の番犬、デビルハンターだと。いったい何に侵略されようとしているんだと思ったら、読むと旧賜杯者(クトゥルフ神話の意味で大丈夫でしょうか)があえて「女人禁制」を選んだこともマンドラゴラの特性のギミックとして使われていて、思わず「なるほど!」とうなりました。
 馴染みのない文化で、多分知っていったらもっと面白く読めるのだろうな、と思わされる作品でした。ですがやはり、「読み取れてないよなあ」という気持ちがどうしても残ってしまいます。きっともっと面白さが隠れているはずなのに、理解できないことの悔しさがあります。
 ラストの「はっきよい(はっけよい)」を「発狂用意」から「発気」の語源に戻る、パンッ!と響く声と音が頭の中で再生されて、爽快です。

29.山本アヒコ『処刑場のマンドラゴラ』

謎の農家:
処刑場に咲いたマンドラゴラと、処刑場の歴史の話。
 人間は愚かだ……。屍山血河の地獄も、その果ての狂気も、間違いなく人間が引き起こしたものなんですよね。この作品におけるマンドラゴラは主題に置かれていなくて、最後の惨劇のトリガーでしかないんですよ。この触れ方は新鮮で面白かったです。
 若い女が捨て鉢で抜いてしまったマンドラゴラが、彼女の身を救うことはなかった。狂気の果てに現れた凄惨な静けさこそが、血を吸ったマンドラゴラの存在価値だった……。

謎の肉球:
 マンドラゴラ伝説の一つに、処刑台の下に生えるとは有名な話。そこに題を取った本作は、マンドラゴラが生えるまで起きた多くの痛ましい死を描きます。
 年月と共に社会情勢が移り変わり、同じ場所でひたすら血が流される様はまさに諸行無常。最後の最後に生えてきたマンドラゴラが引き抜かれても、それは到底爽やかな結末につながらない……。
 とことん陰鬱で救いがなく、人間の業を噛みしめるお話でした。

謎の主従性癖:
 陰惨なマンドラゴラ誕生秘話。
 マンドラゴラの伝承の「断頭台で処刑された男の精液から生まれる」「無実の罪で命を落とした人間の無念から生まれる」という伝承をもとに作られたお話だと思います。
 まさに、伝承のマンドラゴラにふさわしい、死と血にまみれたお話です。戦争に敗北した兵士、王位継承争い、悪化した治安。人々の歴史とは関係ないところにいるマンドラゴラが、そんな人々の血によって密かに、誰にも気づかれず成長していく。
 人間の業とからめた、いいマンドラゴラの小説だと思います。地上で行われる人々の動乱と悲劇、ただ静かに存在しているマンドラゴラの対比がよくきいてます。ただ、話のテーマ上いたしかたないと思いますが、ひたすら処刑に関わる人々の陰鬱な死に方が続き、やや単調に感じます。恨みの熱量は感じるのですが、どうしても起伏が少ない気がしてしまいます。
 最後の発狂シーンはいいですね。発狂する、としかレギュレーションでは決めておりませんが、「発狂とはなんなのか」というところを突き詰めて描写しているのがわかります。ただ死んでゆくのではなくて、村のひとびとが互いに生存本能を無視した動きで死の連鎖をしていくのが、大規模な発狂シーンとして描かれています。ダークですし、人を選ぶかと思いますが、私は好きです。
 大量の血を吸い込んだ土地に咲いた花はなんなのか。恐ろしい地獄絵図とともに花の美しさが浮かび上がり、まさに「処刑場のマンドラゴラ」の名にふさわしい情景です。

30.佐倉島こみかん『マンドラゴラは恋に効く』

謎の農家:
 マンドラゴラ料理が温める冬の恋の話。
 万能食材マンドラゴラだ! 「捨てるところなし」とはよく言ったもので、この作品に出てくるマンドラゴラ料理はどれも美味しそうなんですよね。お通しからメイン料理、果てはマンドラゴラ麹の日本酒まで、どれも実際にありそうなリアリティでした。主人公の食レポもめちゃくちゃ上手いんですよ……。
 作中でのマンドラゴラの効能は滋養強壮などたくさんありましたが、一番の効能は恋愛成就ですね? 2人の関係はこのまま良い方向に進んでいくという希望がある、爽やかなオチでした。

謎の肉球:
 現代日本で働く二人の女性教師が、居酒屋でマンドラゴラ料理を食べまくるお話。タイトルとキャプションにもあるように、そこから恋へとつながっていくという明るく幸せなお話です。何より、マンドラゴラ料理の描写が秀逸!
「部位によって味が違う」「ちょっと粘り気がある」「菌類以外で唯一グアニル酸を含む」などなど、かなり具体的に描かれていて、本当にある食材のお話を聞いているようです。やたら詳しい解説の数々も、完全にグルメ物のノリですね。
 こんなお店、ぜひ一度行ってみたいです。

謎の主従性癖:
 冬にぴったりの、恋のときめきをそえたマンドラゴラグルメ小説です。
 定年退職間際のベテランで優しい二宮先生に、男性受けしない容姿と性格を気にしている主人公の三輪。そこに美味しい料理とお酒を提供する二宮先生の元教え子の四谷さん。これがマンドラゴラ関係なかったら、本当に「美味しいお料理を出してくれるお店で、お酒でほっこり温まったところではじまる恋」と、あたたかい小説です。
 しかし、ところどころに『マンドラゴラは冬将軍も殺す』やマンドラゴラ農家のお孫さんなど、思わずツッコミをいれたくなるコメディ要素がちりばめられてます。『マンドラゴラ始めました』はかなりパワーワードだと思います。
 危険ではあるけど、ちょっと特殊で栽培できる珍しい薬草的な立ち位置としてこの世界にはマンドラゴラが存在してます。マンドラゴラをテーマにした小説で、きちんと「この作品内ではマンドラゴラはこういう存在です」というのを序盤に提示しているのは読者フレンドリーだと思います。
 指摘するとしたら、話のオチの展開がどうしても読めてしまう、ということです。終わりについては特に驚きはありません。コメディなのか、グルメものなのか、恋愛ものなのか、ちょっとどっちつかずかな? という印象です。
 ですが、ほのぼのとした、胸があたたかくなる短編小説として、冬にぜひ読みたいマンドラゴラ小説です。いやあ、出てくるマンドラゴラのお料理が本当においしそうなんですよね。挟み揚げのところは冷蔵庫のビールを探しそうになりました。日本酒もマンドラゴラを酵母から使っているという正真正銘のマンドラゴラの日本酒! ううん、煮物料理には熱燗だとしても、ここはまずは冷やで味と香りを味わいたいですね…。

31.p『メリーマンドラゴラ』

謎の農家:
 クリスマス時期に主人公の村で起こる、マンドラゴラに関する伝承の話。
 メリーマンドラゴラ!! ちょうどクリスマス時期の投稿で概念ハックを狙ってきましたね……。タイトルに反しての王道ホラー、楽しかったです!
 正也くん、幼いがゆえの蛮勇と好きな子の前でいい格好したかっただけで死んでしまったんだよな……。キャラクター類型としては『伝統を無視して死ぬ第一犠牲者』枠なんですけど、正也くんの主人公の今後の人生に暗い影を残すと思うといたたまれないですね。

謎の肉球:
 オーソドックスな短編ホラー。雑誌に載っている読み切りのような懐かしい感触があります。クリスマスという楽しい催しに、地元特有のお祭りがあるため参加できない主人公。うっかりそのことを外部に漏らしてしまったため、悲劇が起こる……。
 こういう事故が二十年前にも起こったというのも、恐ろしい話です。事故の当事者は、そして主人公は、これを背負って生きていくのか……。

謎の主従性癖:
 メリーマンドラゴラ!!!
 クリスマスに合わせたマンドラゴラ小説。Twitterで気軽に「メリーマンドラゴラ!」と叫んでましたが、このお話はキャプションにあるとおり、なかなか暗く、メリーはメリーでもメリー違いでした…。
 クリスマスにある、主人公の村で行われる「マンドラゴラ祭」。これによる悲劇です。
 こういう小さな村の因習を利用したの、いいですね。ただちょっと登場人物たちの地理的な距離感がわからなかったです。ナナの村のことを正也は恐らく知らないだろうけど、村の裏山である万虎山のことは知っている様子で、裏山の存在を知っていたら村の風習も知っていそうだな、と違和感を覚えました。ナナの村の排他的ないし他の生徒が住んでいる地域とは違う、というところをアピールしたほうが、お祭やマンドラゴラを神聖化して見ている独特さが強調されたのではないかと思います。
 お話の結末としては悲劇につきます。しかし、どうにも私は主人公であるナナが悪いとは思えないんですよね。もちろん、彼女が口にしてしまったからこそうまれた悲劇なのですが、そもそも神聖なマンドラゴラなら、畑までの道を階段で舗装したりしないで、警備の人をつけておけ! と大人たちに言いたくなるんですね。多分自分たちの村だけしか知らないことだから、で対策を立てていなかったのも原因なんじゃないかと、かばいたくなります。
 ナナの「しらない」も、ただたんに正也を知らない、という保身の意味だけではなく「こんなことになるなんて思わなかった」という、彼女自身の悔いと罪悪感を感じます。
 ナナはきっと、この先この一件を背負って生きていくのだと思うと辛くなります。うう、メリーマンドラゴラ…。

32.あきかん『続・マンドラゴラ料理大全』

謎の農家:
 薬効はあるがとても不味いマンドラゴラを工夫して食そうとする男の奮闘記。
 人間の食への探究心とは恐ろしいもので、毒性が強く収穫さえ難しいマンドラゴラをどうしても食べたい男の奮闘が面白い作品でした。試せるやり方はあらかた試してます。無理すんなよ!!
独自の旨味成分であるマンドラゴラ酸(なのに不味い)が窒素と化合して生まれるマンゴロイド、恐ろしすぎる……。病院食の白湯さえマンドラゴラの味に変えてしまうということは、舌に直接ダメージを与えるタイプの毒ですよね? 好奇心は猫をも殺す……。

謎の肉球:
 企画に参加されたグルメ系作品では、当然ながらマンドラゴラは美味しい物として扱われています。しかし、この作品は煮ても焼いても食えないほど不味い! としているいのがポイント。マンドラゴラ酸という独自の旨味成分がその高い薬効を生みだしているけれど、これが不味さの原因であると言う。
 なんとかしてマンドラゴラを美味しく食えないか? と主人公が四苦八苦の試行錯誤を繰り広げる本作。その試みは成功するのか……ぜひお確かめください。

謎の主従性癖:
 マンドラゴラの逆グルメ小説。
 最初に「マンドラゴラは不味い」と明言していて、いかにしたらマンドラゴラを食べられるかと苦闘する主人公です。
 料理の仕方はまっとうな描写がされているのですが、それをすべて台無しにするほどのマンドラゴラの圧倒的不味さ。いかにして不味いか、という描写に熱が入っています。口や鼻に伝わるそのまずさに、読んでて若干気持ち悪くなってきました……。
 シュールなのは、自宅にマンドラゴラをプランターで植えて、それが口にでないギリギリのところで目だけでているという構図です。ギリギリなら許されるのか!? そしてそのままマンドラゴラを調理するのか!? と驚きです。
 なかなか衝撃が高く、このプランターマンドラゴラが伏線になるのかな?と思ったのですが、そうではなかったようで、真の伏線はマンドラゴラ専門店のきつね堂だった……確かにマンドラゴラ専門店といっているだけで、食用として売っているかどうかはわからないですものね……。マンゴロイドのことなんて考慮しないですよね……。
 マンドラゴラがいかに不味いか、というだけではなく、叫び声に含まれる毒という観点は面白いと思いました。実はプランターのマンドラゴラがこの毒を部屋に出していたのでは…?というのは深読みがすぎるでしょうか。
 最後にはマンドラゴラの白湯も慣れた様子の主人公。このままなら他のマンドラゴラ料理も試せるのでは? と期待してしまいます。

33.偽教授『骸骨犬サラマンドラの話』

謎の農家:
“火葬の魔女”ヴルカンとその従僕の骸骨犬の話。
読んでいて心が温かくなりました。火竜の名を創造主から与えられた従僕は、本来なら失敗作やなり損ないと言われる存在なんですよね。そもそもヴルカンにとって屍術で作った従僕は使い捨てであるはずなのに、その為に竜の魂を調達して名を与えたのが利用価値以上の意味を感じてしまいました。
 魔女が自らの死期を悟り、ヴルカンに後始末を任せたのもすごく良いんですよ……(人間と動物の死別に弱い)。これから、サラマンドラはどうするんだろうな……。

謎の肉球:
 マンドラゴラおとぎ話です。まず火葬の魔女ヴルカンという名前がもう格好良いですね。自らの秘術に欠かせないマンドラゴラを収穫するために、ヴルカンは骸骨犬を造り出し、サラマンドラと名付けます。そんな魔女と骸骨犬の暮らしにも終わりが来て……少し切ない物語でした。サラマンドラに、幸多からんことを。

謎の主従性癖:
 とある屍使いと、そのけらいの骸骨犬のお話。
 まず屍使いという単語のチョイス、いいなと思いました。いわゆるネクロマンサー(死霊使い、屍術師)と同じ意味だと思うのですが、話の雰囲気にあって、なおかつイメージが伝わりやすい言葉です。
 魔女、さらに言えば屍をあやつるというと恐ろしいイメージが強いですが、主人公ヴルカンにはそんな様子はないです。実際、彼女のもとへ訪ねて頼みをするひともいたようです。
 そんなヴルカンが、マンドラゴラを抜くためにサラマンダーこと骸骨犬サラマンドラをつくります。「生きた人間がマンドラゴラを抜いて死ぬのなら、最初から死んだものにぬかせればいい」というとてもシンプルな回答を、屍使い特有の能力で解決するのは面白いです。屍使いだからこそできることです。そしてそれを気長に作っているという、のんびりしたヴルカンも好きです。
 竜のはずがまるで犬のようなサラマンドラ。森でひっそりと、マンドラゴラを抜いたりしながら、魔女と骸骨犬が静かに暮らす姿が浮かぶようです。
 そんな彼女の最後のお願いのために走るサラマンドラ。悲しみと、家族のような絆を感じます。
 生者である魔女が死に、屍であるサラマンドラが誕生し疾走する。この対比が美しいです。
 ただ、「すでに燃え尽きて――」という終盤部分、ここは火葬の魔女と呼ばれる「屍を魔術で骨へと変えるさまがまるで荼毘の炎であった」ヴルカンが最後にしたことだと思うのですが、これはただ単純に、自分の称号にふさわしく燃やしたのでしょうか、それともしないとは言いながら屍使いの術を使った……? 本来は火炎竜であるサラマンドラが火葬した……? と、深読みしすぎて混乱してしまいました。作中で語られている部分を、私が読み取れていなかっただけでしたら申し訳ありません。
 全体を通して、骸骨犬も屍使いも、ふつうならば怖い存在のはずが、あたたかみを感じる造形と、関係性になっています。その分ラストの切なさが胸にしみます。いいお話でした。

34.お豆腐メンタル『江戸前屋台之西洋渡来人面奇声人参』

謎の農家:
 江戸時代、まんどらごら蕎麦を売る男が出会った怪異の話。
 そのまま四谷怪談にありそうな話に挟み込まれるマンドラゴラ男の異質さ! どこかエルフのせんしや両目義眼のザザを彷彿とさせる胡乱与太って感じでとても好きでした。
この作品におけるマンドラゴラ収穫の特徴に、『水面に顔を入れて抜く』というやり方が提示されていたのが興味深かったです。理に適っている……。犬も死ななくていい、理想的な引き抜き方ですね。効率化だ……。

謎の肉球:
 時代物マンドラゴラ小説です。江戸時代の怪談ってやつですね。
 西洋から持ちこまれた「まんどらごら」が日本で大繁殖したので、幕府は人々にこれをたくさん食べて減らしなさいと命じている……という背景がなんともユニーク。琵琶湖の外来種ブラックバスみたいですね。
 というわけで出てくるのは鰹節でまんどらごらで出汁を作ったお蕎麦。いったいどんなお味なんでしょう? と思っていたら、なんとびっくり嘘偽りが。
 この不届きな店主がどうなるか、是非お確かめを……。

謎の主従性癖:
 江戸ものマンドラゴラ小説!
 時代物は詳しくないのですが、物凄く偏りのある読書の仕方のせいで、江戸時代ものは好きです。夜にでる蕎麦の屋台、ありますよね……風情があります。
 しかしそんな風情を吹き飛ばすように、出てくるのは博打狂いのどうしようもない男と、謎のまんどらごら男。
 話の流れで気になったのが、この話の肝となる産地の真実部分です。謎の男から他の蕎麦より四割増しのふっかけ値段でまんどらごら出汁の蕎麦をだそうとする平八。「それでも江戸前ならば他の土地のものよりは少しばかりお高いが。」「平八はそれを知らぬ男から金を騙し取ろうと企んだ。」の前後部分で、江戸前ものではないものを出そうとしている、のがわかるようになっているのかと思います。ですが、実は出しているのは江戸前ものではないという事実はここでは明かされずまんどらごら男の追及のところで衝撃事実のように明かされるのが、どうも構成のバランスが悪いように思いました。
 まんどらごら男の妖怪の生態が面白いです。産地を偽ったら怒り、正しかったらなにもしない。「なんで!?」とツッコミたくなりますが、でもこういう意味のわからない妖怪、いるよなあ……と思いもします。
 まさに「奇譚」というに相応しい、謎は残るが、事実としてそういう不思議なことがあったのだ、というのが江戸の町はずれの暗い雰囲気にマッチしてます。提灯看板の油代のもとだけでもとろうとするあたりに主人公の性格がよくわかります。産地偽装、だめ、ぜったい!

35.尾八原ジュージ『ホムンクルスの墓場』

謎の農家:
 兄を探しに森に足を踏み入れた主人公と、謎めいた女『ドゥーディー』の話。
 「一人称があたしのヤバい女」、ジュージさんの性癖ポイントだ!! 今回も魅力的なヤバい女でしたね……。ドゥーディーが主人公に毒を盛っていた理由は作中では語られてないんですけど、恐らくこれは「独占欲」ですね? 自分好みの顔がいい男を独り占めしたいが故にやったとしたらタチ悪いな……(最高)
 兄は、マンドラゴラの肥料になったのかな……。主人公を捕まえるための犠牲になったと解釈しているのですが、そう考えるとドゥーディーのヤバさがさらに高まりますね。

謎の肉球:
 マンドレイクを取りに森へ入った兄が、待てど暮らせど戻ってこない。しびれを切らして探しに行った弟は、明らかに怪しい女と出会うが……。
 学者だと名乗り、不思議に羽振りが良い女はなんとホムンクルスを作っている。彼女はそのホムンクルスたちに、マンドレイクを抜かせているのだった。
 なぜか女に気に入られた主人公は、やがておぞましい真実を目にすることに。この後主人公も同じ運命をたどったのか、それとも……ぞっとするホラーでした。

謎の主従性癖:
 入ってはいけない森に住む女とホムンクルス、そして迷い込んだ男。
 もうこの要素を並べただけで、不穏さが漂ってきます。わかりやすい怖さではなく、「見てはいけないものを見た」「世界が少しズレている」という気持ちの悪いような、肌感覚が寒くなるような怖さが作品全体に漂います。
 ホムンクルスがマンドレイクを抜き、マンドレイクの肥料となるホムンクルス。そしてホムンクルスはマンドレイクと似たような姿をしている。ある意味理にかなった循環です。そこに、自分や親しい人たちが関わらなければ。
 話のオチとしては、「多分そうだろうなあ」という部分では予想通りです。しかし、「きっとそうだろうなあ、いやだなあ、こうなんだろなあ……」と恐る恐る読みすすめているので、「ああやっぱり……!!!」とドゥーディーの高笑いと共に救いようのない事実を突きつけられた気持ちです。
 ただ、「自分の名前も――」というところは想定しておらず、「あれ、名前ってわざとだったのか?」と最初から確認してしまいました。主人公と兄の名前は一度も出てきてないんですね。一人称の変化などもないです。これが、マンドレイク作用の効果としてでてこなかったのか、ただたんに出すタイミングがなかったのか。最初は覚えているけど途中から出てこない、というようなギミックだったら「なるほど!」と思ったかもしれません。とはいっても、このボリューム感の短編だったら、そこまですると盛り込み過ぎになるかもしれないので、的外れな感想かもしれません。
 ドゥーディーという名前の響きがいいなと思いました。ブードゥー人形みたいな。登場から妖しい人型のものを持っているところからさらに連想されたのかもしれません。また、マンドラゴラじゃなくてマンドレイクの呼称を使っているのも話の雰囲気にあってます、ドゥ―ディーのあやしさ、うつくしさ、不穏さがまとまったいい短編でした。

36.デバスズメ『マンドラゴラには手を出すな』

謎の農家:
 マンドラゴラ掘りを目指す若者に中年の男が語る昔話。
 主催のくたびれた男好きにぶっ刺さりましたね……。オチも含めてめちゃくちゃ良かった……。
 マンドラゴラによって人が狂うアプローチとして「三半規管が狂うことで歩けなくなる」という要素を持ってきたのも新鮮で面白かったです。中年の男が首を傾げていたのもそこにかかってくるのか……。

謎の肉球:
 マンドラゴラ掘りは一攫千金。それだけに危険も大きいこの仕事、始めるならその前に、あの男に話を聞きに行け。というわけで、マンドラゴラ掘り志望の青年が、仕方なくとある中年男に話をうかがいます。軽妙な語り口が面白い一編。
 マンドラゴラの悲鳴がもたらすダメージが、死や発狂とは少し違うけれど、永続的後遺症を与えてくるのがイヤ~な感じでかえって生々しい。
 この後彼は、マンドラゴラを掘りに行ったのでしょうか。私なら、やりませんね。

謎の主従性癖:
 マンドラゴラの危険性を教える、教訓的な話。
 安易な金儲けの話にはリ相応のリスクがともなう、というものがよくわかります。
 いろんなマンドラゴラ小説がありますが、意外とこういう風にまっとうにマンドラゴラの危険性を説く、というものはなかなかないですね。まっすぐに説いてきているからこそ、この世界でのマンドラゴラという存在の実在感が増します。
 マンドラゴラを抜く部分のスリル感だけではなく(この作品内では掘ってとりだす、ということで対策しています)欲にかられた男がひとりで下山しようとする描写は本当に緊張感があります。
 また、マンドラゴラの悲鳴を聞いたらどうなるか、という部分が具体的に描写されているのもいいですね。やはり、マンドラゴラによる発狂とはなんなのか? ここを突き詰めて描写があるのは個人的にマンドラゴラとまっすぐ向き合っている気持ちが伝わって好きです。
 難をいうとしたら、話がまっすぐすぎて、オチが予想できるというところです。しかし、教訓話ですし、それによってマンドラゴラの危険性が軽くなるわけではありません。コンパクトにマンドラゴラの危険性を説く短編小説としていいなと思います。
 果たしてこの若者はどうするのか? 彼が平らな地面で生きていくのを選んでくれたら、と願います。

37.マツモトキヨシ『ヘチカチの木』

謎の農家:
 A県Y郡H村「へちかち原」に起きたある怪事件の話。
 すごいマッシュアップでした。『モチモチの木』にラブクラフト作品をプラスしても違和感がなかったのは、ウィッチドクターの存在が大きいんですよね。それまでの日本の童話的な世界観の中にウィッチドクターを挟むことで、そのあとのマンドラゴラの存在に違和感をなくしている。一見独特な味付けのようで、かなり計算された味わいなんですよね。
 感受性の高い豆太ではなく太助が正気を失っていったのがいたたまれないですね。そんな巨大なマンドラゴラ(神話生物クラス)にナタで立ち向かったのは正解だったのか、それとも……。
 とても完成度が高いコズミックホラーでした。好きです!

謎の肉球:
 キャッチコピーにあるように、『モチモチの木』と『宇宙からの色』をマッシュアップしたマンドラゴラ小説とのことですが、なぜそんなことをと戦慄の一編。
 絵本の世界と宇宙的神話恐怖が合わさりマンドラゴラとして顕現する様を、土着的ホラーの文脈で綴られるのですが、その過程がなかなかガチで怖いです。
「ウィッチドクター」が出てきた瞬間空気が変わるのですが、どっちみち作中世界の人物としてはたまったものじゃない災害ですね! なんて世界だ。
 ヘチカチ、という言葉も不思議な響きで、一抹の不安が残ります。

謎の主従性癖:
 とある枯れ野がなぜ「へちかち原」と呼ばれるようになったかというお話。
 こういう郷土的な逸話いいですね。妖怪とか鬼とか落ちぶれた武士とかが出てきたりするような。
 この作中にでてくる「へちかち」が聞こえるのは最初豆太だったんですね。だから、怪異にあうのは豆太なのかと思ったんですが、猟の帰りに話し声(へちかち)を聞いた太助が、こたえてしまうことで太助のほうに対象が移ってしまう。ここ、ちゃんと「三回の呼びかけ」をしてるんですよね。上手く説明できないのですが、こういった怪異は内側の人間が「中にいれてしまう」ことや、「呼びかけに答える」ことがトリガーだったりするのですが、「『三回』繰り返す」というのも意味があることなんですよね。この辺は専門ではなく、私も感覚的なものなのですが、「へちかち」の話す言葉にたいして「答える」を三回繰り返してる。これはそういった法則に則ってるんですよね。そしてそのまま怪異に魅入られて、「へちかち」と会話を繰り返すことで相手の力を補強したのかな、と考察してます。
 最後の光(灯)はマンドラゴラが栄養源として奪った生命の人魂、という考えでいいのかな…? だとしたら、最後オーロラになるほどの威力、どれほどこのマンドラゴラは成長していたのだ…? と強さに驚いてしまいますね。
 全体を通して気になったのはバランスです。序盤はフィールドワークの資料内の文章として綴られているのですが、縁起の部分はそこまで事実だけを語っていく、というような形よりも縁起物語といった語り口になっています。最後に「以上が枯れ野が「へちかち原」と呼ばれるゆえんである。」とあるので、論文内のことなのかな、とわかるのですが、研究結果や資料の文章であるということを使うのでしたらもう少しギミックか、書き方を寄せてもよかったのかな、と思います。
 マンドラゴラという植物を、木に擬態したものとして書いているのは面白いですね。レギュレーション内では根っこの部分しか姿かたちは書いておりませんので、地上部分が木にしか見えなくても問題ありませんし、作中できちんと悲鳴部分も使っています。意外とないマンドラゴラの設定かなと。
 ただの昔話ではなく、まだ「何か聞こえる気がする」という、怖さを今に残すお話の仕方がよかったです。

38.ドント in カクヨム『異物』

謎の農家:
 とある肛門科に現れた若い患者の抱える問題の話。
この作品、9,932字あるんですよね……。読み終わったあとにビビりました。めちゃくちゃスルスル脳に入ってきます。異物感がなかった……!
 サブリミナル的に叩き込まれる下ネタがまず面白いです。穴尼佐助くん、どの要素を切り取ってもアレな名前なんですよね。そのあとのナルトのやりとりも肛門科と重ねるんじゃないよ!! パートナーのミッチさんの本名もアレだし、主人公の名前はマトモだと思ったら徐々にヤバい片鱗を見せてくる……!
 とはいえ、その下ネタ要素を保った状態で語られるカップル間の合意形成の話はSM要素を削ったとしても普遍的なんですよね。「愛とはお互いを思いやること」という真理がこんな話から出てくるとは思わなかったよ!!

謎の肉球:
 泌尿器科・肛門科の医者のもとへ、尻にマンドラゴラがinした男がやってきた。すわシモネタ系マンドラゴラ小説か……と思いきや、これが中々真面目な作品。
 男がそんな所に入れて、もとい入れられてしまったのは、付き合っている彼女との痴話ゲンカが原因。そこで主人公である医師は、若い二人を教え諭すのでした。
 ちなみにここで出ているのは「セーフワード」というもので、SMプレイをする時には最初に決めておくべき項目ですね。素人の二人がよく分からないままプレイにはまって、こういう事故になったのでしょう。大事に至らなくて良かった。

謎の主従性癖:
 肛門にマンドラゴラがはいって抜けない話。
 ここだけ書くと、ただの下ネタギャグか? となるのですが、医師をとおして語られていることはかなり真面目だったり、実際あったりすることで、「いい話だな」と素直に思ってしまいました。
 マンドラゴラはなかなか手に入らないからないと思いますが、肛門に異物が入って病院にいく、というのはあるあるです。ネタっぽいのですが、割とリスクがたかい事故で実際起こっているんですよね……。みなさんは、直腸に異物を挿入するさいはきちんと事前準備を行い、限界を見極めて試してください。
 さてマンドラゴラをいられられた青年は、恋人のプレイの一環としていれられた、ということです。ここ読みながらとても気になっていたことを、医師が全て言ってくれました。そうなんです、SMプレイするときにセーフワードを決めるのは基本中の基本! そしてあくまでプレイであって、だからこそ二人が対等な関係である、と。もう全部言ってもらえました。SMは二人の中でのコミュニケーション、メンタルを基軸とした関係性の一つの形だと常々思っているので、その後の展開もとても素敵です。医師として自分の仕事をまっとうしようとする医師。もし狂死しても緊急連絡はするのだ、という固い決意がかっこいいです。そして、改めて互いのことを理解した二人の聞こえなくても伝え合う感情……。
 会話や、もともとの「肛門にはいったマンドラゴラを抜く」というテーマなど、コミカルなのですが、ヒューマンドラマのような、いい話だなあと思います。難をいうとしたら、多分これはコメディとして読む話だと思うのですが、私は「え、いい話やんけ…!」となってしまって、狙いがどちらにあるのかわからない、というところです。シチュエーションから考えたら完全にコメディのはずなんですが、私は「いい話やなあ」としみじみしてました。
 全体的にテンポよく、特に引っかかることなく読み進められ、話の起伏もよくまとまった短編小説です。マンドラゴラだからこそできる緊張感や、お話に深みがでていて、マンドラゴラ小説としてもよくできていると思います。個人的にはとても好きです。みなさんには恋人の意思を無視してマンドラゴラをいれたりせず、ムリのない範囲でマンドラゴラとプレイを楽しんでほしいと思います。

39.ライオンマスク『半ドラゴラ、満ドラゴラ』

謎の農家:
 マンドラゴラの選び方について紹介する番組の話。
 狂味って何!? 半ドラゴラに満ドラゴラ、億ドラゴラに兆ドラゴラなど、もうドラゴラが単位になってるのが好きです。泥付き全ドラゴラ、ハイコンテクストすぎる。
 情報番組の解像度も高くて魅力的でした。絶妙にありそう、というか見たことあるんですよこれ! その後の狂気の果てを鑑みるに、これはマンドラゴラのミーム拡散のための番組だったんだろうな……。

謎の肉球:
 タイトルとキャッチコピーでほぼ落ちているようなもの。と思って読んでいたら、完全にやられました。とんでもないホラーじゃないですかー、やだー!
「狂味」が何かも気になりますけれど、やたら軽率に発狂していたり、人間がマンドラゴラになってしまうらしい話など、一体何が起きているのか。
 危険な何かが背景で蠢いていると感じさせられるホラーでした。

謎の主従性癖:
 おいしいマンドラゴラの、ここだけの選び方のお話。
 「狂ーい!」がとてもツボりました。軽い感じでとりあえず「え、狂ーい!」と言ってしまう感じ、マネしたくなります。全体を通して、「現代でありそうだな~どこかで見たようなテレビ番組」というのを上手くマンドラゴラ要素を合体させてると思います。
 『満』から万、半、三分の二、『兆』と、マンドラゴラのことを全然わからないはずなのになぜか伝わってくる指数。マンドラゴラの言葉遊びから始まったと思われるのに、そこにとどまらず狂ーいが止まらない感じを出していっているのがいいですね。
 そして流れる高速テロップ。そこゼッタイ高速じゃダメなところじゃない!? と読者側ならツッコミをいれたくなるんですが、視聴者はそんなことわからないんですよね。テロップの最後の三つ、これはだいぶ狂いだと思うんですが、オチも「どうしてそうなったあ!?」と気になります。いったいどんな方法を試したらそんなことに……。
 テロップに「兆ドラゴラになります」「マジで狂味い」のパワーワードも強いです。え、狂味いのはマンドラゴラのことなんですよね……兆ドラゴラになった人間のこと、を……。マンドラゴラ化させた容疑者は、果たして実験として試したのか、マジで狂味いな味を確認したかったのか……。
 いろんなところにクスっとしてしまうマンドラゴラから持ってきた言葉が混ざっていていいですね。かなりマンドラゴラに汚染された世界のお話です。すーっと勢いで読めるお話です。「兆ドラゴラ……どんな方法を試したらできるんだ……どんな味なんだ……」と気になって仕方ない私も、だいぶマンドラゴラの狂味に汚染されている気がします。小説だからこそでき漢字の言葉遊びが面白かったです。

40.kuragesatohotri『胡乱紳士 漫遊編 マンドラゴラの町』

謎の農家:
 マンドラゴラを食すために犬を接収する街に現れた旅人の話。
 旅人、文字通りの胡乱紳士でしたね。善悪で判断することができない、若干の不気味さを兼ね備えた怪紳士。底知れない味わいがありました。
 また、マンドラゴラの設定も個性的でしたね。オスとメスに分かれていて、異性の体液で眠らせることができる。これは精液で成長させることができる伝承からの発想なのかな……? 領主がグルメだったからこそ、町民まで狂気に浸ってしまったんだな……。

謎の肉球:
 近所にマンドラゴラ群生地が見つかった町の領主は、町でもっとも賢い犬を召し上げて、危険な植物を抜かせようとする。もちろんそんなことをすれば犬は死んでしまうので、飼い主の少女は泣いて嫌がっていた。そこへ謎の旅人が通りがかり……。
 マンドラゴラ独自の設定と凄惨な結末。この紳士が少女を助けてくれたのはたまたまで、少し違っていれば、彼女たちも無惨な目に遭っていたのではないか。そう思わされる胡乱紳士のお話でした。

謎の主従性癖:
 マンドレイクを所望する領主と、ふらりとやってきた旅人の話。
 領民の犬をマンドレイクを抜くために犠牲にしようとするな!! と動物好きからしたら領主に激昂したくなります。そして突然現れた旅人が、どうやって回避するのか……。
 お話の最後、だいぶすごい情景になっているんですよね。無事なのは女の子と犬だけで、領主含め町の人たち発狂状態。これ、書かれてないけど父親も巻き込まれてますよね。だけど旅人はさらりと「よかったじゃないですか」と笑顔。いやいや、そんな崩壊した街に女の子と犬だけでこの後どうするんです!? と未来への不安を感じつつも、笑いまくる人々の中で正気の2人と犬だけ、という情景がある種の美しさをはらんでいて、魅力を感じます。私はパルプ小説に詳しくないのですが、こういった様式美のようなものがあるのでしょうか?
 マンドレイクの設定も、雌雄があり、体液によって悲鳴をあげるかどうかが変わる、というのも伝承に沿っていていいですね。マンドレイクは雄と雌があるという説もあります。また体液の部分については血液や他の体液の逸話など、効果や意味合いは変わりつつも、マンドレイクの伝承で出てくる部分です。
 それをうまく、独自のマンドレイク設定に変え、話のギミックに盛り込んでいると思います。読みやすく、きれいにまとまっています。ラストの部分は好みがわかれるかもしれませんが、ただただ響く笑い声の合唱。個人的な好みでいうと、一人と一匹だけ残された少女たちの将来にどうしても不安になってしまうのですが、全てきれいにおさまった着地点の描写は好みです。旅人も多くを語らない格好良さがありました。おもしろかったです。

41.川谷パルテノン『いい根しました』

謎の農家:
就職活動中の女性の家に住み着いたマンドラゴラの話。
 すごいスピード感で叩き込まれる会話劇がクセになる作品です。それでいてほっこりするドラマチックな出会いと別れ。深夜ドラマの脚本にそのまましたい感じでしたね。
明らかにその筋の人っぽいマンドラゴラも良い……。憎たらしさの中に絶妙な可愛げがあって、最後の展開は殊勝。キャラクターの造形として強すぎる!!

謎の肉球:
 何事からも逃げてしまう癖がついていた弱気な女性が、関西のおっさんのごとくムチャクチャに口の悪いマンドラゴラを拾うハートフルコメディ。
 とにかく文章に勢いがあります。主人公の身の上話からしてもう読ませますし、マンドラゴラの台詞回しもなぜか異様に臨場感がある。この方は関西のおっさんによほど親しんでいるのではないか、そう思わせる迫力がありますね。
 そしてこれがまた良い話になるのです。まさに「イイ根」!

謎の主従性癖:
 マンドラゴラとの奇妙な二人暮らし。
 しゃべるマンドラゴラのキャラクターがだいぶエネルギッシュです。止まらないトークとガラの悪めなキャラクター。ちなみにマンドラゴラ愛飲煙草のハイライトは、煙草のなかでもけっこう重めの煙草です。ちょっとラム酒の香りがします。私はハイライトのメンソールを知っているので親近感がわきました。ただ、銘柄を知らない人だとちょっと「?」と躓きポイントになるかもしれません。
 そんなエネルギッシュなマンドラゴラに対して、『根』がしっかりしてない主人公。いかに自分がダメかということをこれでもかと自己否定をしています。しかしそこが軽妙で、ネガティブなんですが面白く読めます。マンドラゴラのやりとりもボケとツッコミでテンポがいいです。
 お話全体としてはコミカルなんですが、中身は主人公の成長という王道ものです。マンドラゴラに就活の面接指導を受け、そしてついに実る。
 ここからはネタバレも含まれるので、未読のかたはご注意ください。
 命をはって空き巣から寧子の幸せを守るマンドラゴラ。かっこいいです。しかもその方法も少しひねくれていて、でもマンドラゴラとしての特性を生かしていていいです。このラストまでマンドラゴラ要素が薄かったのですが、ためにためてマンドラゴラとしての生き様を示してくれました。
 ラストは序盤に比べて、駆け足だったかな? とちょっと思いました。この二人の関係性が変わったところが味わい深いので、もう少しここに重点がほしかったというのが個人的な感想です。
 最初は喧嘩ばっかりだったのに、最後はマンドラゴラが寧子の人生を「光り輝いてる」と言い、寧子が残されたメモを何度も読み返して「大丈夫」と言い聞かせて生きいこうとする、確かな友情を感じます。テンポがよく、するする読み進められますが、お話の内容は心にがっしり残ります。
 寧子がこれから元気に生きてくれたらと思います。

42.只野夢窮『生誕の悦び』

謎の農家:
 王立大学の学長が話す、マンドラゴラと飢饉の話。
 情報開示がホラーの味わいなんですよね……。胡乱な題材になりがちなマンドラゴラでホラーを描けるのはファンタジー舞台だからこその味わいで好きです。
 マンドラゴラがどこから栄養をとっているか、なんですよね。人の形を模して光合成をしないなら、埋めた死体を原料に……。どこか間接的なカニバリズムを感じる話でした。

謎の肉球:
 とある世界で、王立大学を作った学長にマンドラゴラについて問いつめる若者。どうやら彼は、植物学の講義でも言葉を濁す学長に業を煮やした様子。
 酒場すら貸し切りにした彼の熱意に押されたか、ついに学長はマンドラゴラにまつわる恐ろしい体験を語り始めるのだった……。
 マンドラゴラと出産の不思議な関係。それが具体的には何かと明かされぬまま終わるのですが、様々に想像できる不気味な背景が恐ろしさを呼びます。

謎の主従性癖:
 植物学の教授と若者がマンドラゴラとは何かについて語るお話。
 この作品はネタバレが回避できないので、未読の方はご注意ください。
 タイトルの通り、マンドラゴラがいかにして生まれるのか、というお話です。はっきりとは書かれてはいませんが、教授の飢饉の話から、マンドラゴラは死んだ人間がマンドラゴラになって生まれ変わるのだというのがわかります。
 最後の誰も叫び声を知らない中で、「おぎゃあ。おぎゃあ」という鳴き声が効いてます。ぞくりとする終わり方です。この終わり方はとても好みです。
 ただ、ここは私が伏線を読み切れないのかもしれないのですが、どうも序盤と終盤で話がかみ合っているようで噛み合っていない部分があるかな、と思いました。若者がマンドラゴラの特性が人型に近いことは、ラストのオチに対する伏線なのだと思います。ですが、教授の大学を作った理由、というのは、真実を知っているから追及しようとしたためなのか、逆に他の人に知られないためにしたのか、など全体を通すと不思議が残ります。
 飢饉とマンドラゴラの不作、豊作の関係の部分は、教授の語り口ともあっていて、読んでいてゾクゾクしました。語り口調の地の文と台詞で「」がついているところとついていないところがあるのですが、逆にそれがいいリズム感をうんでいる印象です。書き方の作法とは違うはずなのですが、そこをうまく読ませるのはすごいな、と思いました。
 マンドラゴラの隠された真実のお話、とても楽しく読ませていただきました。

43.只野夢窮『俺とバトルマンドレイクで勝負だ!』

謎の農家:
 マンドラゴラ同士のバトルに一生懸命な少年たちの話。
 前作との落差!!!! Twitter与太話の中でも胡乱な「ホビーバトル概念」をゼロ距離で叩きつけるんじゃないよ!
 名は体を表しすぎる同級生の名前とか中盤で急にノリがFFSになるのとかが好きです。よく吸った味わいの空気感を感じる。即死してもすぐに復活する世界だから「自分の仇」とかいうトンチキワードが出てくるんだな……。

謎の肉球:
 ホビーバトルものの文脈で繰り広げられるマンドラゴラコメディ小説。
 プレイヤーは互いに自分のマンドレイクを引き抜き、その際に発生する致死の悲鳴を相殺するというムチャクチャなルールなので、毎回人が死ぬ! 死ぬけど何の説明もなく復活する! そのせいで「自分の仇を取る」などありえない文字列が出現し、読者のニューロンを焼きにかかってきます。笑わせていただきました!

謎の主従性癖:
 ものすごいパワーで進んでいくマンドラゴラのバトルものです。
 マンドレイク同士の悲鳴で相殺してバトルする形式なのですが、そのバトルの余波がすごい。相手も死ぬし周りも死ぬ。まさに阿鼻叫喚。死に方もパワーとスピード勝負です。「即死!」とあっさり死んでいく。もうここまで潔く死なれたら「そうなのか!」と納得するしかありません。しかも死んだはずの友人や主人公自身も唐突に生き返る部分もとてもあっさり! この部分についての理由は特に記載されてません。ひたすら死んで生き返って死んでという繰り返しです。
 こういう小説の文脈やジャンルに詳しくないので、読み切れてない部分があったら申し訳ありません。パワーワードというかツッコミをしたくてたまらない部分がたくさんあります。きっと、作者の方もわかっててツッコミどころを用意しているのだと思うので、ツッコミをいれさせてください。
 自分の仇ってなんだよ! 即死しからずんば! ってどっち!? すべての人類がマンドラゴラで死に絶えるまでっていうけど死んだら生き返ってるじゃないですか!? 全員同時即死を目指すってことですか!? そしてタイトルが最終回なのにラストが「次回に続く」ってどういうことなんですか!?
 と、思わず「えええ!?」となるところがたくさんで、その引力に引き込まれました。
 そんな風に、はちゃめちゃなところがあるんですが、内容としてはあやしい敵、父親から受け継ぐもの、みんなの応援、という風に、バトルの王道もののパターンをきちんと踏襲しているんですよね。だからこそ、ツッコミをいれながらも最後まで話についていける。書く実力があるからこそ、崩していいところとそうでないところのツボをしっかりつかんでいるからだと思います。
 囁きASMR、私はしてほしいです。

44.狐『Mandrake or Weeds?』

謎の農家:
 五億点狙いです。主従同士の激重感情を喰らえ!!!!

謎の肉球:
 完璧すぎる執事と、領主の跡継ぎである主人公は異母兄弟。元後継者候補であった執事は、いつか自分を殺して跡継ぎの地位に返り咲こうとしているのではないか、と怯える日々を送っていた。
 そんなさなか、領民からマンドラゴラの収穫監査という依頼が入る。危険な現場だが、これを利用して執事の化けの皮を剥いでやろうとするが……。
 評議員約一名を狙い撃ちにした、マンドラゴラ主従小説ですね。私は食欲担当の方ですが、これは非常に美味しいシチュエーションだと思います。
 この二人の未来にどのような幸いと苦難が待ち受けているのか、気になりますね。

謎の主従性癖:
 完全に私の性癖を狙いにきたBL要素ありの主従ものですね。ありがとうございます。伏して感謝申し上げます。
 しかし、狙い撃ちにこられてもそれが私に狙い撃つかはまた別のはなし――――――――――いやもう完全に大好物ですありがとうございます!!!!!
(※以下からは完全に性癖によってテンションが高まった講評なのでネタバレどの考慮をしている余裕がありません。ご了承ください)
 もうね、まず主従が腹違いの兄弟っていう設定。もうここの部分だけで8割勝利してます。さらには優秀な兄のほうが従者でそれに多大な劣等感を持っている弟が主側。はいこれも加点ポイントです。9割5分の勝利が約束されています。
 劣等感と兄従者アベラルドが復権をもくろんでいるのではないかという猜疑心で弟主ヴィルナンの心はぐちゃぐちゃ。9割9分ここで勝ちです。
 そして、ついに、ヴィルナンは一線を超えます。
 本当に兄アベラルドを殺そうと思って、マンドラゴラを抜くのです。
 ハイここで天元突破!!!!!! 10割? 五億割だよ馬鹿野郎!!!!! ありがとうございますありがとうございます!!!!!
 私は固定CPハピエン厨とずっと名言していて、狐さんもそれを知っています。ですので、本来ならガチ殺意あり不穏ものというのは私の性癖から外れているのでは? という疑問を持つ方も(3人くらいは)いるでしょう。ですが、ここで狐さんは、拙作「吸血族討伐隊」の不穏義兄弟の要素をここに取り入れてます。
 まさか私の密かな不穏性癖と主従性癖のマッシュアップされるとは。もうね、なめてたわけじゃないんですよ、ほんと。だけど予想以上でした。こんなに性癖がっつり狙い撃たれたら「はーーーーーーー?最高かよ」しか言えないじゃないですか。最高です。
 ガチ殺意っていう風に書きましたが、主従ものだと(どちらのものなのか、意図はどうであれ)命がかかったものというのは性癖です。今回私が参加作品でだしたリバーシブル・マンドラゴラもそうですね。命をかけてクソでか感情をぶつけあってほしい。ごちそうさまですありがとうございます。
 ラストもですね、結局弟ヴィルナンは兄の資質の高さを認めていて(認めているからこそ劣等感や反発心があるわけで)、兄は兄でヴィルナンの逸材を認めている。誰よりもお互いを認めているのに、全く通じ合わない相互理解。美味すぎるおかわりください。
 「お前のことは好きになれない」というヴィルナンの台詞、某わんだーなソシャゲの中の某有名主従ファンを混乱と歓喜と発狂に落とした例の台詞と似ているところがあるのですが、狙っているのでしょうか? 私はもちろん某わんだーなソシャゲでは砂漠の民です。
 そして、最後の決めの言葉。例え殺されようとも、と。
 え、すき。
 ただ好きなんだが?????? 性癖なんだが??????
 まさかこんなに私のツボを的確についた主従BLを狐さんが出してくれるとは……思っていませんでした……ありがとう……本当にありがとう……………本当はあと2倍くらい性癖ポイントを書きたいのですが、この時点で1322文字となっているので静まります。あと100作くらいこんな感じで軽率に主従もの書いてみませんか???? 是非検討をよろしくお願いいたします…!

45.神崎 ひなた『マンドラゴラ殺しの鍬男』

謎の農家:
 マンドラゴラ狩りを生業とする右手が鍬の男の話。
 いやー、好きです! 『マッドマックス』を彷彿とさせるポストアポカリプス世界観にマンドラゴラ・パンク的な要素が違和感なく噛み合っていました。煮えたぎった油とかヘルトラクターとかはなんか聞き覚えあるな……って感じですね(主催との会話が元ネタですね?)
 バーバ・ヤガのキャラクター性、みんな好きでしょ!(主語がデカい)
 このまま長編にしてもおもしろい作品だと思うので、是非!!!! よろしくお願いします!!!

謎の肉球:
 マンドラゴラが核に匹敵する次世代エネルギーとして注目される、というぶっ飛んだ設定からのホットスタート。バーバ・ヤガと鍬男の会話もまたイカしています。
 陸上自衛隊はそういうものじゃねえよ!
 というツッコミはさておき、マンドラゴラスレイヤーたる主人公が、マンドラゴラ至上主義の世界で戦うバイオレンス巨編です。出てくるキャラもいちいち濃い! 煮えたぎる油がなんで肥料になるんだ!?
 実にハイクオリティな、読み切りバトル漫画のような印象でした。

謎の主従性癖:
 手が鍬の、鍬男がマンドラゴラを狩るお話。
 鍬男、という字面だけみると塚本信也監督の「鉄男かな?」と思ったんですが、内容はむしろマッドマックスFRのような世界観に近いです。圧倒的暴力でマンドラゴラ栽培を被支配者に無理やり従事させる。明らかに悪漢どもが悪いというのが2話の短いエピソードでよくわかります。赤子の命よりマンドラゴラのほうが重いと言い切り、煮えたぎる油のドラム缶に老人を突っ込む。ひ、非道。なんたる非道。なぜ煮えたぎる油がマンドラゴラの肥料に必要なのかはわからないのがまた不穏さが……。
 話は怒涛の展開で進んでいきます。コメディテイストの部分も多く、その時の言葉のチョイスがまたセンスがありすぎて面白いんですが、基本骨子はむしろハードボイルドのようなかっこよさがあります。
 ストーリーの展開も、わかりやすい悪者を倒したところで、この世界の真実が明かされ、この先が気になる仕組みになっています。そこにヴァルプルギスの夜のルビをつけてきたか……と最後にやられた! となりました。
 少し難をいうなら、マンドラゴラである必要性の部分です。強力な薬効成分があることや、人型の植物であることはでていますが、もう少しマンドラゴラの既存設定を作中で生かしてほしかったな、と思います。作中のマンドラゴラが強大なエネルギーを持つすさまじい植物であり、さらにはマンドラゴラ側にも隠れた野望があり……というオリジナルの設定はとても面白いです。
 また、主人公や悪役百鬼夜行丸以外のキャラだと、バーバのあやしげなかっこよさはもちろんなのですが、お話の中で味がきいているのは妊婦の心情描写じゃないかな、と感じました。身ごもった子供への思いが、鍬男の戦いをとおして「世界」に対する見方が変化する。無力な第三者から見たシーンをいれていることで、ギャグが盛りだくさんなのに、びしっと話のメリハリをつけていて、深みがでています。
 パワーとスピード、そして作者のセンスが光る面白い作品でした。

46.@Pz5『マンドラゴラ研究所』

謎の農家:
 昭和初期、依頼を受けてマンドラゴラ研究所を訪問した探偵の話。
 Pz5さんの世界観が最大限に発揮されている作品でした。湿り気のある狂気だ……。
 マンドラゴラの薬効やその危険性、博士の狂気などがしっかりと書かれていました。その一方で、主人公が抱えている秘密についての謎が残されたまま終わる展開が気になったのは事実です。恐らく赤子に関係するのだろうか……と予想はしたのですが、もう少し情報があると読者にも親切だと思います。

謎の肉球:
 昭和初期、友人の頼みで研究所の調査に訪れる主人公。そこで彼は博士からさまざまな実験の成果や、マンドラゴラの効能を見せられる。
 くり返し聞こえる赤ん坊の泣き声と、研究所内の出来事は悪夢のような曖昧さをともない、読者を不安に駆り立てます。最後に、研究所の凄惨な暗部が出てくるのですが、それ以上に主人公には抱えた罪悪感があるらしく……。
 このへんをもう少し詳しくお聞きしたかったなとも思うのですが、それは野暮ってものでしょうか。この後、彼はどうしたのでしょうね。

謎の主従性癖:
 昭和の舞台で行われる、謎に満ちた研究所のお話。
 怪しい実験などを行っている人里離れた研究所というのは怖さと想像力を掻き立てさせられる題材です。登場する博士もとても尤もらしくマンドラゴラの説明をしながら、少し常人からズレた理屈をすっと挟んでくるのがいいです。出てくる用語も練丹術という実際にある言葉や、『神農経』も調べると、中国最古の薬物書に『神農本草書(しんのうほんぞうきょう)』というのがあるんですね。そういった部分で博士の言葉に説得力というか、リアリティさがでてきます。
 この先はネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。
 滋養強壮から軍事的にも使い道のあるマンドラゴラ。その肥料には『生命』に対して等価交換となる『生命』を。人の血を吸って育つ畑で、月明りのもとで十字架が掲げられている様は陰惨ですが美しくすらあります。こういう世界観、個人的には好きです。
 また、マンドラゴラの声と赤ん坊の声を混同させることで主人公の内面に迫っています。私が作中内で読み取れなかった部分があるのかもしれないのですが、おそらく主人公は過去、女性の子どもを堕胎させた(見捨てた?)のか? というような描写があります。ここはいくつかに別れて過去の声と自分の回想が入っていて、全貌を把握するのは難しいです。相手が自分を裏切った、と思っているようですが、どうもこの罪悪感の深さを見るに、本当に裏切っていたのか主人公が信じ切れなくなっているのかな、と捉えました。けれど確信を持てないまま、大事なラスト部分が駆け足で、そのあたりの説明不足気味に思えました。ホラーの作品で、全てをスッキリさせる必要性はありません。ですが最後の畳みかけがよくできているだけに、ドラッグの関係性や主人公の過去のほうに意識がいって集中できなかったのは個人的に残念です。ただ単純に私の読解不足で、上述した内容も的外れかもしれません。
 畑のマンドラゴラの顔が赤子、嬰児、胎児と奇形の赤子が収穫され、声が鳴り響く様子は圧巻です。自分は悪くないのだと必死に主張する主人公もまさにホラーの主人公であり、かつ捉われてしまった様がよくでています。全体を通して、不気味だけれども上品さをなくしていない、よいホラー小説だと思いました。

47.里場むすび『マンドラゴラ収穫順序問題』

謎の農家:
 マンドラゴラ農家の娘に恋する大学生がプログラミングでマンドラゴラ収穫をサポートする話。
 美は細部に宿ると言いますが、マンドラゴラ小説の魅力も細部の設定に宿ると主催は考えています。その観点から見たこの作品……めちゃくちゃ魅力的です。
 まず設定が好きです。法律やマンドラゴラの品種名などは現実にありそうなラインで笑いましたし、マンドラゴラ農家の重婚制度などは危険な仕事だから、という側面で理解できる。マンドラゴラ農家、子沢山なんだろうなぁ……。

謎の肉球:
 憧れの先輩はマンドラゴラ農家。彼女に「プログラミングで効率的な収穫方法を提案できない?」とお願いされ、断れなかった彼は現地へ飛ぶ。
 私はプログラミングの知識に疎いので、プログラムでどう効率よい収穫法を実践しているのかよく分からず、収穫が上手く行った理屈も上手く理解できませんでした。
 そこから、憧れの先輩との恋愛をすっ飛ばして結婚! という流れに、主人公に対する都合の良さを感じてしまったのですが……。
「マンドラゴラ農家の習慣」という落ちでびっくり。そういうことなら、結婚の話がここで出てくるのもアリという気持ちになりました。
 主人公くんには、これから農家で頑張っていただきたいですね。

謎の主従性癖:
 マンドラゴラ農家の収穫をプログラミングで手伝いに行く話です。
 田舎の大きい家に、気になっている女の子に誘われていくというのは映画サマーウォーズを思い出します。こうした計算を使ったお話というのは、文字だけで伝えるのは難しいのですが、P_hがわからなくともダイクストラ法の使い方さえわかればなんとかついていけます。実際にA→B→D→Fの距離の和が20になるのか計算してしまいました。こういった技術を説明過多にならない程度に具体的に描写されるのは好きです。作者の知識が光る部分だからこそ、味が出ると思います。また日本史で習ったことのある田畑売買禁止令というものを絡めて実在感を増しているのもいいなと思いました。
 この先はネタバレがありますのでご注意ください。
 さて、プログラミングの力で収穫の手助けを行ってハッピーエンド! で丸く収まるかと思いきや、ここでもう一つギミックが重なっています。マンドラゴラ農家はその性質上、一夫多妻、一妻多夫制が認められているという部分です。まさかウミさんが同じ配偶者だったとは……。
 どうも簡単に結婚が認められたな? あだ名までつけられるのか? と思いながら読んでいたのですがそういう背景だったとは、と驚きました。ただ、最後に主人公があっさりと受け入れすぎていて、少し心配になりました。この終わり方の部分を「いい話だな」や「がんばれ!」と応援すべきなのか、「もしかして騙されているのでは?」と解釈すべきなのか、迷ってしまいました。ここの部分がもう少し方向性をさだめてくれたらお話の終わり方のすわりがよく、読後感も変わったかと思います。
 テーマであるマンドラゴラを、マンドラゴラの収穫問題にフォーカルするだけでなく、『マンドラゴラ農家』のありかたを掘り下げた面白い設定だと思います。しかし、本当に大家族そうだ……各配偶者に不満を持たせないように立ち回らなくてはならないまとさんの手腕が個人的に気になります。

48.Veilchen(悠井すみれ)『魔女の弟子の密かな企み』

謎の農家:
 目が見えない姉弟子と耳が聞こえない弟弟子が、小さな魔女と共に生活する話。
 長命種が人間を拾う話大好き!! 魔女のキャラが特に魅力的で好きです。自分から呪いをかけておいて、弟子たちの自主性はなるべく尊重しようとする。単純にマンドラゴラ収穫に従事させるだけなら風の術を掛けるだけで解決するのに、わざわざ聴覚を奪ったあたりに作中でも提示された魔女の意識が透けて見えるんですよね……。
 また、弟子たちが呪いを解こうとする動機が「お互いの知らなかった部分を知りたい」なのもめちゃくちゃエモくて好きです。恐らく彼らにとって魔女の家は快適で、そこから逃げるつもりはなかったんですよね。現状に満足した上で、それ以上を求める。とても人間的だと思います!  魔女と弟子たち、これからも3人で仲良く暮らすんだろうな……。

謎の肉球:
 森の住む魔女には、目の見えない娘と耳の聞こえない子、二人の弟子がいる……「耳が聞こえない子はマンドラゴラが収穫できるけど、目の見えない姉弟子はなぜいるのかな?」と思いながら読み進めると、二人はもともと五体満足だったけれど、師匠の魔女が呪いで感覚を封じたのでは? という話が出てきて、物語は一気に緊張を帯びます。マンドラゴラを始めとする、呪いを殺す毒薬を作った二人の運命は……。
 この企画はホラーが多いので、悲惨なことになるのではとハラハラし通しだったのですが、彼らに「足りない物」は前半でちゃんと示されていたのですね。きちんとそこが回収されたハートフルなお話で良かったです。

謎の主従性癖:
 すみれさんによる魔女とその弟子二人のお話です。
 こちらはすみれさんご本人が「謎の主従性癖さんを狙い撃とうとしたけど、主従と師弟は別だった」とおっしゃられておりましたが、ご安心ください。謎の主従性癖はもちろん師弟関係も大好物です。ちょっと不穏が入っている師弟関係ならなおさら良いです。以前、SNSではやった「魔女集会で会いましょう」の雰囲気がこちらの作品にありますが、謎の主従性癖はその時ひたすらタグ周回しておりました。
 すみれさんが書かれるお話は、どれも丁寧で繊細な文章と高い水準の構成力でできています。それに加えてキャラ設定や舞台のつくりが人を惹き付けます。
 幼く見える魔女、目の見えない姉弟子、耳の聞こえない弟弟子。三人そろっていても、同時に語らうことはできない。いびつで、不自由な形です。そして弟子たちはこれは生まれつきではなく、魔女のかけた呪いだと気づき、その呪いを解呪する――。
 この先はネタバレ+性癖発露を含みますのでご注意ください。
 いやー、エモい。だいすき。最高です。よくよく考えたら予想できる話のはずなのに、弟子二人のやりとりですっかり騙されました。「え、え、裏切るの? そういう展開!?」とドキドキしてしましました。ですが読み返すと、結末に対して何一つ嘘は書かれていないんですよね。しかし書き方がうまく、完全にミスリードにひっかかりました。
 いいですね、「人の子は弱い」「恨まれてるかもしれない」と内心でネガティブになっている魔女と「そんなものは関係ない! お師様の顔が見たいし声が聞きたいんじゃ!」という弟子二人のパワー。これが愛ですか、愛ですね。
 置いていかれるなら、と泣く魔女に不老の術を覚えてみせると断言する弟子。最高です。寿命問題は大きいですからね。そんな師匠の杞憂を弟子が「これでも成長したんですよ! これからも頑張りますよあなたのために!」と吹き飛ばすのは大好きです。家族三人そろって、ツンするお師様にほっこりする弟子二人の話が……読みたい……!
 マンドラゴラも、冒頭から最後まで効果的な舞台装置として置かれていました。また今回の企画を知らないかたが読んでもまるで違和感のない作中の使用方法です。別段特別な設定を加えず、マンドラゴラの特性を生かし、耳が聞こえないからこそマンドラゴラの「声」を空気で聞くか、実際に聞くかという最初と最後の主人公の変化。また魔女の家を主軸に進むお話の導入としてもうまい使い方だと思います。
 師弟もの、やっぱりいいな……最高です……見事に撃たれました……ありがとうございましたっっ!!!

49.かぎろ『マンドラゴラオチ』

謎の農家:
 聖剣を抜く勇者の話。
 ダニエルって誰だよ!? このオチのための前振りなんだろうな……と感じる清々しい作劇、好きです。「聖剣はマンドラゴラだった!」じゃないんだよ。
 オチ自体は予想が付くんですけど、勢いに負けました。速度を出したグーって強いんだな……。

謎の肉球:
 一発ネタマンドラゴラギャグ。
「もしかしてそういう落ちでは……?」と予想していたら、本当に予想通りの落ちだったのが残念ではあるのですが、それでも勢いがついていたのと、「魔王まで死んでる――!?」というショック&「ダニエルって誰!?」の二連撃で笑わされてしまいまいした。悔しい! これはもう、受け取れ座布団! って気持ちですね。

謎の主従性癖:
 タイトルが全てのお話。
 ネタバレ注意……と言いたいのですが、タイトルがすでにネタバレなんですよね……タイトルのすがすがしさまで含めて面白いです。
 もうラストをやりたいがために、いかに勇者が苦労したのか、というのが綴られています。迫害されていたらしいとか、すでに何人か仲間が犠牲になっているらしいとか、魔王とはまだ戦ってないけどだいぶハードな試練を攻略してきたようだとか。
 この重たく、だからこそ強い希望としての勇者の覚悟。これがタメにタメられているからこそ、ラストのオチが際立ちます。このラスト8行(悲鳴分の行数はのぞきます)のために千字使ったのか……と。
 森の神殿、というのがまた、多分マンドラゴラがいてもおかしくない設定にしているの……かなと思います。
 徹頭徹尾、ラストのために全てを注いだすがすがしい小説です。やられました。シンプルイズベストってこういうことなのかな、と思わされたギャグ小説です。魔王にもきいたんだから、まあ、よかったのかな? ダニエルくんだけは一体どうして巻き込まれたのか全く分からない謎オチをしているところまで面白いです。

50.Enju『転生先はマンドラゴラ!~根菜冒険者は薬と呪いで切り抜ける!?~』

謎の農家:
 マンドラゴラに転生した冒険者が、異世界を生き抜く話。
『唐揚げを無限に食べたい』のEnjuさんだ!! 今回の作品もまた毛色が違って、作風の広さを感じました。
 マンドラゴラに転生する発想がまずおもしろいんですけど、トレントの一種として亜人のポジションに置いているのが特に好きです。呪術と薬についての知識を得たマンドラゴラ、普通に強いんだな……。
 また、亜人の迫害という要素から主人公を陥れたのがマンドラゴラ爺であるという展開にしていくのも鮮やかだと思いました。過去に迫害を受けた存在が復讐心から差別や偏見を再び生み出してしまう、という流れなんですよね。主人公が生きている時代には偏見が解消しつつあるという部分がすごく良かったです。

謎の肉球:
 スタンダードな異世界転生ものにマンドラゴラをかけ合わせた一作。意欲的な組み合わせだなと思うのですが、あまりマンドラゴラとしての必然性は感じられませんでした。薬草としてのマンドラゴラは無精卵みたいなもの、とか、毒物・薬学が得意とはあるのですが、普通の人間との違いがあんまり出てこなかったなと。
 人外が好きなので、人間の思考が残っている主人公が他のマンドラゴラの何になじめなかったのかとか、蜘蛛人間のグライドはどのへんが蜘蛛なのかとかもっと見たかったですね。根菜冒険者という響きも面白いのですが、根菜感があるかというと、商取引のシーンぐらいじゃなかったかな。
 最後の敵は、人間と亜人の関係というテーマを象徴していますが、ああいうモンスターまで作ってくるあたりだいぶ危険人物でしたね。全体としてはまとまっているのですが、個人的な好みではもう少し味が足りないという惜しさがあります。

謎の主従性癖:
 マンドラゴラに転生したお話。
 正直、やりたいことは伝わるのですが、どうしても今回のレギュレーション部分とのすりあわせに苦労しているように見えました。マンドラゴラは人の形をした草である、まではわかるのですが、『草の根の性質を持った人』(亜人)だというところで「??」となりました。社会や本人の自覚としては「亜人」のくくりらしいですが、そうなるとマンドラゴラ要素が薄れ、レギュレーションとも乖離してくるので、難しいなあと思います。またマンドラゴラという植物に転生した、というこの物語のキーポイントが、亜人として定義されることでそこも薄れてしまっているかな、という印象です。
 お話は迫害された歴史をもつマンドラゴラ(樹人)が仲間を見つけ、過去の因習にしばられた同種と戦うお話です。仲間三人がずっといいひとたちなのがいいです。基本善良なひとたちばかりで、敵対する相手も根っからの悪人というわけではない。そうした明るさがあります。最後も希望にあふれているのがいいです。
 マンドラゴラの亜人とマンドラゴラ(森や畑で収穫するほう)の違いが出ているのは面白いですね。ただ、そうなるとやはりレギュレーションとして人によりすぎていて、植物ではないのでは…?とうなってしまいます。マンドラゴラだから薬や呪術が得意、という設定は面白いです。デバフ系の魔法も植物で足止めというのは樹人らしさが出ているかと思います。物語のテンポもよく、短い話の中で次の展開へスムーズにつなげられてます。
 マナがこれから仲間と一緒に楽しい冒険ができることを祈ってます!

51.ぶいさん(ぶいち)『エッグタルトの魔女』

謎の農家:
 おっちょこちょいで飽き性なエッグタルトの魔女ルトがマンドラゴラを栽培する話。
 エッグタルトの魔女、厄介すぎる!! 生きる災害クラスの巨大マンドラゴラを作れる魔力に倫理観の無さが合わさった結果、ルト自身がとんでもない魔女になってるのが好きです。ハウスエルフもまともな顔して倫理観ないんだよな……。
 また、時折挟まれるデッシのメタ視点の語りやツッコミもよかったです。冒頭から作品を読む時の空気感を読者に知らしめる存在として強い……!!

謎の肉球:
 エッグタルトといえば香港名物スイーツですが、特に本編とは関係ないようですね。あ、エッグタルトだから「ルト」さんなのか……。
 ハウスエルフなる主人公があんまりぼろくそに言うから、実は結構この魔女まともなんじゃないか……? と疑っていたら、一言目からボンクラと分かるのがなんとも愉快。とか思っていたら、食肉工場のゴミからオークが出るって、オークが食用にされたりする世界なのか……脳天気なようでダークな世界観だ……。
 終始ハイテンションさで突き抜けていき、後には大惨事と、まったく懲りないボンクラ魔女が残される。若若しい力を感じる無秩序なコメディという案配でした。

謎の主従性癖:
 魔女とその弟子?がおりなすマンドラゴラ巨大化事件。
 弟子の語り口が終始軽妙で、テンポよく読めます。こういうツッコミキャラがいると話がするする読みやすくなっていいですね。そして魔女エッグタルトは無理無茶唯我独尊を体現したようなパワーのあるキャラクターで、凹凸感があわさってます。
 最初は小さくてかわいいマンドラゴラを(なにやら麻袋の中身があやしいことこのうえないですが)あっという間に巨大化させ、巨ンドラゴラにしてしまう。大災害です。そのうえ「今出たら責任を問われそうだからあらかた静かになってからにしよう」や「マンドラゴラは解体して売るのよ!」とあくまで自分優先がすがすがしいです。
 そして解決策はマンドラゴラゴーレムを作り出し、バケモノにはバケモノをぶつける手法……その手法、やったらダメなやつでは……!?
 力押しの潔さとキャラクターの会話で面白く読めます。ただ、マンドラゴラ感はあまりなかったかな……?という印象です。できればもう少しマンドラゴラの特性を出してほしかったな、という気持ちはあります。巨大植物VS巨大ゴーレムという構図はわかりやすく、想像して思わず笑ってしまいました。
 最後まで「全員ゾンビにしたらお得では!?」とブレない魔女の性格は大好きです。その力をもっと有効に使ったら絶対他に稼げる方法があるはずなのに……!
 これからも荒唐無稽な魔女の無茶ぶりと、それにツッコミをいれるデッシくんの日常が目に浮かぶようです。デッシくん、がんばって……!

52.里場むすび『白昼の発狂』

謎の農家:
 マンドラゴラによる集団発狂事件の謎を追い求める記者と探偵のバディの話。
 シリーズもの短編の一編的な雰囲気を感じました。ルームシェアする記者と探偵、同性バディの濃厚な香りがする……。
 集団発狂事件にまつわるトリックは王道ながらもマンドラゴラの特性を生かしたもので魅力的でした。パチンコ屋だからマンドラゴラの騒音を違和感なく隠せたんだな……。

謎の肉球:
 マンドラゴラを利用した集団発狂事件が発生! Webニュースのライターである主人公は、事件を記事にするも没にされて……ちょっとしたミステリーものです。
 犯人はどうやって集団発狂を起こしたのか、という点は分かったのですが、多くの死者と犠牲者を出したこの事件を企図した動機には触れられていないのが少し引っかかりました。よほどの愉快犯か異常者なのか、何らかの鬱屈があったのか。規模が大きいぶん、そこがスルーされているのは推理物として物足りなさがあります。
 一方、メインは主人公とルームシェアしている探偵との関係。どうやら仲良くやりたいらしい探偵が、いじらしいやら不器用やらで微笑ましかったです。

謎の主従性癖:
 マンドラゴラミステリ小説です! ミステリ好きなので嬉しいです。
 何より出てくる二人のキャラと関係性が好み……この部分は後述します。
 マンドラゴラによる発狂事件。パチンコ屋という舞台だからこそできる発狂事件のさまは面白いです。異変に気付いた人間も自分の耳栓をとったら悲鳴を聞いて巻き込まれて……という連鎖性がいいです。推理としては、もう少し説明がほしいかな?という部分がありましたが、犯人の特定の仕方もうまくマンドラゴラ要素をいれて出し抜く形がいいですね。シェアワーキング、という、いわゆる頭脳型探偵をそういう言葉で表すのも面白いです。
 そしてこのメイン二人がいいんですね。「素性はよく知らないし嘘をよくつくシェアワーキング探偵」という湖畔ヵ丘、その男とルームシェアする主人公中野。後半部分で「不信」に偏っていると本人が言っておりましたが、いったいなぜルームシェアをしているんだ…?というくらい最初のほうは彼への信頼度が薄いです。
 しかし、中野の記事のためにマンドラゴラ発狂事件のヒントをあげる湖畔ヵ丘。この先は、ネタバレと性癖の発露がありますので、ご注意ください。
 私の特攻に「BL」とあるように、腐ィルターがあるので、どうしてもこの二人の関係をみると「お?」となってしまうんですね。
 湖畔ヵ丘は好感度をあげるため、と言ってますが、こう、頭脳が高いがゆえに孤独を生きてきた湖畔ヵ丘なりの歩み寄り方だとみると……だいぶ……ぐっとくるものがありまして……。
 「僕は君の信頼を勝ち取るために……こう見えて全力なのさ」」というのが、本心だと思いたい心……!! 願望……!! そしてそこに中野も歩み寄りほしさが…! しかし信頼と不信の天秤がゆれるほどのことが一体今までの二人になにがあったのか。そんな天秤がゆれるような関係の中で今回なぜ湖畔ヵ丘は歩み寄ろうとしたのか。とても気になります。完全に信じ切ってはいないけどほどこされつつある感じがとても好きです。
 お話はミステリ部分とラストの短い中で綺麗にまとまっています。このくらいのサイズ感で、この二人のミステリシリーズが読みたいですね……!!!! 好みの関係性のキャラでした!!

53.武州人也『秦陽城の戦い マンドラゴラ絶対防衛線』

謎の農家:
 マンドラゴラによって遮られた幼馴染の未来と、マンドラゴラを用いた戦争の話。
 武州さんの持ち味が出まくった作品だ!!!! 架空戦記にエッセンスとして足された主従要素が味わい深さを増していて魅力的でした。ポニーテール男子、武州さんの性癖ですね?
 マンドラゴラを使った兵器、対策さえすれば敵を自滅に追い込める恐ろしい物なんですけど、それをアヴドゥルが扱うのが皮肉ですね……。彼は人を癒す医師ではなく、人を殺す軍人の道を選んでしまった。マンドラゴラの薬性と毒性を表しているようで、とても魅力があるキャラクターでした。

謎の肉球:
 壮大な歴史小説が、ぐっと一万文字に圧縮! この内容をここまで詰め込める技量に驚嘆です。アヴドゥルという少年の話と戦争の話とがあり、この二つを同時にやるのはけっこう大変じゃないか? と思ったのですが、戦後の一話でそこが綺麗に結びつく。若き日のあやまちが生んだ後悔が、年老いてなおも染みつく重さとわびしさ。
 戦争シーンは大迫力で、かなり力が入っていることが分かります。ただ、アヴドゥルの物語としては、やや戦争部分が長かったかもしれません。
 しかし秘密兵器の使い方は、なにげに『マンドラゴラ農家のお気持ち表明』に出てきたマンドラゴラ合戦を彷彿とさせ、こういう題材の使い方も上手いですね。

謎の主従性癖:
 武州さんの『異常繁殖マンドラゴラの駆除作戦』に続く二作目です。
(※この先は性癖によりテンションの乱降下が激しくなっております。ご注意ください)
 主従ものだ!!!!!!!!とテンションがあがりました。ありがとうございます。しかし、なんと従者は話の序盤で命を落とします。これはもう悪いとしたら完全に私の性癖が悪いのですが、個人的には親の職を継いで、今は友人関係にある二人だけど成長するにつれて生まれる関係性の変化がどうなるのか……という部分が気になっていただけに悲しみが大きかったです。マグリヴ……。
 発狂したらどうなるか、というところの具体性が書かれているのがいいですね。発狂することで自殺衝動に駆られることによって死んでしまう。これはお話のキーポイントになる特性です。これがアヴドゥル自身が体験しているというのが話の中で本当に皮肉な構造になっています。そしてそれによってマグリヴは代わりのように命を落としてしまう。マグリヴゥ……。
 話は一転、戦場に移り変わります。臨場感のある戦場の描き方はお見事としか言いようがありません。難をいうとしたら、私はこうした戦記物になじみがないので、これはどっちの国のことで、主人公側はどっちのほうだった? と確認しつつ読んでしまったということです。どうしても馴染みの薄い固有名の使い方や情報を自分の中で整理するのに時間がかかってしまいます。これは私の読書量の低さ、読解力の低さに起因しているもので、自らの実力不足の恥をさらすようなものですが、慣れていない人間だと読むのにエネルギーがかかる、ということがなにかの参考になればと思います。
 そしてお話の最後はなんと皮肉にもマグリヴの命を奪ったマンドラゴラをアヴドゥルが守り通し、それによって戦場で勝つということです。どれほどの重みがアヴドゥルにあったでしょう。年老いてなお独り身であり、戦まみれで過ごした半生をマグリヴの墓の前で反芻します。幾年たってもマグリヴの死と後悔はずっと彼の中であったのだということがじんわりと伝わってきます。アヴドゥルゥ……!!
 この墓の前で、友を思い返し、もしも生きていたのが彼だったのならば、と考えをしてしまう。美しいですね。とても悲哀溢れるのですが、戦場の激しさから一転、静寂の中でただ一人のことに思いをはせるという構図が美しいです。アヴドゥルゥが独り身だったのはマグリヴになんらかへの思いがあるからだと信じたい、主従性癖です。
 マンドラゴラによって失われた未来。マンドラゴラによって守られた国。どうしようもない対比が重く、心にしっかりと印象を残します。とても素敵な作品でした。主従ゥ……。

54.木船田ヒロマル『マンドラゴラ研究序説』

謎の農家:
 マンドラゴラについての記事執筆依頼を受けた男が思わぬ真実に到達する話。
 主人公の名前が『木船田』ということで、フェイクドキュメンタリーとしての味わいが強いです。エピソードタイトルのエヴァパロといい、どこか現実と地続きな世界でマンドラゴラという異物が存在するんですよね。これがこのままミームとしてのマンドラゴラの恐怖に落とし込まれていく展開が上手く、アプローチとしても斬新だと思いました。企画終盤だからこその作品ですね。
 インターネットを使ってマンドラゴラを感染させる……? 何のことでしょうか……?

謎の肉球:
 作者と同名の主人公が、マンドラゴラの記事を書くために古い論文を調査する。そこには恐ろしい真実が……という伝奇ホラー。
 ミームの拡散というテーマが、当企画の主催者に起こっていることと重ね合わせると中々笑えてくるのですが、そこを抜きにしてもちゃんとホラーをしていて楽しい。
 のんきに読んでいたら、最後の最後に怒濤の展開になってびっくりです。

謎の主従性癖:
 マンドラゴラの記事を書くことになったライターの顛末。
 「マンドラゴラ研究序説」という論文が記事のネタになりそうだ、というところで主人公の「Amazonでも楽天でも売ってないのかよ! 書籍化されてないのかよ!」の台詞は笑ってしまいました。でも気持ちはわかります。論文などを探して「要旨は載ってるけど●●大学に寄贈してあることしかわからねええええ」というときなどあります。なんで全部電子化してくれないんだ!というときがあるので共感ポイントが高かったです。
 この先はネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。
 遺族立会いの下でくだんの論文を読めることになった主人公。しかし、ここで重大なことを知ってしまいます。そう、「ミーム」のことを。
 これはこの企画に参加しているからこそ、通じるものがあります。もちろん知らなくても内容として面白いんですが、「マンドラゴラという言葉自体に感染力がある」ということです。これはこの企画を立てた主催者が「マンドラゴラのミームの拡散を……!」とSNSでひたすら言っていたことを、拾ってきたものだと思います。そういった背景を知っていると、「なるほど、マンドラゴラのミームですね……」と頷いてしまいます。
 これはこの企画だからこそできる小説だな、と思いました。マンドラゴラの特性をその巨大なミームの力にフォーカスをあてています。いやあ、本当にすごいですよねマンドラゴラの感染力……これは経験者にはわかります……。
 ラストの終わり方もマンドラゴラの拡散をとめる(物理)勢力がいるということでマンドラゴラのパワーの強さがわかります。拡散を止めなくてはいけないその気持ち、とても分かります。マンドラゴラは汚染されるとマンドラゴラのことしか考えられなくなるんマンドラゴラですね……これをかきながらも私はマンドラゴラ一体どれほど汚染されてるか自分で恐怖で震えマンドラゴラしてマンドラゴラます。

55.@kuragesatohotri『お姉ちゃんのマンドラゴラ』

謎の農家:
 弟の病気を治すために、姉がマンドラゴラを抜く話。
 やられた!!!! 童話のような語り口は読者を翻弄させるための囮、その正体は……与太話!!
 抜マンドラゴラ術、武術として成り立たせるためにはロケーション選びが大事すぎませんか? 最初の一発以外はほぼヌンチャクとかモーニングスターと使用感が変わらないというめちゃくちゃコスパ悪い武器だし……。

謎の肉球:
 これは胡乱界隈の文脈なのでしょうか……貧しい姉弟は、病気の弟のために命がけでマンドラゴラを取りに行く。しかしその行く手を阻む狼が……からの落ち。
 たぶん弟は助かったんじゃないかなと思うのですが、それまでの流れを全部ぶった切って格闘術だか特殊な農業法だか分からないものの話になるのは、ネタにしてももうワンクッション欲しいな、という気持ちがあります。
 せめて姉弟のその後の顛末について書きつつ、萬田流抜マンドラゴラ術とはそもそも何か、という説明を入れないと、笑うにも雑さが引っかかりました。
 それにしてもお姉ちゃん、強いですね。

謎の主従性癖:
 お話のメインストーリーは、病気の弟のためにマンドラゴラを探しにいこうとする姉のお話です。
 この部分はとても王道で、マンドラゴラの薬効成分とそれをはかりにかけてのリスクをとるかとらないか、そのためにどうしたらいいか、とまっすぐなお話です。
 この先は重大なネタバレを含みますのでご注意ください。
 「メインストーリー」はと書いた通り、この話の最大のオチは「ええええええまさかそうなるの!?」と読んだとき声を出して笑ってしまいました。萬田流抜マンドラゴラ術ってなんだよ! 肉団子食べるってなんだよ!!! と物凄く笑いました。
 序盤もかなりシリアスのまま進むんですね。妖しくなってきたのはオオカミ登場です。なんだかずいぶんオオカミのところのアクションの描写が多いな? とは思ったんですが、まさからラストのここにぶつかるとは。面白すぎます。
 このお姉ちゃんの自分の鼓膜を破って絶叫をふせぐ、というのも思い切りとパワー、なによりそこまでやるならばたしかに萬田流抜マンドラゴラ術の始祖にもなるよね、と納得してしまいます。
 弟はどうなったのか、とても気になるところは残ります。読んでいて どうなったの!? と気になるのは事実なので、ラストに軽いさわりでいいので出してほしかった……という気持ちはあります。しかしこうした逸話にはあえて記述されないものがあるのも事実……と考えると、あえて説明しないほうがバランスがいいのかもしれません。難しいところです。
 とにかくラストに全てを持っていかれました。面白かったです。

56.釜矛『マンドラゴラ娘との生活』

謎の農家:
 期間内に完結していなかったため、講評はありません。

57.ゆきやなぎ『片葉のマンドラゴラは生きるか死ぬか』

謎の農家:
 大学構内で起きたマンドラゴラ殺人事件に巻き込まれた幼馴染グループの話。
 冒頭の魔術部にまずやられました。文学部、自然科学部に並んで魔術がある大学、ファンタスティックでいいですね……。図書館に魔導書とかあるのかな。
 ゆきやなぎさんといえば『きいろい服のおっさん殺人事件』のようなミステリー作品も書かれる方という印象があったのですが、今回の作品もミステリとして面白かったです。マンドラゴラの設定が凶器として生かされ、最後の展開も引きとして効果は抜群でした。
 同時に、その引きが少しクリフハンガーに寄りすぎている気もしました。字数に余裕もあったことですし、“生きるか死ぬか”が最後に明かされる展開でも悪くなかったのではないでしょうか。
 とはいえ、キャラクター同士のやりとりや思わぬ展開などは流石の一言です。中編で読みたい作品でしたね。

謎の肉球:
 マンドラゴラミステリー小説。同じ柄の耳栓を渡すあたり、犯人はだいぶ雑というかうっかりさんだなと思いましたが、まさかこの破れかぶれで結末とは。
 文字数にはまだ余裕があったので、この後さらにもう一ひねりして落ちがあれば良かったなと個人的に思います。
 また、犯人の動機に突然「俊也の病気」が出てくるのも首を傾げるポイントでした。慌てて走ったことで軽いめまいと動悸がする、というのが伏線なのかもしれませんが、これだけですとただの運動不足と区別がつきませんし。ミステリーであるからには、情報はきっちり出しておいて欲しいなと思います。

謎の主従性癖:
 マンドラゴラミステリです! ミステリ好きなので嬉しいですもっとください!
 こちらの話、私はとても好きです。短編小説のミステリ、なかなか難しいのですがきちんと伏線を入れつつ回収されております。
 この先はネタバレ全く考慮しないので気をつけてください!
 さて、今回はテーマがマンドラゴラです。だからこそ序文の「空を裂くような絶叫」がミスリードとして使われているんですね。中盤で教授も「死の悲鳴」について説明をいれています。しかし実際は朱美の悲鳴だった、と。これは多分、犯人の怪しい動きを演出するためとマンドラゴラの悲鳴という特色を出すのにもつかわれているのかなと。
 ただ、動機と凶器の仕方は作中で言われてる通り少し杜撰かな、と思いました。イヤホンを調べたら作ったのが誰かに行きつくのでは…? 俊也の病気もいきなり出ているので、最後のほうは情報が過多になって整理するのに手間取ってしまいます。また、マンドラゴラを無事採取して、俊也の病気が治るのを待ってもよかったのではないか、と思います。おそらくそうしてもそのあと、朱美が彼に自分を差し出すような真似をするのを見たくはなかったのだろうというのはわかるのですが、唐突感がどうしてもあります。
 ですが、ラストにマンドラゴラは完全に死んではいない、という仕掛けを残しているのは面白いです。最初から最後までマンドラゴラの特性を生かしたミステリーとなっていて、楽しく読めました。短編でミステリーをまとめるには必要な情報の出し方の整理や、そこに伏線を混ぜ込むなど気をつける点が多いと思います。ゆきやなぎさんの文章はきっちりしていて読みやすく、お話の雰囲気にも文体があっています。地の文にも伏線となる部分をしっかりいれられています。文字数にまだ余裕があるので、ラストの駆け足部分を整理しなおしたらもっと面白くなるのでは? と個人的に期待してしまいます。文章や内容を含めて私は好きな作品です。面白かったです!

58.三谷一葉『恋茄子殺人事件』

謎の農家:
 天才劇作家『舞鶴聖天』の死と3人の女の嘘の話。
 出てくる女性が3人とも悪女だったのが良かったです。全員がそれぞれ腹に一物抱えて、何かの演技をする。女優という職業設定と噛み合っていたのも魅力的でした。
 また、正妻と大女優の2人が自らを飾るためにマンドラゴラを利用した構図が面白かったです。殺したのは新人女優なんですけど、悪人度は3人とも変わらない気がするんだよな……。

謎の肉球:
 マンドラゴラミステリー小説……と思わせて、実はミステリーではない。ジャンル設定が「現代ドラマ」になっているのも納得の一篇。
 実はキャッチコピーがもの凄いヒントになっているのですが、この真相は予想外でした。二人の女性が、まさかそんな理由で「自分が犯人」と主張していたとは。
 そして最後に付け加えた一言がまた、マンドラゴラという題材にふさわしい。マンドラゴラ、劇作家、そして女優。この三つのお題が綺麗に活かされた作品でした。

謎の主従性癖:
 偉大なる劇作家、舞鶴聖天を殺害したのは誰か――?
 こちら、読んでいてミステリーだと思ったのですが、ジャンルは現代ドラマなんですね。関係者から話を集めて、重なる部分や空白の部分を洗い出していくようにお話を整理していくのは謎解きのような要素があります。とても読みやすく、お話の構成や内容もとても面白かったです。
 講評では謎解き要素に関わる話にも触れるので、未読の方はご注意ください。
 メインは舞鶴に関わる三人の女たちの独白です。正妻と大女優は「自分が犯人だ」と主張しているところに、三人目は「自分は何もしていない」と主張することでメリハリがついています。それぞれの独白も個性がでていて、読みやすいです。そして真相を知ってからもう一度読むと、舞鶴に対しての印象はおそらく嘘をついているのですが、重要な「なにをしたか」については基本的に(犯人をのぞけば)嘘は言っていないんですね。面白いです。
 気になったのはケーキの部分です。犯人であるひかりは麗華が食べられないようなケーキを美味しく食べた、というところは矛盾があるんですよね。これは怪しまれないように嘘をついたということなんでしょうか。ここは作中に書いてあるのに読み取れていなかったら申し訳ありません。
 真相部分はとてもあっさりしています。謎解き要素があるのか? と思っていた分、ちょっと物足りなさを感じました。ですが、この作品は一人の男の悲劇をとりまく女たちが作り上げた舞台の現代ドラマであるから、あえてミステリーとしての要素を強くしないために真相のネタ晴らしはあっさりしあげたのかな、と思いました。それに、殺したタイミングが舞鶴が倒れてからなので、きっとタツ子や星宮は本当に少しずつ薬を飲ませていたりしたのか、というのは事実なのか、という予想をするとゾッとするものがあります。
 ラストに「せっかくなら恋茄子を使えばよかったのに」という言葉は、青酸カリというわかりやすいものではなくもっと劇的なものを使えばいいのに、というものと、「舞台設定でマンドラゴラがメインなんだからシメもそれを使えばよかったのに」という風に読み取れます。後者は女二人が恋茄子をひたすらアピールしているものと、さらにはメタ的に言えばマンドラゴラがテーマなのだから、という風にも捉えられます。どの意図から発されたのかはわからないですが、舞鶴の死を嘆くよりも、いかに効果的に演出したほうがいいかを考える二人の女は、犯人であるはずのひかりとの格の違いが見えます。
 殺害したのは誰か? というのは重要ではなく、男の死をも舞台として完成度をあげようとする女たちの競演が面白かったです。

59.お望月さん『悲剣・恋なすび』

謎の農家:
 旅の座頭、『恋なすびの市』が活躍する時代劇。
 そのまま長編シリーズ化できそうな作品でした。時代モノはあまり読まないのですが、それでも座頭市を彷彿とさせる登場人物やエンタメ性の高い作劇などが楽しかったです。
 市が直接マンドラゴラを使うわけでなく、その剣術がマンドラゴラの異名を持つという展開もオリジナリティがあって面白かったです。花売りの剣士としてのキャラが立っている……。
 また、しっとりした雨の描写が作品全体の雰囲気を落ち着かせていたのも好きです。ひりついた鉄火場の雰囲気と両立していたのがすごい……!

謎の肉球:
 江戸時代のとある侠客が出会った、座頭市ならぬ恋なすびの市。マンドラゴラ要素を抜けば、きっちり時代物の空気と文体がカッチリしている(一部「ストレス」なんて横文字もあるけど)のも好印象。こうした雰囲気作りがとても上手い方ですね。
 ただ、最後の「治療」の下りだけは少々不可解で、落ちが上手く理解できませんでした。五年前の場面について、もう少し詳しく書いてもらえれば嬉しかったです。

謎の主従性癖:
 『狂気山部屋にて』をかかれたお望月さんの二作目です。
 『狂気山部屋にて』と同じく、私が文脈を読み取れていないところが多々あるかと思います。その点は何卒ご容赦ください。
 舞台は江戸です。江戸時代もの、個人的に大好きです。さて、お話にでてくるのは座頭(盲人で琵琶やあんまを生業にしているもののこと)の市です。映画(ないし小説、ドラマ)の「座頭市」 がモチーフでしょうか。「座頭市」というと私は北野武の映画を思い浮かべます。(読みながらずっと映画の座頭市のキャライメージを思い浮かべてました)
 市は按摩師ではなく花屋。花屋とだけいうと可愛らしい雰囲気がしますが、作中では花屋が上流階級から重宝されていたと書かれています。この職業がマンドラゴラ、つまり『恋なすび』にかかってくるんですね。
 いかにもいい人そうな修造と一緒に賭博に向かう二人。目が見えないと丁半(サイコロを転がして偶数か奇数かあてる賭博)なんて遊べないものですが、修造がしっかり市の目になって稼ぎに稼ぎます。そして出てくるは賭場の胴元のいかさま、そして大乱闘。もちろんただではやられず、しっかりとお返しします。『恋なすび』の名のもとに。
 この作品、恋茄子自体は出てこないのですが、市が『恋なすび』の二つ名――マンドラゴラを抜けば死ぬという毒草の名前――を持つ侠客。つまり彼の仕込み杖を抜けば末路は――ということです。マンドラゴラ自体は出てこないのですが、二つ名という使い方で市のキャラクターを作っております。わかりやすいのですが、意外とないアプローチだなと思いました。マンドラゴラ、という名ではなく和名なのもまたお話の雰囲気にあっています。
 話は江戸らしい粋っぽさや陽気さがあふれするする気持ちよく読めます。ラストの意味深な終わり方は、わざわざ自分が斬った相手にお花を上げにいくということらしく…? 軽くはない事情があることが察せられます。基本、一つの作品内のものとして読むので、この事情のところはもう少し説明がほしかったかな、と思いました。ですが、修造がそれを「優しいね」といって市が笑うという最後の終わり方はしっくりきます。たまたま長屋で一緒になっただけの二人なのに、妙に気の合い、悲剣使いの恐ろしさよりも不器用に笑う市の人間らしさがにじみ出ています。短いお話でわかりやすく勧善懲悪的なサッパリ感を楽しめる、いい作品でした。

60.灯翅『マンドラゴラは喋らない』

謎の農家:
 育て抜いたマンドラゴラに話しかける少女と、彼女に育てられるマンドラゴラの話。 
 本来意思の疎通ができないものに愛着を持って話しかけるという行為は大なり小なり多くの人がやっていると思います。それが抜くと身に危険が起こるマンドラゴラだったとしたら……。
 この作品の好きなポイントとして、挿入されたマンドラゴラの視点があります。育てる側が大切な人を救うためとはいえ抜くことで命を奪ってしまう状況にあって、ドラゴは声を上げなかった。彼の「友達を守りたい」という思いが本能に打ち勝った結果彼らは目を合わせることができたのかな……。

謎の肉球:
 ハートフルマンドラゴラストーリー。意識を持ったマンドラゴラや、マンドラゴラとのコミュニケーションを検討した作品はいくつかありましたが、土に植わったままのマンドラゴラ視点というのは中々異色の発想です。
 このお話は切なく温かい終わりとなりましたが、この世界のマンドラゴラ全てに意識があるとすれば、それを人間に気づかれず生きている彼らのことを考えると、ちょっと怖いですね。ベルちゃんには幸せになって欲しいものです。

謎の主従性癖:
 マンドラゴラと少女のお話。マンドラゴラ視点でのまっすぐなマンドラゴラ小説は意外と少なく、逆に新鮮に読めました。
 お話もストレートです。序盤にすでに少女ベルがマンドラゴラことドラゴをどうしようとするか、はっきりと書かれています。ベルは罪悪感にあふれていますが、ドラゴ視点ではベルがいかにドラゴに優しさを持って接していたかが伝わります。しかし「仮に目がみえるのだとしても彼女の姿をみることは叶わない」という、どれだけ交流(ベルからの一方的な会話だけだとしても)を重ねても、本来は互いの顔もなにもかもわからない断絶があります。 
 ちょっと気になってしまったのは、ベルが友達であるドラコと引き換えにするクロノくんです。これは本当に個人的な気持ちなので、見当違いかもしれないのですが、「欲しがってたアクセサリー、買ってあげたらすっごい喜んでくれてさ。おかね貯めた甲斐があったよ」というベルに、「だ、騙されているのでは…?」と心配になってしまいました。きっといい人なんだと思うのですが、はっきり恋人関係になってない中で、強盗に狙われるようなアクセサリーを贈る、とは……完全に無粋な想像ではあるのですが、主要キャラであるドラゴとベルの命を引き換えにするほどですから、クロノくんがいかにベルにとってそれをするに値する人物か、という描写がほしかったな、と思います。
 ベルにとってもつらい決断、クロノを助けるための特効薬のためにマンドラゴラであるドラゴを抜く決意をします。ここで「ごめんね、ドラゴ。私の命で許してね」と最後に哀願するベルに切なくなります。それほどの覚悟なのか、と。それに対してドラゴが選んだ決断も、ドラゴが最後に「ただ嬉しかった」と思うだけなのも、切なく心に訴えかけます。本来抜いたらベルは死ぬはずですが、ベルとドラゴは確かに一瞬、互いの顔を確認できたのです。その一瞬の邂逅の悲しさと美しさは、お話の中でも光り輝いています。
 そしてタイトルの「喋らない」が悲鳴を上げないこと、決して2人(ひとりと一株)の間では会話が生まれることはないという二つの意味がかかっています。読み終わってからタイトルを読むと、「喋らない」の重さがのしかかってきます。とてもいいですね。話の起承転結もわかりやすく。キャラやテーマもしっかり伝わるいい短編小説でした。

61.草食った『マンドラゴラのダイちゃん』

謎の農家:
 鉢植えで育てられていたマンドラゴラが自然に帰るまでの顛末の話。
 めちゃくちゃ草さんって感じの作品でしたね……。これが三題噺で生まれたのか……!  ダイちゃんの人生には終始悲劇が付き纏うんですけど、それに伴う屍の数が多いよ……! 
 マンドラゴラの生存戦略とはいえ、擬態のために人間を手にかけないといけない生物は人間に危険視されてもおかしくない種族なんですよね。そう考えると、ダイちゃんが大根なら観葉植物のまま幸せに暮らせたかもしれないのが辛いですね……。あの時、長子と一緒に死んでいれば……。
 ラストはバッドエンドを予感させて終わるんですけど、ダイちゃんがせめて幸せに死ねることを祈らざるを得ない話でした。

謎の肉球:
 こちらもマンドラゴラ視点の作品ですが、自分で動き回ったり、人間に擬態する能力を持った活発なタイプです。植物だから性別はないはずなんですが、途中になんかマンドラゴラBLが一瞬挟まったような気が……?
 共に暮らした一家、パートナーとなった男。幸福をつかみながら失っていき、土に還るダイちゃん。安息を求めてもなお邪魔される様は切ないものがあります。何も知らず引っこ抜こうとした方はたまったものじゃありませんが、マンドラゴラ的には当然の報いではありますね。ダイちゃんに幸多からんことを……。

謎の主従性癖:
 草さんのマンドラゴラ小説です。三題噺ということで、テーマであるマンドラゴラ以外に「ぐるぐるバット」「約束を破る」という内容が盛り込まれています。
 大根と勘違いされ、ダイちゃんと名づけられたマンドラゴラのお話。大根として生きているうちはとても平和な日常です。知らなかったのですが、大根は畑で植えるだけでなく、鉢植え(プランター)を使って栽培できるようですね。
 ダイちゃんと名づけられたマンドラゴラ。このまま幸せに生きていけるかと思いきや、一転、強盗によりその平和な日常が壊されます。そのあとは人間に擬態し、同じマンドラゴラの男と暮らしますが、これも叶わなくなります。
 そうした孤独なマンドラゴラのお話です。
 全体として哀愁が漂う、物悲しさを感じるお話です。お題の中のぐるぐるバットもバカなグループの会話らしいと思います。ただ、どうしても「スイカわりならぬ大根抜きってなんだ…?」と想像してシュールな気持ちになりました。バットでぐるぐるしてから目隠しして、周りの指示に従ってマンドラゴラを抜こうとする絵面、かなりコメディだなと思いました。いっそそういうゲームを見てみたさがあります。ぐるぐるバットからのマンドラゴラ抜き。
 もしかしてダイちゃんにとって救いなのは、自分を愛してくれた家族に「そろそろ収穫の時期だ」と抜かれて、自らの手で家族を殺さなくてすんだことかもしれない、と読んでいて思いました。ダイちゃんのマンドラゴラ生の余生が、少しでも穏やかなものであることを祈ります。

62.@ravenwood_09『怪異K-216種に関する新発見報告』

謎の農家:
 河童の研究により発覚した、恐ろしい事実の話。
 河童マンドラゴラだ!! 評議員の中では僕しか拾えなさそうなネタだと予想して解説しますと、「生物学者も知らない河童の特徴とは?」というdiscord鯖の大喜利的な流れから生まれた小説ですね。河童の緑は葉緑素。
 SCPオブジェクトを彷彿とさせる報告書形式で楽しく読めました。河童の生態、改めて考えると恐ろしいですね。尻子玉って腸だったの!? あの皿ってマンドラゴラの葉だったの!?
 寄生植物マンドラゴラによって生まれる河童、扱いがほぼゾンビなんですよね……。恐ろしい……!!

謎の肉球:
 報告書形式で描かれるマンドラゴラ小説。とはいえ、ここで俎上に上がっているのは「河童」であって、はてどう関係してくるのだろう? と見ていくことになります。河童の体色はさまざまで、今回の観察対象には体液に含まれる葉緑素が色の元になっているらしい。ではその河童とマンドラゴラがどう関係するのか、他の河童はマンドラゴラと無関係の別種なのか……想像が膨らみます。
 ただ、せっかくの報告書形式なのに誤字が多く、スタイルとしてのリアリティがもう一歩惜しいのが残念。しかし、非常にユニークな発想でした!

謎の主従性癖:
 なんと河童から繋がるマンドラゴラ小説です。
 話はSCP風な形式で進んでます。また、切り口がマンドラゴラであろう怪異M-893種の説明ではなく、怪異K-216種こと『河童』に怪異M-893種が寄生されていることで怪異K-216種の新発見報告をしながら、怪異M-893種の話を絡めているのが面白いです。
 相撲を挑んできて尻子玉をとる怪異K-216種だけでもこわいのに、怪異M-893種の苗木を埋め込まれて寄生された怪異K-216種α群へ変質するという連鎖、とても怖いです。
 いわゆる河童の伝承――頭部の皿が弱点である(乾くとだめ、割れると死ぬ)というのは寄生している怪異M種につながるのではないかという着眼点も面白いです。まさかそこで繋がるとは……これは発想の勝利ですね。
 ただ小説として見た時に、オチが弱いというか、起承転結のストーリーとしてうまくできているかというと難しいです。しかしジャンルは伝奇ものであり、報告形式をとっているのでこのあたりがちょうどいいバランスなのでしょうか。
 読み物としては本当に「こうきたか!」と膝を叩くほどやられた感がありました。研究員たちの説得、是非うまく説得してもらって、追加調査の報告が知りたいところです。相撲を挑む理由は……わかる日がくるのでしょうか……。

63.常盤しのぶ『マンドラゴラ3分クッキング』

謎の農家:
 マンドラゴラと牛肉の野菜炒めの話。
 完全に見たことある!!!! キャッチコピーはスポンサーの方だし!!
 マンドラゴラ料理小説のアプローチとして、出てくる土井……五井義春先生もエミュレート精度が高いんですよね。関西弁の扱い方もめちゃくちゃそれっぽい。
 一つ気になった点として、マンドラゴラの叫ぶ要素がなかった事があります。料理番組が普通にマンドラゴラを扱っているというアプローチとしての意図だとは思いますが、他の根菜でも代替可能なように感じてしまいました。
 次回は狐料理か……逃げなきゃ……。

謎の肉球:
 ご長寿料理番組をそのまま再現したマンドラゴラ小説。
 誰かさんをほうふつとさせる料理の先生と、助手さんの会話が妙にリアリティが高く、モデルであろう番組がそのまま脳内で再生されていきそうです。
 ただ、それだけに「実在する番組をそれらしく文字起こしした」だけに止まっている部分があり、短い文字数にもかかわらず途中で飽きが来てしまいます。
 マンドラゴラが乾物として売られていたり、水で戻す下りなどは良かったので、マンドラゴラネタをもっと活用して欲しかったですね。
 ただ、ちゃんとレシピに分量などを書く細やかさは素敵です。個人的にはオイスターマヨ炒めも美味しそうかなと思いました。

謎の主従性癖:
 テレビで放送されるような簡単クッキング番組のマンドラゴラ版です。
 作中でいわれてるとおり青椒肉絲のような料理にマンドラゴラを混ぜたクッキングです。あいまいあまにはいる「では下ごしらえです」や「できあがったものがこちらになります」など、簡単クッキング番組であるあるの「番組で調理はしてるけど調理済みのものがすでにある」という風体になっているのにくすっとなりました。
 正直、お話としては「美味しそうだなあ」とは思うのですが、テレビ番組でありそうなやりとりが続いていているだけで、ストーリー性や話の盛り上がりがあるかと考えると、首をひねってしまいます。
 マンドラゴラはこの世界ではお薬の材料として認知されてはいるけど、そこまで危険性のあるものとして思っていないようですね。乾燥させることでグルタミン酸といううまみがでるなど、水に戻すとぷるぷるするなどは本当に食材らしさがあって面白かったです。
 小説としてみると物足りなさを感じるのですが、グルメとしては純粋に美味しそうだなと思いました。これは食べてみたいなあ。次回の狐肉の塩麹ソテーも気になります。狐の肉、どう調理して食べるんだろう……。

64.蒼天 隼輝(@S_Souten)『かくしもの』

謎の農家:
 2人の少年の大人への隠し事と、彼がそれぞれ抱く隠し事の話。
 めちゃくちゃ良かったです……! 子供の頃の秘密基地を彷彿とさせるジュブナイルと、彼らがお互いを思いやるがために生まれた秘密が明かされるミステリー。それがマンドラゴラというファンタジー要素と違和感なくまとまっていて、総合的な完成度がとても高い印象を受けました。
 ラルゴの決意と最後の行動は少年特有の無鉄砲さの現れとしてとても良かったのですが、それを影ながらサポートしたお爺さんの存在がとにかく良かった……!! ドーマの母親と対比される「理解のある大人」としてのバックアップがとても上手い……!!  最後のハッピーエンドまで含めて、とても良い作品でした。ありがとうございます!

謎の肉球:
 二人の少年の友情マンドラゴラ小説です。
 勉強が得意なドーマと仲良くなったラルゴくんが、洞穴に作った秘密基地でこっそりマンドラゴラを育てて……という童心をくすぐる導入から、ドーマの辛い家庭環境の話、友情の危機となり、最後までハラハラして読みました。
 母親の行動に対する背景も知りたかったけれど、尺の都合もありますし、とてもハートフルなお話で良かったです。これからも大変そうですが、ラルゴとドーマには、末永く幸せでいて欲しいですね。あとおじいちゃん、ナイス。

謎の主従性癖:
 マンドラゴラを秘密基地に隠す、二人の少年のお話。
 このお話、とても完成度が高く、かつ面白いです。読みやすくてわかりやすい文体に、読者の気をひくように伏線がしかけられています。二人の友情のテーマも、それに対してのマンドラゴラの使い方もとても上手です。マンドラゴラ小説としても、一つの小説としても面白く、魅力にあふれています。
 以下はネタバレがふくまれるので、ご注意ください。
 はじまりは小さな、だけど二人にとっては大きな冒険である、秘密基地と隠れて育てるマンドラゴラがでてきます。ここが本当にわくわくします。二人だけの秘密っていうのがいいですよね。
 しかし、この時点でラルドはドーマに嘘をついているんですね。そこがほんのり出ているのがいいです。そしてそこから二人で協力してマンドラゴラを育てていくんですが、ドーマが親から虐待を受けていて、本当は死にたいがためにマンドラゴラを育てていることが発覚します。ラルゴはラルゴなりに、どうにか今のドーマをなんとかしたいと、必死になっているところはドキドキしました。
 結果として誰も死にません。そもそもマンドラゴラを用意したラルゴのおじいちゃんが栄養不足の、間引かれたマンドラゴラをラルゴに渡していたからです。これは序盤の「軽すぎることに驚いた」や「おじいちゃんに駄々をこねて用意をしてもらった」ことから、成長したマンドラゴラではないのだろうという想像はつきます。ここのおじいちゃんの「周りはなんも言わんがな、見てないとは誰も言っとらん」というセリフがすごくいいです。
 このお話は、二人の少年のとても小さい世界・視点の物語です。子どもであろうとも、自分にできることが少ないからこそ命をかけるほどの大きな問題なのだ、ということが表れています。子どものお遊びだ、と大人視点から見ることはできますが、ラルゴの視点からこのお話を読むと、ラルゴもドーマも自分の中で精いっぱい考えて、できることを探そうと模索しています。そうした二人の必死感と、その中の友情が輝くからこのお話はとても素敵なんだと思います。
 最後の終わり方も、少し成長して「喜びで泣くのはそんなに悪くない」「二人でバカなことをしたと笑うんだ」と成長を感じさせるもので、読後感はキラキラとした感情に包まれます。胸にぐっときました。ボリュームもテーマも内容も申し分ないです。とても楽しく読ませていただきました。

65.@dekai3『絶叫系シェイプシフター マンドラ⌘ゴラ子』

謎の農家:
 シェイプシフターの小学五年生『万灯らごら』が暗黒農家と戦う話。
 CCさくらじゃん!! そう思うくらい見覚えのあるキャラ配置と台詞回しでしたね……! 父親が敬語なのもなんかそれっぽく感じる。
 イナリーコンとか暗黒農家とか絶妙に内輪ネタを挟んでいってるのも面白いですが、最終的にらごらちゃんの被害規模がデカすぎるのが一番面白い。災害だよこんなもん!!!!!!!!!

謎の肉球:
 ここまでありそうでなかった、魔法少女パロディものです。冒頭の導入がやや読者を置いてけぼりにしている感じがするのが難点だな……と思いながら読んでいたのですが、落ちのぶっ飛び具合の前にはささいな問題でしたね!
 マスコットキャラクターの名前が明らかに主催者由来だったり、細々とネタが多い一篇でした。ネギの紹介に前代未聞の形容がついていた所が一番笑いましたね。

謎の主従性癖:
 変身少女のお話です。
 いわゆる魔法少女のような、スティックやなにかを持って変身する少女への言葉やジャンルがあると思うのですが、一貫して「シェイプシフター」「変身(シェイプシフト)」という言葉を使うところに作者の意思が見えます。
 お話としては、もう完全にコメディです。途中までは、周りには秘密にしながら悪と戦う正義の少女が、父親を悪漢に人質にとられどうする!? というお話です。独自設定をわかりやすいお話のパターンにいれるのはとても読みやすいです。
 そんな少女らごらが変身したのは――マンドラゴラ。
 それはもう、確かに「変身したら父親は死ぬ」というのが理解できます。圧倒的パワー。コンちゃんが抜いたら確実に死ぬ。だってキルスコアは民間人を含めて5ケタごえです。そう、ラストには父親だけではなくて周囲5キロメートルの人間が全部死んでいるんですよね。もうこの圧倒さは笑うしかありません。なんてすごいんだシェイプシフター。
 父親はらごらの正体に気づいていたようですが、コンちゃんの存在は気づいてなかったのかな…?イマジナリーコンパニオンはイマジナリーフレンド(想像上の友達など)と同じ意味だと解釈して、実体はないのかと思っていたのですが、植木鉢からひきずり出すのはコンちゃんの役目だから別人格としてある程度物理干渉できる存在なのかな…? とコンちゃんの存在が気にかかります。
 コンちゃんが完全にイマジナリーでらごらの想像上にすぎないとしたら、最後の「いっぱい泣いたらいい…。今日のお前には、その権利がある」というかっこよくも優しい言葉をかけているのはらごらの想像上の友達からの言葉なのか……と味わい深さがあります。
 このさきもがんばれ、らごら! それにしても群馬産の葱、すごいんですね。

66.こやま ことり『マンドラゴラ祭囃子』

謎の農家:
 怪異保護機関支部のバディがマンドラゴラに挑む話。
 的確に主催の心臓を刺しにきた作品ですね! その意気や良し!(瀕死)
 紺野さんがまず好きです。生活能力がなさそうなところも、だらしないところも、ローテンションな中に何かが燻ってそうな雰囲気も! 相棒のツネも後輩キャラの割に何か抱えてそうな妖狐なのもいいよね……!
 また、怪異保護機関の支部という設定も美味しいです。このまま連載シリーズ化できますよね?? 是非見たいんですけど??
 マンドラゴラ小説賞そのものが儀式になっていたなんて……! 僕も機関の人間に追われてしまうのでは……? 完全に偶然の産物なんですけど、数秘術と絡められたら何も言えません。僕の負けです。

謎の肉球:
 あやかしものマンドラゴラ小説。
 キャラクターの名前が主催者由来だな……と思っていたら、作中で起きる事件の原因もこの企画になっており、メタフィクションでもあります。数秘術的な理由付けがもっともらしいような、強引なような。どっちでも良いけど思わず笑ってしまう。
 解決策としてアメノウズメ伝説的な方法がとられてタイトル回収となるのですが、それとは別に前半から伏線があった主人公の体の変化があったり。これは最終的に、末永く助手とよろしくしていく、ということなのかな?

謎の主従性癖:
主催者の趣味を狙いにいったらこうなりました。あとこの企画のにぎわった嬉しさに、お祭りを書きたかった。

67.@yuichi_takano『マンドラゴラ・トラジェディ』

謎の農家:
 幼い兄妹2人を襲った悲劇と、マンドラゴラの歴史の話。
 まさしく悲劇でしたね……。マンドラゴラそのものの効能に罪はなくても、独り歩きした情報によって幼い兄妹に待ち受けたのは死だった。しかしながら、妹の死は彼女が心から望んだ結果である……。僕の定義に当てはめるとハッピーエンドなんですけど、環境のせいで起きた悲劇でもあるんだよな……。
 せめて死後の安寧を願わずにはいられない、そんな話でした。

謎の肉球:
 悲劇のマンドラゴラ物語。
「病気の誰かのために、病に効くマンドラゴラを取りに行く」話はもはや定番と言っていいのですが、本作は最初から悲劇が強調されています。
「もしかしたら違う結末があったのではないか」と思わせるポイントがいくつかあることで、一層結末の悲惨さを強めており、人が悪いというか巧いというか。
 後味が良くないのですが、そういう話だと最初から言われているので、文句の付けようもない。マンドラゴラの効能も面白いですね。嫌な話だけど巧いです。

謎の主従性癖:
 こちらはタグにもあるとおり、救いのない兄妹の話です。
 いったい何が悪かったのか、誰が悪かったのか。マンドラゴラをとりにいかないとしても、二人の未来に希望はあったのか。色々詰んでいるところにさらに詰みにきたようなお話です。最初に「悲劇の話」と書いてある通り、もう本当に悲劇というか、救いようのないお話なんですよね。親戚の家のときに若干救いはあったかもしれませんが、おそらくそのまま無理をしても歪みが出るのでは……と思うと、やっぱりどうしようもないような気がします。
 マンドラゴラの独自設定は興味深かったです。シエラが死んでしまった時は「なぜ!?」と思ったのですが、そのあとの説明を読んでなるほどな、と思いました。老婆、なかなかすごいものを作ってらっしゃる……。
 兄が必死にシエラのために、とゾンビのような姿になっても妹を思う気持ちは胸にくるものがあります。そして葛藤しながらシエラは食べて、彼女は自分の「願い」を叶えます。この時の兄は痛みも感じることなく、ただ妹だけのことを思い、妹もマンドラゴラを食べた時は確かに幸福に包まれていたので、最後に苦痛を感じずに済んだ、それだけがこのお話での救いかもしれません。
 お話でずっとこの話は悲劇である、と書いてあったので、心構えをして読めました。何もなかったら、大分苦しんだかもしれません。きょうだい愛ものに弱いもので……。どうにか二人が幸せになれる道はなかったのか、と考えてしまいます。

68.ぎざ『マンドラゴラの密室』

謎の農家:
 密室と化した防音室の中で抜かれたマンドラゴラによる殺人事件の話。
 ぎざさんの密室シリーズだ!! 髭宮と小早川は『キョウキの密室』にも登場したキャラですね。今回登場した密室天狗は初登場キャラかな?
 ユーモア・ミステリの魅力として重要な会話が面白かったのはもちろんですが、密室天狗の存在が物語のリアリティレベルを一気に下げていたのが特に好きです。マンドラゴラがいるなら密室天狗もいるわな……。異能じみた力も使うよな……。
 また、トリックもマンドラゴラの特徴を活かしつつミスリードが上手く機能していたと思います。実際騙されました……!

謎の肉球:
 マンドラゴラミステリー小説。
 これまで出てきた中では、もっともトリックパートの説明がしっかりしていた作品ではないでしょうか? なるほど! と膝を打つトリックの鮮やかさは実に爽快。
 また、「密室に出入りできる能力者」というとんでもない存在が出てくるのですが、これが便利要員としてだけでなく、落ちにも効いてくるのがまた巧い。
 主人公がわりとボンクラタイプだから、ゆるいミステリーかと思ったら、ちゃんとしたキャラクターミステリーで非常に面白かったです。

謎の主従性癖:
 マンドラゴラの密室ミステリー!
 ミステリーものは好きなので高まってしまいます。舞台設定は「マンドラゴラの悲鳴で呪殺された被害者」「密室(防音室)の中のマンドラゴラ」「被害者は防音室の外にいた」というものです。
 舞台設定だけでたぎりますね。以下はトリックのネタバレを含みますので、未読のかたはご注意ください。
 ミステリー、推理ものでは情報の真偽や何を提示するかの要素は重要です。もちろん語り手の誤認を使う場合もあります(踊る花についているケーブルを「ヒモのようなもの」という誤認がなされてます)。正直、最初に耳栓がイヤホンではないか、という予想はできました。しかし、最初に「耳栓」と断定され、かつ警察二人が着いた時点で「耳栓の形をしたイヤホン」ということに気づかないというのは無理があるのでは? と思いました。
 またこのあたりは私が読み落としていたら申し訳ありません。「カギ穴から外の犯人の携帯まで悲鳴を届けた」とありますが、犯人は防音室の中にいるのに「外の携帯…?」となってしまいました。このあたり、被害者が犯人を最初に企てようとしていて、それを逆手にとって犯人が被害者を殺害するにしてはかなり計画が入念だな…? という不自然さもありました。
 ですが、マンドラゴラの特性を生かしたトリックは興味深いです。マンドラゴラの悲鳴が外に聞こえるはずのない防音室、という設定はマンドラゴラならではと言えます。とても面白かったです。
 怪しい天狗面の男のターンもかなりの盛り上がりポイントです。「密室だったら入れる」というこのキャラ付けがとても面白いです。彼によって密室は密室と証明され、「どう考えても密室」な金庫からSDカードを抜き取るシーンでは「おお!」となりました。しかも天狗の面にも意味があり、「心の密室」にもはいれる……これは強いですね。
 天狗の彼のはじまりのような別れの言葉。刑事と天狗面の彼がどうやってかかわっていくのか、先がきになるお話です。

69.2121『マンドラゴラ殺人事件』

謎の農家:
 マンドラゴラに囲まれて死んだ男と、肺を患った妹の話。
 マンドラゴラを使った殺人事件は後半に多く見られたアプローチでしたが、その中でも肺に種が入り込む作品は新しい切り口でした。土地の病、フィクションの題材としてとても興味深いですね。
 自らの肺を薬に変えようとしたアトリの行動は結果的に妹の未来を救うことになったのですが、同時にある種の自己犠牲的なビターさも感じるんですよね。本当にそれしか治せる方法がなかったのか……と考えさせるエンディングでした。

謎の肉球:
 タイトルからマンドラゴラミステリー二連続か! と思いきや、推理物ではありませんでした。あまり説明するとネタバレになってしまうのですが、別のマンドラゴラ定番ストーリーの方でしたね。
 土着のマンドラゴラが風土病になる、という設定が興味深く、魔の植物が存在する世界の環境を感じます。最後の治療法も、個人的には興奮するモチーフでした。
 短くまとまっていて、好きな要素が詰まった作品です。

謎の主従性癖:
 マンドラゴラで死んだ兄の謎を追うミステリー。
 コンパクトなお話の中で、ミステリー要素と感動要素がつまっています。なぜ兄は死んだのか? 妹は本当に犯人なのか? 兄妹の悲哀。読者の興味を引くフックもうまく、するすると読めます。
 以下はトリックに関するネタバレが含まれますので、未読の方はご注意ください。
 部屋の中のカナリヤもきっちり伏線として機能しているのが上手いと思いました。気になったのはマンドラゴラ自体の効能です。この世界では貴重な植物ではあっても、マンドラゴラの存在とその悲鳴によって死んでしまうことは知られているようですが、マンドラゴラがどんな効果があるのかという一般的な見解は触れられてなかったかと思います。マンドラゴラを食べ続けることで自分の体を薬にするという発想は面白いです。しかし神経毒が出るなどの効果もあり、マンドラゴラが食べるにしても薬にするにしても、一般的にどのように使われているのか、という対比があったほうがより兄の行動が際立ったかと思います。
 寿命が短いことを悟り、それならば自分の体を薬にして妹だけでも助けようとする兄の想いが胸に響きます。なかなかやろうとしてできることではありません。妹に直接その話をしなかったのは、そう簡単に兄の杯を食べることを頷かないだろうと思ったのでしょうか。死の直前、賭けのような、祈る気持ちでマンドラゴラを抜いた兄の気持ちを考えてしまいます。
 読みやすい文体で、規模感もちょうどよく、読みやすいマンドラゴラミステリー小説です。読後は悲しみを感じながらも、どうか妹は元気に生きてほしいと願わずにはいられないです。とても面白かったです。

70.綾繁『サイバーパンク・マンドラゴラ』

謎の農家:
 『脳掘り』を特技とする男が脅されて到達する、マンドラゴラ真実の話。
 ニューロマンサー風のサイバーパンクだ! 綾繁さんもサイバーパンク好きだとは思っていたのですが、僕の好みにブッ刺さる作品がまた生まれてしまった……。
 主人公のキャラが好きです。裏社会をスキル一つで生き抜くアナーキーさと軽妙な語り口が合わさって、絶妙に三枚目感があるんですよね。映画だとキアヌが演じてそうな感じ……。
 冒頭から叩きつけられるサイバーパンク語彙の群れに僕のシナプスが興奮しっぱなしなんですけど、冷静に考えると僕が死にかけてませんかね……? マンドラゴラは電子ドラッグだった……?

謎の肉球:
「ニューロマンドラゴラ」の言葉通り、サイバーパンクの代表作「ニューロマンサー」のパロディ。キャプションで書かれている導入がモロそのままですね。
 文体のノリもクールだし、このままもっと量を読んでいきたい作品! でありながら、落ちが企画の元になった「マンドラゴラ農家のお気持ち表明」と被せてきているのが予想外で笑ってしまいました。あの男の名前がフォックスの時点で気づくべきだったのか。精度の高いパロディをこうもお出しされる技術に脱帽です。

謎の主従性癖:
 サイバーパンクなマンドラゴラパンク小説です。
 サイバーパンクというものに疎く、読み取れていない部分があるかと思います、ご承知おきください。
 話は相手の脳にダイブして、非合法に相手の脳から情報を抜きだす脳堀屋(ブレインマイニング)が謎の「マンドラゴラ」という言葉だけをもとに死にかけの男フォックスの頭脳にダイブするお話です。
 用語とルビを合わせた使い方、全体に漂うアングラな雰囲気と、粗野ではあるけど下品にはならない描写が、サイバーパンクに詳しくない私にも世界観がよく伝わってきます。これは作者の文章力のうまさによるものだと思います。スピード感と緊張感を保ちつつ、脳へのダイブにうつります。幾重にも仕掛けられたトラップにでてくるものも年老いた男女の農作業をしている風景など、それ自体に意味がありながら、デジタル的なものとアナログ的なものの対比の構図が面白いです。
 そして肝心のマンドラゴラとはなんなのか? ――まさかあの四枚の画像が電子ドラッグの作り方であったとは。拡散した覚えのあるひとには黒服がこないかとゾッとしてしまいます。製法が書いてあなんて知らなかったんです……!
 マンドラゴラの使い方も、「情報を抜く」と「マンドラゴラを抜く」という言葉遊びが面白いです。ただレギュレーションとして作品内で完結していること、というのが前提で、肝心のSNSに載せた「お気持ち表明」を知らない人からすると最後の終わり方は少し無理があるかもしれません。ですが、それを抜きにしても、マンドラゴラパンク……ではなく、サイバーパンクに馴染みのない私でもすらすらと読めてとても面白い小説でした。ルーベンの斜に構えつつも軽妙な語り口も読んでいて気持ちよかったです。死体寸前だったフォックス、最期はどうなったのか……きっとおそらくもうこの世には……せめてもの祈りで叫びます。マンドラゴラ!

71.宮塚恵一『マンドラゴラドン外伝:華散る時』

謎の農家:
 巨大怪獣マンドラゴラドンと少年の友情と別れの話。
 すごく昭和特撮の香りを感じました。ウルトラマンシリーズとかで見た気がするんですけど、僕の幻覚か……?  プロフェッサーWが当然のように超能力を使うのもめちゃくちゃ昭和特撮の匂いなんですよね。エミュレート精度が高い……!!
 ラゴラ、巨大化する前はマスコット的な感じなんだろうな……。妄想が膨らむ題材なので、フルバージョンを書いてもらえると嬉しいです!

謎の肉球:
 なんと怪獣ものマンドラゴラ小説。巨大マンドラゴラはこれまでもいくつかありましたが、小さな怪物と子どもの友情というのは、鉄板のエモーショナルですね。
 宇宙人であるパトロールOは何か元ネタがありそうなのですが、今回は見当をつけることが出来ませんでした。ウルトラマンではなさそう?
 美しい話ではあるのですが、人間の勝手で植えて育てて利用して殺すという点では酷い話ではあります。ですが、この後に人類vsラゴラの激戦が始まるので、その部分については自覚的なのではと推察します。悲しい物語だぜ……。

謎の主従性癖:
 『アガラーナのマンドラゴラ』の宮塚さんの二作目です。
 一作目とは打って変わり、内容は怪獣映画のとある1シーンを切り取ったものです。特撮怪獣ものだと、上映した初期は人類の敵として描かれ、シリーズを重ねていくと子どもとの友情が描かれるということがあります。そのため映画『マンドラゴラドン』の流れも納得いくものでした。
 こちらの外伝と同様、この講評は映画『マンドラゴラドン』のネタバレを含みますので、未視聴のかたはご注意ください。(※私が住んでいる地球上では映画『マンドラゴラドン』はサブスク対応しておらず、未視聴のまま講評しております。申し訳ありません)
 大怪獣マンドラゴラドンことラゴラ。ラゴラはそもそもクラゲランという別の宇宙規模の怪物を倒すために、わざと植えられ、そして最終的に討伐される予定の存在です。最初から役割を終えれば死ぬことが決まっているラゴラ。なんとも切ない設定です。ちょっと音波攻撃が人間の脅威になるというだけのに……。このあたりに、パトロールOたちやプロフェッサーWたちの人類のエゴによって利用される宇宙生物、というなんとも言えない切なさがあります。
 そうした道具扱いされるラゴラに唯一友達として接してくれた市村凪兎への感謝の叫びのシーンはぐっときます。マンドラゴラという特性上、その叫びは悲鳴で会ったりネガティブなことが多いですが、これは圧倒的にポジティブな叫びです。
 ただ、ここでもうラゴラはかなり自分の終わりを受け入れているように思えるのですが、映画ではここから討伐作戦が始まるのですね……。巨大なマンドラゴラドンが海へとずっずっと帰っていくシーンが見えるようなのですが……(海ではなくマグマか宇宙のほうが合っているかもしれません)ただここは映画でカットされたワンシーンなので偏って見えるのでしょう。ここからクラゲランをも倒すマンドラゴラドンを人類の知恵でどう倒すのか!? がきっと見どころなのでしょう。是非映画のほうも観たいですね。

72.淡海忍『えずまがごせえ』

謎の農家:
 地域の特産物『万度こんにゃく』と土着信仰の話。
 民俗学的ホラーの味わいだ……! 作中に『マンドラゴラ』というワードはほとんど出てこなくて、完全に土着の何かとして存在してるんですよね。鳥取周辺が舞台なこともあり、かなりリアリティの高いホラー作品だと感じました。
 ここからは講評というよりは考察を兼ねた与太話なのですが、冒頭の『にがり』はそもそも海水由来なんですよね。えびすはヒルコとも読み、漂着物として扱われる。多分なんらかの関係性がありそうなんですよね……。
 獅子舞がマンドラゴラ狩りにおける犬の要素を兼ねるなら、山のものである『えずま』はえびすと対比されるものなのでは……? えびすが水子(≒胎児?)の象徴であり、本来人間を贄としていたえずまを万度こんにゃくで騙していたのでは? また、飢饉の際に栽培された万度芋は口減らしとして食べていた人肉の代用品なのでは……?

謎の肉球:
 グルメ&ホラーマンドラゴラ小説。題材が題材なのでホラーの作品もけっこう多かったのですが、同時にしっかりグルメ要素をやっているものは珍しいです。
 ただ、あの後主人公がどうなったかは想像に難くないのですが、個人的な好みとしてはもう少し引っぱって欲しかった気持ちもあります。
 特筆すべきは、舞台の田舎町の描写がしっかりとリアリティがあるところ。難儀な交通、スーパー、訛りのきついおじいちゃん、神社の様子。寝そべった大根のような姿の、マンドラゴラ涅槃像なんてかなりユニークでいいですね。
 タイトルにもなっているえずまがごせえ、という祓えの詞もセンスが良いし、万度芋のグルメ描写も本当に美味しそう。全体的に優れた作品だと思います。

謎の主従性癖:
 『異形のグルメ』を書かれた淡海忍さんの二作目です。
 寺社仏閣巡りが趣味なので、大変楽しく読ませていただきました。
 万度こんにゃくなるものに興味を持った主人公が、山奥の万度畑町に行くお話です。しかし万度こんにゃくはスーパーには売り切れで、老人に早口におすすめされて万度芋神社へむかうこととなります。神仏習合と土着信仰が混ざって神社と寺が一体化した新宮寺。
 ここで青い鳥居が出てきます。青い鳥居というのは実際にあるのですが、珍しいものです。錆びて青っぽくなってしまったものか、それか海に近い地域で青を使うことがあるらしいですね。ここ、三話目の神社に向かうときに「海沿いの国道」と出ているので、おそらく海からの由来が一つにあると思われます。また、最初の動画で使われていた「にがり」は海水からとるものです。万度祓えにでてくる恵比寿も漁業の神様なので海とゆかりがあります。万度芋が青いのは、海からきているからかな、と考察しました。
 「えずま」という山から降りてくるものに、海を象徴する恵比寿が青の万度こんにゃくを投げて撃退する万度祓え、とても面白いですね。これが主人公の最後につながるわけですが、主人公が持っているのは(当然なのですが)白い万度こんにゃくなんですよね……。
 お話の背景にあるのは山のものと海のものの関係、飢饉のさいに万度芋があらわれたこととラストの不穏な終わり方から考えると、生贄や間引きも関係してくるのだろうか…? と思わず深読みしてしまいます。
 私が読み取れていなかったら申し訳ありませんが、マンドラゴラ要素が薄いなという印象です。おそらく万度芋がマンドラゴラにかかっているのだと思うのですが、いまいちピンときません。
 ですが小さな田舎町と土着信仰、奇妙なお祭に誘いこまれしまった主人公、という舞台設定はとても魅力的です。謎が多く残りますが、「これはどういうことなのだろう?」と思わず考察したくなる魅力がありました。主人公の最後はどうなるのか……これはきっと万度祓えの一つ目の箱と同じことになるのでしょう。

73.五三六P・二四三・渡『夢見るマンドラゴ』

謎の農家:
 年下彼女のヒモをしている女性が、マンドラゴラに寄生される話。
 百合マンドラゴラだ!! アプローチとしてスワンプマンなどのSF要素や主人公が見た夢としてのアンドロイド要素など、五三六PさんのSF作風が遺憾なく発揮されていた印象があります。
 夢の中の荒廃SFも魅力的なのですが、主人公と彼女とのやりとりも良いんですよね……。2人ともどこか達観していて、これからも緩やかに関係を続けていくんだろうな……。

謎の肉球:
 タイトルからラが抜けているのは何か演出意図があったのでしょうか? 特に意味は見いだせなかったので、小さなことながら引っかかります。
 さておき、読んでみてびっくりのシュールコメディ、かつSFで面白かったです。一話目はヒモ女性の頭にマンドラゴラが生えちゃった、というお話なのですが、続く二話目がガッツリしたマンドラゴラSF。人類が地球全土をマンドラゴラに奪われ、奪回するためにサイボーグ兵士になって……と壮大なストーリーが展開されます。
 これが現代の主人公にどうつながっていくか、という落ちがまたふふっと微笑みがこぼれる緩い感じで、独特な世界観が味わい深い。好きですね。

謎の主従性癖:
 マンドラゴラ百合小説です。
 一風変わっていて、結構深刻な話をしているはずなのに、主人公がドライだからでしょうか。全体的にさっぱりとした印象です。この雰囲気は好きです。
 ヒモをしている主人公は、さてそろそろ外に出るかと鏡をみたらなんと頭から草が。マンドラゴラことマンドラゴ(これは語感のよさのためにマンドラゴラではなくマンドラゴに統一しているのでしょうか?)に脳に寄生され、本人はもう死んでいると。それに対する反応が「えー」の一言なのがこの主人公のキャラ性がでています。とはいっても、もしかしたらそれはマンドラゴの影響なのかもしれませんが。
 メイン二人の関係が終始ドライなのもいいです。恋人は顔が好きだからと主人公と付き合い、いまは70点くらいの付き合いで幸せだと。実はマンドラゴの前世(?)の生まれ変わりの二人かもしれない、という壮大な夢物語があるのに、それでも特別変わることのない二人の関係がいいですね。
 ただ恋人がどんな性格なのか、ドライなのは伝わるのですが、いまいちキャラ造形がつかめなかったです。互いにドライすぎて会話でどちらの台詞かがわかりにくいところもありました。
 しかしメタ的に、マンドラゴに寄生されたヒモである主人公を飼う――ご飯を与え、綺麗な環境を用意するというのは、マンドラゴを生育して育てているような構図ができていて面白かったです。なので、きっとマンドラゴに寄生されて本人が死んでも、生まれ変わりでも、今までの関係と変わらないのだろうと思えました。

74.あきかん『マンドラゴラのレクイエム』

謎の農家:
 亡くなった当主を想いながら、マンドラゴラを育てる男の話。
 静かながら、美しい話でした。華麗な舞と静謐な死、秘された重い感情……。掌編の中に濃密な風格を感じる作品だと思います。
 夏から冬まで“彼のマンドラゴラ”を育て続けた主人公は何を想い、彼の後を追ったのか。エモーショナルな感情を想起させる、冬にぴったりの一編でした。

謎の肉球:
 現代ドラマジャンルですが、和風なので時代物っぽさも感じるマンドラゴラ小説。養子として引き取られた家で、自分の主人となった跡継ぎが亡くなり、彼が遺したマンドラゴラを育てる話。そして最後の行動は、おそらく後を……。
 切ないお話なのですが、下限の文字数だけで書かれているため、非常に情報が少ない内容となっております。主人公が引き取られた狐森家のことの他にも、彼はなぜ亡くなったかなど色々気になる話があり、まとまりつつも物足りなさがありました。

謎の主従性癖:
 こちらは主従もの……でしょうか?
 しかし私の読解不足で、多分重要な部分を読み取れてないかと思います。
 亡くなった『彼』の残した最後の仕事をやりとげる主人公。しかしなぜ主人公がなくなったのか、その仕事はなんだったのか、最後の部分だけだとかなり想像をしないとわからないところがあります。
 最後の狐森家の墓の前だけ不自然に降り積もった雪というのは、主人公がマンドラゴラの悲鳴を聞いて墓前で死んだ……ということでしょうか? 最初、狐森家の全員の殺害をもくろんだのか?とうがちすぎな読み方をしてしまいました。
 全体を通して、どうしても情報不足感が否めません。それにしては、狐森家の設定は呪術士であったり祭事を任されていたり薬師だったりと、情報が多くアンバランスな印象です。
 落ち着いた雰囲気や自然の移り変わり、そこから想起される彼との思い出の描写は素敵です。「そのためにこの家に引き取られたのだから」「そして、改めて誓ったのだ。この人に遣え続けると。」という主人公の台詞もぐっときました。その分、もう少し描写が欲しかったです。

75.p『マンドラゴラの育て方』

謎の農家:
 先輩からもらったマンドラゴラの処理に苦労する男と、相談を受ける高校時代の同級生の話。
 マンドラゴラをフェレットに例える小説は初めてだと思います。言われてみれば可愛い……ような気もする……。
 大学生同士の会話の空気感がいいですね。この2人のわちゃわちゃを見ていたいし、マンドラゴラを押し付けられる主人公のその後の生活とかも気になります。抜いた後のマンドラゴラ、何食べるんだろうな……。

謎の肉球:
 酒癖の悪い友人が、今度は酔っ払って先輩にマンドラゴラの鉢植えを押しつけられた。さてこいつをどうしよう。危険植物だから、役所に届けないとけっこうな罰金を払わされるぞ! というコメディ。わりと安全な方のマンドラゴラですね。
 届け出しない場合の罰則がシャレにならない感じですが、このマンドラゴラをこれから四苦八苦しながら育てていく日常ファンタジーで続きが読みたいですね。

謎の主従性癖:
 『メリーマンドラゴラ』のpさんの二作目です。大学生2人がマンドラゴラを前にあれこれ相談する話。
 目立った起承転結はないのですが、めんどくさがり屋の南と、それの面倒を思わず見ちゃう早瀬の関係がいいですね。「えー、どうしよう早瀬ぇ」と自分一人ではなにもできない南が早瀬に頼りまくる感じ、好きです。
 そんな南にきついことは言いつつも、結局は助ける早瀬のキャラも好きです。いやあ、いいですね大学生二人の友情……。
 とりとめのない、日常のワンシーンのお話です。マンドラゴラ、結構危険なはずなんですが動画にあがるくらいにはカジュアルなんですね。そうやって作中世界での立ち位置がはっきり示されているのはいいですね。
 ただ、これはもう本当に雰囲気を味わうというか、「こういう関係の二人の会話、いいなああ」となる人向けの作品かな、と思います。私みたいな。いやあいいですね……。
 このあと、フェレットじみた動きをするマンドラゴラに愛着を沸いて育てていく二人の姿も見たいです。大学生2人+動物っぽいマンドラゴラ(ペット?)……いいですね……。

76.七橋『農家に殺される話』

謎の農家:
 マンドラゴラを栽培する農家と死霊魔術師が戦う話。
 冒頭の台詞はシャンゼリオンですね? フックとして強かった……。
 設定やキャラクター造形に性癖を感じました。このまま現代伝奇として書いていっても面白い作品になると思います。面白いアイデアの原液をどんどん出していってる感じですね。ゾンビーヒグマ、ゾンビの中ではめちゃくちゃ強い方だよ。
 一点気になることとして、設定を読者が飲み込めないまま物語が進んでいくことがあります。それぞれの面白いアイデアでもうちょっと読者を引っ張れると思うんですけど、それぞれの賞味期限を見誤ってるせいで消化不良が起きている印象です。各要素が渋滞を起こしてるんだよな……。長編のプロットをそのまま短編に圧縮した感じを想像したので、一度これを元に長編を書いてみると面白いものができるのではないでしょうか?

謎の肉球:
 魔術師がヤクザや軍事の世界で活動している、パラレルワールドの地球、とおぼしき世界観。マンドラゴラ小説なのに、マンドラゴラを育てるとどのような利益があるかなどは、あまり書かれていないのが残念でした。
 落ちも結末と言うよりは尻切れトンボで、「短編小説」と言うよりは、長編小説から一部分を切り出しただけ、という印象です。
 小説は通常、落ちがあって、それへたどりつくための逆算で作られていますが、この作品にはそうした構造は感じられません。タイトル通りではありますが、長編小説なら場面転換が入るのかな、というシーンで切って終わらせているだけだから、尻切れトンボという印象になりました。
 短編小説とは書きかけの小説を尺に収めて出すことではなく、限られた文字数の中でヤマとオチをつけることです。起承転結なり序破急なり、意識して構成してみてください。そこを意識するだけで、かなり変わると思います。

謎の主従性癖:
 マンドラゴラ農家(の魔術師)のお話。
 正直、話として未完成な気がしました。マンドラゴラの要素が薄かったり、ラストも尋問する最中のところで終わっておりますし、キャラクターや舞台背景の説明が足りていないところもあるかと思います。
 また、書き方の部分でも気になるところがありました。短編小説は視点変更がないほうが読みやすいことが多いのですが、今作では三人の視点が切り替わります。黒江とキョウシロウの異質さや強さ、説明のためにあえて死霊魔術師の視点を入れるのは無しではないと思うのですが、それが中途半端に終わっているので効果的に働いているとは思えません。また、一文の途中で改行+一字空けされている部分もいくつかありましたが、これは意図があってのものなのでしょうか? 縦書きで読んだりなどレイアウトを変えたりしてみましたが、ちょっとわからなかったです。
 こうした引っかかりを覚えると、どうしても情報整理に時間がかかり、するすると読むのが難しくなります。面白い要素があるので、その分もったいない気がしました。
 かつてのきょうだい弟子の子供を預かる、戦闘特化魔術師のキョウシロウ。過去にはだいぶ陰惨とした戦いの歴史があったようですが、今は黒江とともに穏やかな日々を過ごしています。黒江は「死霊魔術を覚えたら同級生を全員動く死体にする」と言われるほど、人間関係に溶け込めてない様子です。こうした、ちょっと一般とはズレた二人の関係性というものはいいなと思いました。ずた袋(顔を隠している)ことや、チェーンソー、てるてる坊主のように干された物体などの要素に映画『悪魔のいけにえ』のような不気味さを感じました。
 また、こういうシーンが書きたい! というのはとても伝わってきます。是非次は、そうしたシーンの合間のつなぎの部分を、読者がわかりやすいように書くことに挑戦してほしいと思います。

77.2121『心臓の在処』

謎の農家:
下限字数を満たしていないため、講評はありません。

78.@tate_ala_arc『バットー・バトル!』

謎の農家:
 バトルマンドラゴラ部によるマンドラゴラバトルの話。
 マンドラゴラと居合を絡めた話は今回何作か散見されたのですが、この作品は明確にルールが設定されていて魅力的でしたね。居合と早撃ちを合わせたシステムも決闘っぽくて好きです。
 「マンドラゴラする」、もう動詞になってる! ミノルが全中3位ということは、割とメジャーなスポーツなのかな?
 スポーツ漫画概念的に全国にはもっと個性豊かなマンドラゴラバトラーがいると思うんだよな……伊賀の手裏剣型マンドラゴラとか……。

謎の肉球:
 スポーツ物マンドラゴラ小説。バトルマンドラゴラという点では、バトルマンドレイクが先にありますが、こちらは「鞘型植木鉢」「攻撃と防御を切り替える」「1ラウンドは60秒」など競技としての設定がしっかり作られております。
 ほとんどは会話でストーリーが進行し、モブキャラは不良①②③など潔いネーミング。正しく字漫画(ライトノベル)していて好感度が高い。
 バトルマンドラゴラ部に大型新人が入部! という少年漫画の一話という印象で、全体がきっちり纏まっており、キャラクターもみんな活き活きしている。
 独特の世界観、キャラ、テンポ、アクションとそろって素敵なマンドラゴラエンターティメント作品でした!

謎の主従性癖:
 青春バトルマンドラゴラ小説!
 爽やかさとスピード感、しかし丁寧な描写に引き込まれます。バトルマンドラゴラとはなんぞや? と思うところに、実にわかりやすい解説がはいっております。指向性スピーカーであるのと、レバーで攻撃・防御が変わる仕組み、チャージ時間などルールもしっかりしています。面白そうです。
 合間に挟まっているギャグ部分も面白かったです。『鞘入りマンドラゴラ』で噴き出しました。『ここから10秒の間、タカミチはマンドラゴラすることができない。』でも噴き出しました。マンドラゴラすることができない、なんて強いワードだ。
 多分、置換忘れかと思いますが、「ミノル」であろうところが「ミコト」となっている部分がありました。企画の開催期限もあるので推敲する余裕がなかったのかもしれません。私も名前の誤字はよくやるのですが、たまに致命的なほど文脈の意味が変わることがあるので、ご注意ください。私も気をつけます。
 1ラウンド60秒にあわせ、秒ごとに刻一刻とバトルが進む展開はアツいです。まさにバトルものに相応しいスピード感を保ったまま、アニメの戦闘シーンのように二人の戦いが頭の中で再生されます。最後の鬼塚のパワーでのどんでん返しも「そうきたか!」となりました。
 お話の作りもまさに王道!という形で、バトルマンドラゴラという独自設定をわかりやすい話に落とし込むことで読みやすくなっています。インターハイ無敗伝説の序章に相応しいお話だと思います。きっと今は反目しあってる鬼塚とミノルが共闘したり、ルカがめちゃくちゃ強かったりするんだろうな……と想像してわくわくします。面白かったです。

◆大賞選考

 選考方法は評議員が賞にしたい作品を同時に3作品発表し、得票数が多かった作品が選ばれるという形式です。

謎のマンドラゴラ農家(以下、農家)
 せーの、
「かくしもの」「『狂気山部屋にて』」「マンドラゴラ殺しの鍬男」!

謎の主従性癖(以下、主従)
 私は『かくしもの』(@S_Soutenさん)、『マンドラゴラの生きる道』(惟風さん)、『Mandrake or Weeds?』( 狐さん)です。

謎の肉球(以下、肉球)
『64. かくしもの/@S_Souten 』
『23. 僕の推しを布教したい!/不可逆性FIG 』
『78. バットー・バトル!/@tate_ala_arc 』

主従:満場一致ですね
農家:『かくしもの』が大賞に決定です
主従:おめでとうございます!!!!
肉球:おめでとうございます!!!

主従:そのほかは見事に割れましたね…
農家:割れましたねー
肉球:好みの差がすごい。大賞だけ満場一致なのが逆に凄いよ

農家:プレゼン大会やりますか!
主従:あ、すみません。『Mandrake or Weeds?』はすなおなせいへきのよくぼうに従ったので……。私の金賞推しは『マンドラゴラの生きる道』で

肉球:私の金賞推しは『僕の推しを布教したい! 』ですね。この企画には様々な組み合わせのマンドラゴラ小説が出てきましたが、Vtuberとマンドラゴラという題材で、二つの題材を巧く料理していると思います。なんでも作者さんもVを楽しんでおられる方だそうで、それもあってかV文化の描写も非常にリアリティがありましたし、マンドラゴラVというキャラクター性も巧く活かされていました。そして落ちも綺麗。お題の昇華と小説としての完成度の高さから、私はこの作品を金賞に推します!
農家:マンドラゴラ×V、現実でもありそうでない組み合わせなんですよ。そういった点でも、Vtuber文化の解像度が高かったですね

主従:『マンドラゴラの生きる道』は、まっすぐ王道の恋愛ものというところがいいなと。ラストの駆け足感はありますが、出した速さを考慮したら完成度を保っているなと。なにより、マンドラゴラを単純に人型にさせるだけでなく、ちゃんと植物と人間の恋愛というものを、王道にかいている誠実さが素晴らしいなと思いました。マンドラゴラの要素が十分に出せているかと、またこの企画以外でも一本の小説として読めるか。そういう点もふまえて、『マンドラゴラの生きる道』を金賞に推します。
農家:速度と発想力の勝利だ……
肉球:なるほどなあ

農家:僕の金賞推しは『狂気山部屋にて』ですね。ネタは確かに胡乱なんですけど、エンタメとしての筋は外してなくて展開もスピーディー。僕好みでした。また、マンドラゴラ要素の使い方も上手かったんですよね……発狂人参……。

農家:ここは慣習に従って、自分の推しを入れた二票の得票数で賞を決めましょうか……
肉球:『僕の推しを布教したい!』『狂気山部屋にて』
主従:『マンドラゴラの生きる道』、『僕の推しを布教したい!』の二作です。
農家:『狂気山部屋にて』『僕の推しを布教したい!』

農家:金賞『僕の推しを布教したい!』銀賞『狂気山部屋にて』!
主従:おめでとうございます!!
肉球:おめでとうございます!!!!

農家:次は個人賞、いきます! それぞれの推薦理由もよければ……

主従:個人賞……20株くらいいれれたらいいのに……。
かなり悩みましたが、ここは『魔女の弟子の密かな企み』 ( Veilchen(悠井すみれ)さん)に! 一つの小説としての完成度、マンドラゴラの使い方、何よりエモさがたまらなかったです。師弟もの大好きなんですが、作中の不穏な形からのあの結末……最高でした。すみれさんの作品の構成力の高さは常に驚きますが、今回は特に私好みのエモさでした!

農家:マンドラゴラ農家五億点賞
『サイバーパンク・マンドラゴラ』
主催を刺しに来たモチーフと、マンドラゴラ掘りと情報掘りを掛けた魅力的なサイバーパンクSFでした!

肉球:個人賞
『マンドラゴラは恋に効く/佐倉島こみかん』
 この作品は最初に読んだときから気に入っていたのですが、全参加作品読んだ後もそれは揺るぎませんでした。私は評議員コメント出した時から「グルメ作品を個人賞に入れよう」と決めていたので、これがベスト・マンドラゴラ・グルメです。
 なんと言っても、キャラクターの会話が全員料理や食材に詳しくて、「こいつグルメ漫画の住人だ……!」という感じが強いんですよね。ナチュラル食通ですよ。
 加えて、各種料理の調理法、食材であるマンドラゴラも粘り気とか旨味とか味わいとか食感が事細かに描写され、本当にこういう珍しい野菜があるような気にさせられます。何より食欲がかき立てられる!
 そして物語もハッピーエンドですし、とても幸せな気持ちになれる逸品でした。

肉球:あー、魔女の弟子もいいですよね。鍬男とかも好きだけど、今回はこういう選択で。
こっからちょっと魔女の弟子についてネタバレ感想をば。
あの作品、確か講評でも書いたんですが、「耳の聞こえない弟子はマンドラゴラ的に分かるけど、目の見えない子は何のためにいるキャラなのかな?」と思っていたら、「私たちの感覚は呪いによって奪われたものなのよ!」と見えない子が言い出して、物語が一気にサスペンスフルになるからおおっと引きこまれたんですね。で、そこからハートフルな落ちになって、よく見たらキャッチコピーとかに最初から「そういう話」であることが示されている。これがもう巧い。物語としてのアークがダイナミックで、綺麗に終わる良い作品でしたね。

主従:『サイバーパンク・マンドラゴラ』よかったです。私はサイバーパンクに疎いんですが、それでも読みやすく、引きずり込まれる魅力にあふれていました。
肉球:『サイバーパンク・マンドラゴラ』は、ニューロマンサーパロディだー! というのがまず興奮したのですが、中身もだいぶそれらしく仕上がっていたのが楽しいですね。ウィンターミュートは出るのかなと思いながら読みました。フォックスは気の毒なことになったか、あるいはもっと遠いところへ行ったのか……

主従:『 マンドラゴラは恋に効く』はグルメ小説として秀逸でした。なにがいいって、本当に美味しそう!!!! お腹がへる!!! グルメ小説で食べたい、お腹が減るというののはもうそれで勝ちだなあと。

農家:『マンドラゴラは恋に効く』、マンドラゴラ農家のお気持ち表明についてのネタもあってニヤッとしましたね。社会の中に溶け込んだマンドラゴラだ……。
『魔女の弟子の密かな企み』はコミュニケーションについて考えさせられる話でもありました。心が繋がるとはこういうことだ!というパワーがありましたね。

◆総評

農家:それでは、大繁殖の総評に行きますか……!!
マンドラゴラというめちゃくちゃ狭い題材でここまで多種多様な作品が届いたことにまずビビってるんですけど、個人的にはファンタジーだけではないマンドラゴラの可能性を知ることができました。
ホラーやミステリー、KUSOや胡乱やヒューマンドラマまで揃った面白い企画になりました!

農家:では、評議員が印象に残った作品について語っていきたいと思います。
主従:マンドラゴラという題材はホラーがマッチしたのでしょうか、いい作品がたくさんありました。
農家:ホラー作品といえば、芦花公園さんの作品がまず印象に残りましたね。『マンドラゴラ❤️デリバリー❤️さぁびす』、ホラーとギャグが共存していた……!
主従:芦花公園さんはご自身でホラー賞の企画もされたり、芦花公園さん自身のホラー小説のすごさはここで説明するまでもないかと思いますが、『マンドラゴラ❤️デリバリー❤️さぁびす』は短い中でパワーワードとホラーのバランスがすごかったです
農家:力士ホラーに続いてマンドラゴラ風俗ホラーの始祖になってほしいですね……
主従:エロス要素がはいった『農家の娘』も印象的でした。不穏さのなかに元祖マンドラゴラ農家元ネタをきっちりとりいれていて面白かったです。さすが二冠王。
農家:二冠王の片鱗を見ました……!
肉球:ホラー系統では『処刑場のマンドラゴラ』『マンドラゴラの種』が人間の業を感じる悲しいお話でしたね。かたや淡々と語られる血塗られた歴史、かたや搾取される兄弟の話で、どちらも救われない。
救われない話が多いのは、もともとマンドラゴラの致死性が高いせいもあるのでしょうか。悲鳴による発狂、死、毒性などなど。
主従:救われない話、多かったですね……もっとネタ作品が多いかと思いましたので、びっくりしました。
農家:全体を通して悲劇や自己犠牲の話が多かった印象があります
肉球:あと、マンドラゴラ周りの独特の伝承を描いている作品も多くて、そこが魅力になっているものもありましたね。
主従:作者のオリジナルのマンドラゴラ要素をうまく取り入れている作品も多くてよかったです。
農家:ホラー作品といえば、『えずまがごせえ』も魅力的な作品でしたね
肉球:『えずまがごせえ』は民俗ものマンドラゴラとしては最高峰だと思います。大賞候補作品で『バットー・バトル』とこれ、どちらを入れるかギリギリまで悩んだのですが、周りの伝承・民俗要素に振りすぎて、マンドラゴラ成分がやや弱かったなということから、バットーの方を推しました。でも、単品の小説として凄く好きです。
農家:マンドラゴラ神話技能でめちゃくちゃ考察してしまいました……
主従:講評ですっごい考察してしまいました。民俗系もの大好きです。
肉球:にがりは私も、ん? と思っていたら、お二人が突っこんでいてくれてましたね。良かった。

主従:『えずまがごせえ』にはこんにゃくのグルメ要素ありましたが、マンドラゴラグルメもの印象的ですね!
肉球:根菜ですしね!
農家:グルメマンドラゴラ、略してグルマン小説ですね!
肉球:フランス語あたりで美食家の意味では……

主従:富士さんの『マンドラ食え!~マンドラゴラ料理コンペティション~』は王道グルメバトルでありながら、多種多様な料理が描かれていて、作者の地力を感じました。
農家:こういうグルメ漫画ありそう!っていう質感がすごかったです(柏手)
肉球:へへへへ
主従:『マンドラゴラ3分クッキング』も純粋においしそうでしたし、『異形のグルメ』ではお酒になってマンドラゴラが使われているのもよかったです。
農家:逆に不味いというアプローチもありましたね……
肉球:不味いアプローチは珍しかったですね。『続・マンドラゴラ料理大全』、「なぜ人は不味いものをここまで頑張って食べようとするのか」という点では、非常に「食欲」を感じる作品で良かったです

主従:後半ミステリー小説が多かった印象です。トリックがどれもマンドラゴラ特有で、面白かったですね。『片葉のマンドラゴラは生きるか死ぬか』や『マンドラゴラの密室』など、推理しながら読んでしまいました。
肉球:急にミステリーが増えたの、不思議なシンクロニシティを感じましたね
農家:マンドラゴラミステリーゾーンが形成されていた……。ぎざさんの『マンドラゴラの密室』は前回の主催の企画からの流れでとても楽しく読めました。
主従:この短い期間の中で、マンドラゴラを使ったトリックを考え、書かれたこと自体に拍手を送りたいです。ミステリー好きなので読めて嬉しかった……。

農家:また、多く感じたのは下ネタ、KUSO小説系ですね
肉球:根菜という形状のせいか、ちょいちょいありましたね……シモネタ……
農家:抜くに引っ張られてる……
主従:お祭り感があっていいと思います。個人的には『異物』がとても好きです。下ネタ系ではあるんですけど、ものすごくいいお話なんですよ。
農家:『異物』、実は大賞候補に入れてました……
肉球:『異物』は凄く良いですね。アホらしいシモネタの話かと思ったら、とても真面目な性の話で。
主従:私も大賞候補にいれるか悩みました、『異物』
肉球:先日も、夫婦間で合意形成の取れていないプレイがDVになり、離婚寸前だった人の話がありましたし。医者の最後の一言が落語の落ちのような「巧いこと言った」感があるけど、本当に巧いこと言っているので良い。
主従:いい話や……。『いい根しました』もコミカルだけどパワーがありました。『絶叫系シェイプシフター マンドラ⌘ゴラ子』もパワーそのものでしたね。
農家:イナリーコンって何!?
肉球:『いい根しました』、マンドラゴラのしゃべり方、完全にその筋の人で再現性がやたらめったら高いのが可笑しかったです。凄い技術だ。こう、完璧にトレースされた方言キャラ、みたいな。

主従:あとコメディではないんですけど、胡乱界隈からの参加作品が多くて、普段読まないジャンルでとても楽しかったです。
肉球:一個一個のネタがやたらハードパンチャー
農家:『ヘチカチの木』、めちゃくちゃ良かったです……!!
ウィッチドクターの存在が胡乱なんですけど、あれのおかげでマンドラゴラが飲み込める世界観になってるのが確かな腕前を感じました。
肉球:胡乱の度合いはすごいけど、バランスは心得ているプロの手つきを感じましたね。
主従:『胡乱紳士 漫遊編 マンドラゴラの町』が個人的に好きなのですが、胡乱紳士がほんとうに胡乱な存在なんですよね……台詞は少ないんですが、ものすごく存在感があって印象が強いです。
肉球:胡乱界隈、普通に地力が高い。
主従:胡乱系は全体的に水準が高いと思いました。そのぶん私が文化にうとく読み取れていないところがあるな……という悔しさと申し訳なさがあります。
農家:胡乱勢、全体的に文脈としてパルプの味わいが僕好みでした。

農家:パルプといえば『マンドラゴラ殺しの鍬男』ですね!
主従:煮えたぎった油ァァァ巨大トラクター!!!
肉球:出だしから強烈でしたね。核エネルギーの代替として注目されるマンドラゴラ! のそんな馬鹿なと「そういうスケールの話ね、了解」。そしてみんな大好き強いババアキャラ
農家:煮えたぎった油もヘル・トラクターも僕との会話から生まれたネタなんですけど、調理がうますぎる! 個人的に神ひなさんの作風は鮮やかな水彩画と血で描いたグラフィティの2パターンあると思っていて、今回は後者でしたね!

主従:ヒューマンものもよかったです。『恋茄子』も推すかかなり迷いました。短編小説としてとてもまとまっていて、かつテーマが一貫していていいんですよね。
農家:恋茄子、旧来の価値観に固執する男が好きポイント……
肉球:あの主人公は個人的には好きなタイプではないのですが、実際にああいうおじさんって居るよね、という実在感がいいですね。人間の書き方が巧い。

主従:『はぐれマンドラゴラとキツネ』も、サイバー感がありつつも人間味ことマン味が溢れていてよかったです。主催を狙い撃っていましたね…
農家:僕の趣味を全部覗かれた気がする……。常連勢だからこその一撃だ

主従:私は狐さんの『Mandrake or Weeds?』も、めちゃくちゃ的確に性癖を射抜かれて驚きました。
農家:五億点賞が欲しかった!!!!!!!!!(血涙)
主従:(講評にほとんど叫びを書いたんですが)本当にありがとうございます。武州さんの主従もの作品『秦陽城の戦い マンドラゴラ絶対防衛線』も厚みがあってよかったです…………主従もの……増えろ……。
農家:武州さん、マンドラゴラパニック系で来るかな?と思ってたんですけど、手堅く自分の好きをぶつけてきて魅力的でした。
主従:せいへきにすなおにいきています(まっすぐなまなこ)

主従:私の性癖の話で恐縮ですが、BLというか、ブロマンスによっている作品も多かった印象です。すき!!!!!!!
肉球:主従性癖さんを狙い撃ちにしている以外でもちょこちょこありましたね、BL。川系には一定数ある印象です。
主従:いや、意外とBLは少ない気がします。百合は多いです。
農家:ブロマンスは多い印象がありますね

肉球:あ、マンドラゴラ百合だと、『夢見るマンドラゴ』良かったですね。
農家:五三六PさんのSF、好きなんですよね……
肉球:ヒモ男のわりにスペック低いタイプだな……もっとこう家事とか……えっ女性なの? と思いながら読んでいたら、二話目からガッツリSFしていてびっくりしました。そういう振り幅の大きい話なのに、妙に冷めた主人公たちの会話で物語が包まれていく。
農家:あの冷めた感じが温度感としてちょうど良かった……

主従:全体的に恋愛ものというか、相棒ものや家族愛が多かったですね。
農家:兄妹が多かった
肉球:「病気の兄弟のために万病にきくマンドラゴラを求める」は、もうマンドラゴラ小説の定番という感じでしたね。おとぎ話とかにもありそうなタイプですし。
主従:こうしてマンドラゴラ小説の王道が作られていくんですね…。

農家:あと僕の驚いたポイントなんですけど、マンドラゴラ以外に狐要素多くなかったですか?
肉球:それは理由が明らかかと
主従:狐は……ほら……今回のマスコット的な……
農家:マンドラゴラ農家、SNSにお気持ち表明しがち
主従:今回でマンドラゴラ農家のかたがた、マンドラゴラ合戦の人手不足かなり解消されたんじゃないでしょうか。
農家:今回の企画だからこそ生まれた作品が多くて主催者冥利に尽きます!

主従:今回は本当に多種多様で、本当にどれも面白かったです。大賞選考は選考会議のギリギリまで悩みました。講評していて感じたのは、一つの小説として完成しているか、マンドラゴラ要素(テーマ)をうまくとりいれているかはもちろんのこと、メインテーマの一貫性やパワーワードがあると印象に残りやすいと思いました。
マンドラゴラという言葉自体がもうパワーあるんですよね。これをうまく自作の中に取り込めるか、マンドラゴラに負けないパワーを繰り出すか。このあたりが賞選考ではポイントになったと思います。
農家:マンドラゴラに飲まれてはならん……主催のようになるぞ……
肉球:説得力が凄まじいですね

主従:ですが、そもそも六日間という短い期間で――――いや本当にみなさんなにしてたんですか? 年の瀬ですよ??? ―― 作品を一つ書き上げる。それだけですごいことだと思います。78株もの作品が植えられ、大豊作大収穫となりました。参加していただいたみなさん、ありがとうございます! 最高のお祭でした!
肉球:ありがとうございます! 「あんまり作品集まらなかったら、個人賞とか設定すると賞が多すぎるかな~」とか言っていたのが冗談みたいな盛況でしたね!
主従:あと私は家族が「マンドラゴラ」という言葉を言うと「やめてえええええええリビングにまで汚染しないでええええ」と叫び、マンドラゴラPTSDを疑われました。
肉球:本格的に汚染されてるじゃないですか。
農家:僕はナゾノ○サにマンドラゴラを見出して発狂しかけました
肉球:七草ポムポ●プリンもマンドラゴラめいてましたしね。

農家:マンドラゴラはこの世に偏在している……?

◆後夜祭

主従:今回のマンドラゴラ収穫祭! 本当にみなさんありがとうございます! いやあ、素晴らしいマンドラゴラ農家ルーキーが多かったですねえ、肉球さん
肉球:ええ、思いのほかマンドラゴラ就農者が多くてびっくりですねえ、主従性癖さん!
主従:はい! そこでですね、やはりここまで集まったら………決めなくちゃあいけないじゃないですか、マンたちのてっぺん……
そう、その名も「お前がマンドラゴラ農家だ!賞」を!!!!
農家:誰がなるんでしょうね!
肉球:アンケート結果はどうなったのでしょう!

主従:こちら、説明をさせていただきますと、たくさんお祭に参加していただいた感謝をこめて、1月7日にTwitter上で読者投票として急遽追加された名誉称号となります!
こちらは闇の評議員である謎の主従性癖が責任を持って管理させていただきました。

主従:さあ……………読者投票によって選ばれた、真のマンドラ農家、誰よりもマンドラゴラを愛し、愛され、理解し、そしてお前がもうマンドラゴラなんじゃね??? という「お前がマンドラゴラ農家だ!賞」の称号をえるのは……
(どごどごどごどごどご)(だいこんのようななにかで太鼓をたたく音)
じゃーーーーーーーん!!!!!!!!!!!

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主従:狐(謎のマンドラゴラ農家・主催者) さんです!
おめでとうございまああああああああああああああす
農家:……………………
肉球:おめでとうございまあああああす!!!!
農家:……………………

肉球:やりましたね農家さん! 真のマンドラゴラ農家にレベルアップですよ!
真の農家:……薄々そんな気はしてたよ

主従:いやあ。35件中33件の圧倒的多数の投票結果でした!
農家:一票TOK○Oのリーダーに入ってるんですけど、リーダーに押し付けていいですか?
肉球:アイドル兼農家の方はお忙しいので……

主従:これはもう、狐さん以外に相応しい方はいないですねえ!この圧倒的支持! おめでとうございます!
農家(?):イヤァァァァァ!!!!
肉球:名誉ですよ! 根菜の栄耀栄華を思いのままに極めましょう!
主従:新年になっても狐さんこと謎のマンドラゴラ農家はマンドラゴラ農家の称号を背負って! 一年をおすごしください!
それでは! 良いお年をどらごら~~~~~
肉球:本年もよろしくお願いしますどらごら~~~~~
主従:(どーーーーーーん)(だいこんのようななにかで鐘を鳴らす音)

マンドラゴラ農家:もうマンドラゴラはこりごりだよ〜〜〜!!

◆評議員の宣伝スペース

謎の肉球
はい、宣伝です! 1月9日は誕生日なので、読まれと感想が欲しいですね!
異世界異文化交流カニバリズム離別友情長編小説『北阿古霜帝國民族誌《エッタ・イグニブラ・ユト・ザデュイラル・ゼネプブイサリィ》』をよろしくお願いいたします!
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894487385

謎の主従性癖
じれじれした距離感と攻めのムーブに「ずるいいいい」と初代「お前がマンドラゴラ農家だ!」賞を授与された狐さんも悲鳴をあげるとご好評(?)いただいている大学生のBL、
『何色』青葉とコーヨー <連載版> https://kakuyomu.jp/works/1177354054934577156 (カクヨム版) を連載中です! よろしくおねがいいたします!
ムーン版はこちらです、18歳以上のかただけ! https://novel18.syosetu.com/n8973go/
(※※※マンドラゴラは一切出てません)

謎のマンドラゴラ農家
宣伝いきます!
サイバーパンク要素もある現代異能バトル、アルカトピアシリーズの最新作『Lazy Moon』!
そろそろ更新を再開したいな! マンドラゴラ要素はないよ!

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884797092

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