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【和訳】Earl Sweatshirt-74
はじめに
Earl Sweatshirtが昨年にリリースしたアルバム、"FEET OF CLAY"に収録されている楽曲の歌詞を知りたいと思い、自力で和訳することにしました。全7曲(できれば今年発売のボーナストラックを含めた9曲)を訳しきりたいと思っています。英語にそれほど自信がないのでもしよろしければ訂正、指摘をコメントしていただけると幸いです(それによって自分の理解を深めることが記事執筆の最大の目的でもあります)。和訳の際は主にGeniusの情報を参考にしています。
アルバム、楽曲について
今回和訳するのはアルバム一曲目に収録された"74"です。
そもそもアルバムタイトルの"FEET OF CLAY"とは旧約聖書のダニエル書から引用された表現で、「(強大に見える人や物の)意外な弱点、脆さ」を指す言葉です。日本語で言うと「弁慶の泣き所」にあたると思います。Apple MusicのエディターノーツによればEarlはこの言葉を母から教わり、父の死後ダニエル書でその起源を知ったようです。彼はローマの大火などを引き合いに出しながら、父の死後、どん底の状態にあった自分の状況を、基礎の脆さゆえに崩壊した歴史上の帝国になぞらえて語っています。
エディターノーツにはEarl本人による各曲の解説が載っています。"74"は(おそらく前作”Some Rap Songs"の)ツアーの間の休暇中にレコーディングされたようです。まずは一曲目にこれを聞いて欲しいと言う彼の言葉通り、歌詞もどちらかと言うと「これからかますぜ」的な内容になっています。
和訳
You like Amar’e Stoudemire with dreads
アマーレ・スタウダマイアー*みたいなドレッドヘアだ
Bobbleheads, chatterboxes flappin’ but I got a lot ‘em fed
能無しやおしゃべり野郎は慌ててる、でも奴らに俺はたくさん食わせてやった
Common head cold-level, minor setbacks, minor threats
普通の鼻風邪程度の些細な失敗、些細な恐怖だ*
To blockin’ it’s kinda Steph, step back
ステフ*みたいなモンだ、退けよ。
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*元NBAプレイヤー。プロスポーツ選手の名前の引用(ネームドロッピング)はH IPHOP界では頻繁にみられる。Earl SweatshirtはFEET OF CLAYのリリース時ドレッドヘアだった。(次回和訳予定の”EAST”のPVなどで確認できる。)
*次の行の"to blockin'"は"threat"にかかっていると思われ、「何かしらの障壁がEarlの前途を阻む(blockする)恐れは、それほど大きくない」という意味に解釈できる。またアメリカの伝説的パンクバンドであるMinor Threatを意識したラインとも考えられる。
*文脈から判断するにNBAプレーヤーのStephen Curryを指すと思われる。彼はスリーポイントの名手であり、(シュートが)ブロックされる心配が少ないという意味で名前が引用されている。
Ya shit is not knockin’ like the feds
お前の戯言は響いてこないし、FBI*みたく粗探ししてるわけでもないだろ
Don’t get your head cracked lackin’ common sense
頭をクラックで狂わせて、常識まで失うな
On a whim I felt it, in mi casa you don’t got no wins
不意に思ったんだ。俺の家ではお前は勝ちなしだ*
Just to match the losses I don’t have in your gym
お前のジムで俺が喫した敗北と(お前の勝利は)同じ回数だよ*
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*fedsとはFBI(Federal Bureau of Investigation)の捜査官を指す言葉だが、広く警察官を意味する場合もある。
*"mi casa"はスペイン語で「私の家」を意味する言葉。ここではフッドないしは広く「ホームの土地」くらいのニュアンスが込められていると解釈できる。またこのラインはMethod Man & Redmanからの引用でもある。
"You don't got no win in Mi Casa"
ーMi Casa - Method Man & Redman
*"lose the match"をもじった言葉あそび
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Opposites attract opulence, the mud wouldn’t stick
反対のものが富を引きつけるんだ*。だから泥はくっつかない*
The sun make it so my soul’s crumblin’
太陽がそうさせるんだ。俺の魂は粉々だ
They dug it when they was young
彼ら*若い頃穴を掘ってた
More than one hole in one with no mulligan
マリガン*なしでホールインワン以上のワザを決めたんだ
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*"Opposites attract"「反対のもの同士は惹かれ合う」という英語の諺をもじった表現。
*Earl自身はアーティストとして成功を収めているが、メジャーシーンとは一定の距離を置きフレックスとも縁遠い控えめなスタンスの活動を続けている。文脈上、「(心の)貧しいものはあからさまな富に惹かれるが、Earlにはそういったものが寄り付かない」という解釈が最も適当かと思われる。
*Earlが在籍していたOdd Futureをさす。
*ミスショットを一度だけ打ち直すことができるというゴルフの慣例
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Sellin’ kids culture with death, circlin’ like carrion
キッズに死のカルチャー*を売ってる。その死ってのはハゲタカ*みたく旋回している
The more the merrier, phone got you livin’ vicarious
多ければ多いほど楽しいんだろ。そして携帯は君の人生を誰かの代理体験に変えてしまう
Ice melting ‘cause it’s so hot
氷は溶けている。クソ暑いからな
The veil lifts, the pain salient
ヴェールが上がって、痛みがあらわになる
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*Earlがプロデュースしたファッションブランド、Deathworldを指している
*carrionは腐肉、死肉を指す語だが、ここでは腐肉を食べるハゲタカ、コンドルなどを指すと思われる。(Carrion vulture, Carrion crowという言葉も存在する。)
N****s started choppin’ at the road blocks
黒人たちはバリケードを壊しにかかっている
As far as tracks, we goin’ off
道があるかぎり俺らは突き進むよ
Brought the stroganoff beef, holy war
ストロガノフビーフ*を起こしたからな、これは聖戦だ
You know it’s not unique to your boy at all
お前の仲間にとっちゃ特別なことでもないだろ
*beefはラッパー同士の抗争、舌戦を指す。ここではロシア料理のビーフストロガノフをもじっているが、「ストロガノフ」にはそれほど深い意味があるとは思えない。しかし料理、食事にまつわる表現は他の箇所にも現れており、またEarlが敬愛するラッパー/プロデューサーであるMF DOOMも食にまつわる表現を多用することで知られている。
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It’s comin’ out the teeth
俺の歯の間から出てくる
Streets flooded like the pants weren’t touchin’ the sneak
ストリートは洪水状態だ、スニーカに触れないタイプのパンツみたいに*
They rain dancin’ on this, no, they stomp
彼ら雨乞いのダンスをする、いや、むしろ足を踏み鳴らしてすらいる*
On all accounts, paid the cost to see this far
これを見るためにあらゆる犠牲を払ったんだ
*くるぶしが出るタイプのパンツを洪水の際にも水につからないという意味でFlood pantsと呼ぶことがある。Earlの新作がドロップされるとその影響力はストリートに洪水のように広がる。
*Earlの新作を待ちきれないファンを指している
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I’m not on board with the board you try and lead me on
お前が俺を試して、惑わそうとするその板の上には俺は乗らないよ*
I’m pullin’ strings, it’s time to let me off
俺が糸をひいてんだよ。そろそろ俺を解放するときだ
The cook’ll singe you
コックはお前をこんがり焼いてしまうだろう*
Protect your neck and don’t forget the heart
首を守れ*、心を忘れるな
We upper echelon with it, that’s what they’re checkin’ for
そうすれば俺らはより上の階層に行ける。そして彼らがチェックするのもそういうところなんだ
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*I'm on board with~で、「〜に賛成する、〜(という話)にのる」
with以下のthe boardは後の歌詞を考慮すると、「まな板」と訳すことができるかもしれない。いずれにしろ「俺を騙そうとするその提案にはのらない」というニュアンスのラインだと思われる。この解釈だと、その後の「俺が糸をひいている(操る側にいる)」というラインとも意味が一応は繋がる。
*Chris Keys とQuelle Chrisのコラボアルバム"Innocent Country2" (2020)に収録された "Mirage (feat. Earl Sweatshirt, Denmark Vessey, Merrill Garbus & Big Sen)"においてEarlのバースに以下のようなラインが見られる。
You outta time, fried like halibut with two sides
ーMirage(feat. Earl Sweatshirt, Denmark Vessey, Merrill Garbus & Big Sen)-Chris Keys & Quelle Chirs
Earlはどうやら「食材のように焼かれること」をネガティブなニュアンスを表現するために用いていると思われる。
*Wu-Tang Clan- Protect Ya Neckより
I’m getting fed a conch fritter
俺はコンチフリッター*を食わされるところだ
I’m duckin’ when the quiver launch missiles in the dark
矢筒が闇からミサイルを撃ち込んできても俺は避けるよ*
Miss me with the glib remarks, switch hitta
軽率なレビューを後悔しろよスイッチヒッター*
Keep the innings long, n***a
イニングを長引かせろよお前ら
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*コンチ貝のフリッター。何を意味しているかは不明。画像検索すると唐揚げに近いものが出てくる。
*quiver は「振動」を意味することもあり、自然災害、特に地震を指しているとも取れる。
*スイッチヒッターとは野球用語で、左右どちらでも打つことができるバッターのことを指す。ここでは転じて掌返しをするリスナーのことを指している。
最後に
とりあえず和訳は以上ですが、ではタイトルの74とは一体何のことなのでしょうか。背番号74の有名選手はNBAにはいませんでした。最後に野球の話題が出たのでMLBも調べて見ると、ケンリー・ジャンセンという選手がヒットしましたが果たして関係あるのか、、、。7/4にレコーディングしたとかそんな程度の意味合いなのかもしれません。
参考: "Earl Sweatshirt - 74 Lyrics | Genius Lyrics