ショートショート #6 『立法権の思い出』
「あなた、ちょっと。健の部屋を掃除してたら、とんでもないものが出てきたの」
「なに」
「敷布団とベッドの間に隠してあったのよ」
そう言って妻は、さも穢らわしいものであるかのように卓上のものを指差した。
「ああ、立法権」
妻は私立の女子中から大学までエスカレーター式に上がったお嬢だから、年頃の男の子の言動の逐一に、世の終わりのような動揺を示した。たかが立法権じゃないか、と呆れるが、私は黙っていた。
「こういう秘密の積み重ねが少年犯罪に繋がるのよね。わたしにはとても手に負えないわ」
「考え過ぎだよ。男は必ず通る道なんだ。あとで私から話してみよう」
「健、ちょっと入るぞ」
「いいよ」
「おまえの立法権、母さんに見つかったぞ」
「マジか」
「ああいうものは、親の目に触れないようにしないとな」
「司法権にしとけばよかった」
「そうだな。あるいは行政権」
「それはない。オレ、未成年だよ」
二人して笑ったのが、つい昨日のことのように思い出される。
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