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風琴のお告げ #1/4

 三方の壁一面に作り付けられた書棚にまずは圧倒されていた。赤や青や緑の革の背表紙がびっしりと並んで、金の横文字が暗がりに光っている。わたしの部屋の小さな書棚には、小説ばかりの文庫本がせいぜい二十冊。あとは漫画本ばかりで、こんな書棚を見せつけられて、気後れしないわけがなかった。

 先生は大きな机の向こうの椅子に座りつき、パイプを燻らせながら、こちらの反応を楽しむよう。部屋に灯る明かりは先生の机上にある緑の傘のバンカーライト一つばかり。書棚にはさまざまな小物も飾られていて、土偶のようなものもあれば、干し首のようなものもあるし、木の皮で編んだ組紐のようなものもあれば、珊瑚や瑪瑙で作られた装飾品が所狭しと並べられていた。いずれも雑貨屋に売っているような、媚びを含んだ代物ではなかった。年季の入り方もそうだが、込められた想いの禍々しさが、この手の品に詳しくない者にもひしひしと伝わってくる。小さい頃に父親に連れられていった博物館のミイラ展で、「千年の美少女」と謳われた、往時の面影をそのままに残す女の子のミイラの金の三つ編みを食い入るように見つめたあの時の感覚が、そのままに蘇るようだった。
「それはですね。マナウスからさらに百キロほど北に行ったジャングルで十年ほど前に見つかった部族のまじない師が使っていた星座早見で……」
 わたしがしばし足を止めて見入っていると、先生は時折背後で解説を加えてくれる。必ずしもわたしが興味を惹かれている小物の解説とは限らなかったが、それはそれでかまわなかった。

 そのハーモニカは実に場違いな感じでそこに置かれていた。すっかり錆び付いて、並びの品々と古色において相応になずんではいるが、やはりそれが浮いて見えるのは、手工芸品でなくして工業製品だからだろう。
「これ、ハーモニカですよね」
「ああ、それね。いかにもハーモニカです。すっかり錆びついていますが、楽器屋で売っている、れっきとしたあのハーモニカです。そこに置かれているのが、あなたには不思議ですか」
「はい。わたしには不思議です」
「それとて、密林のとある部族にかかわる代物です。とはいえ、その部族はとうに滅んでしまいましたが。そのハーモニカは、彼らの忘れ形見のようなものでして」
 ハーモニカの表面におそらくはメーカー名を表す筆記体の刻印があることからして、それが密林の人々によって製造されたものでないことはわかる。それではなぜこれが忘れ形見なのか。
「不思議ですよね。なぜそれが密林の滅んだ部族の忘れ形見なのか。彼ら(わたしたちは彼らを『風の人』と呼んでいました)が滅んだ理由と、そのハーモニカは大いに関係しているのです。風の人について、あなたはお聞きになりたいですか」
「ぜひ」
 こうして先生との長い夜が始まるのだった。

(つづく)

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