里親委託率の低い東京都。 国の方針を無視した目標に愕然! ~その1~
今回は、首都・東京の家庭養護の実情について書いていきます。なぜ?と驚くことも多いのです。
人口1億2394万1千人の日本の中で、東京都は前年比8万5千人増の1417万人(2024年5月1日現在)。15歳未満の子どもは、全国では前年比33万人減の1401万人。東京都の子どもは、前年比2.2万人減の151.3万人でしたが、都道府県の中では最も子どもが多い自治体です。
東京には政策でも全国を引っ張っていく存在になってほしいところですが、、、その実情を調べました。
社会的養護の現状と課題
2016年児童福祉法の改正で 「施設から家庭へ」
子どもには、愛情のある温かい家庭で暮らす権利があります。これは、国連子どもの権利条約に定められています。そして、そのような家庭を保障することは、政府の義務になります。
しかし、長年、日本政府は、すべての子どもに愛情のある温かい家庭を保障する義務を怠ってきたと言えるでしょう。乳幼児や幼い子どもたちも含め、ほとんどの子どもたちを施設入所とし、数名〜数十人もの大人が、1日三交代、週5日通ってきて育てるという状況を作ってしまいました。一方で、生みの親の支援は少なく、養子縁組や里親制度はほとんど放置されてきたと言っても過言ではない状況でした。
その状況を根本から変えようとしたのは、2016年(平成28年)児童福祉法改正でした。いわゆる「家庭養育優先原則」を導入し、家庭が「適当でない」例外的な子ども以外は、家庭で育てるとしました。
乳幼児については、家庭が「適当でない」子は基本的に存在しません。特定の大人との24時間365日の絆と愛着が必要不可欠な時期です。国連の代替的養護に関する指針も、3歳未満の幼い子どもは、ほぼ例外なく、家庭に措置すべきと示しています。
2016年の児童福祉法改正を踏まえ、2017年(平成29年)8月、厚生労働省は「新しい社会的養育ビジョン」を発表しました。
「新しい社会的養育ビジョン」
乳幼児の里親委託率の目標値が 75%以上に!
「新しい社会的養育ビジョン」に里親委託率の数値目標が設定されました。
家庭で暮らすことの必要性は、幼なければ幼いほど高いことから、
3歳未満の子どもに早急に家庭養育とすること(5年以内に里親委託率75%以上)、
また就学前の子どもも乳幼児に次いで迅速に家庭養育とすることが必要であること(7年以内に里親委託率75%以上)、
そして学童期以降は概ね10年以内に里親委託率50%以上
を目指すと目標が示されたのです。
また「新しい社会的養育ビジョン」は、施設での滞在期間は原則として乳幼児は数ヶ月以内、学童期以降は1年以内とし、特別なケアが必要な学童期以降の子どもであっても、3年以内を原則とするとしました。
これまで施設入所を原則としてきた日本の政策の大きな転換を目指したビジョンと言えるでしょう。
なぜ? 乳児院数がいまだ増加中!!
「乳児院」から「乳幼児総合支援センター」へ
新しい社会的教育ビジョンを受けて、乳児院自身も、「乳幼児総合支援センター」に生まれ変わると言う提案をしました。現在のように赤ちゃんたちを乳児院で預かって「自ら育て」てしまうのではなく、「家庭を支援する」ことを主たる業務とするセンターに生まれ変わる提案です。赤ちゃんを育てる生みの親や里親などを支援するセンターです。
2017年(平成29年)の「新しい社会的養育ビジョン」から、まもなく10年を迎えようとしています。乳児院自身の自己変革の提案からも5年が経ちました。
それでは東京都の現状はどうなっているのでしょうか?各児童相談所が里親のリクルートを進めているチラシなどを見かけるようになりました。
それでは、未就学児、中でも3歳未満の乳幼児たちは、家庭養育されるようになったのでしょうか?乳幼児、赤ちゃんを施設養育しないことが大事なのですから。乳幼児たちは、特定の大人と24時間365日を原則とする愛着の絆を結んでいく必要があるのです。
残念ですが、データを見ると、乳児院はこれまで通り存在し、多くの赤ちゃんが今でも乳児院にいることが示されています。
まず、衝撃的な事実として、2016年の児童福祉法改正以降も、日本では乳児院が増え続けています。
海外比較 世界でも遅れている家庭養護
そして日本の世界の中での立ち位置を確認してみましょう。日本は、諸外国と比較して、里親委託率が非常に低く、施設に入所している子どもの数が非常に大きいという状況があります。日本の23.5%という里親委託率は、際立って低いことがわかります。
「生みの親の家庭で育つことができないなら、施設で育つのは当然じゃない?」という日本の常識は世界の非常識というわけです。特に、多くの乳幼児が施設で育っているという日本の実態は、多くの諸外国にとっては、衝撃であるようです。
東京都の里親委託の現状は?
全国で下から11番目の里親委託率16.8%
日本の中での東京都の立ち位置を確認してみたいと思います。2021年末(令和3年末)の東京都の里親委託率は、16.8%。全国と比較しても低いことを指摘しておきたいと思います。
全国平均は、23.5%です(この数字も低いのですが)。ちなみに、里親委託率は、最大の福岡市59.3%から、最小の金沢市8.6%まで大きなばらつきがあります。これは、子どもたちに地域ガチャがあることを示しています。社会的養護におかれた子どもの最善の利益に沿った政策をとっているかいなか、各自治体の政策ややる気によって大きな差が出ているのです。
また、東京都は、里親委託率が現在低いだけでなく、里親委託率の「伸び」が低いことも指摘したいと思います。2009年から2021年の12年間で、全国の里親委託率は11.1%から23.5%に上昇し、12.4%の伸びを示しました。一方東京都は、10.6%から16.8%に上昇したので、その伸びは、6.2%です。全国平均の約2分の1にとどまっています。
東京都の乳幼児の里親委託率 17.4% 目標に遠く及ばず
さて、「新しい社会的養育ビジョン」で国が示した、概ね5年以内に3歳未満の乳幼児について里親委託率75%以上を目指すという目標の期限が、2025年3月にやってきます。東京都はこの目標達成できそうでしょうか?
実は、最新のデータ(令和3年度末)を見ると、75%はほど遠く、東京都の3歳未満の里親委託率は17.4%に過ぎません。
3歳から就学前の未就学児についても、22.1%となっており、里親委託率が極めて低いということがわかります。
施設入所の悪影響を1番大きく受けてしまう赤ちゃんにまずは注力して里親委託率を上げてほしいというのが、国が示した目標だったはずです。本当に残念です。
東京都で代替養育が必要な3歳未満の赤ちゃんは300人少しに過ぎません。約1400万人いる東京都民の中から、300人ちょっとの赤ちゃんを預かってくれる里親を見つけて支援ができないとは、東京都の政策はどうなっているのでしょうか。
それでは、直近の1年を見てみたらどうでしょうか?直近の年のプラクティスが良いのであれば、将来に向けては希望が持てます。
最新の2022年度(令和4年度)のデータを見てみると、東京都は、171人の2歳未満児を措置しました(区児相は除く)。措置先は、146人が乳児院で、25人が里親なので、里親委託率は15%に過ぎません。これでは未来に希望が持てません。今の政策のままではいつまでたっても乳幼児に温かい家庭を保障することができないことになります。国の政策転換に従って、東京都も政策転換をするしかないのではないでしょうか?
乳幼児を長期間施設に放置している現状
ちなみに、赤ちゃん時代に乳児院に入所した乳幼児たちの入所が長期化してしまっている状況も、データから見て取れます。
国の目標では、未就学児の里親委託率は75%以上(7年以内)が目標となっています。乳児院は原則として3歳までしかいられないので、3歳を超える子どもたちについては措置先が変わることになります。この措置変更の先が問題です。
東京都では、乳児院を退所した後、児童養護施設に移る子が59.7%であり、里親のもとに行ける子どもは、29.9%に過ぎなかったのです(2022年度・令和4年度)。
このように、東京都は里親委託率も他地域と比べて低水準で、さらに乳幼児についての里親委託率も低く、乳児院から半数以上が児童養護施設に措置変更していることなどがデータからも明らかです。
東京都の政策はどうなっているのか、次回は驚てしまう東京都の里親委託率の目標数値などについて記載していきます。