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なぜ、施設より里親の方が良いのでしょうか? ~その2~

 施設と里親と、どちらに委託するかは子どもの事情によっても異なるので一概には言えませんが、前回は愛着障害になるリスクがあるので特に乳幼児の場合は施設よりも里親の方が良いと記しました。今回は、それ以外で里親家庭で養育される場合の良い点を考えて書いていきます。

 前回は文章が長すぎましたね。つい熱が入ってしまいました。読みにくかったら申し訳ありません。今回は、もう少し短くできますように。

 里親家庭で経験できること、期待されること

炊事・洗濯・掃除、日常生活の当たり前を経験させたい

 社会的養護の子どもたちの中には施設に入れられた後、実親の元に戻ることがなく、18歳になるまで施設で暮らしていたという子どもたちが多くいます。児童相談所がこうした子どもについては、本来実親に戻れないのであれば特別養子縁組をするように実親に話をしたり説得したりしてほしいところです。かつて愛知県の児相では職員が何年も施設で放置されて実親との交流がない子どもについては、実親のところに出向き、育てる意思がなく、また現実的に養育が難しいようなので養子縁組しましょう、せめて里親のところに委託しましょうと説得していたそうです。職員がいかに子どものことを考えて動いているか、がわかるお話です。

  さて、この様に施設で長く暮らす子どもたちは一般家庭で普通に経験することを経験出来ずに大人になってしまいます。

  例えば、朝食や夕食などの食事の支度がどのように行われるか知らない子どもがいます。大きな施設の場合は、食事は職員や外部スタッフがまとめて作っていて、子どもたちが調理場に入ることがないということがありました。このため、食事を自分で作る、お手伝いした経験がないのです。包丁を持ったことがない。野菜の皮をむく、切る、切り方なども知らないということがあるのです。パスタやおそばを茹でたこともなければ、ハムエッグを作ったこともない、さらに見たこともないとなると、自立した後どんなに苦労するだろうかと想像できます。

 今は魚を丸ごと買って魚をさばく家庭は少ないので、一般家庭の子どもでも刺身や切り身しか知らない、というのは同じかもしれませんが。唐揚げになった鶏肉、焼きあがった豚肉しか知らないのです。

  また、最近は新聞を取らない家庭も増えていますが、毎朝新聞が配達されることも知らなかったり、お茶はペットボトルで飲むので急須に茶葉を入れて飲むなども知らなかったりします。茶葉でお茶を飲む方が経済的で、水筒で持ち歩く方が経済的なのに、ペットボトルを毎回購入することになってしまます。

 徒歩通学や自転車通学の場合は、電車に乗ったことがない子どももいます。PASMOなどのカードを使ったことがない、電車の切符の買い方も知らないとなり、自立した後困惑することになります。

 掃除や洗濯も職員や外部スタッフがするとなると、もしかしたら洗濯機を見たことがないという子どももいるかもしれません。

  日常の様々の当たり前を知らずに過ごしている子どもたちが自立するとき、すべて初めての体験になるので不安が募るのも当たり前です。里親の家庭で生活することになれば、自然にこうした光景は見ることができ、またお手伝いなどもすることで自然に身につくのではないでしょうか。

 

生活者の顔?ロールモデルが身近にいること。

  一般家庭では化粧を落とした母親の顔を見るでしょう。夫婦喧嘩があったり、例えば子どもの教育方針を巡って両親が別の考え方を持っていて話し合いをすることもあるでしょう。家父長的に父親が決める家もあれば、母親の方が強い家もあるでしょう。親戚付き合い、ご近所付き合い、ママ友、パパ友との付き合い、親の友人が家に遊びにくることもあるでしょう。一緒に買い物に行き、お金の使い方を見ることも大切です。スーパーの安売りのチラシを見て買い物に行く、夕方のセールを狙って買い物に行くなどで節約することも知るでしょう。こうした日常の様々なことは生活の一部の出来事ですが、考え方や価値観なども行動に含まれています。

  施設の生活では、職員は施設に仕事に来て、自宅に帰るので、「生活者」としての顔を子どもたちに見せることは難しいでしょう。家族のような素の顔を見せていないのではないでしょうか?一人の人間が持つ様々な面を肌身で知ること、様々な考え方や価値観を知ることは大切です。

  
 そして生活者としての「ロールモデル」を持つこともとても大切です。私たちは規範になる人、見習いたい人、将来こうありたいと思う人、目標となる人などロールモデルを見つけて、生活したり仕事をしたりしているのではと思います。親もロールモデルになりえますが、社会的養護の子どもたちにとって見習いたくない場合もあるでしょう。

 そして子どもにとっては、職員よりも里親さんの方が生活者としてのロールモデルになりやすいのではと思います。

 

里親は、里帰りできる実家のような存在

 知り合いの里親さんが、18歳まで里親として養育していた子どもたちが自立した後も、休みの日には遊びに来て夕食を食べていくと嬉しそうに話してくれました。自立した後も里親さんの家の近所でアパートを借りている子どもも多いようです。何かあれば頼れる存在が里親さんなのです。家に来るとお米や缶詰を持たせる里親さん、成人式に着物を着せて一緒に写真を撮る、結婚式には親の席に座り感無量になる、里親さんの喜びと子どもたちの喜びが目に浮かびます。そして赤ちゃんが産まれると、初めてのことでわからないことだらけの里子が実家の親のように里親さんを頼り、里親さんも赤ちゃんのお世話をするというのもよくある光景です。

  ですが、良い話ばかりではありません。仕事が長続きせず辞めてしまい生活が立ち行かなくなった。借金を作ってしまった、などで里親さんに泣きつくケースもまたよくあるようです。里親さんは1回だけとお金を貸してあげたり、生活の援助をしたり、様々な場面で手伝っていると言います。ある里親さんは、「措置解除した後(一般的に18歳で里親手当がなくなる)の方がお金が掛かっています。里子を見捨てることは出来ないので実情を知って何か考えてほしい」と仰っていました。

  里親手当はありますが、それ以上にいろいろなお金を里子にかけている。そしてそれは子どもが自立した後も続いているというのです。子どもにとっては、こんな有難いことはありません。里帰りできるだけでなく、頼りになる存在として里親さんは実親以上なのです。

 

長年育った家庭に養子縁組

 特別養子縁組は、かつては6歳未満でしたが、今は原則15歳未満の場合で、実親の同意が必要です。一方普通養子縁組は、15歳以上になると自分の意志で決めることが出来、実親の同意は要りません。
 実親が同意せず特別養子縁組ができなかったとしても、成人になってから里親さんの養子になったという子どももいます。実親との縁も切れず、措置解除された後も里親さんの家で安心して暮らすことが出来る、こんなに嬉しいことはないのではないでしょうか。こうしたことが可能なのも里親なのだと思います。

  施設では、お世話になった職員がいる間は良いですが、異動や退職などすると施設に戻っても知らない人ばかりとなってしまい、頼る場所、帰る場所にならないことになってしまうのです。

いかがでしたでしょうか。
これまで里親家庭での良さを書いてきましたが、次回は、社会的養護の施設についてお話します。


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