制作雑記『変態』
凡そ半年ぶりに新曲を出した。
その半年前の曲というのも、思い付きで一日で作ったものなので、まともに構想を練って腰を据えて動画を作ったのは一年以上も前のこととなる。
絵やら漫画やら音楽やら、気の向いたものに飛び移りつつ制作を進めているため、完成品を出せるタイミングは自分でも予測できない。「今回はたまたま間が空いたな」くらいの感覚である。が、今回の新曲とはせいぜい半年くらいの付き合いの気がしていたので、作曲データの作成日時を見た時は驚いた。まさか一年以上前とは……
(前々作『あなたはヒーロー』を出したすぐ後に作り始めているらしい。そうだっけ……)
なんにせよ、周りに黙って『変態』を作り続けていた間のつもる話を、ここで零させてもらいたい。
※ 作者の意図や解釈が滲み出た内容となってしまうため、こんな文は読まずに、自分の解釈を大事にされるのも良いかと思われます。
続編という位置づけ
『変態』は『不快害虫』の続編ということにしている。歌詞が支離滅裂なので「続編?ただのシリーズじゃなくて?」と思われるかもしれないが。
『不快害虫』は、自分の悪癖をスケッチしたくて作ったものである(勿論、飲み込みやすくなるように誇張は入っている)。一作で済ませるつもりだったが、その程度で置き去りにできる感情でもなかったらしい。不快害虫で語り切れなかった懺悔・罵倒・自戒・等々はその後も言葉として蓄積されていき、『変態』の形になってしまった。それでも言葉はまだまだ残っているし、これからもどうせ溜まり続けるのだろう。
『変態』を半分くらい作ったころ、「似たような曲ばかり作ってしまって良くないな」と思って不快害虫と聞き比べてみたら、曲調が全然違っていて驚いた。私の中では似ていることになっていた。歌詞も、思考の根源は同じだが、不快害虫より先の話をしている。まともに別の役割を持てていることが分かって安心した。モネの睡蓮のように同じモチーフを何度も描くのも悪くはないが、できればひとつひとつ、一緒くたにならず印象に残るものを作りたい。
インプットしたもの
『変態』はインプットに妙に時間がかかった。関連知識を仕入れたり、資料を探して模写したり……なにより、視聴者を嫌な気分にするために、進んで嫌な気分を体験した。虫は決して気持ち悪いだけのものではないのだろうが、今回は普段目をそらしている不快感をとらえて、引用できるようになる必要があった。そんなこんなで苦しみながらインプットしたものたちを下に書き出してみる。
・蛹関連の実験
マッドサイエンティストじみた胸焼けしそうな実験例がポロポロ出て来て参考になった。知識欲的にも面白かった。が、こんなあからさまにキャッチーなものを採用したらそれだけで主題が終わってしまうので、昆虫知識と気持ち悪さのインプットだけに留めた。(蛹化不全については取り入れた。自然界で死んでいく虫達の一例だと思ったので。)
・昆虫食の食レポ
何が彼らを突き動かすのか。「昆虫食は合理的である」という主張でも、罰ゲームでもなく。趣味として、取り寄せてまで・採集してまで食べたいと思う層が居る。「飼っていた虫が死んだので食べる」という思考が存在する。世界は広い。目玉焼きの醤油やソースで争っている場合ではない。この世で信じられるのは、きのこの山よりたけのこの里の方が優れていることくらいだ。
・害虫/害獣駆除業者のWebサイト
"ギリギリお見せできるレベル"の不衛生画像が沢山載っていて、生態説明も分かりやすく、非常に丁度良い資料だった。駆除対象に鳩もいた。
・家庭に湧く羽虫の画像
クロバネキノコバエとチョウバエしか覚えられていない。チョウバエは見た目があざとく可愛いのでいくつも描いてしまった。こんな可愛いものばかり描いていては可愛い動画だと思われてしまう。引きで見たらちゃんと気持ち悪いのでリアルに描いて画面内に大量に散らそうかと思ったが、やめた。それにしてもこういう小さい虫は、鮮明な参考写真が少なくてつらい。反面、"掃除"という需要があるため、死骸の写真は見つけやすくて助かった。羽蟻か何かわからないが、部屋の隅に散らばる死骸の画像が大変参考になった。因みに"蛍光灯 虫"で調べると、バラエティーパックで羽虫の死骸が見られてオススメである。
・潰れた蚊の画像
モチーフのひとつにしようと思ったが、意外と画像が出て来てくれなかった。表現上人間の血はノイズであったし、面白い絵も描けなかったので没になった。
・コップで溺れていた虫
絶好の資料!と思って掬い上げたら生きてて飛んでったので☆1です
・家の前に居たクワガタの♀
すごくかわいかったのですごくかわいく描いた。指に砂糖水を塗ったら舐めた。こんなに可愛げのある虫が存在するのかと感動した。駐車場の茂みに逃がした。
・ムカデ有識者のWebサイト
ムカデがなにより嫌いだ。幼い頃に噛まれて以来、図鑑の写真やスケッチに触れることすら忌避してきた。つまり絶好の参考資料であるため、検索して生態を調べたり、模写をした。これは不快害虫の時にもやろうとしたことだが、当時はできなかった。ムカデの生態、飼い方、撮影の仕方など、その筋のプロが知見を残してくれているサイトがあり、大変お世話になった。ここのお陰で、ムカデに単眼が4つずつあることを知れた。(絵にも密かに反映されている) ムカデのことは今も嫌いで、顔も見たくない。家の中に居る輩は一匹残らず滅びて欲しい。それはそれとして、あのうつくしい造形を再現する腕が足りなかったことは悔やまれるのであった。
・変身/カフカ
前から気になっていたし、参考になりそうなので読んでみたが、半分ほど読んで「あ、これ関係ないな」と思って放置しており、まだ読み切っていない。『変態/ft.クルフカ』と死ぬ程語感が似ているが、偶然であり、意図したものではない。(途中で気付いたが避けようもなかった)
灰色のグロ音楽へ
先述の"気持ち悪さ"のインプットは、MVより曲や詞に活きたようである。たくさんのエフェクトに埋もれて不明瞭であるが、陰と陽が明滅するようなコード運びが気に入っている。是非offVocalでも聴いてみて欲しい。
詞では、不快でグロテスクながら、人間の血の匂いを排除した演出ができて気に入っている。流血表現や身の危険を抜きにして恐怖を感じさせることは、密かな野望のひとつであった。
怯えてくれてありがとう
作品の裏に辛辣さを詰め込む性癖があるのだが、仄めかすだけにしたり、可愛い表現でミスリードを誘ったりと、すぐには辿り着けないような仕込み方をすることが多い。また単純に絵柄が丸いので、何だかんだ詰め込んだ分よりは、甘く優しい作品に見られているように思う。過激であるほど面白い作品になる訳ではないことは、ゆめ忘れてはならないが、自分がどこまで視聴者を怯えさせられるのかを一度試してみたかった。しかしそのくせMVを描き始めたら本能のままに可愛いものばかり描こうとする。もっと真面目にやれ、虫の模写をしろ、と自分と殴り合ったが負けた。まぁ虫の曲に虫が描いてあっても面白くないので、結果的には良かったと思っている。「とはいえこれじゃ結局普段と同じ反応だろうな…」と思っていたが、複数人から「気持ち悪い」「不快」「不気味」という感想が出て来て非常に嬉しかった。これで安心して他の表現に取り組むことができる。過激さとは適切な距離感でいたい。
そもそも、私の作品には普段からして“恐い”部分がある。"解釈の正解"を、意図的にはぐらかしている部分だ。視聴者は、作品から善悪の位置づけや作者の意見が読み取れないと、不安を感じることがある。予測できない話の筋の中で、善悪・好悪を自力で判断し続けなければいけないことで、少なからず体力を削られている人もいるかもしれない(ゴメンネ…)。そして『変態』では、善悪や意図を過去イチ念入りに読み取れないようにしているので、過去イチ不安で消耗させられたのではないだろうか。だとしたら大成功である(ゴメンネ…)。
Audacityが落ちる
このアホなファイル群を見て欲しい。フリーソフトのAudacity君のご機嫌を取りながらMIXをする、愚かなDTMerの不衛生な作業環境である。全体的に意識が低い。
フリーソフトながら大変助けられているが、本当に良く落ちてもくれる。うちのAudacity君は、音量やパンのつまみを弄られたとき、またCtrl+Zなどキーボードからの入力を受けたときに、「ここでフリーズしても、僕のことを愛してくれるだろうか……」と考え、時に実行してしまう悪癖を持っている。カウンセラーへの相談を勧めているが、本人は自力での解決を望んでおり、『変態』のMIXの終盤では良く持ちこたえてくれたこともあって、私も強くは言えないでいる。もしAudacity君が殴ってくるようなことがあれば、流石にその時は荷物をまとめてAudacity君と住んでいるマンションを出ていくつもりだ。私はAudacity君に依存なんかしていない。沢山の恩はあるけれど、その時が来ればちゃんと別れられるはずだ。最寄りの心療内科を示すGoogleMapを閉じて、スマホをしまい込む。Audacity君のくれた青いストラップが、ポケットの中でカチャリと鳴った。
詞の話
詞の話をする。『変態』はかなり乱文的で、説明をすっ飛ばした表現が多く、シーンの切り替わり方も白昼夢の様に不親切である。主張も自己矛盾しかけているし、一人称も口調も意図的にメッタメタになっている。ただ、昔から疑問なのだが、一曲の歌詞の中での一人称のブレに、実際何割程度の人間が気づくものなのだろうか? 正直、"私"がうっかり"僕"になる程度、作詞者含めて誰も気づかないケースもあるんじゃないだろうか。 …という訳で、指摘されるまで黙っていようかとも思ったが、どうせ言うならここに書くのが良いので、書いてしまった。もし「気付かなかった」「当然気付いていた」などの思いがあれば、どこかで教えていただけると嬉しい。
歌詞はいつも、「これはキラーフレーズだ…」と自分で思ったものをいくつも盛り込んでいるのだが、「ここがキラーフレーズですね!」と言ってもらえる機会は当然稀なので、実際どう思われているのかは分からない。とはいえ「これどうですか?」と尋ねる訳にもいかないので、自分で読み返して自分で褒めて溜飲を下げている。「これがキラーフレーズなんですよ!」などと言ってしまう前に、詞の話はここで切り上げておく。
絵の話
大体の絵はミリペンで描いて、スキャナで取り込んだ。一部はデジタルで描いた。気に入っているので何かしらの形に残したいが、衆目に晒すようなデザインでもないので、特に展望がない。
こういう妙に光っている線は、鉛筆の線をカラーで取り込んで彩度を上げたもの。不快害虫のサムネイルの絵と同様のメソッドである。
トンボの翅は疲れるのでもう描きたくない。因みに尾の形状からして雌であろう。チョウバエとか蚕とか大体の虫は、雄雌どちらかわからない。蟻は働き蟻なので雌だろう。
自分の絵柄はデフォルメ調なので、大体何を描いてもマイルドになると思っている。だからもう何がアウトなのかさっぱりわからない。裸体も虫も骨も奇形も共食いもセーフなんじゃないかなと思っている。虫が一番よろしくないと思って動画に注意書きを挟んだが、反応を見るに、総合的な不気味さが一番キツかったらしい? きっと絵はセーフだったんだろうと思う。死骸とか描いたけれど、たぶん大丈夫だろう。
締め括り
全体的にイキった内容で恐縮である。申し訳ないが大目に見て欲しい。園児が絵を描く時のようなイキりが必要なのだ。
本当は寧ろ、自分の技量のなさを噛み締めた一年であった。スランプというよりは、「故意に持ちっぱなしにしていた根拠のない自信が、流石に風化して使えなくなった」という説明がしっくりくる。何と比べているのか知らないが、漠然と、品質が一般的な水準に満たないと感じる。馬鹿馬鹿しい懸念だ。それでも自分の絵は可愛いし、自分が作らないと誰も語ってくれないことがまだまだ在る。作れるものから作るしかない。作りたいものから作るしかない。それ以外のことはそもそも出来ないし、出来ても良い結果にならないと思う。
そういう訳なので、私は5歳の幼稚園児になります。以上。