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よくある作詞法への所感と、シチューの曲に関する雑記

 作詞講座によくある「まずは登場人物とシチュエーションを決めましょう」という指南、個人的には「これを作詞方法の王道みたいに書くのはちょっとどうなのだろう…」と思っています。
 自分の感じている違和感を言語化したくて、以下に書き連ねてみました。自分向けで割と乱文なので、暇な人だけ読むことをお勧めします。


理由①

 第一の引っかかりは、"歌詞というものは必ずしもストーリー仕立てではない"という点。
 物語調の歌詞は、別に王道という程主流でもない(…と思います)。
 語り手がどこにいる誰なのか全然情報がない歌詞はざらにあるし、語り手という概念自体がないことも多い。
 それなのに多くの作詞講座で「主人公を取り巻く情景を思い浮かべて、カメラのように切り取る作詞法」が紹介されているのは、単に万人がゼロから書き始めやすいやり方、というだけなのではないかなぁ。


理由②

 第二の引っかかりは、"あんまり面白くないものができそうだな~応用が利かなさそうだな~"という点。
 指南の通りに色々決めていくと、漫画のプロットの様な筋書きが出来上がる訳ですが、こういうのって大抵

①電車で毎日見かける娘が気になっている
②声をかけたいけれど、勇気が出ない
③その娘が彼氏といるのを見た。悲しすぎる

作詞講座によくある感じの筋書き例

 くらいの、"マックで友人に話す愚痴"レベルのストーリーを作るよう案内していることが多くて、話単体ではそこまで面白くならない。
 こういう普通の展開の話が面白くなるかどうかって、"演出の腕"にかかってくると思うんですよね。「フラれたので悲しい」みたいな当たり前の話に聴き手を没入させるには、情景描写の解像度やら気の利いた言い回しやら、何かしらのテクニックが必要になってくる。。
 しかもこの話、正直①で③のオチ予想できますよね。
 普通に順当に話すのであれば、③まで聞くメリットがない。友人に楽しく話を聴いてもらうためには、①②③それぞれに没入できるような味付けをしたり、簡単には③が予測できないよう、情報を出す順番を組み替えたり……と、やっぱり演出の工夫が欲しくなる。。
 「日記のように書いてみればいいよ」という指南は、門戸を開くという意図では大いに賛同しますが、さもこれが作詞の基本形で、「これだけで作詞ができるようになります!」みたいな言い方をされると……個人的に気にかかるところです。

余談:過去作と照らし合わせて

 以下、上記の意見を踏まえての余談です。
 歌詞は漫画と違って、滅茶苦茶なことを書いても視聴者が離れていかないという利点がありますよね。
 漫画/映画/アニメ等は、理解不能なシーンが続くと視聴者がダレて離れてしまいますが、歌詞であれば前後の文脈が繋がっていなくても、場面や視点が急に変わっても、急に外国語になっても、「そんなもんか」と流してもらえるので、かな~り無茶が可能です。

それを利用して作ったのがこちら。


※以下、未試聴の方は視聴後に読んで欲しいです。

はずかしいな シチューの作り方
知らなかったことにして
眠って起きたらどうでもよくなってるといいな
わすれたいな 押し花の栞
まだ使ってくれてるの
子供みたいでほんと嫌になる
ほんとに子供だから

わたし あなたみたいな人と結婚する
家族の写真 手帳に入れて眺めるような
いつか あなたみたいな人と結婚する
花柄のお弁当箱 ちょっと照れくさそうに
ハートのにんじん チーズの星
図書館の貸出カード

きっといいお嫁さんになるって
それはないでしょ せんせ

『返却、やさしいシチューの作り方』作詞:citrus

(野暮なのであんまやりたくないですが)
この歌詞を時系列のストーリーに書き直してしまうと、こう。

①生徒が先生に片想いしている
②先生のお嫁さんになることを夢見て、料理本を図書館で借りる
③何かの折(遠足?)に、先生が既婚者で子供も居ることを知る
④ショックを受け料理本を返却しようとしたが、運悪く先生に見つかる
⑤「いいお嫁さんになる」と無邪気に言われて、最悪の気分になる

ストーリー

(どうでしょう。整理して端的に伝えてしまうとつまらないですかね?)
この歌詞の作り込みポイントは、こんなところ↓

  • シチュエーションのレア度と解像度を上げる(非ありきたり感, フック)

  • 言うまでもないことは言わない(野暮なので)

  • 開示する情報の量と順序を調整して、場面ごとの印象を操作する
    + 音楽のニュアンス(長調/短調)を利用して、歌詞のニュアンスを調節 
    + 最後に真相が判明するミステリー要素(おまけ)

※「わたし あなたみたいな人と結婚する」あたりの歌詞は、文面自体はポジティブに作ってあります。あえてこれを長調(明るい音)の中に配置して、ネガティブな意味合いは歌詞の内容を咀嚼した時にだけ出てくる設計にしました。

※ 音のニュアンスによる詞のニュアンス調整の例

 無色透名祭という投稿祭で曲を出すにあたって、多数の作品と視聴者を取り合わなければならないことが分かっていたので、「気軽に聴けるけど印象に残る」質の曲を出そうと画策した結果がコレです。
 本当はボカロPならもっと音圧で勝負するところなんでしょうけれど…(笑) 私は私の得意な分野で、出せるカードを切ることにしました。(出せないカードは出せないですしネ!)
 お祭りが終わった後も思い出して聴きに来てもらえるようなものが、それなりには作れたみたいなので、結構満足です。

以上、乱文でした。

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