完結編。

他店舗から新人が送り込まれた。19歳男子。見た目はなかなかいい男。Pとしておこう。
なんせ覚えが悪いため異動になったのだ。

ちょっと指導に時間がかかるタイプはだいたい私が教育担当をあてがわれる。

反抗的だとか、調子に乗りやすいお年頃のインターン上がりが多かったけれど、彼はとても素直だった。ただ、覚えられない。

今となれば診断がついたのかもしれないが、当時はそんな言葉すら知らなかった。

診断があろうがなかろうが、そんなことは関係ない。どうやったらコヤツは覚えるのだろうか。と試行錯誤しながら教えた。

ありがたいことにスタッフは皆いい人で、特にPと同期のインターン女子。女史。

県内トップクラスの進学校を卒業しながらも「美容師になる！」を貫きここにいた。

この彼女(Sちゃん)が副教官で私に協力してくれた。前出の男子Kも彼を可愛がってくれた。

彼は私の舎弟のように常に私の傍にくっついていた。
「WAKUさん、俺の事ずっと怒っててください。無視されるのが一番いやだから。」と言った。

基本的なことを覚えるまでは、休日でも一緒にご飯を食べながら店では教えきれないことを教えたり、話を聞いたりしていた。

しっかりしなさい！

私の手を離れてきたな、ヨシヨシ。と思っていた頃。Pから電話が来た。

P「WAKUさぁん。どうしよう〜！」
W「どうした？今サーフィンだろ？」
P「そうなんすけど〜､､､もうマジ困ってて」
W「何がどうした？」
P「Tさんから毎日朝早くから夜遅くまで電話来るんですよ。『祈ってる？』って」
W「え？お前、入ったの？明日詳しく聞くから。サーフィンしといで」

翌日。私とKとSちゃんで遅番。
中番のPに残業をさせて、3人で話を聞く。

W「で、なんだって？いつ誘われた？」
P「先週の休みの日、電話来たんですよ。ご飯食べさせてあげるって。で、Ｔさんと待ち合わせして変な事務所みたいなところに入って」
W▪K「CASAじゃないんか」

P「そしたら、ほか弁みたいな弁当出されて、これ食べていいよって言うから。食べ終わったら『500円払って』って言われて払って、そしたら本(教本)とブレスレットみたいなやつ(数珠)渡されて。帰っていいよって」

Sちゃん「もうっっ！なにやってんの！」

滅多なことで怒らない、賢い可愛い優しい女神が真っ先に怒った。

W「入ったら縁切るぞって言ったろ？」
P「嫌です嫌です！辞めたいです！Tさんに辞めたいって言っても聞いてくれなくて」
W「数珠と教本を返しに行かなきゃだわ。」
P「ひとりじゃ行けません。絶対聞いてくれないもん」
Sちゃん「もー！なんなの！しっかりしなさいよ！」Sちゃん。いつもと違う。面白い。

W「付いてってやるから。行くぞ。」
Sちゃん「心配だからついて行きます！」
K「P！WAKUさんが刺されないように守れよ！」

､､､そんな感じ？えっ？そんな事件性ある？

出陣

車の中に置きっぱの数珠と教本を持ち、いざ出陣。

事務所の前に着いた時にちょうどTさんが出てきた。
W「P誘ったね？お弁当代だと思って500円払ったんだよ。この子、やめたいって言ったでしょ？」と話をしていたら、後ろからBOSSが登場した。

推定35歳の女。
「なに？どうしたの？」と気持ち悪いほど猫なで声で近づいてきた。

Tさんがモゴモゴしていたので、私の方から「この子がやめたいって。Tさんに言っても聞いてもらえないから直接来た」
と言った途端、猫からライオン、いや、鬼の形相に急変！！

鬼「あなた誰なの！関係ないでしょ！」
W「人に名前聞く時は自分が先に名乗れ！」
鬼「私は○○です！」    ←あら、素直。
W「WAKUです。この子の先輩です！Tさんの同僚。一緒に働いてんの！関係なくないわ！やり方が汚いわ！」

鬼はくるっとPの方を向き、また猫に戻り「本当はやめたくないんだよね？この人に脅されてるんだよね？」

ほほう。そう来たか！あきれ果てる。
Pはどうしたらいいか分からなくなっている。

大きな声で対決しているので、駅近くの大通りで通りがかりの人々がコチラをジロジロ見ながら通り過ぎていく。

W「Pどうすんの？自分で決めな」
ここまで黙って見ていたSちゃん。

Sちゃん「P！ハッキリしなさい！辞めたいからってわざわざWAKUさんについてもらってきたんでしょ！ちゃんと言いなさいよ！」

流石。尊敬すべき後輩ちゃん♡♡

P「やめたいです。」小声。
鬼「ホントに？嘘だよね？怖いんでしょ？あんな先輩嫌だよね〜！」
P「違います！辞めます！電話しないでください！」

なんとか収集が着いて帰途に着く。

その後

おっかない先輩と私がこのお店を離れたあと、Tさんはお客様にも勧誘を広げ『被害者の会』が発足されたという話だった。

しつこい訪問により連行され事情聴取されるも、警察の方が

「ちょっと何言ってるか分からない」

と、直ぐに釈放されたそうです。

ほんとにいい人なのに。
素直で優しい人なのに。

そういう人々を言葉巧みに騙してお金を巻き上げ家族や友達を遠ざけるように仕向ける団体は『宗教』ではない。『詐欺』だ。