第1回・数学は苦手だけど「ばらまき批判」に関する論争を理解したい人のために ~ドーマー条件の数式の手ほどき~
矢野財務事務次官の寄稿が話題になっていますね。
反論記事等もYahooでよく見かけますが、その際のキーワードの一つが「ドーマー条件」(「ドーマーの定理」とも)です。
小難しい説明と一緒に数式が出てくると、煙に巻かれてしまいそうになりますが、実は数式そのものはいたって簡単です。
正確な理解は建設的な議論の前提ですので、ドーマー条件の説明で出てくる「数式」を思いきりかみ砕いて説明してみます。中1レベルの数学が分かれば理解できる説明を目指します。
想定読者はタイトルに記載の通り、「関心はあるが、数式を見ただけで嫌になる」という方です。
想定読者の方はこのまま読み進めてください。
想定読者よりも豊富な知識をお持ちの方は、「初心者への説明はここまで詳しくやるのか」(あるいは、「そこまでは必要ないんじゃないか」とか「もっと詳しくやらないと!」)という視点でご高覧いただければ幸いです。
なお、上記が本記事の執筆趣旨ですので、矢野氏や反論者の主張自体は取り上げません。
また、「ドーマー条件」そのものの詳細な説明も行いませんが、例えば下記のウエブサイトの説明が分かりやすいと思います。
【藤井聡】財政規律のための「ドーマー条件」の性質について(新経世済民新聞)
https://38news.jp/archives/04878
金融情報サイト iFinance
https://www.ifinance.ne.jp/glossary/economics/ecm010.html
<用語について>
GDPには「名目GDP」と「実質GDP」がありますが、本連載で用いるのは「名目GDP」のみです。以下、「名目GDP」の意味で単に「GDP」と表記することがあります。
また、本連載では「債務残高」と表現していますが、他の記事では「国債残高」等の表記が用いられることがあります。本連載を読む上では、同じ意味だと思ってください。
<文字・記号の定義>
文字・記号が多すぎて嫌になるという方は一旦読み飛ばして、必要に応じて参照していただければ大丈夫です。
<説明簡便化のための条件>
簡便化のために当期中の収支(=プライマリーバランス;PB)はゼロであるとします。
<数式解説>
なお、これはあくまでも「率を比較した増減値」であり、「増減率」ではありませんのでご注意ください。
結局は r-g がプラスになる場合、すなわち「r:利子率」が「g:成長率」よりも大きい場合には、「債務残高がGDPに占める比率」は大きくなるということです。
逆に r-g がマイナスになる場合、すなわち「g:成長率」が「r:利子率」よりも大きい場合には、「債務残高がGDPに占める比率」は小さくなります。
ちなみに、日本経済研究センターの記事(執筆は明治大学・田中秀明教授)では「ドーマーの定理」を以下の数式で表しています。(税収 - 政府支出)(=プライマリーバランス;PB)もGDPで割らないといけないのではないかと思いますが、その点を除けば今回、探した中では最も見やすく、正確な数式表記です。
( https://www.jcer.or.jp/blog/tanakahideaki20190703.html より)
<さいごに>
説明は以上となります。
一段階ずつ見ていただければ、数式自体は難しくないですよね?
数式変形について、言葉でもう少し説明しほしい箇所があるという方がいらっしゃればコメントしてください。
本記事では、簡便化のために当期中の収支(=プライマリーバランス;PB)がゼロである場合の解説を行いました。
「第2回」の記事では、PBがゼロでない場合の数式解説を行っていますので、ぜひそちらもご覧ください。