R6予備試験 商法 再現答案

第1 設問1(1)
1 甲社による本件株式の買取は有効か。自己株式取得(160条)による分配規制違反(会社法(以下略)461条1項3号)の効力について明文がないため問題となる。
2 この点、法が厳格な分配可能規制を定めていることに鑑み、分配可能額を超えた自己株式の取得は一律に無効であると考える。
3 よって、本件株式の買取は無効である。
第2 設問1(2)
1 Aの責任
(1)まず、Aは423条責任を負うことが考えられる。
 ア これについて見るに、Aは甲社に代表取締役であるから「役員等」に当たる。
 イ 次に、「任務を怠った」といえるか。
本件において、たしかに計算書類の過誤は経理担当従業員であるGのミスによるものであり、A本人の過誤によるものではない。しかし、Aは甲社の経理及び財務を担当しているにもかかわらず、会計帳簿の作成について直属の部下であるGに任せきりにして関与していなかったのであるから、責任者として部下の管理について任務懈怠があったといえる。よって「任務を怠った」の要件も満たされる。
 ウ そしてこれによって甲社は200万円の「損害」が生じたといえ、因果関係も認められる。
 エ したがって、Aは423条責任を負い、損害を賠償する責任を負う。
(2)また、Aは本件株式の取得について甲社の定時株主総会に取り上げた者であるから、「総会議案定案取締役」(462条1項1号イ)にあたり、462条責任も負う。
2 Dの責任
(1)Dは本件株式の買取りを受けた株主である。もっとも、Dは甲社の分配可能額が1200万円であり、甲社が本件株式を買い取ることについて問題はないとの説明を受けていたため、「分配可能額を超えることにつき」「善意」(463条1項)であったといえ、463条責任を負わない。
(2)よって、Dは何ら責任を負うことはない。
3 Fの責任
(1)Fは423条責任を負うことが考えられる。
 ア まず、Fは甲社「監査役」であるから「役員等」に当たる。
 イ 次に、「任務を怠った」といえるか。
本件で、Fは甲社の監査役であり、会計帳簿が適正に作成されているかを監査する必要があったにもかかわらず、Fによる会計監査は、会計帳簿が適正に作成されたことを前提として計算書類と会計帳簿の内容の照合を行うのみであった。そしてこれによって会計帳簿の過誤に甲社は気づけなかったのであるから、Fは監査役としての任務懈怠があったといえる。よって「任務を怠った」の要件も満たされる。
 ウ そしてこれにより甲社は本件株式の取得を行い200万円の「損害」が生じており、因果関係も認められる。
(2)よって、Fは423条責任を負う。
第2 設問2
1 前提として、Aは甲社株1000株のうち900株(「十分の九」)を取得したのであるから、適法に株式等売渡請求(179条1項本文)をすることができる。
2 そこで、Eは、「不利益を受けるおそれがある」として、売渡株式等の取得をやめることの請求(179条の7第1項)をすることが考えられる。
3 では、Eに「不利益を受けるおそれ」があるといえるか。
(1)この点について、会社法が特別支配株主の株式売渡請求を定めている以上、一方的に株主が会社から排除されることは想定済みであるといえる。そこで、「不利益を受けるおそれ」の有無は、専ら経済的な観点から判断すべきであると解する。
(2)本件で、たしかに、B、C、DらはAに甲社株1株あたり10万円で売り渡しているにもかかわらず、Eへの株式売渡対価は1株あたり6万円であり、不公平にも思える。しかし、Aとの個別の交渉の末、個別の契約によって株式を売り渡したB、C、DとEでは事情が違い、株主平等原則(109条1項)に反するわけではない。また、税理士Hによると、甲社株の適正評価額は1株あたり6万円から10万円であり、Eへの株式売渡対価も一応適正評価額の範囲にとどまる。そうだとすれば、Eは不当に経済的な不利益を受けるとは言えない。
(3)よって、「不利益を受けるおそれ」は認められない。
4 したがって、Eの請求は認められない。
                               以上

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