R6予備 刑事実務基礎 再現答案(D)

設問1
1 小問(1)
(1)写真撮影について
本件車両が放置された現場の写真撮影によって、何らのプライバシー権も侵害されることはなく、事故現場の状況を保全しておくために写真撮影が許される。
(2) 本件フェリーのチケットの各半券押収について
本件フェリーのチケットの各半券は「被疑者」であるAが「遺留した物」(刑事訴訟法(以下略)221条)といえるから、令状なく領置することができる。
2 小問(2)
(1)身体検査令状(218条1項)と鑑定処分許可状(168条1項)が必要である。
(2)まず、人の血液を採取するためには鑑定処分許可状が必要である。しかし、鑑定処分許可状には139条が適用されないから、実効性に欠ける。そこで、これを解決するために身体検査令状も併用すべきであると解する。
設問2
1 小問(1)
Pが下線部③の補充捜査の指示をした理由は、本件フェリーのチケットを本当にAが購入したものか確認したり、Aに共犯者がいるのかを判断するためである。
2 小問(2)
(1)詐欺罪(刑法246条1項)における欺罔行為とは、相手方の財産交付の基礎となる重要な事実を偽ることをいい、所有権を相手方に移す意思まで必要になると解する。
(2)確かに、AV間のレンタカー契約で本来前払いなのにも関わらず後払いにすると合意したことは、一定期間無償でAに使用させようとしていたという点で詐欺罪の成立に積極的に働く事実となる。一方、そもそもAV間の契約がレンタカーを貸すという契約であること、 Vが何度も電話でAに対しレンタカーの返却を要求していること、Aが「これから返しにいく」などと発言していることは、Aにレンタカーの所有権を移す意思がないという点で詐欺罪の成立を消極的に働かせる事実となる。
(3)上記のように、欺罔行為があったといえないから、Pは単純横領の罪で公判請求した。
3 小問(3)
(1)横領罪(刑法252条1項)における「横領」とは、不法領得の意思の発現行為をいい、所有者にしかできないような行為をした時点で不法領得の意思が発現したといえると考える。
(2)ア ㋐は、AV間の契約で本件車両の返却期限と定められた時点であり、㋑は返却期限から1時間過ぎた時点で、AがVに対し「これから返しにいく」といった時点であり、㋒はAが本件車両とともに乙市行きのフェリーに乗り込んだ時点である。
  イ 一般にレンタカー等の契約においては、返却期限が過ぎた後も延滞料金など通常より高い金額で未だ利用できるとされることが多いところ、返却期限を過ぎたら即横領したというのは社会通念に反する。そこで㋐㋑の時点では未だ横領行為があったとはいえない。一方、本件レンタカー契約は、Vが丙島で本件車両を貸すというものであるところ、一般に島から本件車両を持ち出すことは所有者にしかできないような行為といえる。
(3) そこで、成立時期を㋒と結論づけた。
設問3
1 本件検察官面前調書は、「公判期日における供述に代えて書面を証拠」(320条1項)とするものであるから、原則として「証拠とすることはできない」。
2 しかし、Jは、321条1項2号後段の場合に当たるとして、例外的に証拠として採用したと考えられる。ここで、そのように考えたJの思考過程を検討する。
3(1)まず、「公判準備若しくは・・・実質的に異なった供述をした時」には、公判準備の方がより細かい供述であることも含むと解するところ、検察官面前調書においては、AがX方を訪ねたことややり取りをしたことを認めているにも関わらず、Xの証人尋問においては「Aが私の家に来たかどうか覚えてない」などと発言しており、「実質的に異なった供述をした時」に当たる。
(2)ア また、Xは「Aは、地元の中学校の同級生で、いつも怖い先輩たちとつるんでいた。今日傍聴席にいる人たちも、Xが昔つるんでいた先輩たちだと思う」と証言しており、実際、傍聴席にはAと同年代の男性が約10名ほどおり、Aと目配せをしたり、Xの証言中に咳払いをしたりしていた。傍聴席にいる人間が本当にAの先輩なのかは定かでないが、Xがそのように感じている以上、Xは報復などを恐れXの不利な証言をすることが期待できない状況にあったといえる。そうだとすると、「公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況」があったといえる。
 イ なお、「公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況」とは相対的なものを指すと考える。
4 よって、321条1項2号後段の場合にあたり、証拠として採用した。
設問4
(1)について
確かに、弁護士は「依頼者の意思を尊重して」職務を行なわなければならない(弁護士職務基本規程22条)。しかし、一方で「真実を尊重」し、職務を行わなければならない。よって、このような主張をすることはできない。
(2)この場合も、上記と同じ理由・根拠で、このような主張をすることはできない。
                              以上

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