肩関節のバイオメカニクスと運動連鎖に基づく治療的評価法〜屈曲・外転動作時痛のアプローチ5選〜
はじめに
このnoteは、誰にでもお役に立てるわけではありません。
ですが、以下に当てはまる理学療法士の方は、必ず読んでみてください。
「あれ!?肩挙げても痛くないです!」
こんな風にその場で結果を出せる(痛みを緩和させる)理学療法士に憧れたことはありませんか?
もしも「自分にはたいした腕やセンスがないから・・・」と諦めかけている方は、ちょっと待ってくださいっ🤚!!
私は徒手療法の資格を何か持っているわけでもなく、特別なセンスもない理学療法士の一人です。
ですが、そんな私でも臨床で確かな効果を実感しているのが治療的評価法です。
治療的評価法は、その場で変化を出せるのが特徴です。
その場で痛みや症状が緩和すると患者様は喜んでくれて信頼関係の構築にも繋がります。
このnoteでは、肩関節の運動時痛に対する治療的評価法の中から、徒手スキルに自信のない私でも、臨床で確かな有用性を実感しているアプローチ法を厳選してご紹介します。
肩関節のアプローチに苦手意識のある方が臨床力を高める、いちきっかけとなりましたら幸いです。
Louis
自己紹介
はじめまして、forPTのLouis(ルイ)です。理学療法士免許を取得し、現在は整形外科クリニックに勤務しています。
forPTとは、理学療法士の臨床と発信を支援するために2019年に発足されたコミュニティです。
instagramのフォロワー数は6900人を越え、多くの方に共有していただけるコミュニティとなりました。
臨床に役立つ知識や技術を発信し続け、現在では理学療法士だけでなく、セラピスト全般、理学療法士学生、柔道整復師、スポーツトレーナーなど幅広い職種の方にもシェアいただいています。
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それでは、以下より『肩関節のバイオメカニクスに基づく治療的評価法〜屈曲・外転動作時痛のアプローチ5選〜』です。
『治療的評価法』とは
治療的評価法とは、一言でいうと治療としても使える評価方法です。
具体的には疼痛減弱テストを用いて効果判定を行い、疼痛や症状が軽減または緩和する場合には、そのテスト手技を10回程度反復して行い治療に応用するといった流れになります。
疼痛減弱テストは、疼痛のある動作に対して行い、症状が軽減または消失するかどうかを評価し障害を捉えます。疼痛減弱テストの効果判定にはNRSを用いて、疼痛の変化を捉えるのをオススメします。
このnoteでは、肩関節の解剖学とバイオメカニクスに基づいた治療的評価法をご紹介していきます。
まずは、治療的評価法を理解するのに必要な知識について整理していきましょう。
肩関節屈曲動作に作用する筋肉
肩関節屈曲動作の主動作筋と拮抗筋は以下になります(図1)。
図1 肩関節屈曲動作に関与する筋肉
(三角筋、棘上筋、大胸筋鎖骨部、上腕二頭筋、烏口腕筋、大円筋、広背筋を記載)
肩関節屈曲0°〜50-60°では、烏口上腕靱帯、小円筋、大円筋、棘下筋が制限因子¹⁾として挙げられています。
肩関節屈曲60°〜120°では、肩甲帯の上方回旋の運動が大きくなり、僧帽筋や前鋸筋が活動します。
肩関節屈曲120°〜180°では、三角筋、僧帽筋下部繊維、前鋸筋の筋活動により運動が持続されます。
肩関節屈曲動作では、三角筋と棘上筋が主動作筋として挙げられます。屈曲初期では棘上筋の筋活動が大きく、屈曲角度が増大するのに伴い三角筋の筋活動が大きくなっていきます。棘上筋の筋活動は徐々に小さくなり約120°〜では屈曲作用はなくなる²⁾とされています。
肩関節外転動作に作用する筋肉
肩関節外転動作の主動作筋と拮抗筋は以下になります(図2)。
図2 肩関節外転動作に関与する筋肉
(三角筋、棘上筋、大胸筋、大円筋、広背筋を記載)
肩関節外転0°〜90°では、三角筋中部繊維と棘上筋が動力筋¹⁾²⁾になります。
肩関節外転90°〜150°では、肩甲帯の上方回旋の運動が大きくなり、僧帽筋や前鋸が活動します。また、広背筋や大胸筋による制限を受けることがあります。
肩関節外転150°〜180°では、外転筋群に加えて脊柱起立筋の作用による体幹伸展¹⁾が必要とされています。
肩関節屈曲動作のバイオメカニクスと運動連鎖
肩関節屈曲動作において各関節は以下のような運動をします³⁾⁴⁾(図3、4)。
図3 肩関節屈曲0°〜90°までの各部位の運動
図4 肩関節屈曲90°〜180°までの各部位の運動
肩甲上腕関節は、内旋から挙上角度の増大に伴い外旋していきます。
一方で、屈曲角度170°位で上腕骨は内旋するとの報告¹⁾⁵⁾⁶⁾も散見されます。肩関節屈曲最終域で上関節上腕靱帯および烏口上腕靱帯による内旋作用を受ける¹⁾とされています。このことから、屈曲最終域で内旋とした方が可動域が大きい場合は、上関節上腕靱帯および烏口上腕靱帯の伸長性が低下している可能性が挙げられます。
肩甲胸郭関節(肩甲骨)は、肩関節屈曲初期では肩甲骨は外転し、約90°–150°からは内転に変わります。初期では僧帽筋上部繊維と前鋸筋下部繊維の筋活動による肩甲骨の外転・上方回旋作用、中期以降では、僧帽筋中部繊維と下部繊維の筋活動による肩甲骨内転作用⁷⁾が重要となってきます。
脊柱および骨盤は、屈曲90°前後からの脊柱伸展・骨盤前傾運動が、円滑な動作をするうえで重要となってきます。
肩関節外転動作のバイオメカニクスと運動連鎖
肩関節外転動作において各関節は以下のような運動をします³⁾⁴⁾(図5、6)。
図5 肩関節外転0°〜120°までの各部位の運動
図6 肩関節外転120°〜180°までの各部位の運動
肩甲上腕関節は、徐々に外旋角度が増大していきます。
外旋可動域制限がある場合は、大結節の転がり運動が制限され烏口肩峰アーチとの間(第2肩関節)でインピンジメントを生じてしまいます。
肩甲胸郭関節(肩甲骨)は、内転・上方回旋・後傾していきます。肩関節外転初期では僧帽筋中部繊維によって肩甲骨は内転し、前鋸筋の活動によって上方回旋していきます⁷⁾。
脊柱および骨盤は、肩関節外転初期から脊柱伸展・骨盤前傾を促すことで、円滑な動作が可能となります。
💡肩関節の動きは下記動画がイメージしやすく参考になります。
肩関節屈曲と外転の動作時痛に関する特徴の違い
肩関節屈曲と外転の動作時痛では、それぞれの特徴や原因の違いを押さえておきましょう。
具体的には、大結節の通路と制限因子の違いに着目します。
大結節の通路の違い
大結節の通路は、肩関節屈曲ではanterior path(前方路)、外転ではposterior-lateral path(後外側路)を通ります(図7、8、9)。
図7 大結節の移動領域
8)を参考に作成
図8 大結節の通路①
図9 大結節の通路②
肩峰下インピンジメントはrotational glide(60〜120°)の範囲で生じます(図9参照)。外転運動において一定の範囲だけ(60〜120°)で疼痛を訴える現象はペインフルアークサインと呼ばれます。
大結節の通路を知っておくと、肩峰下腔のどの領域でインピンジメントが生じているのか予測を立てることができます。
肩関節インピンジメントを生じているのが、前方(屈曲)か後外側(外転)かの鑑別には、Hawkins test(ホーキンステスト)やNeer test(ニアーテスト)が有用です。
💡Hawkins test(ホーキンステスト)およびNeer test(ニアーテスト)の検査方法は下記noteで詳しく解説しています。
制限因子の違い
肩関節屈曲動作では、肩関節後方組織の伸長性低下による可動域制限を受けやすいです。
肩関節外転動作では、肩関節前方組織(特に前胸部)の伸長性低下による可動域制限を受けやすいです。
肩関節後方組織の制限因子には、棘下筋、小円筋、大円筋、広背筋、三角筋後部線維、後下関節上腕靱帯、後下方関節包が挙げられます。
肩関節前方組織(前胸部含む)の制限因子には、肩甲下筋(特に下部繊維)、大胸筋(特に肋骨部)、小胸筋、三角筋前部繊維、中関節上腕靭帯、前下関節上腕靱帯、前下方関節包が挙げられます。
特に肩関節外転の動作時痛では、前胸部の硬さは問題となるケースはとても多いので、必ずチェックしましょう。
前胸部の硬さは、肩甲骨を他動的に内転させた時の抵抗感や前胸部柔軟性テスト⁹⁾で評価しましょう(図10)。
図10 前胸部柔軟性テスト
9)より画像引用
肩関節の動作時痛に対する治療的評価法(疼痛減弱テスト)
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