苛立ちも落ち込みも"ただの"反応だと教えてくれるニューロサイエンス
ニューロサイエンス分野で脳の働きを説明するSCARFモデルを紹介します。
SCARFモデルの概要
SCARFモデルは、スカーフモデルと読みます。
SCARFモデルは、人の脳はどんな事に反応するのかを、ざっくりと分かりやすくグループ化したものです。
2008年に脳科学者でニューロリーダーシップ研究所の創設者のDr. David Rock氏が論文を発表し、2012年にとChristine Cox氏と共著で改訂版を発表しています。
どんな事に脳の反応するかというと、大きく「脅威」と「報酬」の2つに分類できます。
脅威とは、これは危険!という反応。
報酬は、これは自分にとってメリットがあるという反応です。
5つのカテゴリー
SCARFモデルでは、「脅威」と「報酬」を次の5つのカテゴリにまとめています。
S tatus 地位
C ertainty 確実性
A utonomy 自己選択感
R elatedness 関係性
F airness 公平性
例えば、脳が脅威を感じるのは、こんな時です:
S 地位: 地位を貶められたと感じた時
C 確実性: 先が見通せない時、不確実な状況が継続した時
A 自己選択感: 自分に選択権がないと感じた時
R 関係性: 仲間に入れていないと感じた時
F 公平性: 自分が不公平に扱われたと感じた時
反応するように出来ている
SCARFモデルを理解するために二つ脳の性質をご紹介します。
一つめは、
人間の脳は、周囲の出来事に対して反応するように出来ているということ。
「脅威」や「報酬」は考え出しているのではなく、無数のインプットや過去の経験を踏まえて、ポンっと脳内に反応として出てきます。
脅威を感じやすく出来ている
二つめは、
人間の脳は、生き延びてくる過程で周囲の危険や、生命の存続に関する「脅威」を感じやすく出来ています。
つまり”悪い”ことの方が、"良い"ことより強く感じるのです。
組織やチームでの脅威はどこに
そこで疑問にあがるのが、組織やチームにおいて、生命の危険を感じることはほとんどないのに、いまだに脅威反応があるのはなぜでしょうか。
それは、次の点で説明できます。
物理的脅威=社会的脅威
脳は社会的脅威を、物理的脅威を同じ場所で感じます。
ライオンに襲われるのと、仲間はずれにされるのは、同質の存命の危機と受け取ります。
SCARFモデルで対象としているのは、この社会的な「脅威」「報酬」です。
SCARFモデルを使ってみると
David Rock氏は、2012年の論文でSCARFモデルを使うことで、組織の中のコラボレーションがより良く実現できると述べています。
SCARFモデルは、難しい心理学の論文を覚えるわけでなく、5つの思い出しやすい略語を使っているため、日常的に用いやすいのが特徴です。
SCARFモデルは日々の中で起こる感情的に難しい状況下で、「予測する」「整える」「理解する」の助けになります。
ミスをした部下を理解する
リーダーがミスをした部下を注意する前に、部下の状態をSCARFモデルを用いて「予測」してみます。
部下がどんな今「脅威」を感じているか:
S 地位:他のメンバーより出来ない人間だとリーダーに思われている
C 確実性:リーダーがどんな評価を下すか解らない
A 自己選択:ミスはどうしようもなかった、忙しすぎて一つ一つに時間がかけられなかった
R 関係性:会社に迷惑をかけたため、周りから嫌われる
F 公平性:他のメンバーがミスした時より厳しく罰せられるだろうか
ミスをした部下は上記のような「脅威」を感じていることが予想できます。
リーダーが出来る行動
リーダーの「予測」は、次のような考えと行動に反映できます。
例えば、「地位」が最も脅威を感じている点だとしたら、
ミーティングの冒頭に「地位の脅威」を緩和させる事例やポイントを説明し、
部下の「脅威」を和らげられます。
感じないようにするのは無理
SCARFモデルは、「脅威」や「報酬」を自然の反応として出現し、特に「脅威」は感じやすく出来ていると教えてくれます。
その反応はどんな理由からくるのか、理解するのを助けてくれます。
ミスして落ち込んでいる部下に「落ち込まないように!」と励ますよりも、その「脅威」を軽減するよう働きかけることで、部下が「脅威」から抜け出し、
次の事を考えられるようになります。
参考文献
Rock, D. 2008, SCARF: A brain-based model for collaborating with and influencing others: NeuroLeadership Journal, 1, 78-87
Rock, D. Christine C. 2012, SCARF in 2012: updating the social neuroscience of collaborating with others
Baumeister, R. F., Bratslavsky, E., Finkenauer, C., & Vohs, K. D. (2001). Bad is stronger than good. Reivew of General Psychology, 5(4), 323-370.
Photo by Patrick Hendry on Unsplash