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鈴鹿マジック「3」に。映画さながらの母国凱旋レース——オランダGP
フェルスタッペンが前年王者としての地元凱旋で今季10勝目を挙げた。単なる独走レースではなく、予選での超接近戦に加え、決勝でのピンチとハプニング、かつてのライバルからの逆襲を散りばめた、『フェルスタッペン劇場』さながらの週末だった。ルクレールは3位に入ったが、インタビューでの泣き出しそうな表情に哀れを感じる。メルセデス勢も中盤に今季初の1-2を走ったが、VSCとSCのタイミングのアヤで勝利の可能性がついえてしまった。
フェルスタッペンとルクレールの点差は109点で、『鈴鹿タイトル決定マジック』はついに「3」に減った。日本GP終了時点でリードをあと3点広げれば、鈴鹿が2011年以来のドライバーズタイトル決定戦となる。
フェラーリ有利が一転、フェルスタッペンが逃げを打つ
直線が少なく曲がりくねったコース、ということでフェラーリ有利が予想されたグランプリ。ベルギー後にサインツが「次のオランダはウチが有利」と語り、実際にFP2とFP3はルクレールがトップで、その下馬評も正しいかと思われた。
しかし、予選でフェルスタッペンがルクレールを0.021秒差、サインツを0.092秒差で破り、フェラーリに暗雲が垂れ込める。
スタートでフェルスタッペンがルクレールのイン側のラインを阻んで首位をキープすると、じりじりと差を広げ、17周目のルクレールのタイヤ交換までにギャップは4秒以上になった。今シーズン中盤までの『タイヤ持ちはフェラーリ優勢』の状況もいつの間にかレッドブルに逆転されてしまった。
「俺たちのフェラーリ」は悪化の一途に
フェラーリの「やらかし」の悪癖は、ついに末期症状に陥ったとみられる。
サインツの14周目終わりのタイヤ交換の際に左リアタイヤが用意されておらず、10秒近くを浪費。作業に慌てたか、メカニックは予備のホイールガンを放り出し、真後ろでピットを発進したペレスのタイヤが乗り上げてしまった(ガンを蹴ってどこかに跳ね飛ばなくて本当によかった)。
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パンクなどの緊急時でも雨絡みでもないのに、ドライのレースでタイヤが用意されていない、なんて久しく聞いたことがない。それもトップチームで。
レース終盤のセーフティーカー(SC)出動中のタイヤ交換でも、フェラーリはサインツの危険なピット発進で5秒ペナルティーを取られた。もう今シーズンは手の施しようがないかもしれない。
メルセデスの逆転を阻んだVSCと、ペレスの「鬼ブロック」
レース中盤で躍進したのがメルセデス勢だ。レッドブルとフェラーリ陣営がレース開始からソフト→ミディアムとつなぐ2ストップ作戦を取ったのに対し、メルセデスはスタートからミディアムで30周程度まで引っ張り、ハードへの1回交換で最後まで走り切る作戦に打って出た。
ハードに替えてからの彼らのペースは速く、ハミルトンは首位フェルスタッペンとのタイム差を30周目時点の19.9秒から、VSC導入直前の47周目に14.4秒と、一貫して詰めていった。しかもフェルスタッペンはもう一度タイヤ交換が必要な立場。ハミルトンの今季初優勝は十分あり得た。
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ピンチを悟ったレッドブル陣営は、36周目から37周目にかけてペレスが身体を張ってハミルトンを2周ブロック。去年のアブダビさながらの必死の防戦を見せた。
48周目の角田裕毅のストップによるVSC導入で、レースの流れが一気に変わる。首位フェルスタッペンに続いて2位ハミルトン、3位ラッセルがタイヤ交換でピットイン。
VSC中のタイヤ交換によるロスタイムは12秒程度とみられ、ハミルトンは首位とのギャップが14.4秒でステイアウトしても逆転できない。チームはタイヤを替えて現在の順位を守ることを優先した。
ペレスの「鬼ブロック」でハミルトンとのギャップを3~4秒程度押し広げたことが、フェルスタッペンのVSC中のフリーストップにつながった。ハンガリーの作戦遂行で一躍名を馳せたレッドブルのハンナ・シュミッツ女史が妖しくも魅惑的な笑みを浮かべる。メルセデス勢がVSC時のピットウィンドウ内に追い上げる前に角田のトラブルが起きたのは幸運だった。
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地元のヒーローはピンチを乗り越え、10勝目を射止める
レース最終盤の56周目にボッタスのストップでSCが入り、またもタイム差と装着タイヤの状態がリセットされた。ハミルトンはポジション重視でミディアムタイヤで引っ張る一方、フェルスタッペンは首位から1つ順位を落とすものの、ソフトに替えて最後の戦いに備えた。
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61周目にレース再開。昨年の仇敵との直接対決に観客は沸いたが、タイヤの状況が違いすぎた。SCがピットに入ると、フェルスタッペンはハミルトンの抵抗の余地すら与えずコントロールライン直後に前へ出た。ハミルトンはソフトタイヤを履く周囲のドライバーに抵抗できず、表彰台圏外に順位を下げていった。
これでフェルスタッペンは10勝目。かつてのライバルを前に窮地に陥った地元のヒーローが、終演直前に一閃の必殺技で勝利を射止める。ハリウッド映画の教科書になりそうなシナリオだ。幕間ではピエロも登場し、伝統芸の域に達したパントマイムで観衆の笑いを誘った。F1もずいぶんアメリカ的になった。
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まさに「95年型」で進行するシーズン
私はベルギーGP終了後に今シーズンを「1995年型」と述べたが、この1戦でその印象を強くした。
95年のシューマッハは王者としての母国凱旋を2つの優勝で締めた(ドイツGPと、ニュルブルクリンクの欧州GP)。いずれも競争相手のヒルが自滅し、ポイントだけでなくメンタルでも打撃となるレースだった。
特に欧州GPはチョイ濡れの路面をドライタイヤで先行したアレジを、シューマッハがレース最終盤に仕留めた逆転勝利で、地元ファンにはたまらない展開となった。ドイツではホーンと花火。オランダはオレンジの衣装に発煙筒。地元ドライバーを応援する観衆が舞台を盛り上げるのは同じだ。
さて、95年のモンツァがどんなレースだったか思い出してみよう。シューマッハとヒルがレース中盤の接触で消えたあと、フェラーリはアレジ、ベルガーの1-2体制を構築した。しかし、ベルガーは前方のアレジ車から脱落した車載カメラがフロントサスペンションを直撃する信じられないアクシデントでリタイヤし、アレジもレース終盤にホイールベアリングのトラブルで消えてしまった。
95年のフェラーリは「俺たち」ではなく「悲運」と表現すべきレースだったが、今年はどうなるのだろうか。『喜劇』として歴史が繰り返すことは避けてほしいが…。