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抱っこ紐は珍しい?子どもの体に悪い?中国人の熱視線、なぜ…

 北京にもとうとう冬がきた。私が一人で次男を連れて外出する時は、次男に薄手のダウンジャケットを着せたうえで抱っこ紐で抱き、私はその上から、オーバーサイズのウールのコートを着る。私のコートの前ボタンを閉めると、次男はコートの前から頭だけちょこんとのぞく状態になる。
 外を歩く時間が短ければこのスタイルが一番動きやすい。暖房の効いた屋内に入ると、手間取らずにコートを脱げる。
 次男にとっても悪くはないようで、おとなしくおさまっている。

少し歩いただけで、抱っこ紐姿に集まる視線…

 最近、そうやって次男を抱いていると、以前よりも、人の視線を感じるようになった。すれ違う時の凝視は毎日のこと。後方から歩いてきて私を追い抜いた人が、振り返って見てくることもある。
 もうさすがに「小さな赤ちゃん」ではない体格の次男を抱っこ紐で抱いているから、だろうか。次男が寒そうだ、と思われているのだろうか。

 いや、そもそも中国では、抱っこ紐が珍しいのだろうか?
 日本では、一歩出かけると見ないことはないぐらい、かなり多くの人が抱っこ紐を使っている。
 西松屋や赤ちゃん本舗などに行くと、様々なメーカー、値段の抱っこ紐がずらり。私は、長男を出産した時に購入したが、選択肢が多すぎてどれにすればいいかわからず、ずいぶん迷ったものだ。

日本の子ども用品店の抱っこ紐売り場。ネット販売されている物も合わせると種類はもっと多い。

抱っこ紐について、見知らぬ人から声をかけられた×2

 中国人にとっては抱っこ紐が珍しいのだろうか、と私が考えるには、理由がある。
 え?本当に?と思われるかもしれないが、次男を抱っこ紐で抱いている時に、抱っこ紐について、声をかけられたのだ。しかも、2回も。
 

 最初は、自宅近くのショッピングモールのユニクロで。「いらっしゃいませ」と声をかけてきた女性店員は「かわいい」「何歳?」「男の子?女の子?」と聞いてきたが(私もかろうじてそれぐらいは聞き取ることができるようになった)、その後私の抱っこ紐を触って「これいいね」と言ってきた。
 その後も彼女は何か話しているが、私の中国語力ではここでお手上げ。いつものように愛想笑いをして、その場を離れた。
 ところが彼女は私についてきた!トントンと私の肩をたたき、自分のスマホの画面を見せてきた。そこにあったのは、ショッピングサイトの抱っこ紐の商品ページ。私の抱っこ紐の前面にあったメーカーのロゴを見て、調べたらしい。「これ、あなたのと同じ?」と尋ねてくる。私がうなずくと、彼女は「すごくいい。私の姉に子どもがいて…(この後は何と言っているかわからなかった)」とのことだった。

店員の女性が見せてきた抱っこ紐の商品ページ。中国でも抱っこ紐を購入できる、ということだ。

 2回目は、それから数週間後。少し大きめのショッピングモールの衣料品店でぶらぶらと歩いていると、女性店員が近寄ってきた。
 彼女は抱っこ紐を指さして「それ、買ったの?」。私がうなずくと、彼女は「子どもの首に良くない」という。うーん、なんて言おう、と困った私がたどたどしい中国語で「彼(次男)はこれが好き」というと、彼女はズバリ。「私は、彼はそれを好きではないと思う」。いや、そんなこと言われたって…。それ以上何かを話す語彙力が私にはなく、苦笑いして出てきた。

 子ども、特に赤ちゃんへの関心の高さが背景にはあるだろう。とはいえ、私からすると、「抱っこ紐に食いつきすぎでは?」と思ってしまう。
 別にいいけどさ、、、ちょっと見すぎじゃない?気にしすぎじゃない?

抱っこ紐の認知度低い=そもそも売ってない? 確認すべく、赤ちゃん用品店へ

 抱っこ紐は、あまり知られていない、もしくは売られていないのだろうか。そう思って、赤ちゃん用品店へリサーチに出かけた。

 まずは行き慣れたチェーン店で、店内を見まわしたのだが、抱っこ紐を…置いていないのだ。ベビーカーはある。チャイルドシートもある。でも、抱っこ紐はない。

ベビーカーやチャイルドシートが並ぶ。ベビーカーはがっちりとした大きめのものが多い。
赤ちゃんの下着売り場もある。こういうところは日本と同じだ。

 すぐ近くに、これとは別の赤ちゃん用品店がある。高級感のある店構えで、店頭に置かれたベビーカーも外国製の、金色の翼がついたモデル。中国人の富裕層をターゲットにした店だろう。

ドイツのサイベックス社のベビーカー。こんな豪華なモデルは日本で見たことがなかった…。

 この店の一角には…あったあった。抱っこ紐が陳列されている。ただ、日本でも知名度の高い「エルゴ」と「ベビービョルン」の2メーカーのみ。日本であれば、「アップリカ」など、もっとたくさんあるだろう。店内に長くとどまっていたわけではなく、たまたまだと思われるが、抱っこ紐の購入を検討している客は見かけなかった。

陳列されている「エルゴ」と「ベビービョルン」の抱っこ紐。いずれも3万円前後だった。

 この他にも2か所、計4か所の赤ちゃん用品店を見て回ったが、抱っこ紐を置いていたのは、上記の1店だけだった。やはり、抱っこ紐は主流ではないようだ。
 どうして中国人は、抱っこ紐を使わないのだろう。ただ抱っこ紐のことを「知らない」だけなのか、「知っているけれど、良くないと思っている」のか、そこが気になる。

「抱っこ紐、どうして使わないの?」中国人ママさんに聞いてみた(聞いてもらった)

 個人のつぶやきに過ぎない私のnoteでも、推測だけで終わらせたくない。
 私は夫に頼んで、夫の会社の中国人スタッフで、育児中の人に、この疑問をぶつけてきてもらった。

 中国人スタッフは、3歳と9か月の二児の母だ。日系企業で長く働いてきたこともあり、日本の文化や習慣なども理解している。
 彼女は彼女自身の話をしたうえで、中国人の行動様式についても教えてくれたという。
 それによると…


  • 抱っこ紐は買ったことはあるがほとんど使わない。特に9か月の子は体格が良いので使ったことはない。

  • 抱っこ紐を使うと息が苦しそうに見えたり、紐を外した後に足が赤くなってしまうことがあり、血流に悪いと感じた。

  • 日本の製品は日本の子向けにデザインされていると感じる。(日本の子より中国の子の方が体格は大きいため)

  • 赤ちゃんを家でみていてくれる人(補足:祖父母やお手伝いさん、ベビーシッターなど)がいるから、そもそもあまり外に連れ出さない。

  • 中国では外出する場合は公共交通機関は使わず車に乗るので、ベビーカーでも差支えない。日本は公共交通機関が発達しているし、下の子を抱っこ紐で抱き、上の子の手を引いて歩く機会があるだろうから、抱っこ紐も人気なのだろう。


 なるほど…。このnoteを書き始めたころに書いた、「真夏に赤ちゃんに靴下を履かせていないと冷えると指摘される件」と共通する部分がある。赤ちゃんへの関心が非常に高い中国人にとっては、「赤ちゃんの身体に良くない状態は避けるべき」なわけで、抱っこ紐はまさに、「苦しそう」=良くない、のだろう。
 それに、赤ちゃんを自宅で見てくれる人がいるから、親が抱っこ紐を利用してまで外出することがない、という点には、中国ならではの子育て事情が根底にある。以前「授乳室探訪②」で書いたが、その時にも子育て中の中国人女性は「そもそも赤ちゃんを連れて出歩く人が多くないから、授乳室を使う人も多くない」と話していた。

赤ちゃんへの関心の高さ+中国ならではの子育て環境=抱っこ紐への熱視線か

 この2点を合わせて考えると…授乳室にしても、抱っこ紐にしても、赤ちゃんへの関心の高さに、赤ちゃんをあまり連れて歩かない、という子育て事情が合わさって、赤ちゃんを「拘束しているように見える」抱っこ紐にはあまりなじみがなく、珍しがられるのだろう、という結論に達した。

 ただ、今まさに抱っこ紐を使っている私からすると、抱っこ紐は本当に便利だと思う。私は両手が空いて、荷物を持つことができる。エレベーターを探さなくてよい。移動がしやすい…もちろん、子どもに苦しそうな様子は見られない。挙げたらきりがない。多くの日本人の親たちがそう思っているんじゃないだろうか。

 とはいえ、これが文化の違いだ。正直なところ、店員に非難された時にはさすがにあまり良い気持ちはしなかったのだが、仕方がない。
 次男を連れて歩いていて、次は何に遭遇するだろう。そしてそこにはやはり、赤ちゃんへの関心の高さと中国ならではの子育て環境が、関係してくるはずだ。
 さあ、何がくる??ちょっと楽しみだ。