見出し画像

愛と希望、どちらを捨てるか。「Mommy/マミー」

映画一本観るにも満たないくらいの月額料を払っていれば、消化しきれないほど沢山の映画が観られるサブスク時代。
とても便利な反面、本当に好きな作品を鑑賞する権利がサービスに依存してしまうのは嫌だなあ…と思い、大好きな作品はDVDを買ってちゃんと手元に残そうと、最近少しBlu-rayを購入しました。

2014年公開、グザヴィエ・ドラン監督「Mommy/マミー」。カンヌ国際映画祭でみごと審査員特別賞を受賞した作品なのですが、今回はこの映画について話をしたいと思います。個人的オールタイムベスト入り映画。
結末のネタバレはしませんがふわっとした感想はあるので、見たくないよ!という方はご注意ください。


1:1のアスペクト比にも注目。架空のカナダで起きる親子のドラマ

注意欠陥・多動性障害のために暴力を振るってしまう息子スティーヴと、シングルマザーのダイアン。大変な時もあるけれど、二人は確かな親子の「愛」でつながっていた。逆に言えば、二人をつなぐものは「愛」しかなかったのです。
スティーヴが施設を追い出されたことから再開する親子生活。一緒に暮らすかけがえのない時間、向かいに住む教師の女性との出会い、手が付けられないほど暴走する息子。そんな時に成立した、発達障がい児の親が経済的困窮や、身体的、精神的な危機に陥った場合は、法的手続きを経ずに養育を放棄し施設に入院させる権利を保障した「S-14法案」。
このスキャンダラスな法律を前に、親子はどう生きていくのかーー。


この作品を観ると、きっと人間関係において一番大変で厄介なのは、その種類問わず「愛」が根底にある時なんだろうなと思わされてしまいます。
努力や心構えだけじゃ解決はしない状況で、「私たちには愛しかないでしょ」と確かめるように縋るように言うダイアンの台詞に、その葛藤が表れているようで。ドラン監督は息子と母の関係性を描くことが多いのですが、「ひりつくような痛さを持った愛」の描写が本当にうまいなあと…。


さて、予告映像を見るとお気づきになると思いますが、この映画は珍しく「正方形の画面」が採用された映画です。

正方形といえばすっかりお馴染みのSNSになったInstagramを連想しますが、思い返せば映画が公開された2014年はInstagramが全国的にかなり流行ってきた年でもあるんですね。
トレンドをいち早く取り入れた…という事ではなく(それもあるかもしれませんが)、1:1のアスペクト比が持つ「"個"を強調する」性質を利用するための演出として使われた!と当時話題になったのを覚えています。

よくある16:9などの比率の映像に比べると1:1は観るものの視点をフォーカスさせやすく、それは息子であるスティーヴの純粋ゆえの視野の狭さや、彼自身の感じている抑圧にもリンクしています。
実は作中彼がその抑圧から解放されたシーンもあるのですが、その時ずっと1:1だったアスペクト比は一体…?(名シーン!)

画像1

機会があれば、画面の比率にも注目しながら観てみてください。


映画監督は弱冠19歳から。グザヴィエ・ドランとは

1989年カナダ生まれのドラン監督。元々子役だったこともあり、映画監督としてメガホンを振りながら自身も俳優として出演することも多々あり、実はMommyにも少しだけ出演しています。(昔フランス語版サウスパークやハリーポッターの吹替も担当していたらしく、え〜知らなかった…!)

出生年をみて「若い…」と思った方もいらっしゃると思いますがその通りで、Mommyは彼が25歳のときに制作した映画です。曲や雑誌にインスピレーションを受けつつ構成されたグラフィックのような画面作りや演出といった、若い感性に基づいた表象や演出の美しさと激しい内面とのリンクが素晴らしい監督だと私は思います。
サウンドトラックも、いわゆるインスト曲というよりは既存の歌の入った曲に意味合いをつけて使用することが多く(本人曰く「ダサいと思われたくないから選曲には気を配る」そう…笑)Oasisやセリーヌ・ディオン、ラナ・デル・レイ…錚々たるアーティストの曲が作中で流れるのも楽しいところ。

冒頭でも述べましたが、ドラン監督はMommyでカンヌの審査員特別賞を受賞しました。その時に涙ぐみながらスピーチした「同世代へ向けて」の話が(私自身彼と世代が近いのもあり)とてもグッとくるもので…、スピーチにフォーカスしたMommyの予告が日本で公開されました。もし時間があれば、こちらもチェックしてみてください。


さいごに

一般的なシネマスコープの比率、IMAXの比率、Mommyのように演出として利用されている比率など。普段意識する機会は少ないかもしれませんが、写真や絵画と同じように、映画におけるアスペクト比が及ぼす印象への影響ってかなり大きいのでは…と改めて感じました。
ここ数年スマホ比率の映像が短編映画?やミュージックビデオで採用されてるのを見かけるようにもなりましたが、Mommyと同じように比率で遊んだ映画がもっと増えても面白いな〜と思います。

ちなみに。現在テレビ等でスタンダードな16:9の比率は、例えば人間工学とか色んな分析とか視野の関係とか…何かしらのデータに基づいて制定された心地よい比率だったりするのかな??もしかして!
…と期待して調べてみたところ、単にテレビ放送の都合でそうなってるだけらしくちょっとガッカリしてしまいました。え〜〜そうなんだ…笑

それでは、今回はここまで。


いいなと思ったら応援しよう!