留学前夜物語第三話 国連職員を目指していた外語系女子が林業を目指した話
1.絶望の大学時代の幕開け
行きたい大学に合格することができず、夢も諦め、そもそも私ってそんなに国連職員になりたいんだっけ?
周りの人はなんでこんなにも楽しそうに過ごしているんだろう。
私って何のために生きてるんだろう。
そんなモヤモヤの中、とにかくアルバイトも、サークルも、学業も、自分が満足できるまで頑張らないと、きっと先は見えてこないんだ…と必死でした。
そうこうしているうちに、徐々に自分に異変を感じ始めました。
「大学に行かなきゃ」という気持ちと、「人目のある場所に出ていきたくない」という気持ち。
気づいたときには、「大学に行きたくない」ではなく、「明るい時間に人がたくさんいる場所に出ていきたくない、誰かの視界に自分が入ることが怖い」という状況に陥っていました。
当時一人暮らしをしていたのですが、大学へ行く準備はできている、でも玄関のドアを開けられない。そんな日々が続き、さらに大学へ行けなくなると、そんな自分をさらに責めるという悪循環になっていきました。
でもこれは、自分の甘えなんだと思っていました。
こんなんじゃ何もできないまま大人になってしまう、焦る、体は動かない、責める、落ち込む、これを毎日繰り返していました。
単位のために頑張って一日出ると、視線が怖くて移動が辛い。
なんでこんなにも自分はできない人間なんだろう。
他の人はサークルも、バイトも、大学も両立しているのに…
そう思いながら過ごすこと10か月ほど。
ついに、気づいたら4日も日付が過ぎていた、ということがありました。
その時の記憶は今でもあいまいです。
過眠症のようなものだと思います。
いよいよ自分がもう普通じゃないかもしれない、と思い、心療内科へ行くことを決めました。
予約も取って、不安になりながら電車にも乗りました。
これで全部うまくいくようになるかもしれないと思いながら。
でも、結局病院の前まで行って、私は帰りました。
自分に何か病名がついてしまうのも怖い、でもつかなかったら本当に私はこの状態から抜け出す方法がわからないままなんだ、
どちらの状態になることも、私にとっては恐ろしいことでした。
今思えば、鬱状態でした。
人間関係も築くことが難しく、サークルもあっけなく辞めました。
2.カウンセリングで鬱と向き合う
その後、大学のカウンセラーに行き、自分が「完璧主義」であること、「義務・責任」を背負いすぎていること、
「自殺者型の鬱状態」であることを教えてもらいました。
(自殺者タイプ、というのが今でも印象に強く残っています。何度も考えたことがあったので。今はもちろんないですが!)
その時にはすでに大学二年生の春が過ぎ去っていました。
大学二年生の春には、理解のある友人たちに自分の状況を打ち明け、「義務・責任」が伴えば動けるのだということを逆手にとって、
みんなとお昼を食べる約束をしてもらうようにしました。
毎日必ず、お昼は一緒に食べる約束をしたんです。
マイナス状態の私と一緒に過ごしてくれた友人たちには感謝してもしきれません。(私が留学してから疎遠ですが…)
こうして何とか大学に通いながら(欠席はほとんどなかったはず)、月に一度のカウンセリングも欠かさずに行っていました。
カウンセリングの中で、どんな話から出た言葉だったのかは覚えていませんが、カウンセラーの方から
「運動してみたら?」
と言われたんです。
自分の状態を変えたかった私は、藁にも縋る思いで、運動することを決意しました。
とはいえ、昔から大の運動嫌いで運動音痴。
歩くくらいしか楽しくできることがないし、人目のある場所には相変わらず行けないまま。
そこで思いついたのが、山でした。
山歩きならそんなに人も多くないだろうし、きれいな景色も見られるかも!
そう思い、友人を誘って夏休みに「上高地」に行くことにしたのです。
3.山の神様の一声
上高地に行った日、私たちには十分すぎるほどの時間がありました。
誰よりも軽装で場違いのような気がしたけれど、人も多すぎず、人目はあまり気になりませんでした。
歩いた時間は確か4時間半くらい。
折り返す手前の歩いて二時間くらい経ったとき、ふと
「私、たぶんこういう場所で生きていくんだ」
と思ったんです。
本当に不思議な体験でした。
自分の真上から、「ここ(山)が自分の居場所なんだ」という直感みたいなものが下りてきたような感覚だったんです。
歩き終わってからもその感覚は消えず、しばらく連絡を取っていなかった高校の同級生(森林科学科に進学したのをなぜか知っていた)に連絡をして、
山に関われるような団体をいくつか教えてもらい、
当時男性よりも女性の方が気持ち的に安心できた、というのもあって
「林業女子会」に連絡することに。
これすべて、上高地に行ったその日のうちの話です。
林業女子会の方々もすごくお返事が早くて、一週間後のイベントに誘っていただき、そのまま林業という職業について教えてもらってから、
ぼんやりとした「山」のイメージから、自分の生きる道は「林業」だと強く感じるようになりました。
「なんで林業に興味を持ったの?」
と何度も聞かれて、最初はこの上高地の経験を話すしかありませんでした。
まだ自分の中に林業のことが入っていたわけではなくて、導かれるようにして林業を志すことを決めたので、
なんと説明して良いのかわからないままだったんです。
そうするとたくさんの方が、「山の神様に気に入られたんだね」と返してくださったんです。
ああ、確かに山の神様に気に入られた瞬間だったのかもしれない。
だとしたら、私の道を開いてくれた山に恩返しをしたい。
それが今林業の道を歩んでいる原点です。
これを読むと、はっきりしない展開にモヤっとする方もいるかもしれません。
そんなスピリチュアルな話を聞きたいわけじゃない、と。
私だってそんなにスピリチュアルなことは根っから信じているわけではありません。
でも確かにあの上高地を歩いた日から、林業を志してきた今までは、鬱だったころに見えていた世界よりもずっとクリアで美しいんです。
神様は見捨てずにいてくれたんだ、と思いました。
将来やりたいことが見つからなかった私は、山の神様に導かれて林業の道へ入りました。
そんな奇跡的なお話があっても良いと思うんです。
今は林業の魅力をたくさん話せると思っています。
自分の言葉で。
これが、私の林業との出会いで、林業を目指したスタートのお話。
不思議な体験は意外と身近に落ちているかもしれませんよ。
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