見出し画像

#443【出版の裏側】他社本研究『映画を早送りで観る人たち』(稲田豊史・著)

このnoteは2022年7月21日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。

今井:フォレスト出版チャンネルのパーソナリティを務める、今井佐和です。今回は【他社本研究】『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』ということでお送りしたいと思います。本日は編集部の森上さんと寺崎さんにお越しいただいています。どうぞよろしくお願いいたします。

森上・寺崎:よろしくお願いします。

今井:とても気になるタイトル、『映画を早送りで観る人たち』ということなんですけれども、こちらアマゾンの「映画ノンフィクション」ランキングで1位になっている本なんですよね?

森上:そうなんです。これはリアルな書店さんでもすごく売れていて、ランキング上位に入っている本で。3週間前くらいにうちの代表の太田からチラッとこの話が出たんだよね。それこそネットフリックス含め、音楽もそうだけども、倍速機能でコンテンツを消費していくことは人間にとってどんな影響があるのかっていう話をしている中でこの本があって、僕も興味を持って買ったんですよね。
著者さんは稲田豊史さんという方で、寺崎さん、我々と同じ年。1974年生まれです。元々は映画配給会社のギャガ・コミュニケーションズに入社されて、その後にキネマ旬報社に行かれているっていう感じなんですよ。で今は、フリーランスのライターさんという。
だから、文章はめちゃくちゃわかりやすくて、読みやすい内容にはなっています。これを読んで俺にとっては信じられないんだけど・・・。俺は正直、Voicyは倍速で聞いているのよ。

寺崎:俺もそう。俺もやっている。


前奏やソロを飛ばして聴いてしまう若者たち

森上:でも、さすがに映像関係を倍速って・・・。寺崎さんはやったりしている?

寺崎:いや、よっぽどの時だね。ネットフリックスの連続ドラマを見ていて、本当に時間がなくてっていう・・・。やったことはある。倍速で。

森上:ほんと?佐和ちゃんもある?

今井:私は「スター・ウォーズ」で、急いで前作を見てから新作を見たいっていうのがあった時に倍速で・・・、長く同じシーンが続く時とかあるんですけど、その辺りとかは倍速で見たら、友達に怒られました(笑)。

森上・寺崎:(笑)。

今井:それで、倍速はダメなんだって反省しましたね。それからは映画とかに関しては、間とか、情景も全部作品だと思って、倍速で見なくなりました。

森上:そうですよね。だから、コンテンツによって使い分けているのはあるかもしれないですよね。今回はどちらかというと映画、映像コンテンツに沿ったかたちなんですけど。この本の中でも触れられているんですけど、今はそれこそヒットする曲の傾向でいくと、いきなり最初にサビで始まる、そういう曲がヒットする。いわゆる前奏、イントロがない。

今井:あー。

森上:早くサビを聞きたいとか。

今井:この間、「すごく前奏がよくて、ほぼ前奏しかない曲なのに、その前奏を飛ばして聞く若者が多い」って、憤慨しているおじさま方のツイートがバズっているっていうのがありました。

森上:なるほどね。

寺崎:ギターソロとか、ドラムソロを飛ばしちゃうんでしょ?

今井:そうです、そうです。

森上:間奏部分もね。ちょっと音楽の話をしちゃったけど、この本に関しては映像だけど、やっぱりそういうのが起こっていて、音楽も相当あると思うんだけど、映画でそれをやる心理が知りたくて。「2時間の映画を1時間で見たい」とか、「つまらないと感じたら、あとは1.5倍速で見ちゃおう」とか、「会話のないシーンは即飛ばす」とか、「見る前にネタバレサイトをチェックしたい」とか・・・。ミステリー小説を読んで、誰が犯人かっていうのを推理するのが面白いんだけど、それを最初から犯人が誰かっていうのを見ちゃう人って昔からいたじゃん。

今井:(笑)。

「タイパ至上主義」と「失敗したくない」の心理

森上:ある一部の人。俺はそれが信じられなくて。それをやっている感じ。そういうのが増えていて、こちらの本は5章立てになっているんだけど、特に面白いのが3章なんですよ。
一言で言うと、今は情報過多で、色んなものをチェックしたい、知っておきたい。そのためにはタイパ至上主義。タイムパフォーマンスね。そこに追われている感じ。それが相当影響しているらしい。その奥底には何があるかというと、SNSと深く関係していたりとか、そこにはいわゆる失敗したくないっていう考えを持っているというか。だから、少し変なことを言っちゃうと、内容を知らないと、失敗しちゃうと、叩かれるみたいな。ただそれでもみんなが知っていることを知った上で個性を出したいとか、そうじゃないと自分が埋もれちゃうみたいな。そんなような強迫観念みたいなものっていうのが結構こういうことをやってしまう人の心の底にあるらしいんだよね。根底に。

寺崎:あと、思うのは、やっぱスマホのフリック文化。右へ右へとか、上へ上へ、シャッシャッシャッって、どんどん次へ次へやるじゃん。あれの影響がでかいような気がするんだよね。

森上:ティックトックとかって、そういうことだよね?

寺崎:そう。ティックトックだけじゃなくて、色んなところで、サッサッサッとすごいスピードで情報をバサバサ処理していくっていうのをスマホの画面でやるじゃないですか。

森上:うんうん。

寺崎:で、俺、『君の名は』っていう映画を見た時に思ったのが、展開にムダがなくて、もう次から次にババババっていう、あの感じが、すごくスマホっぽいなと思ったんですよね。ムダな時間を作らないっていうか。結構、韓国の映画、ドラマもそういう傾向をすごく感じていて、フリックカルチャーというかね。スタスタスタって、ドラマの美味しいところだけをどんどん展開して、スピード勝負みたいな。

森上:うんうん。

寺崎:実は僕は告白すると、結構映画を飛ばします。

森上・今井:(笑)。

寺崎:どこを飛ばすかって言うと、よくあるムダに長いベットシーンとか、ストーリーにそんなに関係ない情緒的なシーンとか、「これいらなくね?」っていうのが正直あって、飛ばしたりするんですよ。それってやばい(笑)?

森上:やばいっていうか、それは作品として見ている感じじゃないっていうこと?

寺崎:そうだね。だから、ストーリー展開を追う方を優先しているっていう感じかな。作品を味わうっていうよりもね。

なぜ、Z世代は「ネタバレ商品」を好むのか?

森上:そうそうそうそう。さっきのフリックの話と、韓国映画にはそういったムダがないとか、『君の名は』とか、寺崎さんが言ってくれたけど、それに近いことがこの本の中にも実は書かれています。ネタバレになっちゃうから、あまりそこは言うつもりはなかったんだけど、寺崎さんが言ってくれたから言うけども。だから、Z世代はネタバレ商品が大好きなんだよ。

寺崎:なんかわかる、わかる。

森上:だから、もうネタバレしている情報を最初にインプットしておきたい。その理由はなんだと思います?

寺崎:安心感かな。

今井:他の人と話を合わせやすいからみたいなことですか?

森上:多分そこと近いと思うんだけど、理由は失敗したくないから。

寺崎:ああ、なるほど、なるほど。

森上:だから、とにかく失敗したくないんですよ。

寺崎:でも今の環境だと、そうなるよね。我々の時代だと例えば、レコード屋に行って、中身がわからないのにジャケ買いして、すっげークソだったレコードとかいっぱいあるじゃん。

今井:(笑)。

寺崎:本来は効率的に生きようと思ったら、そういうムダはなくしたいよね(笑)。

森上:そう。それができるようになっちゃっているから、そうなのよ。だから、Z世代っていう言い方をしたけど、Z世代をそうやって括ってしまっていいのかっていう話だけども、回り道とか、コスパの悪さっていうのは一番の失敗なんだって。

今井:うーん。

森上:ムダなことに時間を割くのをすごく恐れているって言っているんだよね、この著者は。色々と取材をしている中でね。この著者は結構取材をしているから、説得力があるんだと思う。勝手に想像して書いているんじゃなくて。だから、すごく面白いんだけど。

寺崎:なるほど。

今井:漫画サイトで1日に1話しか読めないみたいなことが多いんですけど、先が気になってしまって、ネタバレサイトで全部ネタバレを読んだ上で、また漫画も1日1話づつ読んでいくみたいなことをやっているんですよね。ただ、それに関しては別に人と話を共有したいとかいうのは全くなく、私の中だけで楽しんでいるものなんですけれども、先の物語を知りたいみたいな、答えを求めてしまうみたいなものも、結構自分の中にあるかななんて。

森上:そうですよね。

今井:ググれば答えがすぐそこにあるから手を伸ばしちゃいやすいみたいな。昔はネットにネタバレってそんなに転がってなかったと思うんですよね。今だと色んなネタバレだったり、解説が転がっているから、色んなものを見たいみたいな。そんな感じになっちゃいます。

「失敗したくない」の心理の裏にあるものとは?

森上:そうなんですね。そういうのが手に入りやすい環境にあるから、手を伸ばそうとする人が増えるのは当たり前っちゃ当たり前っていう話ですよね。これ、時代という言い方でレッテルを貼っちゃうのは俺はあんまり好きじゃないし、嫌なんだけど、昔に比べて今の若い子たちの失敗したくないっていう心理の裏に何があるかっていうと、元々耐性が弱いらしくて。

今井:うーん。

森上:失敗したり、怒られたり、恥をかいたりすることに対しての耐性が弱いという指摘をしていて。だから、今の若い子に「失敗していいからやってみろ」っていうのは、もうパワハラに近いらしい。

寺崎・今井:(笑)。

森上:パワハラって言い方はしてなかったかな?いじめに近いっていう言い方をしていたかな。

今井:なるほど。

森上:「失敗してもいいから、まずはやってみたら?」っていうのは結構なプレッシャーらしい。だから、変な話、うちの会社の掲げている「1勝9敗」とか(笑)。「失敗してもいいから、やってみようよ」っていう、チャレンジ精神は・・・。そういう人が全てじゃないと思うけどね。

今井:私も今、「1勝9敗」を思い出していました。

森上:そう。だから、それをやれる人は結果を出してくるんだと思うんだけど。

寺崎:逆にチャンスだよね。そういう人ばっかりだったら、やってみることができる人は。

森上:そうそうそう。だから、そういった心理的な世代における傾向があるということが、実は「映画を早送りで見る」というところに行き着くというか。この現象っていうのは、実はそこまでたどり着くという。それがすべて正解だとは思わないんだけど。でも著者が取材して書いてきた中で見えてきた1つの気づきっていうのはすごく面白い。そこまで行きついたっていうところが。

今井:早送りからそこまで行き着くのはすごく面白いですね。

森上:そうなんです、そうなんです。だから、著者の基本的な立ち位置としては、映画好きな人だし、元々は映画関係の人だから、「映画は早送りしないで見てほしい」っていうところで、「なんで今の若い人たちは早送りするんだろうな?」っていうのが、この本の執筆の原点だっていう話なんだけどね。

寺崎:じゃあ、小津安二郎の映画なんて見られないね。

森上:絶対見られないと思う。

寺崎:多分、早送りしても遅いもんね。

森上・今井:(笑)。

森上:だって、ずっと変わらないんだもん(笑)。

寺崎:そうだよね。最後の最後までいって、「あれ?何も起こってないじゃん」みたいなね。

今井:(笑)。

森上:小津安二郎なんて、1番見られないんじゃない?

今井:フランス映画とかも見られなそうですね。

森上:見られないよ・・・。そういったような本です。先ほど、韓国のコンテンツにはムダがないとかってあったじゃない。だから、逆にコンテンツを提供する側にとっては、どういったものが人に受け入れられるかっていう参考にはなるかもしれない。

寺崎:なるほどね。音楽で言ったら、サビから入るってやつね。

森上:そうそう。サビから入る曲が売れる。サビから聞きたいから。

寺崎:でも、シングルカットの曲を聞いておけば、確かに外れはないかもしれないけど、アルバムの中の最初はどうでもいい曲だったのが、何回か聞く度にスルメのようによく聞こえてくる時とかってあるじゃないですか。

今井:あります、あります。

寺崎:そういうのも楽しいんだけどね。

森上:その楽しさっていうのがわからなくて、それを失敗だと思っているわけ。

寺崎:(笑)。アルバム買って、捨て曲いっぱいで失敗だって思っちゃうんだな。

森上:そうそう。回り道とか大っ嫌いだから。それは失敗だから。

寺崎:そこに合わせて我々もコンテンツを作っていかなきゃいけないな。

森上:それでいいのかっていう話もあるじゃん。そこに合わせて作っていくということも、もしかしたらヒントになるかもしれないけども。そういう話だよね。

寺崎:まあ、いい悪いは置いておいて、そういうことになっていると。

森上:そう。そういう事実と検証がなされているっていうこと。だから、今の若い人たちが理解できないなあなんて思っている40代とか、我々世代の人たちにとっては結構参考になると思う。面白いと思うよ。

寺崎:編集部の20代の2人にもあとで聞いてみるか。「映画って早送りしている?」って。

今井:(笑)。

森上:「音楽はやっぱりサビからがいい?」って。

寺崎:(笑)。

森上:そのような感じです。光文社新書から出ています。900円+税。稲田豊史さん。『映画を早送りで観る人たち』という新書です。これは今、本当によく売れています。色んな書店さんの新書のランキング棚の上位に入っていて。ぜひ見てみてください。

今井:ありがとうございます。本日は【他社本研究】ということで、編集部の森上さんと寺崎さんと共にお送りしてきました。どうもありがとうございました。

森上・寺崎:ありがとうございました。

(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)


いいなと思ったら応援しよう!