#5 誰をお客様にするか? ターゲティングは簡単じゃない
こんにちは、佐藤昌弘です。
今回からマーケティング戦略に入っていきます。
ものすごく大事なのですが、残念ながらやや難易度が高く、さらに退屈な話でもあります。
頭を使って考えなければならないので、面倒に感じる人も多いです。
面倒だったらナナメ読みでもいいから、読んでください。
あとで戻ってこれるようにブックマークでもしておけばいいでしょう。
さて、マーケティングで一番はじめにやることは何かわかりますか?
広告文をつくること、ではありません。
「誰に対してやるか」を決めることです。
言い換えれば、「誰をお客様にするか」を考えること。別の言い方をすると、「ターゲティング」とも言います。
まずはここから始まります。
「あなたのお客様は誰ですか?」
これにきちんと答えられなければいけません。
ターゲティング? 当たり前でしょ、それはやっているよ!
そんな声が聞こえてきそうです。
実際、私がこれまで関わってきた数々の企業でも、「ターゲティングできていますか?」と聞くと、ほぼ100%「ちゃんとできているかどうかわからないが、一応やっている」という返事が返ってきす。
だいたいの会社は、ちゃんとターゲティングをやっていると思っています。
目をつぶって鉄砲を撃つ人はいませんからね。
狙って撃っているつもりでしょう。
でも、結局はずしているなら、それはうまく狙えていない可能性が高いのです。
ターゲティングは、事業がうまくいっているか、そうでないかという結果に直結します。
儲かっているビジネスがあるのなら、それは狙ってか偶然かわかりませんが、とにかくターゲティングができているのです。
◆あの大企業でさえ?! ターゲティングの成功と失敗
ここで、ターゲティングができている事例をお見せしましょう。
このチラシは当たりました。
見学会に見込み客がたくさん来たし、その後にもつながったわけです。
なぜか?
ターゲティングできているからです。
「〇〇地区に住む35歳共働き。子ども2人目ができたからそろそろ家を買いたい。忙しくて、片付けにかける時間も少ないし、そもそも片づけに苦手意識もある。家を建てるなら、価格も大事だけど、片づけ上手になれる家なら、なお良い」
こういうお客さんに絞り込んだのです。二世帯住宅で実の母と同居していて片づけしてくれるとか、専業主婦でミニマリストだから、片づけも大丈夫という人はターゲットにしていません。
ターゲティングができている、だからこそ、成功するのです。
もともとこの会社は、ローコストの輸入住宅販売だけでは、なかなか商品の特徴が出せず、価格競争になってしまい苦戦していました。
ターゲティングができていないと、価格競争になりがちなのです。
そこで、きちんとターゲティングをして、うまくいくようになりました。
もう1つ、わかりやすい事例として挙げたいのが「ダイソン」です。
「1.5kgのコードレスクリーナーで唯一、微細なホコリを99.99%閉じ込め、吸引力が変わらない」というのがいまのメインコピーになっていますが、おそらく、これでは大ヒットというわけにはいかないでしょう。
軽さをうたったコードレスクリーナーは、ほかにもいろいろ出ていますから。
ダイソンがもっとターゲティングしたら、どうなるでしょうか?
「ペットを飼っていて、毛がたくさん落ちるから、それをとにかくガンガン吸ってほしい。アレルギーの人が遊びに来ても大丈夫!っていうくらいに掃除できる掃除機です。もちろん、ペットに対して安全で、長持ちするやつ」
たとえば、こういうのを欲しがっている人たちに向けた商品をつくり、獣医さんから推薦コメントをもらう。
「うちの動物病院でも使っています!」といった広告で訴求する。
これなら、ヒットの見込みがありそうです。
実をいうと、ダイソンのコードレスクリーナーの中に「アニマルプロ」という商品があるのです。ところが、それほど大ヒットしている様子もありません。
私は最初に見たとき、「アニマルプロはこういう戦略を立てていけば絶対イケる」と勝手に思っていました。でも、残念ながらそうはいかなかったようです。ターゲティングは良かったのでしょうが、ネーミングだけが先行し、ほかのダイソンコードレスとの機能性の違いが不明瞭なままだったのが原因かもしれません。
ダイソンほどの企業でさえ、ターゲティングと商品開発とマーケティングの連携を完璧にはできません。
ターゲティングはそれほど簡単ではないことがおわかりいただけるでしょう。
そして、とても重要であることもわかってほしいと考えています。
世の中には、ターゲティングについて系統立てて説明している本も、教えてくれるコンサルタントも、あまりいません。みんな、「なんとなく」でやっているんですね。
「ターゲティングはやっていますよ」と言っていた人も、私が事例を見せると「ここまではできていないかもしれません」と言います。
ほぼ100%、そう言われます。
だから、社長さんたちにいくら「ターゲティングはちゃんとやっています!」と言われても、私はお小言のように「いや、たぶんできていないですよ」と話さなくてはなりません。
それは嫌味のように聞こえてしまうこともあり、本当は言いたくないのです。
でも、最初に正しく知っておくことはとても大切なのです。
さて、「あなたのお客様は誰ですか?」という質問に対して、どう答えればきちんと答えたことになるのでしょうか。
・どのような客層であるか
・どのような事情を抱えているか
・どのような感情を抱いているか
という3つをセットにして、答えることです。
◆ターゲティングは、年齢や性別などのデモグラフィックな要素だけではない!
たとえば「保湿美容液」を売っているとしましょう。
ネットマーケティングによって、保湿美容液のサンプルを請求してもらいたいと考えています。
それでは、その「保湿美容液」のお客様は誰でしょうか。
●どのような「客層」であるか=単語で説明できるお客様の要素
・50歳(プラスマイナス3歳)
・女性
・主婦か、働いている主婦か、1人暮らし
(夫と2人暮らしか、1人暮らし)
・既婚が多い
・夫の収入は1000万円くらいある、夫婦共働きなら1000万円超
・大学卒業が多い
・管理職、一般職、部下を抱えているリーダー職
・地理的な特徴などは、特になし
●「事情」=必要性・事情・ニーズ・合理的な理由など
・今使っている美容液が、もうすぐ無くなる。
・朝8時から夜9時まで長時間の冷房環境で働くため乾燥対策
・仕事をしていく上で、必要最低限の美容は女性として必要
●「感情」=感情・好き嫌い・欲求・避けたいなど
・50代になってシワが気になりはじめた。
・若作りを頑張っていると思われたくない
・明確な理由はないが、今までの化粧品に物足りなさを感じ始めた
・通勤電車の窓に写った自分が怖い顔で嫌だった
それぞれの要素について、詳しくは次回に譲りますが、ここでざっと説明しておきます。
まず、「どのような客層であるか」の部分。
ここは、「年齢、性別、世帯規模、未婚/既婚、所得水準、教育水準、職業、地理的な特徴」などです。
デモグラフィック(人口統計学的)な情報とも言い、ターゲティングといえば、この情報のことだと思っている人は多くいます。
しかし、これだけでは不十分です。
客層のみのターゲティングは、はっきり言って時代遅れです。
インターネットが出てくる前ならいざしらず、いまの時代では通用しません。
次に「どのような事情をかかえているか」。
これは必要性とも言い換えられます。
人間は必要性がなければ行動しません。この例で言えば、どんな必要性があって保湿美容液を買うのか、ということです。
「今使っている美容液が、もうすぐなくなる」のは必要性です。もし必要性だけで消費が行われるのなら、「なくなる美容液の代用品を補充できれば何でも良い」ということになります。
しかし、そうはいきません。
それは、最後の「どのような感情を持っているか」が大事だからです。
人間は感情が動かないと買いません。必要性だけではダメなのです。
どのような客層が、どんな状況で必要性・事情を抱えており、どんな情緒・感情・葛藤を感じているのか、そこまで検討しなければターゲティングはうまくいきません。
これは個人も法人も同じです。
保湿美容液は一般消費者向けですが、BtoBの商品であっても、同じように「どのような客層が」「どのような事情で」「どのような感情で」の3つを分析します。
どんな商材を扱っていようと共通して、必ずやるべき作業だと考えます。
加えて言うと、1つの商材に対して、通常は2種類か3種類のターゲティングができます。
「オフィスワーカー」と「外回りの人」とでは違いますよね。「50代の女性管理職」と「40代の外回りをするワーキングマザー」も種類が違います。それぞれ別のターゲットとしてカウントしておきます。
ここまでターゲットがはっきりすれば、ネットマーケティングは難しくありません。
この例ならば、ターゲットの1つは52歳前後の管理職の女性ですので、この層の人たちがよく使うプラットフォームにマーケティングをしかけていくことになります。
・Facebook(Instagramかで迷うところです)
・その他のディスプレイ広告
・検索連動型の広告
あたりから着手するかもしれません。
TwitterやYouTube広告では効果が出にくいでしょう。
◆上記ターゲティングで美容液の広告を作るとどうなるか?
「50代働く女性の保湿美容液」
体質が変わり始める50代の女性は、30代の方々と同じ化粧品で良いのでしょうか?
当社開発の美容液は、今までと同じ美容液ではありません。
責任ある仕事のストレス、長時間のエアコン乾燥にも、若い頃の日焼けの後悔にも、当社の新しい美容液は・・・。
このような広告をつくっていくことになります。
しっかりターゲティングできるほど、媒体コストが下がり、表現がシャープになってライバルを出し抜くことができ、集客のプロセス設計がしやすくなります。
それは、利益に直結することになるのです。
次回はターゲティングの具体的なプロセスに踏み込んでお話したいと思います。
お楽しみに。
編集部より こちらの連載は毎週水曜日に配信いたします。次回は2月17日です。よろしくお願いいたします。
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