おでんとフランス料理で学んだ「モノの価値」の神髄
フォレスト出版編集部の寺崎です。
このところ、出版業界では単価の値上げをしているのをご存じでしょうか。つまり、本の定価が上がってきているんです。
それというのも、物価高騰で用紙代や印刷、製本のコストがどんどん上がっているため、定価を上げないと商売が成り立たないという事情があります。いつも通っている飲食店のランチ代が数十円、数百円上がっているのと同様です(ちなみにうちの近所のラーメン屋はどんどん値上げしてネギチャーシュー麺がとうとう1300円を超えました)。
なので、これまでは「240ページで1500円」だった本が「240ページで1700円」とするケースが増えています。書籍をつくるコストでいちばんどこにお金がかかるかというと「本文用紙」であるため、ページ数に応じて価格はおおよそ決まってきます。
ちなみによく考えてみたら前述のネギチャーシュー麺が1300円で、240ページの本が1500円って・・・本の値段は安すぎる気がしますね。。
ただ、最近ふと思うのは「モノの価値は単なる原価コストでは測れないのではないか」ということです。情報として5000円の価値があれば、ページ数がたとえ160ページでも自信を持って市場に投入、世に問えばいい。
そんなことを考えていたら、昔つくった『ディズニーのすごい集客』(嶋田嶋田亘克・著)という本を思い出しました。
今日はこの本から著者の嶋田さんが体験された「モノの価値と値段」について考えさせられるエピソードをご紹介します。
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マーケティングの師・福田博之さんとの出会い
福田さんは、当時グループ連結で年間2兆円近くを売り上げ、自身で創業した会社を2社も東証一部に上場させていたマイカルグループの創業者の一人でした。
福田さんとの出会いは大学2年生の時です。私は学生時代馬術部に所属していたのですが、馬術部ですので当然馬を世話しており、馬がいると馬糞が毎日溜まるわけです。週に一回は部員でトラックに馬糞を運んで農家の方にもらっていただいていたのですが、趣味で園芸をやってらっしゃる方もよく馬術部の厩舎まで来て堆肥用に馬糞を持って帰っていました。
(中略)
人の縁とは不思議なもので、それが縁で、犬の散歩に出かけられる時にわざわざ馬術部の厩舎を覗いて「散歩に行くぞ」と誘っていただいたり、パーティーがあれば一緒に来るかと学生の自分を一緒に連れていって、各界の著名人の方に引き合わせていただいたりと、本当に可愛がってもらい、普通の学生では絶対にできない経験をたくさんさせていただきました。
お会いすると事あるごとに経営者とはどうあるべきか、どうすればお客様の気持ちを汲み取れるか、危機をどう乗り越えるか、そんな話を学生でもわかるように噛み砕いて教えてくださり、その日の夜に教えてもらったことをノートに思い返して書くのが私の日課になっていました。
価値についての話もまさにそうでした。
その日のことはいまでもよく覚えています。2月の寒い土曜日だったのですが、昼過ぎに散歩に行くぞと私を厩舎まで呼びに来てくださり、散歩の途中に立ち寄ったコンビニで、「おい、おでんをコンビニで売り出したん知ってるか?」と聞かれたので、「はい。よく食べます」と答えると、わしにも買って来てくれと千円札を差し出されました。
コンビニでおでんを買い、近くのベンチに腰掛けて、熱いおでんを一緒に食べていると、「1個100円でこれだけのもんが、気軽に食えるというのはすごいな。どうや、うまいか?」と聞かれたので、即座に「はい。美味しいです」と答えました。
その日はたまたま、夜も一緒に奥様と三人で食事に行くお誘いをいただいており、生まれて初めてフランス料理のフルコースをご馳走になりました。コースが終わりデザートを食べていた時に「お前、この料理一人いくらすると思う?」と、突然尋ねられ、奥様が「こんなところで……」と言いかけたのを遮り「大事な話や」と、続けられました。
私は、全く見当がつかなかったのですが「一万円ぐらいでしょうか?」と、答えると、「アホか、飯だけでその3倍はするぞ」と笑いながら、続けて「で、昼間のおでんとどっちがうまい?」と質問されました。
私が即答で「当然こちらのフランス料理です」と答えると、その答えを予測していたかのような呆れ顔で仰いました。
「お前は金額でこっちがうまいと言ったやろ? ええか、大事なことを教えたる」
「100円には100円の価値があり、3万円には3万円の価値がある、10万円にも当然10万円の価値があるんや。それを同じに比較することなんてできるわけないやろ」
そして、微笑みながら私にこう教えてくれたのです。
「価値というものは受け取り手のその時の状況によって変わるもんや。夏の暑い日に100円のおでんとアイスクリームを売れば、誰もがアイスクリームを選ぶと思うやろ。でも、時期は夏でも冷房で体が冷え切った人間はおでんを選ぶはずや。つまり、価値は状況や相手によっていつも形を変える。必要な人に必要なものを売るというのが商売の基本と覚えとけ」
「価値に対して対価としての金額があるわけや。しかし、その価値に見合う対価でなければ相手は買ってくれへんし、奇跡的に買ってくれたとしても、2回目は買わんようになる。でも、対価をほんの少しでいいから上回る価値があればまた買おうとなるもんや。価値とは何か? そして、対価を上回る価値を出すためにどうすればいいか? よく覚えとけよ」
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ちなみに、著者・嶋田さんはこの本を読んだ某大手食品メーカーの会長から声がかかり、新規事業の役員に抜擢された・・・という裏話があります。1冊の本が稀有な出会いを生んだ、担当編集としてはとても嬉しい事例でした。