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#446【フリートーク】編集者おすすめの3冊【6】
このnoteは2022年7月26日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。
今井:フォレスト出版チャンネルのパーソナリティを務める、今井佐和です。本日は、「編集者おすすめの3冊」をテーマにフォレスト出版・編集部の貝瀬さんにお話しを伺っていきます。貝瀬さん、よろしくお願いいたします。
貝瀬:よろしくお願いいたします。
40年前近くに書かれていたことに驚いた1冊
今井:それでは早速なんですけれども、「貝瀬さんのおすすめの3冊」ということで、まず1冊目について教えていただいてもよろしいでしょうか?
貝瀬:はい。本日の1冊目は村上春樹先生が1985年に発表し、谷崎潤一郎賞を受賞した長編『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』です。新潮文庫で上下巻で出ているので、1冊目と言いつつ、いきなり2冊になってしまいました。
今井:(笑)。こちらの本はどのようなところが貝瀬さんのおすすめポイントなんですか?
貝瀬:実はこの1年ぐらい毎朝、小説を読むようにしているんですね。
今井:はい。
貝瀬:20年ぐらいビジネス書とか自己啓発とか、あるいは人文系の本ばっかり読んでいて、本当に小説って読まなくなっちゃったんですよ、30代、40代、50代は。なので、老化を防ぐ意味でも小説を読もうと思って。で、いきなり新しいものを読んでもついていけないかもしれないと思ったので、昔読んだものを読み返そうということで、この本を選んだんですね。
今井:はい。
貝瀬:もう30年以上前に読んだので、全く覚えていなかったことにまずびっくりしたんですけど。この作品を若かった頃に読んだ時は「なんとなく面白い。いけているね」ぐらいだったのが、今読むと、本当にものすごく緻密な構成というか、もしかしたら今井さんもお読みになったかもしれないですけど。これ、「世界の終わり」っていう、主人公の心象風景、脳内で起こる世界と、主人公の現実世界、これは「ハードボイルドワンダーランド」っていうんですけど、この2つの世界の出来事を交互に展開させていくというか。それぞれの世界で謎があって、それを主人公が解いていき、エンディングでその2つの世界が交差するという、文学的にもそうだし、物語の構成、着想とか、こんなすごいものがすでに40年近く前に書かれていたのかという。非常に驚きましたので、今回ご紹介させていただきました。
今井:ありがとうございます。そんなに前の作品だったんですね。私の中で、もうちょっと最近の本なのかななんて思っていたんですけれども。
貝瀬:私の若い頃、20歳前後の頃に村上春樹先生って、『ノルウェーの森』でものすごいベストセラー作家になって。それまでもそれなりに有名だったんだけども、ベストセラー作家となったのは『ノルウェーの森』で、その辺りに書かれたものっていうのを最近読み返していて、全然古さを感じないんですよね。さすがにスマホとかは出てこないので、固定電話でやり取りしたりとか、そういうシーンはあるんですけど。文学の面白さをまた改めて感じました。
今井:ありがとうございます。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』、新潮文庫さんの村上春樹さんの本でした。では続きまして、貝瀬さんのおすすめの2冊目はなんでしょうか?
「聞く耳を持たない人はやばいぞ」と教えてくれる本
貝瀬:はい。『The Intelligence Trap(インテリジェンス・トラップ)』、副題が「なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのか」です。
貝瀬:こちらはイギリスの科学ジャーナリストのデビッド・ロブソンという方が書いた本です。翻訳は日本経済新聞出版さんから2年ぐらい前に出ていますかね。どんな本かっていうと、知能指数が高い人、頭のいい人でもエセ科学とかオカルトっぽいもの信じ込んじゃっているケースが多いんだけど、例えば冒頭に出てくるエピソードは、ノーベル科学賞を受賞した科学者が、ネットでエイリアンの陰謀、「エイリアンは我々の身近に潜んでいて、人類を征服するのを虎視眈々と狙っている」とか。あるいは占星術にハマっていたりとか、そういうケースを紹介しているんですけど。
今井:賢い人は正常な判断をできそうな気がするのに、そうじゃないっていうことなんですね。
貝瀬:そうなんです。歴史上で言うと、有名な話は、「シャーロック・ホームズシリーズ」の原作者のコナン・ドイル、この方は妖精の存在とか、あるいは心霊現象・・・、当時のイギリスで降霊術っていうのがすごく流行っていて、こっくりさんみたいな感じで、みんなで集まって、「じゃあ、霊を呼び出しましょう」みたいな。結構真面目にお金持ちの人たちがやっていたらしいんですけど。
あるいは、アインシュタインなんかも後半は変な議論にハマっちゃって、ずいぶん時間をムダにしたとか。そんなことも書いてあるんですけど、要は頭がいい人って、ある専門分野ではものすごく知力を発揮するんだけれども、それ以外のことって意外と疎いというか。「これが体にいいらしいよ」って、信用できる人から教えてもらったことだったりすると、それを信じ込んじゃって、仮に「間違っているよ」って他の人が言ってくれても、逆にむきになっちゃって、自分の信じたことが正しいっていう証拠を集めたり、証明し始めたりで、なまじっか頭がいいものだから、それが正しいという論理を組み立ててしまうという。そのような話がありますね。なんでそうなってしまうか。単純に、人の話をちゃんと聞いていないというか。
今井:(笑)。
貝瀬:聞く耳を持たない人はやばいぞってことですね、この本は。すごく簡単に言うとですよ。ざっくり言うと、そんなようなことを言っていますね。
例えばIQテストって、みんな受けたと思うんですけど、そもそもIQが頭のよさと直結するのかとか。ルイス・ターマンっていう、アメリカの学者が全盛期ぐらいに立てた理論なんですけど、確かにIQテストは計算能力とか、ある種頭の頭のよさを測る、1つの指標ではあるんだけど、結局そのテスト結構がよかったからといって、必ずしも人生で成功するわけではないと。そういうのはアメリカの社会追跡調査なんかで証明されちゃっていたりとかしますね。
なので、一面的な頭のよさというよりはこの著者が言いたいのは、地道に色んなことをコツコツ正しい知識を身につけましょうとか、あるいは自分が間違っていることを素直に認めるとか、そういうのをきちんと地道に積み重ねている人っていうのが本当に頭のいい人で、最終的には成功者になれるんじゃいかと。そういうような主張をしている本です。
今井:IQよりもEQという心の知能指数が高い人の方が、会社のチームの営業成績が高いなんていうのも確かグーグルさんかどこかがあげていたので、まさにこの主張の感じですね。
貝瀬:そうですね。やっぱりそういうことなんでしょうね。人間自体、限界がどんな人でもありますから、集団で成果をあげられる人が1番偉いんじゃないかと。そんな次第です。
今井:ありがとうございます。貝瀬さんおすすめの2冊目は、『The Intelligence Trap(インテリジェンス・トラップ) なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのか』デビッド・ロブソンさんの本でした。では、最後の貝瀬さんのおすすめの3冊目をお願いいたします。
「不寛容な時代」に斬り込む
貝瀬:はい。『不寛容論』、寛容ではないっていうことの“不寛容論”です。サブタイトルが「アメリカが生んだ「共存」の哲学」、新潮選書から出ている本で、著者は国際基督教大学の教授の森本あんり先生。あんりという名前ですけど、年配の男性です。
今井:はい。こちらはどういった本なんですか?
貝瀬:この本は、アメリカの建国時代、まだ植民地で、ピューリタンが移住したばかりの頃の話を中心にしているわけですね。ピューリタンには色んな宗派があるんですけれども、イギリス本国で弾圧されていたと。それで彼らがイギリスにいられなくなったというか、もういたくないということで、目指したのがアメリカ、「アメリカという新しいところで、自分たちだけの宗教を追求する楽園を作ろう」みたいな。
そういうのが、現在のアメリカの発祥なんですけど、この中に何人も面白い人がいるんですが、中でも、ロジャー・ウィリアムズっていう牧師さんの話が一番面白く語られています。この方がどういう方かというと、彼もピューリタンで、イギリス本国にいられなくなって、アメリカに渡るわけですけど、とにかくこの人っていうのは、植民地、アメリカの単なる牧師にも関わらず、イギリス本国の神学者とか、もっとえらい宗教的権威に平気で喧嘩を売るというか、自分が納得できないことに関しては絶対違うと。すごく言論の激しかった方なんですね。ただ一方で、相手が自分と全然違う主張を持っていること自体は認める。「俺は全然認めないけど、それであんたが俺のことを認めてくれなくても、それはお互い人間なんだから信仰は違って当たり前だ」みたいな、ある意味、裏表のない人だったのでかえって信用されたと。ネイティブアメリカンの部族とも仲良くしていたという、ちょっと反骨精神あふれる人物。そういう初期のアメリカのピューリタンの人たちいうのはピューリタン同士でも全然信仰が違う、異教徒みたいなもんだから。ただ、アメリカっていう新しい土地で生きていくためには、お互いの立場を認めながら生活していかなきゃっていう、それが今のアメリカ人の精神、「自分は自分だし、相手は相手」っていう。個人主義というか、相手の意見に対して寛容であるっていうのに通じているのかなと思ったりして。
今、日本でネットを見ていたりすると、やっぱり自分と違う意見を持っている人っていうのは徹底的に敵認定っていうのが当たり前なんですけど、それはもうちょっとみんな考えた方がいいんじゃないかなと。もうちょっと寛容な社会になってほしいなあと。そんなふうに思ったので、今回この本を紹介させていただきました。
今井:このロジャー・ウィリアムズさんはただ寛容というよりも自分が違うなって思ったことは言うっていう、芯もありつつの相手も認めるっていうところがいいですよね。
貝瀬:そうなんですよね。だから見方としては、不寛容って言ったら不寛容かもしれないんだけど、でも人間としては認める。宗教的にこのロジャー・ウィリアムズは自分の信仰にゴリゴリに固まっているんだけど、それ自体は自分でわかっている。そんなような、ちょっと面白い人だなという感じですかね。
今井:先ほどネットを見ていると・・・っていう話がありましたけども、徹底的に叩く、もしくは自分の意見と別の意見でも、「そうだね」って言ってしまう日本人みたいな部分もあるかなと思ったので、この『不寛容論』、なかなか生き方の軸にいいのかなって思いました。
貝瀬:ちょっと深めのタイトルではあるんですけど、「そっか。アメリカの人たちっていうのは、こういうのが考え方のベースにあるんだ」という面白い啓蒙書というか、面白い読み物なので、ぜひおすすめしたいなと思って紹介しました。
今井:ありがとうございます。貝瀬さんおすすめの3冊目は『不寛容論: アメリカが生んだ「共存」の哲学』、新潮選書さんの本で、著者は森本あんりさんでした。本日はフォレスト出版、編集部の貝瀬さんにお越しいただきました。おすすめいただいた3冊の本は、こちらにリンクを貼っておきます。ぜひ皆さんもご覧いただけたらと思います。本日は、貝瀬さん、ありがとうございました。
貝瀬:ありがとうございました。
(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)