日本人の私が「死ぬまで使わない日本語」はどのくらいあるのか?
中高生のときの、知ったばかりの難しい言葉を使ってみたくなる感覚、わかりますでしょうか。
「ごめん、オレのなかの羞恥心と虚栄心が……」
「きっとそれは、キミに最初に訪れた人生の隘路だよ」
「そうか、結局、死に至る病だったんだな」
「今、彼女とはヤマアラシのジレンマになってるんだ」
みたいに使うわけです。本当に賢い子が言うのであれば違和感はないのですが、そうじゃない子が使うと背伸びしているのが見え見えで、共感性羞恥を覚えます。
しかし、よくよく考えると、それって別に悪いことじゃないですよね。新しい言葉を知った喜びと、不器用ながらもそれを使おうとする姿勢――学びの原点、尊さがそこにあるのです。
さて、なぜこんなことを書いたかというと、本日amazonで発売開始の新刊を読めば、「難しい言葉を覚えた!」「この言葉を自然に使えたらカッコいい」というある種のプリミティブな感動に出会えるのではないかと思ったからです。
タイトルは『死ぬまで使わない日本語』。著者は知的アウトローなものを追求する作家の杉岡幸徳さん。
このインパクトのあるタイトル通り、日本語でありながら、ほとんどの日本人が死ぬまでに一度も使うことがないであろう言葉を集め、解説した本になります。
そう言われると、「どれどれ、私が使ったことがある言葉を見つけてやろう……」という挑戦心が湧き上がりませんか?
それこそが、このタイトルをつけた編集者の狙いだったりします。
そして「知らなかった日本語」を知った、あの思春期の喜びをたくさん味わってほしいわけです。
いったい、どんな言葉がまとめられているのか? 以下、「まえがき」全文を掲載させていただきます。
まえがき 珍しい日本語を知ることの意義とは?
「鴆酒(ちんしゅ)」「猫の魚辞退(うおじたい)」「アハ体験」「竹夫人(ちくふじん)」「ぐりはま」「ブーバ/キキ効果」
――こういった言葉を日常的に使っている方は、あまりいないのではないでしょうか。本書は、この種の珍しい日本語を集めて解説したものです。
日本語は非常に語彙の多い言語なのですが、私たちがふだん使う言葉はごくわずかで、多くは使われないまま眠っています。
しかし、珍しい日本語を知ることにより、表現の幅が広がり、新しい世界が見えてくることがあります。
言葉にはそれぞれに物語やメロディーがあります。その言葉を通して、違う世界を覗き見、見知らぬ思想の息吹を感じることもできます。「矛盾脱衣」「かわひらこ」「動物園仮説」「ハイルブロンの怪人」「サイレンラブ」……こういった言葉から始まる映像やストーリーもあるのです。
私は前に、奇妙な漢字や四字熟語について本を数冊書いたことがあります。
そのとき、この世には信じられないほど珍奇な漢字や四字熟語が存在することに驚きました。そして、「日本語そのものには、それ以上に奇妙で不可解な言葉があるに違いない」と思い、書き上げたのが本書です。
取り上げた言葉については、単に稀少で見慣れないものだけではなく、意外な意味があったり、言葉を通して新しい世界が見えてきたり、言葉の背後にドラマや歴史が隠されている言葉を主に選びました。
また、「使わない言葉」と「知らない言葉」はちがいます。かりに聞いたことがあっても、実際に使うことはまずない言葉は多くあります。また、真の意味が知られていなかったり、誤解されている言葉もあります。「金字塔」「女子」「ボランティア」「酒池肉林」「妙齢」「綺羅星」などがそうですが、そういった言葉についても言及しました。
第1章の「見かけも意味も不可解な言葉」は、言葉じたいが理解不能だったり、超現実的な状況を描いている言葉――「人参で行水」「ラッコの皮」「ハイルブロンの怪人」などを選んであります。
第2章の「見ない・読めない熟語」では、普段あまりお目にかかれない漢字の熟語を取り上げました。
第3章の「知っているようで知らない言葉」は、聞いたことはあるが実際には使う機会がないもの、意味が誤解されているものを主に選びました。
隠語や業界用語を通して、その世界の謎や実態が見えることがあります。第4章の「意味がまったく想像できない隠語・業界用語」にはその手の言葉を集めています。
また、使いたい言葉が見当たらずに、「これなんて言うんだっけなあ」と困った経験はどなたにでもあるでしょう。第5章の「もやもやを言語化した言葉」ではそれの助けになりそうなものを取り上げました。ガードレールの端の丸まった部分、あれをなんと言うのか、すぐにわかる方はそれほどいないと思います。
第6章の「ほぼ絶滅したレトロな言葉」は、昔のビジョンや人間の息遣いが蘇ってくるような古い言葉を選びました。
第7章の「見かけや意味が色っぽい言葉」は、文字通り妖艶で色気のある言葉、そして一見セクシーに見えても、実は真剣な意味あいのある言葉を選んでみました。
第8章の「日常の景色が雅びになる言葉」では、美的かつ文学的な言葉、そして公家の使っていた言葉を取り上げました。
第9章の「別世界の扉を開く言葉」は、その言葉を通して、こことは違う別世界の光景を見つめられる言葉を取り上げました。
これらの言葉を通して、日本語の豊饒さ、そしてこの世界の多面性や可能性を感じていただければ幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
(編集部 い しク ロ )