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「洞ヶ峠」「横浜行ってきます」…地名にまつわる「死ぬまで使わない日本語」
先週発売されたばかりの新刊『死ぬまで使わない日本語』(杉岡幸徳)ですが、「そんな無駄なことが書かれた本を誰が買うのか?」という疑問の声がある一方、「だからこそ読みたくなる」という声もあります。
いずれにせよ、関心を持っていただけるのはありがたいですし、そうした声を見越したタイトル付けをしたわけです(著者じゃなくて、実は私が読者の心を読んで裏で糸を引いていたんだよ、エッヘン!みたいな感じのこと書くと、某note記事のように炎上しそうなので、誇示するのはこれくらいにしときます)。
さて、本書を編集するに当たり腐心したのが構成です。
本書には425語収録されているのですが、それぞれをどのようにカテゴライズして章立てするか……、「名詞・形容詞・動詞」みたいに品詞で分けるか、外来語は外来語だけでまとめるか、難易度順に並べるか、広辞苑に載っていない言葉と載っている言葉で分けるか……など、いろいろ検討したのですが、結局以下のような章立てにすることにしました。
第1章 見かけも意味も不可解な言葉
第2章 見ない・読めない熟語
第3章 知っているようで知らない言葉
第4章 意味がまったく想像できない隠語・業界用語
第5章 もやもやを言語化した言葉
第6章 ほぼ絶滅したレトロな言葉
第7章 見かけや意味が色っぽい言葉
第8章 日常の景色が雅びになる言葉
第9章 別世界の扉を開く言葉
このまとめ方が間違っているとは全然思っていないのですが、あらためて本書を読んでみると、地名が入った言葉が意外に多いことに気づきました。だから「地名にまつわる言葉」でまとめるのも面白かったかも、と。
そこで、本書の中から「地名にまつわる言葉」をいくつかピックアップして掲載してみたいと思います。
あなたが使ったことがある言葉はありますか?
下総の炒り倒れ(しもうさのいりだおれ)
意味:下総の人は炒り豆を食べ過ぎて破産すること
「京の着倒れ、大阪の食い倒れ」という言葉は有名だ。「京都の人は着物に金をかけて、大阪の人は食べ物に金をかけて身上を潰す」という意味だが、この手の言葉は全国にある。
「紀州の着倒れ水戸の飲み倒れ尾張の食い倒れ」「大阪の食い倒れ堺の建て倒れ尼崎は履いて果てる」「桐生の着倒れ足利の食い倒れ」「阿波の着倒れ伊予の食い倒れ」「甲州の着倒れ信州の食い倒れ」――などときりがない。
「下総の炒り倒れ」という妙なものもある。下総とは現在の千葉県の北部あたり。このあたりは豆が名産なので、下総の人は炒った豆に金をかけ過ぎて破産するという意味なのだが、いくら何でもこれはホラだろう。炒り豆で破産するためには、いったい何粒食べないといけないのか。健康にも悪過ぎる。あまりに無理やりだ。
行徳の俎(ぎょうとくのまないた)
意味:馬鹿で擦れていること
行徳とは、現在の千葉県市川市の地名である。ここでは昔は馬鹿貝がよく獲れた。だから、行徳の俎は馬鹿で擦れている、という洒落である。
用例:どうせ僕などは行徳の爼と云う格だからなあ(夏目漱石『吾輩は猫である』)
江戸べらぼうに京どすえ
意味:江戸と京の方言の特色を述べたもの
「べらぼう」は江戸言葉で「ばか」のこと、京の人は文尾に「どすえ」をつけて話す。
この手のことわざはほかにもある。「長崎ばってん江戸べらぼう」「大阪さかいに江戸べらぼう」「長崎ばってん、江戸べらぼう、神戸兵庫のなんぞいや」などだ。
滋賀県人いじめると水道が止まる
意味:滋賀県人をいじめると京都や大阪の水道が止まるということ
滋賀県人が大阪人や京都人に馬鹿にされると「琵琶湖の水、止めたろか」と反撃に出ることで知られている。琵琶湖から流れ出る水を止めてしまうと、淀川や宇治川の水が激減するからだ。
もっとも、実際に琵琶湖の水を止めてしまうと、琵琶湖から水があふれだし、周囲は大浸水を起こしてしまう。捨て身の覚悟で水を止めるしかなさそうだ。
洞ヶ峠(ほらがとうげ)
意味:日和見
現在の京都府八幡市と大阪府枚方市の境にある峠。一五八二(天正十)年、本能寺の変で織田信長を討ちとった明智光秀と羽柴秀吉の間で山崎の戦が行われた。天下分け目の決戦である。この戦いに勝った者が日本の覇者となるのだ。
ところが、筒井城の城主だった筒井順慶は、洞ヶ峠に陣取ったまま兵を動かさず、光秀が勝つか秀吉が勝つかのんびり見物し、勝利が確定した後に秀吉に付いた――という話から来ている。
もっとも筒井順慶は秀吉に従う旨を記した誓紙を書いているので、これは俗説だ。今も洞ヶ峠の地名は残っている。
生駒(いこま)
意味:人を殺して埋めること
生駒山は、大阪府と奈良県をまたぐ山だ。この山に犯罪者がよく人を殺して埋めるので、「生駒」は人を殺して埋めることを言う。ちなみに、神戸では六甲山がよく活用されているという。
南港(なんこう)
意味:人を殺して海に沈めること
南港とは大阪市住之江区にある大阪南港のこと。人を殺してここに沈める事件が多いという。
横浜行ってきます
意味:トイレに行くこと
飲食業界の隠語。なぜ横浜なのかと言えば、横浜の市外局番が045だからだという。ダジャレだ。やはり飲食界隈ではトイレについては隠しておきたいもののようで、ほかにも「遠方」「突き当たり」「事務所」などという隠語がある。
来熊(らいゆう)
意味:熊本に来ること
「来熊」とは、熊が向こうからやって来ることではない。「熊本に来る」という意味。「らいゆう」と読まれるが、地元では「らいくま」と読むこともあるという。
自分の土地に来ることを「来〇」と表現する例はかなり多い。来松(松江)、来分(大分)、来姫(姫路)、来阪(大阪)、来沢(金沢)、来岐(岐阜)、来寧(奈良)、来沖(沖縄)――など、放っておくときりがない。こういうものは言ったもの勝ちになるので、自分の住んでいる小さな村でも「来〇」などとかまわず言ってしまおう。百年後には辞書に載っているかもしれない。
小田原評定(おだわらひょうじょう)
意味:いつまでたっても結論の出ない会議
戦国時代、豊臣秀吉が小田原城に籠る北条氏政・氏直を攻めた。城内では戦うか和するかどうするか、議論が続いたのだが、いつまでたっても結論が出ず、空しく時だけが過ぎた。しかしついに北条氏は降伏せざるを得なくなり、戦国大名としての北条氏は滅亡してしまった。
この話から、いつまでたっても結論の出ない会議のことを小田原評定という。時々、一日中話し合っているのに、何一つ成果のない会議に出てしまうことがあるが、まさにそれである。
地名にまつわる言葉は、まだまだ掲載されています。もしかしたら、あなたのお住いの地域の名前が見つかるかも……!?
興味のある方は、ぜひ手にとってみてください。
(編集部 いし く"ろ )