クリスマスに愛する人に捧げる “殺し屋”の物語。北欧ノルウェーのミステリを紹介
編集部の稲川です。
12月に入りましたね。先週からブラック・フライデーを迎え、世界は本格的なクリスマスシーズンに入りました。
そもそもブラック・フライデーという言葉は、あまり馴染みがありませんでしたが、やはりアマゾンの影響でしょうか、クリスマスの買い物でにぎわいを見せる日というイメージですが、なぜ“ブラック”なのか気になって調べてみました。
ブラックという言葉は、英語では否定的な意味で使われます。有名なのはブラック・マンデーで、1987年に起きた世界的な株価暴落です。
一方で、ブラック・フライデーはクリスマスで物が飛ぶように売れて、“黒字の金曜日”のように感じますが、実はそうではないらしい。
アメリカでは毎年、11月の第4木曜日がサンクスギビングデー(感謝祭)で、その翌日の金曜日は、買い出しで交通渋滞になり仕事が増えることから、警察官にとってはブラックな日ということで、彼らがブラック・フライデーと呼んだことが始まりのようです。
ちなみに、本(書籍)に関しては、再販制度というものがあり勝手に安売りができないのですが、アマゾンのKindleでは最大80%OFFというセールもやっているそうですから、年末年始に読みたい本をまとめ買いしておくのもいいかもしれませんね。
さて、そんなクリスマスシーズンを迎えて、この時期に紹介する1冊がこちら。
『その雪と血を』(ジョー・ネスボ著、鈴木恵訳、ハヤカワ文庫)
クリスマスということで、ディケンズの『クリスマス・キャロル』やデイヴィスの『34丁目の奇跡』あたりと思われたでしょうが、今回はかなりの変わり種、ミステリのジャンルです(^-^;
私は北欧ミステリファンなのですが、とにかくこの手の本は長編も長編、ゆうに500ページを超える作品もざらにあります。
そのなかで、200ページほどの作品で、手軽に読めて面白いというミステリです。
北欧ミステリは、主にスウェーデンの作品が多いのですが、この本はノルウェーということで、これまた変わり種かもしれません。
作家のジョー・ネスボはノルウェーでは有名な作家で、写真のオビにも書いてあるように、全世界4000万部突破している超ベストセラー作家です。
【ジョー・ネスボ】
ノルウェーの小説家、ミュージシャン。1960年オスロ生まれ。ノルウェー経済大学で経営学と経済学の学位を取得。刑事ハリー・ホーレを主人公として書かれた『ザ・バット 神話の殺人』は北欧ミステリ最高峰のガラスの鍵賞を受賞。このシリーズで一躍有名となる。氏の作品は世界50カ国以上で翻訳され、累計売り上げは4000万部を超える。また、ロックバンド「Di Derre」のボーカリスト兼ソングライターとしても活躍している。
ちなみに、日本では「第8回翻訳ミステリー大賞」(2017年)を受賞しています。
この賞、私は意識したことがなかったのですが、めちゃくちゃ真面目な会が主宰しています。
というのも、大賞は翻訳家みずからが選考するというもので、翻訳ミステリをもっと広く深く愉しんでもらおうと創設、今年で第12回を迎えています。
第8回のノミネート作品のなかには、この年の「このミス」海外編ベストで1位の『熊と踊れ』(アンデシュ・ルースルンド/ステファン・トゥンベリ著)もありましたが、大賞が『その雪と血』というのは、やはり翻訳者が選考委員というところで評価が変わるのでしょう(ちなみに、「このミス」では『その雪と血』は8位)。
ちなみに、ルースルンド作品も面白いですよ。いつか紹介したいと思います(今回は写真のみで)。
また、私は北欧ミステリほぼ一辺倒なので、ほかの国の翻訳ミステリを読むことがめっきり減ったのですが、第10回の大賞はベストセラーになった『カササギ事件』(アンソニー・ホロヴィッツ著)。
こちらはイギリスの作家の作品ですが、さすがに話題となったので読んだ作品です。
と、また話がだいぶ逸れてしまいましたが、ノルウェー作品『その雪と血を』に戻します。
この本は、さすがに翻訳家が選ぶ大賞だけあって、翻訳が素晴らしい(もちろん、ほかの本の翻訳も素晴らしいですが)。
そして、冒頭の10ページで完全に引き込まれます。
綿のような雪が街灯の光の中を舞っていた。舞いあがるとも舞いおりるともつかずに、オスロ・フィヨルドをおおう広大な闇から吹きこんでくる身を切るような寒風に、あてどもなく身をゆだねている。風と雪はいっしょになって、人けのない夜の波止場の倉庫の街の暗闇でくるくると渦を巻いたが、やがて風はそれに飽きてダンスの相手を放り出した。乾いた雪は壁ぎわに吹きつけられて、おれがいま胸と首を撃ったばかりの男の靴のまわりに舞いおりた。
この冒頭を読んだだけで、雪が寒風に舞う身を切る寒さのオスロの街の様子が数行で描かれています。そして、誰もいない埠頭の倉庫前で銃に撃たれた男が、銃声のあと、一瞬のうちに静寂へと戻った闇へと落ちていった情景が容易に想像できる文章です。
この本が、どうしてクリスマスにおすすめなのかというと、クリスマスの数日前からイヴまでの数日間に起こる物語だかです。
簡単に内容を解説しておきます。
雇われ殺し屋のオーラヴは、今日も依頼通りオスロの波止場で男を1人殺し、仕事を終えたことをボスに連絡する。このボスはオスロを根城にする麻薬業者で、オーラヴの雇い主ホフマンという男だった。
独りやもめのオーラヴは、女に弱いことを自認しているが、ジャンキーの彼氏の借金の肩代わりに身を売って返済しなければならない、耳の聞こえないマリアを殴るホフマンの手下が許せず、手下を殴ってマリアを解放する。
結局、マリアの彼氏の借金を肩代わりしたオーラヴであったが、そんなこともあってか、いつか雇い主に自分も“始末”されるのではないかと感じていた。
そんな矢先、ホフマンから新たな殺しの依頼を受ける。
それは、ホフマンの妻を殺害してほしいというものだった。
しかし、彼女をひと目見た瞬間に、標的は愛へと変わっていった・・・。
果たしてオーラヴの運命やいかに、という感じなのですが、結末はクリスマス・イブの前日に明かされます。
オーラヴのホフマンの妻に対する心揺らめく感情とともに、悲しく、そして壮絶に描かれた作品です。
テンポもよく、一気に読める本としておすすめです。
ただ、この本のオビに「血塗られたクリスマス・ストーリー」と書いてあると通り、とても幸せなクリスマスに読む本ではないかもしれないですね(^-^;
年末のこの時期、忙しくてなかなか本をゆっくり読む時間もないと思いますが、たまにはミステリの世界に浸かってみるのもいいですよ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?