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半導体は日本経済を救うのか?――『半導体ニッポン』まえがき全文掲載

フォレスト出版編集部の寺崎です。

パソコン、スマホ、電気自動車、インターネット回線、(今後の発展が期待される)量子コンピュータなどなど……現代人にとってのこうした文明の利器のどれにも欠かせないものがあります。

それが・・・・・

半導体です。

昨今では生成AIをはじめとするAIの勃興とともに、大量の半導体が必要になってきていて、今後のAIの発展を想定すると、さらなるニーズの高まりが予想されるのが「半導体」でしょう。

それを証明するかのように、エヌビディアが時価総額1兆ドルを超え、台湾のTSMCも後を追うように時価総額1兆ドルを超えています。

GAFAM(Google・Apple・Facebook・Amazon・Microsoft)と呼ばれる企業群は、現在はテスラとエヌビディアを加えて「マグニフィセント・セブン」と呼ばれるようです。

そんな「半導体の時代」において、日本の半導体産業はどうなっているのか?

・・・そんな素朴な疑問にズバリ答える新刊が出ました。

津田建二『半導体ニッポン』

今日は津田建二・著『半導体ニッポン』発売を記念して「はじめに」を全文公開します。では、どうぞ。

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『半導体ニッポン』はじめに

 新型コロナに見舞われていたころからでしょうか。半導体不足に見舞われ、お風呂やトイレ、湯沸かし器などが故障しても、「半導体が手に入らないから直せません。製品も入荷しません」という事態が起こりました。
 私たちがこれまで全く気にもしなかった半導体製品が、身のまわりの大事な設備にまで入り込んでいたことに改めて気がつきました。
 家庭の風呂は沸くと自動的に教えてくれるだけではなく、自動的に火を止めてお湯が沸騰しないように設計されています。すっかり便利になり、これが当たり前だと思い込んでしまっていましたが、そういえば昔は、お湯が沸いたかどうかを何回も見に行き、湯船のお湯をかき混ぜてちょうどいい湯加減の温度になるまで、まだかまだかと待っていたものです。
 自宅の風呂でさえ、最適な温度になるように人間が作業していたのに、今は全て自動的にちょうどいい温度にしてくれます。
こういった便利な機能を果たしてくれるのが半導体の力です。

 私は半導体を中心にエレクトロニクスを40年以上もフォローしてきた技術ジャーナリストです。半導体トランジスタが誕生したのが1947年12月。当時はまだ自分は生まれていませんでしたが、小中学生の時にトランジスタラジオを作ろうと思った「ラジオ少年」でした。
 子ども向けの科学雑誌を購読していましたが、その中に「錆びた鉄でもラジオを聴ける」という一文がありました。当時は「へえー」と思っていただけでしたが、なぜか記憶の片隅にそのことが残っていました。そして、大学で固体物理学を学んでいた時に、半導体材料の一つにFe2O3があることを知りました。これが錆びた鉄です。
 卒業してある総合電機メーカーに入り、今度は半導体開発に取り組みました。当時はディスクリートといい、トランジスタ単体の開発でした。信頼性評価や設計開発などの仕事をしていましたが、もっといろいろな半導体を知りたいという思いが強まり、会社を辞め、技術ジャーナリズムの世界に飛び込みました。
 以来、半導体、集積回路(IC)を中心に技術ニュースを追いかけてきました。
 その間、東北大学の西沢潤一先生や大見忠弘先生、東京工業大学(現・東京科学大学)の古川静二郎先生、東京大学の菅野卓雄先生、産業技術総合研究所の垂井康夫博士や林豊博士など、日本の半導体研究のトップ研究者への取材を含め、たくさんの方々にお世話になりました。
 海外でも、半導体のプレーナ技術を発明したジャン・ホーニ博士や、モノリシックICを提案したインテルのロバート・ノイス博士などにも取材させていただきました。
 半導体の発展期には、アームの創業者でCEOだったロビン・サクスビー卿や、今日のVLSIの設計指針となる教科書を書かれたカリフォルニア工科大学のカーバー・ミード博士とゼロックスパロアルト研究センター(PARC)のリン・コンウェイ博士(故人)、パソコンの父といわれているゼロックスPARCのアラン・ケイ氏、高温超電導物質を発見したIBMのアレックス・ミューラー博士とヨハネス・ベドノルツ博士にもお会いして話を聞きました。
 そして今、半導体のけん引車はアナログの電機からデジタルのITに変わりました。
 日本の総合電機はこの変化に周回遅れで気がつきました。AI(人工知能)やIOT(ワイヤレスセンサなどインターネットに接続する)、5G/6Gなどの無線通信技術などの先端テクノロジーが世界中で花を開きはじめています。周回遅れになってしまった日本がこの先勝つためには、これらのトレンドをしっかりと押さえ、世界の流れをウォッチしながら競争するという意識で開発しなければなりません。
 この本は日本の敗因を分析し、それらに基づいて、これからの未来に向けて世界と競争するための戦略を提案しています。これまでの半導体の本は、製造と製品の種類が中心でしたが、ここでは応用、設計、製造、さらにサプライチェーンとも関わる半導体産業の全貌を紹介しました。
 これまでの半導体の本との大きな違いは、半導体が「産業のコメ」ではなく、「産業の頭脳」になったという点です。日本はこの認識に欠けており、頭脳を追いかけず相変わらず部品レベルで議論してきました。これからの半導体は「システム全体を設計していく頭脳である」という認識で世界と競争していくことになります。
 これから日本が世界と互角に対応していくためのアイデアをところどころに散りばめています。日本の半導体産業が世界と同じ土俵で戦っていくことを願ってやみません。

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【著書プロフィール】
津田建二(つだ・けんじ)
国際技術ジャーナリスト
セミコンポータル編集長、News & Chips 編集長
半導体・エレクトロニクス産業を40年取材。日経マグロウヒ
ル(現・日経BP)を経て、Reed Business Informationで、EDN
Japan、Semiconductor International日本版を手掛けた。代
表取締役就任。米国の編集者をはじめ欧州・アジアのジャーナ
リストとの付き合いも長い。
著書『メガトレンド半導体 2014-2023』(日経BP)、『欧州ファ
ブレス半導体産業の真実』『知らなきゃヤバイ! 半導体、この成
長産業を手放すな』(共に日刊工業新聞社)、『エヌビディア―― 半導
体の覇者が作り出す2040年の世界』(PHP研究所)など。

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