2021年の“マニアックなニュース”を振り返る
編集部の稲川です。
12月に入り、いよいよ2021年の総決算として1年を振り返る時期がやってきました。
10大ニュースとしての経済ニュース、社会事件ニュース、自然災害ニュースから流行語大賞、ヒット商品・・・など。また、2021年はみなさんにとってどんな年(ニュース)だったでしょうか。
私の仕事における最大のニュースは、さまざまな本を編集してきた中で、3年以上におよぶ取材を通じて、ようやく日の目を見ることができた本を編集させていただいたことです。
2018年に、ひすいこたろうさんと大嶋啓介さんによる『前祝いの法則』という本を編集させていただいてから実に3年。このお2人に、阪神タイガースの矢野燿大監督を加えた3人による本が、もうすぐ発売になるのです。
2021年のシーズンは、77勝を上げながらも5厘差でリーグ優勝は叶いませんでしたが、来シーズンを見据えての出版ということで、編集者としては、年末に最高の年を迎えました。
内容は割愛しますが、テーマは「かっこいい大人になる」ということで、ぜひ年末年始にお読みいただければと思います。
さて、表題にも挙げましたが、2021年に起きたマニアックなニュース(現象)の話に移りましょう。
これは2021年5月に、アメリカで話題になった出来事です。
数十億匹が大量発生! 米国で17年ぶりに現れた「周期ゼミ」を研究者と共に追って見えてきたこと
米国で膨大な数のセミが集団発生しつつある。17年周期で大量発生する「ブルードX」と呼ばれる周期ゼミ(素数ゼミ)の集団は、その数が最終的に数十億匹にも達するとみられている。このセミを研究者と共に追いかけてみたところ、生態系への影響や微生物との不思議な関係など、セミの集団にまつわるさまざまなことが浮き彫りになってきた。
SCIENCE:WIRED(2021.05.26 WED)
周期ゼミ、別名「素数ゼミ」としてアメリカで17年ぶりに大量発生したセミのニュースです。
普通のセミの寿命は2~3年。
まず、木の枯れ枝の中に数百個の卵として産み付けられ、梅雨の時期に幼虫として誕生します。
幼虫はそこから木を降りて、長い地中生活に入ります。
幼虫は木の根の樹液を吸って、年に2回の脱皮をして成長しながら、地中で2~3年過ごします。
そして、最後の脱皮のために6~8月の夕方、地上へと出てくるのです。
私は昔、子どもたちとキャンプに行った際、何十匹も真っ白なセミが地上に這い出して脱皮を始める様子を見たことがあります。
1時間近く観察をしていましたが、あまりにも変化が遅くて寝てしまったら、翌朝にはあのセミの抜け殻だけが各所に散乱しておりました。
さて、成虫となったセミは、交尾のために必死に鳴き始めます。といっても、鳴けるのはオスだけ。
自然界の摂理として、オスは何匹ものメスと交尾できますが、メスは1匹のオスとしか交尾できません。
当然、交尾できないオスが出てきてしまいます。それゆえに、鳴き続けるオスの必死さが伝わってきます。
そうして、セミは約1カ月の地上生活を終え死んでいきます。
こう考えると、夏の一瞬しか地上で生活できないセミの生涯というのも、意外に長いものなのです。
その中で、周期ゼミというのは、7年、13年、17年という周期で地上に現れるセミであり、今年の周期ゼミは17年ぶりに地上の登場、
その数50億匹というのですから驚きです。
いま挙げた、7年、13年、17年という周期、お気づきかと思いますが、そう、すべて“素数”です。
ゆえに、これらのセミを素数ゼミと呼びます。
なぜ素数なのか?
これには、セミが種族を守り続ける、壮大な進化の物語があったのです。
その進化の謎に迫った本があります。
『素数ゼミの謎』(吉村仁著、石森愛彦絵、文芸春秋刊)
この本が出版されたのが2005年7月ですから、ちょうど17年前の2004年の17年周期の素数ゼミ発生に際して刊行されたのだと思います。
著者は吉村仁さんという、ブリティッシュ・コロンビア大学で研究員をされていた方で、この本が処女作。その後も数冊の本を出されている進化理論を研究している先生です。
この本は、全ページカラーで、子どもでも読めるように易しい文章で書かれています(イラストも多用、見開きには400匹のセミがずらりと並んだ、標本を撮影した写真などもあり、とても楽しい)。
その中で、吉村さんが示す資料や図版がさらにわかりやすく、「セミのライフサイクル」「アメリカ周期ゼミカレンダー」「地質年代表」「過去約85万年における気温の変化」「公倍数の数式表」「周期ゼミが出会う年の比較表」など、その研究資料とともに、素数をならった小学生でもわかるよう、素数であることの謎も解説してくれます。
そして、彼らが生き残るために、それぞれの周期ゼミ同士が地上に出現する回数が少なくするために、素数周期であることが謎解きされていきます。
彼らの進化とは、長期間地中で暮らし、大量に孵化して卵を産み付ける、まさに種を守るために生まれたものだったのです。
なんかすごくないですか?
10月20日のnoteで、樹木にまつわる命の継承の話を書きましたが、昆虫もこうして脈々と命を紡いでいるんですね。
17年周期の素数ゼミが、次に地上に現れるのが2038年。
この期間で、人間はどう進化しているのでしょうか。
そんな、人間という種族の未来を想像させてくれる1冊です。