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地位財・非地位財とは? 私たちの「無駄遣い」が見える思考実験

為替市場は円安、エネルギーの価格高騰、などにより、インフレが進んでいます。
つまり、さらに相対的に実質賃金が下落しやすくなっている状況です。
こんなときに絶対に避けたいのが無駄遣い。
しかしながら、人によって「無駄」は異なります。

高価な買い物といえば車ですが、地方に住んでいる人にとっては必需品です。
子どもをできるだけよい学校に進学させたい親にとっては、炊飯器で炊いた米が多少まずくなろうが、都心のタワマンに住むことが正解と考えるかもしれません。
一方、忙しい人にとっては「休日」さえ無駄と感じます(個人的にも、校了間近に感じることがあります。まさに貧乏暇なし!)。
酒や煙草などの嗜好品を無駄と考える人もいれば、それこそがこのストレス社会をサバイブするための必需品と答える人もいるでしょう。

では、「無駄」とは、そして対して「大切なもの」とは、個々人の絶対的評価でしか測れないのでしょうか。

そこで、こんな時代に覚えておきたい画期的な概念「地位財」と「非地位財」についてお伝えしたいと思います。

【地位財】
他人との比較優位によってはじめて価値の生まれるもの。
幸福の持続性[低]
例:所得、社会的地位、教育費、車や家などの物的財
【非地位財】
他人が何を持っているかどうかとは関係なく、それ自体に価値があり喜びを得ることができるもの。
幸福の持続性[高]
例:休暇、愛情、健康、自由、自主性、社会への帰属意識、良質な環境など

この画期的な概念を説明しているのが、『幸せとお金の経済学』とその著者ロバート・H・フランクです(「地位財」という語を最初に使ったのはフレッド・ハーシュ〈1976年〉)。

以下、本書から2つの思考実験を解説している箇所を、本記事用に一部抜粋・改編してお届けします。
「地位財」「非地位財」という概念をアタマに入れて読むと、自分にとって本当に「無駄なもの」と「大切にしなければならないもの」が見えてくるかもしれません。

なぜ私たちは同じ答えを選んでしまうのか?

●2つの思考実験
 ずいぶん前に聞いた哲学者の講演で、話の導入としてある思考実験を紹介していました。これは聞き手としてもかなり効果的だと感じたため、それ以来、私も事あるごとにこのアプローチを取り入れてきました。
 最近、神経科学者である友人と話したことがきっかけで、なぜこの方法がこれほどまで効果的なのか、その理由がはっきりしました。どうやら、脳は部位によって思考の得意分野が異なるらしく、ある分野の問題に直面すると、それに関連する脳の部位へと血液が流れ、より効果的な思考へとつながるように促すのだそうです。
 そこで本書では、1つではなく2つの思考実験から始めたいと思います。どちらも脳の中の、不平等について考える――さらに重要なことですが、最も深く自分と結びつけて気にかけている――部位に向けた質問です。
 これから説明するような設定で、実際に選択を迫られたと想定して答えてください。
 どちらの実験でも、1点を除いてまったく同じ2つの世界が提示され、そのどちらか一方を選びます。
 1つ目の実験では、自分は4000平方フィート(訳注:約110坪)の家、他の人は6000平方フィート(訳注:約150坪)の家に住んでいるAの世界、自分は3000平方フィート(訳注:約80坪)の家、他の人は2000平方フィート(訳注:約60坪)の家に住んでいるBの世界のどちらかを選びます。なお、選んだ後で、その世界における自分の家の位置づけは変わらないこととします。

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 一般的な新古典派経済学の選択モデルでは、効用は絶対的な消費量で決まります。これに照らし合わせて考えれば、正しい選択は間違いなくAの世界です。
 Bの世界でいちばん大きい3000平方フィートの家よりも、より大きな4000平方フィートの家を持てるのですから、このように住宅の絶対的な大きさだけが問題ならば、当然Aの世界のほうが望ましいはずです。
 しかし、重要なのは、この2つの世界を見たとき、あなたはどのように感じたのかという点です。
 実際にはほとんどの人が、絶対的なサイズは小さくても、相対的には大きな家が持てるBの世界を選ぶと答えます。また、Aを選んだ人たちでさえも、Aの世界の実質的に大きな家よりも、Bの世界の3000平方フィートの家を選ぶ理由が理解できると言うのです。
 もし、あなたも同じように感じるのであれば、ここから先の議論で必要となる大前提について納得できるはずです。

 2つ目の思考実験では、自分は1年に4週間、他の人は6週間の休暇がとれるCの世界、そして自分は2週間、他の人は1週間の休暇がとれるDの世界のうち、どちらか一方を選びます。

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 この場合は、Cの世界、つまり相対的に短くても絶対的に長い休暇を選ぶ人がほとんどです。
 私はコンテクストと評価の因果関係が最も強い財を地位財、最も弱い財を非地位財という言葉を使って表します。先ほど取り上げた2つの思考実験でいえば、住宅は地位財、休暇は非地位財になります。
 要するに、住宅の絶対的な大きさや休暇の相対的な長さがどうでもいいというわけではなく、住宅は休暇よりも地位が重視されるのです。

●本書で論じる4つの命題
 本書でこれから論じていく内容は、次の4つの命題にまとめることができます。

命題① 人には相対的な消費が重要だと感じる領域がある。
 もっと中立的に表現すれば、コンテクストが重視される領域があるということです。前項で取り上げた2つの思考実験は、この命題の裏づけとなっています。
 住宅も余暇も評価はコンテクストに左右されますが、その度合いは住宅のほうがずっと大きいのです。

命題② 相対的な消費への関心は「地位獲得競争」、つまり地位財に的を絞った支出競争につながる。
 この命題を先の思考実験の文脈に当てはめると、人は相対的に大きな家を持てば満足度が増すと期待し、より大きな家が買えるように労働時間を増やすことになります。

命題③ 「地位獲得競争」に陥ると、資金が非地位財に回らなくなって幸福度が下がる。
 より大きな家を買うために長時間働こうと考えるとき、人は家の絶対的な大きさではなく、相対的な大きさによって満足度が増すと期待します。この場合、大きな家を買うことの満足度が、余暇が短くなることで失われる満足度を上回らなければなりません。
 ところが、みんなが一斉に同じ動きをすれば、家の相対的な大きさの分布はそれまでと実質的に変わりません。とすると、誰にとっても家の相対的なサイズは期待したほど大きくなりません。ほとぼりが冷めたころになってようやく、家の絶対的な大きさだけでは、それを得るために犠牲にした余暇の埋め合わせはできないと気づくのです。

命題④ 中間所得層の家庭では、格差の拡大によって「地位獲得競争」から生じる損失がさらに悪化した。
 ここ数十年におけるアメリカの所得の増加のほとんどは所得分布のトップ層に位置する人々が得ています。
 当然ながら、所得が増えると、トップ層の人々はより大きい家を建てます。
 中間所得層が最富裕層の幸運を羨んでいると裏づける証拠はほとんどありません。しかしながら、これから説明する一連の間接的な影響から、トップ層の人々がより大きな家を持つようになると、中間所得層の家庭が住宅にかける支出の割合は急激に高くなり、その過程で他の重要な支出を切り詰めざるをえなくなるのです。

 これらの命題については、次章以降でもっと詳しく検討しますが、格差の拡大が中間所得層に害を及ぼすかどうかという議論に入る前に、まずは所得と富の格差が実際にどこまで広がっているのかを分析していきましょう。

続きが気になる方は、ぜひ『幸せとお金の経済学』を手にとっていただければ!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(編集部 いしぐろ)



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