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トランプ大統領が「日本円」に与える影響とは?

フォレスト出版編集部の寺崎です。

今日からトランプ大統領が正式に就任しました。就任のタイミングで公式暗号資産(仮想通貨)「$トランプ」を発行して、いまかなり話題となっています。

$トランプは20日に大統領に就任する同氏の人気にあやかったもので、資金が殺到して19日に一時、時価総額は150億ドル(約2兆3000億円)規模に膨らんでいる。19日にはメラニア夫人の公式仮想通貨「$メラニア」の発行も始まった。

日本経済新聞 2025年1月20日記事より

一夜にして2兆円を超える時価総額って、すごいなあ……。奥さん名義の「$メラニア」も発行するとか、歴代大統領のなかでもダントツでぶっ飛んでいます。

アメリカでは数時間で億万長者が誕生しているそうです。「日本円でも買えるのか?」ってことで、さっそくそういう情報サイトが続々と生まれていますが、アフィリエイト収入も短期間で荒稼ぎできそうです。

さて、そんなトランプ大統領ですが、トランプ就任で「円安が加速する」という説もあれば、いやいや「円高に転じるに違いない」と予測する人もいます。

ホントのところ、どうなんでしょうか?

そこのところを、経済予測のプロフェッショナルにして辛口エコノミストとして知られる村上尚己さんが書かれた『円安の何が悪いのか?』(フォレスト2545新書)から拾ってみたいと思います。

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トランプ政権による日本経済への影響とは?

 トランプ氏が掲げる経済政策の中で、もっとも警戒されているのが、強力な関税引き上げ措置である。関税引き上げ政策については、中国からの輸入品には60%、それ以外の国からの輸入品には10%(もしくは20%)関税を引き上げる考えをトランプ氏は掲げている。
 実際には、トランプ氏が大好きなディールの手段として使われることを踏まえると、関税引き上げ率は、上記で示した半分程度で収まることが予測されるが、識者の中には、「米国、ひいては世界経済が危機に瀕する」「急激なドル安が起こる」などと危機感を煽る声も少なくない。
 もちろん、関税引き上げによる輸入物価の上昇を通じて、一時的にアメリカでは財品目の価格上昇が生じる可能性は高い。しかし、これをきっかけに再び深刻な高インフレが訪れるシナリオは考えにくい。なぜなら、結局のところ、米国の経済をコントロールしているのはFRBだからだ。FRBがこれまで同様に優秀である限りは、1人の大統領が多少極端な方針を打ち出したところで、経済や市場に危機的な影響が生じる可能性は低い。
 実際に、トランプ政権の関税引き上げによって、ここまで順調にきていたインフレ収束のシナリオが停滞した場合、2024年9月会合から利下げに局面に移行したFRBは、利下げ見送りに転じることで物価の安定を図るだろう。トランプ政権による経済政策によって、FRBの利下げのスピードがより緩やかになるとの期待が根強い中で、当面、米長期金利の高止まりが続くことが予想されており、このことはむしろ日本経済にとって追い風になる。
 また、トランプ政権下では、減税政策が実現することに加えて、環境政策の分野で介入的な政策が目立った民主党政権とは異なり、規制緩和など民間の経済活動を支援する政策が重視されることになる。金融業などへの規制緩和、国内エネルギー採掘の促進、などに関連するビジネスに対する成長期待が高まり易いといえる。減税などの財政政策が作用することに加えて、企業の設備投資の拡大が実現する中で、2025年以降も2%を上回る米国の経済成長が続くと筆者は予想する。当然、トランプ政権下で米国経済の堅調な成長が続くことは、日本経済にも良い影響を与える。
 このように、トランプ政権下での政策を冷静に分析すれば、巷の「トランプ再選で日本経済に危機が迫る」といったような言説は誤りであることが分かるだろう。前トランプ政権時も、多くのメディアが危機を煽り立てたが、実際には、米国経済も世界経済は明確には悪化せず、顕著なドル安も発生しなかった。こうした批判的な言説はイデオロギー的左右対立に端を発していることがほとんどで、当てにしてはいけない。
 一方で、ドル円の為替レートについては、トランプ政権よりも日銀の金融政策の動向が今後のカギを握っている。早ければ12月会合にも日銀が追加利上げを行うとみられる中で、米日金利差の緩やかな縮小が明確になれば、為替市場において、ドル円は2025年にかけて徐々に円高に向かうだろう。

米大統領が誰になるにせよ、日本経済は日銀次第なことに変わりはない

 そもそも、アメリカの大統領が誰になるかによって日本経済が揺らいでしまうのが当然という見方が妥当ではない。
 アメリカは、FRBというしっかりとした中央銀行が国の経済の手綱をキチンと握っている。そのため、大統領の政策で経済動向がたとえ変わっても「物価の安定」と「雇用の最大化」という明確なミッションのもとに、その都度の経済状況に合わせて適切な金融政策を行う、というシンプルな軸が揺らぐことはない。
 一方で、日銀には米国ほどには明確な政策目標が法律で定められていないので、米国の大統領選などにいちいち振り回されてしまうわけだ。しかし、第1章で見てきた通り、日米の為替レートを決めるのは、両国のマネタリーベース比率であり、両国の金融政策である。
 日銀が、自国の通貨価値を高めに保ちたいという古臭い考えを捨て去り、FRBのように明確なミッションのもとに適切な金融政策を行うことができれば、米国の大統領が誰になろうと、日本経済はそう簡単には本来揺らがないのである。

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・・・というわけで、まあ落ち着きましょうという感じですね。「1章で見てきた通り」という部分については、下記関連記事をご参照ください。

【著者プロフィール】
村上尚己(むらかみ・なおき)
エコノミスト
アセットマネジメントOne 株式会社シニアエコノミスト。1971 年生
まれ。1994 年東京大学経済学部卒業後、第一生命保険に入社。その
後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストとしてのキャリ
アをスタートさせる。第一生命経済研究所、BNP パリバを経て、
2003 年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本
経済の予測全般を担当、2008 年マネックス証券 チーフエコノミスト、
2014 年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019
年4 月から現職。経済予測分析のプロとしての評価が高く、投資家
目線で財政金融政策を分析する。著書『「円安大転換」後の日本経済』
(光文社)、『日本人はなぜ貧乏になったか?』(KADOKAWA /中経出
版)、『日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?』(ダイヤモンド社)、
『日本の正しい未来』(講談社)など。

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