DaiGo氏発言から考える「著者が著者たるにふさわしいかどうか」を出版社はどう判断するのか
編集部の稲川です。
今週は正直、まいりました。
今、世間がみな糾弾している「DaiGo氏発言」です。
彼の人権差別発言は、250万人がチャンネル登録をしているYouTubeの影響力が大きすぎて、世間のみならず広い人脈を持つ角界にも波紋が広がっています。
何を隠そう、多くの著作がある出版界にも影響が及んでいます。
弊社は氏の書籍を発行していないものの、唯一、氏がマーケティングのバイブルだと称して推薦を寄せた本があるのです。
その本が、『シュガーマンのマーケティング30の法則』(ジョセフ・シュガーマン著、佐藤昌弘監訳)
この本は2006年に発売されてから、DaiGo氏の推薦によりさらなる売り上げを伸ばし、もうすぐ15万部を突破するというロングセラーになっているのですが、今回の件で書店さんからは「DaiGo推薦オビを外したい。推薦前の元のオビがほしい」との声(問い合わせ)が出たのです。
営業も緊急の対応に追われ、急ぎ元のオビの発注をかけているところなのです。
ただ、弊社はこの推薦オビだけですからいいのですが、彼の書籍を販売している版元は、それどころじゃないでしょう。
DaiGo氏の本を置きたくないという書店さんは、彼の本を返品してしまう可能性も大いにあるからです。
とにかく私も、担当編集者として対応に追われ、ここ2日間はてんやわんやでした。
◆シュガーマンが伝える「ビジネスで忘れてはならないもの」
さて、『シュガーマンのマーケティング30の法則』は翻訳本ですから、直接的に内容そのものはDaiGo氏とは関係ないのですが、メンタリストと謳う彼が、お客がモノを買ってしまう心理的トリガー(引き金)について書かれたこの本が好きなのはうなずけます。
ただし、そうした顧客心理を知ることは、けっして“顧客を騙す”ことではありません。
「モノを売るマーケター」が思わずニヤリとしてしまう内容ももちろんありますが、30の法則の中には、モノを売る側の責任もちゃんと書かれているのです。
心理的トリガー7「『手を挙げろ!』でお金をもらう」という項目には、こんなことが書かれています。
医者で起業家の友人がいた。ただし、ビジネスウーマンとして優秀だったとは言い難い。彼女は数多くの取引で失敗し、しょっちゅう弁護士のお世話になっていた。弁護士たちにとってもまた、彼女はいいカモだった。
ある日、彼女は強盗に遭った。拳銃を持った男が車の横から近づき、発進しようとしていた彼女の頭に拳銃を突き付けて言った。
「命が惜しかったら金を出せ!」
迷うまでもない。彼女はお金を差し出した。
あとになって私にこの話をした彼女は、「その男は誠実そのものだった」と言った。
「男は欲しいものを要求し、私はその要求に応えた。そうしたら逃がしてくれたわ。私が雇っている弁護士連中より、ずっとマシよ」
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何を言ったとしても言ったことは守らなければならい。こうすると言ったら実行すること。約束は守ること。良いサービスを提供すると言ったら、良いサービスを提供すること。要するに「有言実行」「言行一致」だ。
シュガーマンはこう語り、心理的トリガーとして「誠実さ」を取り上げています。
彼の友人の話は、犯罪者にも誠実さがあると皮肉を述べているのですが、DaiGo氏がこの本を漏れなく読んでいるとしたら、彼の発言もある意味、”誠実”と考えられるかもしれません(あくまで皮肉で)。
◆ズバリ、著者から質問されたこと。「著者の条件って、何ですか?」
弊社では、Voicyという音声メディアで「フォレスト出版チャンネル|として情報を発信しています(このnoteでも、その音源の内容を文章化してお伝えしています)。
昨日、その収録がたまたまあったのですが、担当編集者として著者の方にご登場願い、パーソナリティと3人での掛け合いをしました。
ご登場いただいたのは、東大阪で塗装の工場を営むかたわら、空き家・古家を再生して賃貸経営をする、大熊重之さんでした。
彼の話をちょっとだけすると、大熊さんは、中小零細、下請け工場の社長という立場で、苦しい経営を何とかできないかということで、自身の失敗から空き家を再生し賃貸にすることで、本業以外にも安定した収入を得ることに成功しました。
さらにビジネスのアイデアは広がり、空き家・古家再生のノウハウを組織化、一般社団法人全国古家再生推進協議会という団体を立ち上げたのです。
今では会員6500人以上、1750戸近い再生実績を誇っています。
大熊さんは話の中で、このビジネスは「4方よし」だと言っていました。
まず、空き家をどうしていいか困っている家主(オーナー)が喜ぶ。
投資する側(大家)も当然喜ぶ(空き家再生は初期投資も少額で、利回りも良いそう)。
入居する方も喜ぶ(低賃貸で、小さいお子さんがいてマンションでは住みづらい、ペットが飼いたい、母子家庭の方などもいるそう)。
そして、地域の方も喜ぶ(近所に空き家があって不安に思っていた人など)。
さらには、日本の社会問題となっている「空き家問題」にも貢献できて、国のためにもなっていると、このビジネスを楽しそうに語っていました。
話の最後に、私に大熊さんから質問がありました。
「著者になる人って、どういう人ですか?」
私は「もう、あなたのような人ですよ!」とお答えしたかったのですが、長年の編集経験からということでしたので、僭越ながらこんなことを答えました。
私は必ず著者になる方、とくに初めて本を書く方にお聞きしていることがあります。それは『本の出版は、著者の人生のステージの1つ』ということです。
本を出したあと、自分はその次のステージで何を目指すか?
このあとも2冊目、3冊目と本を出していきたいという方もいれば、この本によって同じく悩んでいる人たちを救いたいという方もいれば、本を戦略的な位置づけで考えている方もいます。
でも、著者の責任は、読者にとって常に誠実であるかどうかです。誠実である人は、その後もどんどんステージ(世界)が変わっていますよ。
こんなことを答えたました。
「著者が著者たるにふさわしいかどうか」
私なりの判断基準は、やはり著者が誠実であるかどうかです。
そして、誠実さの基準に欠かせないのは、私自身の倫理観ということになると思います。
今回のDaiGo氏の一件は、私が言うまでもなく、その倫理観は判断できるでしょう。
私のnoteの記事も、読んでいただいている方に誠実でありたいと思っています。
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