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京都にまつわる本、あれこれ

編集部の稲川です。
現在、マーケティングコンサルタントの佐藤昌弘氏の「ネットマーケティング」の記事を連載中ですが、今回は1回お休みということで、本来、水曜日担当の私が本日のnoteを務めさせていただきます。

約2カ月ぶりの登場です。

さて、今年は桜の開花が例年より早く、関東ではすでに満開を終えて散り始めています。
まだコロナ禍ということもあり、大々的なお花見も自粛。昨年に引き続き、季節は本格的な春を迎えるというのに、世の中の春はまだ遠いといった感じです。

私にとってのお花見は、桜の木の下で花をめでるというよりは酒を飲んで楽しむ(どんちゃん騒ぎはしませんよ)ことがメインですが、3年近く前に編集させていただいた『前祝いの法則』(ひすいこたろう/大嶋啓介著)で、お花見の本当の意味を知ってから、感じ方が変わりました。

前祝い (1)

この本は日本古来、先に喜び、先に祝うことによって夢を引き寄せる「予祝」ということについて書かれた本ですが、お花見は桜の花びらを満開の米にたとえ、秋の豊穣を先に喜び祝うという儀式であるということを知りました(これは伊勢神宮の宮司さんから、著者が直接聞いた話)。

『前祝いの法則』がベストセラーになったことで、私のなかのお花見も少しは“神格化”したようです。

そのお花見で私が思い出すのは、あの有名なフレーズ。

「そうだ、京都行こう」

もともとJR東日本が1993年から始めたキャンペーンで、元電通のクリエイティブディレクター佐々木宏さんという、めちゃくちゃすごいクリエイターが仕掛けています(ソフトバンクの白戸家シリーズや矢沢永吉さんのサントリーBOSS、25年後の磯野家を描いた江崎グリコのシリーズなど、誰でも知っているCMを手掛けています)。

「そうだ、京都行こう」のCMでは、俳優の長塚京三さんのナレーションが有名ですね。
ちなみに、現在の長塚京三さん、御年75歳。
現在もご活躍中で、日仏共同映画「Umami」という作品の撮影中でした。さすがパリ大学を卒業されている方ですから、世界的な活躍をされているようです。

「そうだ、京都行こう」は、現在も続いていて、サイトを覗いてみると、「2021年春の桜情報」(秋は紅葉かと)とともにキャンペーンが展開されていました。

ということで、「春=桜(予祝)=京都=京都本」という、私の勝手な妄想から、京都に関係した本について紹介します。

◆京都ならではの「本の賞」があった

私は職業柄、「本」「古本」「書店」などの類がタイトルになっている本を買ってしまうのですが、この本もその1冊でした。

『京都一乗寺 美しい書店のある街で』(大石直紀著、光文社文庫)

一乗寺

この本は、ミステリ小説で、作品は4編綴られているのですが、タイトルにある「ある美しい書店」が、その4編すべてに登場しオムニバスのようにつながっていきます。

・夜の花嫁
・追憶の道
・一乗寺のヒーロー
・一乗寺の家

各編の内容には触れませんが、どの作品もミステリながら美しく気品あふれる文章で、かしこまった感じで読み進めてしまいます。
4編ともにとても面白く、一気に読んでしまいました。お勧めです。

そして、ここに登場する「美しい書店」が実際に一乗寺に存在する有名な書店です。

恵文社。

本好きの方なら、知っているかもしれません。もしくは実際に訪ねた方もいるかもしれませんね。

恵文社

                      (恵文社HPより)

『京都一乗寺 美しい書店のある街で』の最後で、恵文社一乗寺店のスタッフの方が解説を寄せています。なかなか粋な企画です。

そこで本のオビを見ると、作家の大石氏が『二十年の桜疎水』という作品で第8回京都本大賞を受賞していると記されていました。

調べてみると、京都本大賞は京都にある書店、出版社、取次からなる京都本大賞実行委員会が主催、京都府書店商業組合、KBS京都、京都新聞が後援する2013年に創設された賞。過去1年間に発刊された京都を舞台にした作品に限られ、書店員さんのほか、一般の読者の投票によって受賞作が決定されます。

有名な本屋大賞の京都版といったところでしょうか。
過去の大賞受賞作は以下の通りです。

第1回 『珈琲店タレーランの事件簿』(岡崎琢磨著、宝島社文庫)
第2回 『聖なる怠け者の冒険』(森見登美彦著、朝日新聞出版)
第3回 『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(七月隆文著、宝島社 文              庫)
第4回 『京都寺町三条のホームズ』(望月麻衣著、双葉文庫)
第5回 『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれ                    た。』(原田まりる著、ダイヤモンド社)
第6回 『異邦人(いりびと)』(原田ハマ著、PHP文芸文庫)
第7回 『京都府警あやかし課の事件簿』(天花寺さやか著、PHP文芸文庫)
第8回 『二十年の桜疎水』(大石直紀著、光文社文庫)

そのなかで、京都本大賞の受賞作とは知らずに、2冊読んでおりました。

京都本大賞作

どちらも有名な作品です。というより、京都本受賞作品がほぼベストセラーになっているのではないでしょうか。

ちなみに、ビジネス書の版元としては、原田まりるさんの本は業界的にも知られた作品です。

大石さんの受賞作も含め、残りの京都本大賞作品も読んでみようと思っております。

◆京都本の賞はもう1つ創設されていた

京都にまつわる賞、実は近年、もう1つ創設されています。
それが京都文学賞。

京都文学賞は、「世界文化自由都市宣言」40周年を契機に、京都の歴史と幅広い魅力を発信するため、2020年4月に創設された新しい賞です。

こちらは書店員さんや読者の投票はなく、純粋に選考委員が決める賞。
最終選考委員は、いしいしんじ氏、原田ハマ氏、評伝作家の校條剛氏の3名。

京都大学出身のいしいしんじさんが選考委員なんですね。独特の世界観で作品を描く、私も好きな作家さんのお1人です。

いしいしんじ

さて、このところ第2回の大賞受賞作が決定したようですが、第1回受賞作を読んでみました。

『羅城門に啼く』(松下隆一著、新潮社)

羅城門

著者の松下氏は、元脚本家でNHKドラマの脚本を手掛けた方。このたび満を持して長編小説挑んだ作品とのこと。
それゆえになのか、著者プロフィールもない作品だけの本という体裁です。

物語は、芥川龍之介や黒沢明が描いた『羅生門』、平安時代が舞台です。

主人公イチは仲間とともに、荒廃した京の都で人を殺して、強盗で生計を立てている悪党。あるとき、裕福な商家に押し入り夫婦を殺し、娘の片耳を切り落として立ち去る。
仲間ともども捕えられてしまうのだが、イチはある上人に助けられる。
上人はイチを救うため、己の欲望を捨て、心を空っぽにすることを説く。実は彼は、幼少期に奴隷として売り飛ばされ、両親も知らずに育った。悪党でしか生きる術はなく、この世を呪詛して生きてきた。しかし、そんなイチにも、母親との古い思い出だけは残っていた。
そんな折、イチは身籠った遊女を助ける。そして彼女に、忘れていた母親の記憶がよみがえり、やがて恋心を抱くのであるが……。

悪党でしか生きられなかったイチが、世の中を呪い、一生背負う傷を負いながらも、変わりかけていく物語は、鬼気迫る筆致とともに、人間を見つめる作者の深い視点があります。

この京都文学賞も、これからますます期待が高まっていくのではないでしょうか。

今日で3月も終わり、明日から新たな年度、学期が始まります。
そして、春は出会いの季節。
人との出会いは大切ですが、本との出会いもまた、人生に彩りを与えてくれます。

まだ、本格的に旅に出る感じにはないですが、本の世界で自由に旅をしていただければと思っております。


来週からは、佐藤昌弘さんの連載を再開します。
しばらく、私のnoteはお休みになると思いますが、それまでに多くの本を読み、紹介していきます。
それでは。

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