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じゃれ本作品『春野菜とエンドウ豆のポタージュに浮かぶ贖罪』

ここは亀海町の郊外にある「キッチン・ウミガメ」。若い頃はフランスで修行を積んだという主人とその妻が切り盛りする小さなレストランで、お手頃な価格で美味しい家庭料理が楽しめると地元住民から評判である。

いつものように地元のご婦人方が少し遅めのランチに花を咲かせていると、ある男が入店した。
「いらっしゃいませ、1名様?」
店の接客を担う店主の妻が聞くと、男は黙って頷いた。男は季節外れの黒いコートを身にまとい、これまた黒い帽子を目深に被っている。男は店のご婦人方の奇異の視線を一身に受けながら、奥の席に通された。
「春野菜とエンドウ豆のポタージュをひとつ。あとはおまかせで」
男は水を提供しにきた妻に対して、簡潔に注文を告げた。妻は注文をとると、かしこまりました、と一礼した後キッチンの主人に注文を伝える。
「1名様、春野菜エンドウのポタージュ、あとはおまかせ」
妻が伝えると、主人の顔色が変わった。

 *  *  * 

そして包丁をまな板にたたきつけた。
彼はずかずかとホールへ向かうと黒服の男の前に立った。
「本日はポタージュは売り切れです。申し訳ございませんがおかえりくださいませ。」
唐突な彼の行動。店内には戸惑いのさざめきが広がった。
「あなた、どうしたの?」
駆け寄る妻に構うことなく、主人は腕を組んで男をまっすぐ見据えている。
男はテーブルに肘をついてまま、組んだ手を揉んだ。
「左様ですか、ですが私としてもそうはいきませんので」
突如黒服が舞い上がったかと思うと、その下から日に焼けた青年が現れた。
「さて、私は10年待ちました。いまこそ続きを始めるときです」
青年は肩にかけたポシェットからエンドウ豆と菜の花、アスパラガスやキャベツを取り出すと、テーブルにそっと並べていった。ご婦人方は興味深々な様子でこちらを見ている。
「これは私が今朝収穫した春野菜です。さぁ、今こそ約束を果たしていただきましょう」

 *  *  * 

「覚悟は決まった、ってところか」
青年は何も言わなかったが、その双眸は答えを雄弁に語っている。
「良いだろう、厨房展開―フィールド・セット―」
店主の合図により、レストランは一瞬にして爆魂料理勝負―ソウル・クッキング・バトル―の戦場に変貌した。

「どうした? その程度の腕で私に挑みにきたのか?」
青年は店主のフランベを食らい負傷した右肩を押さえている。フランス仕込みの店主の技に対し、素朴な青年の技はどうしても分が悪い。これは決まったかしら―ご婦人方が諦めかけた、その時。
青年はにやりと笑った。
「あなたが教えてくれたことです―爆魂料理は、最後の一手間で全てが決まる」
青年は震える手で、一枚のバジルを浮かべた。
「この葉は私たちにとっての贖罪です。私は10年前の罪を、精算します」
崩れ落ちる店主を前に、青年は皿を高らかに掲げて言った。
「春野菜とエンドウ豆のポタージュ、お待たせしました」

(完)

ハウスルール

タイトル:春野菜とエンドウ豆のポタージュに浮かぶ(そめいよしの)、贖罪(天川屋義平)
1ターンの文字数:400字以内
完結までのターン数:3ターン
注:公式(https://jarebon.com/)とはやや異なります

感想

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あと2編くらいは欲しかった……

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それだね
やろうとしてやらなかった方向のことをやられたのでやっとけばよかったかなと思いつつ 

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もしかして、そめいよしのも爆魂料理勝負―ソウル・クッキング・バトル―を?

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僕はねー、エンドウ豆星人と春野菜星人のつぶし合いの戦いを書きかけてたんだよねー
ま、そうなるとソウルというよりフィジカルをかけた戦いだよね
ちなみに冒頭:

妻は少し違和感を覚えたが、いつも通り調理を続ける主人に、それ以上気にすることもなく客席の様子を見に行こうとした。
「おまえ、今までありがとうな。」
唐突な主人のひとことに妻は立ち止った。
「いきなりどうしたの?」
彼女が振り向くと、そこには闘気をまとった主人、そして包丁が目の前を黒服めがけて飛んで行った。

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いや、爆魂料理勝負―ソウル・クッキング・バトル―もソウルでありフィジカルをかけた戦いだから(爆魂料理勝負―ソウル・クッキング・バトル―のバトルフィールドではプレイヤーの爆魂―ソウル―がフィジカルに反映される)、結果的には良かったんじゃないかな 

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そっかぁ、そうだよね。結果的には爆魂料理勝負―ソウル・クッキング・バトル―も相手をポタージュにする戦いだもんね

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なるほど、店主がフランス修行の裏で実は虚料理界―クッキング・ゲヘナ―で修行していた経験がそこで生かされるわけだね、厨房展開―フィールド・セット―前の攻撃というのは表世界では禁術なわけだし
でも青年は店主が虚料理界―クッキング・ゲヘナ―で修行していたことを知らないので、それでかなりの痛手を追う展開になってても良かったかも

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いやいや、やっぱそこは虚料理界―クッキング・ゲヘナ―に侵されていたとしても店主の料理人の心クッカーズ・プシュケがわずかに残っていたんじゃないかな、で、その料理人の心クッカーズ・プシュケが青年の未来への展望フューチャーワークに傷を残さないように図っていたって解釈がいいと思うね

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そっか~

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なにこれ

おわりに

※じゃれ本ルールをオンライン用に改変したルールで遊んでいます
公式はこちら

他の作品はこのマガジンから読むことができます。

作者:天川屋義平、そめいよしの